私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
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18世紀ヴェネツィアのリコーダーのためのソナタを聴く
バロック音楽(バッハ以外)
/
2011-01-22 11:06:05
Il flauto veneziano
SUN MUSE OFFICE SMO-0003
演奏:Ensemble “La Scatola degli Aghi”
ルネサンス時代のリコーダーは、内径が大きくほぼ一定であった。この様なリコーダーは互いによく解け合い、合奏に向いていた。バロック時代になると、内径は細くなり、先に行くほど細くなる円錐形を採用するようになり、それによって倍音成分の多い、先鋭的な音色を獲得するようになり、独奏楽器として用いられるようになる。18世紀になると、音量の調整も可能で、より表現の幅が広いフラウト・トラベルソが登場し、次第にリコーダーは用いられなくなる。18世紀の前半は、リコーダーが楽器としての最後の輝きを放った時代と言えるだろう。
今回紹介するCDは、「ヴェネツィアの笛(Il flauto veneziano)」と題して、ヴェネツィアをはじめとしたイタリアの18世紀前半の様々な作曲家によるリコーダー・ソナタを収めており、その内2曲は、ヴェネツィアのクェリーニ・スタンパリア財団(Fondazione Querini Stampalia)図書館所蔵の2つの楽譜手稿に記載されている作品からの世界初録音だそうだ。ここに収録されている作品の作曲家は、必ずしもヴェネツィアを拠点としていた訳ではないが、作品はヴェネツィアと何らかの関係があるもののようである。クェリーニ・スタンパリア財団の手稿のひとつには、多くの未出版の作品のほか、2曲の作者不詳のソナタとヴィヴァルディのヘ長調のソナタが含まれ、その中から作者不詳のソナタ第1番ヘ長調とシンフォーニア第3番ヘ長調が収録されている。両曲とも、緩・急・緩・急の4楽章からなる教会ソナタの形式の作品である。前者が世界初録音だそうだ。アントニオ・ヴィヴァルディのソナタヘ長調も、この手稿にもとづいているようである。この曲は3楽章からなり、第1楽章は緩やかなテンポ、6/8拍子のシチリアーノのような楽章、第2楽章はアレマンダと記されているがアレグロの楽章、第3楽章はプレストのジーグである。
もう一つの手稿には、アレッサンドロ・サンティーニ(Alessandro Santini)の6曲のソナタが掲載されている。サンティーニと言う作曲家については全く情報が無く、生年、死亡年も分からない。この手稿からソナタ第2番ニ短調が収録されている。緩・急・緩・急の4楽章からなる、教会ソナタ形式である。
フランチェスコ・マリア・ヴェラチーニ(Francesco Maria Veracini, 1690 - 1768)は、フィレンツェの生まれで、2度ロンドンに滞在し、デュッセルドルフの選帝侯ヨハン・ヴィルヘルムやドレースデンのフリートリヒ・アウグスト王子のもとで演奏するなどの活動をしたが、最終的にはフィレンツェで教会音楽家としてその生涯を終えている。このCDに収録されているリコーダーと通奏低音のためのソナタ変ロ長調は、1716年にヴェネツィアに滞在していたフリートリヒ・アウグスト王子に献呈された12曲のソナタの内の1曲で、ドレースデンのザクセン州立図書館所蔵の自筆譜にもとづいている。緩・緩・緩・急と言う変則的な4楽章からなり、教会ソナタ形式と考えて良いだろう。
パオロ・ベネデット・ベリンツァーニ(Paolo Benedetto Bellinzani, c. 1690 - 1757)のソナタ第12番作品3ニ短調は、1732年にヴェネツィアのアントニオ・ボルトーリによって出版されたリコーダー・ソナタ集からの1曲である。最後の、ベネデット・マルチェッロ(Benedetto Marcello, 1686 - 1739)のソナタ第12番作品2ヘ長調は、1720年にヴェネツィアのジョゼッペ・サラにより出版されたリコーダー・ソナタ集によっている。 ベリンツァーニのソナタの第3楽章は、チェンバロのカデンツァである。マルチェッロのソナタは5楽章からなる室内ソナタである。両者のソナタは、いずれもそれぞれの曲集の最後の曲で、前者はフォリア、後者はチャコーナという変奏曲を最終楽章としており、これはヴィヴァルディやコレッリの曲集でも見られるもので、当時広く行われていたもののようである。
このCDで演奏しているのは、La Scatola degli Aghiと言う名称のリコーダーのレオナルド・ムッツィ(Leonardo Muzii)、チェロのデトマー・デトゥバー(Detmar Leertouwer)、チェンバロのアンドレア・マルキオル(Andrea Marchiol)、リュートの野入志津子の4人からなるアンサンブルである。4人はいずれもバーゼルのスコラ・カントゥールムの出身である。なおアンサンブルの名前は、「お針箱」を意味し、17世紀イタリアの流行歌から採られたそうだ。ムッツィが演奏するリコーダーは、1990年デン・ハーグのリカルド・カンジとジャクリーヌ・ソレル作のデナーモデル、デトウーバーのチェロは、18世紀ミッテンヴァルトの楽器、マルキオルのチェンバロは、17世紀のジウスティ作のイタリアン・モデルを1994年にパオロ・ツェルビナッティが複製したもの、野入のリュートは、1637ネンマッテオ・セッラス作の楽器を1979年にパリのマティアス・ドゥルビが複製したものである。録音は1996年4月にスイスで行われた。演奏のピッチは a’ = 415 Hzである。
このCDは、”Sun Music Office”によって1996年に発売されたと記されているが、この会社は現在見つけることが出来ない。タワーレコードのサイトで、野入のCDの1枚としてこのCDが掲載されているが、他のサイトでは見当たらない。日本以外の版権は、レオナルド・ムッツィと野入志津子が所有しているそうだが、外国で発売された形跡は見当たらない。
発売元:SUN MUSIC OFFICE
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コメント
CDの入手
(
たなご
)
2011-02-17 10:08:12
はじめまして、いつも拝見させていただいております。
つい先日、新品をオークションで入手しました。出品者は「株式会社サンミューズ」(東京都練馬区)という会社で、発売元の「SUN MUSIC OFFICE」の他のCDも出品されていますので、関連会社かも?
SUN MUSIC OFFICE CD
(
ogawa_j
)
2011-02-17 10:31:01
たなごさん、コメントありがとうございます。
なるほど、これは関連あるかもしれませんね。しかしオークションでなければ入手できないのは、残念です。多くの方に聴いてもらうことは出来ませんからね。
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つい先日、新品をオークションで入手しました。出品者は「株式会社サンミューズ」(東京都練馬区)という会社で、発売元の「SUN MUSIC OFFICE」の他のCDも出品されていますので、関連会社かも?
なるほど、これは関連あるかもしれませんね。しかしオークションでなければ入手できないのは、残念です。多くの方に聴いてもらうことは出来ませんからね。