私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Musik der Stadtpfeifer
Deutsche harmonia mundi GD 77236
演奏:Musica fiata

13世紀には、すでにドイツの町々で音楽家達が雇われていた。そして14世紀になると、シュタットパイファー(Stadtpfeifer)と言う名前が使われるようになった。しかし町庸楽士(Ratsmusikant, Stadtmusikant)やツィンク奏者(Zinkenist)と言う名前も使われており、機能としては同じであったようだ。当初は大きな都市においてのみ存在していたが、16世紀にかけて次第に小さな町にも拡がっていった。これらの音楽家達の任務は、まず第一に塔の上からの見張りと、一日の決まった時間に塔の上から音楽を奏して住民に時間を知らせることであった。この任務のためには遠くまで音が届くツィンク(コルネット)やトロンボーンが使われた。 シュタットパイファーをそのまま訳すと、「町の管楽器吹き」という意味で、これらの管楽器の演奏が主であったことに由来する名前である。さらに町の公式行事や宴会、祝日の教会におけるカンタータの演奏への参加などがあった。これらの任務にともなって、町の一般住民が結婚式などの行事で音楽を演奏する特権を与えられていた。シュタットパイファーに属さない楽士達は、彼らの手が回らない時以外には、こうした行事で演奏してはならなかった。しかし実際には、こうした楽士が安い値段で演奏をして、シュタットパイファーの特権を侵害するというトラブルが頻繁に起こっていたようである。
 シュタットパイファーは、手工業の職人同様、徒弟制度によって養成された。まず5~6年の教育期間の後、数年間徒弟となり、空席が出来れば、正式のシュタットパイファーになることが出来た。空席がない場合は、近隣の町にその職を求めることもあった。バッハ一族も、当初はゴータやズールの町庸楽士に弟子入りすることから職業音楽家となり、次第にチューリンゲン地方の町に拡がっていった。バッハ一族の起源とされるファイト・バッハの孫に当たるヨハン・バッハは、1635年にエールフルトで町庸楽士となり、その後エールフルトには、長年にわたってバッハ一族の音楽家がいた。アルンシュタットやアイゼナハにバッハ一族が住むようになったのも、当初は町庸楽士としてであった。
 シュタットパイファーは、ツィンク、トロンボーン、トランペットのほか、ショーム(2枚リードの木管楽器)などの管楽器のほか、ヴィオール属やヴァイオリン属の擦弦楽器、リュートなどの撥弦楽器の演奏も出来るのが普通であった。しかしその中心は、やはり管楽器であった。
 今回紹介するCDは、17世紀前半のドイツのシュタットパイファーの音楽を収録したものである。収録されている曲は、9人の音楽家による作品で、多くは出版された作品集から採られている。その点では、当時町で日常的に演奏されていた曲よりも洗練された、完成度の高い作品ということが出来る。ミュンヘンのマクシミリアン公爵宮廷のツィンク奏者であったジオヴァンニ・マルティーノ・チェザーレ(Giovanni Martino Cesare, ca. 1590 - 1667)の”La Massimiliana”など5曲をはじめ、アウクスブルクのシュタットパイファーの長であったクリスティアン・エーアバッハ(Christian Erbach, ca. 1570 - 1635)の4声のカンツォーナ、ドレ-スデン宮廷楽団のヴァイオリン及びツィンク奏者で、後にシュトラーズンドのオルガニストとなったヨハン・フィーアダンク(Johann Vierdanck, 1605 - 1646)の4声のソナタ、それにハインリヒ・シュッツと並び称されるドイツの初期バロックの作曲家、ザームエル・シャイト(Samuel Scheidt, 1587 - 1654)とヨハン・ヘルマン・シャイン(Johann Hermann Schein, 1586 - 1630)、ドイツの器楽音楽の発展に貢献したファレンティン・ハウスマン(Valentin Haussmann, ca. 1570 - 1614)、福音派教会音楽の重要な作曲家で、400曲ものコラールを作曲したメルヒオール・ウルピウス(Melchior Vulpius, ca. 1570 - 1615)等のほかイザーク・ポッシュ(Isaac Posch, ? - 1622/23)、パウル・ポイエル(Paul Peuerl, 1570 - 1625)の9人の作品合計13曲が収められている。ウルピウスの第2旋法による5声のマグニフィカート以外は世俗音楽で、当時流行していたパドゥアーナ=ガリアルダやアレマンデ=トリプラと言った対の舞曲からなるソナタや単独のパドゥアーナ、あるいは声楽曲由来のカンツォーナなどである。
 演奏をしているのは、ムジカ・フィアータと言う楽団で、1976年に16世紀及び17世紀の音楽の演奏を目的に結成された。代表者はツィンク奏者のローランド・ウィルソンで、ケルンに本拠を置いている。このCDでは、ツィンク奏者2人、アルト・ツィンク奏者1人、アルト、テノール、バス・トロンボーン奏者4人、オルガンとレガール奏者1人の8人が参加している。この時代の演奏習慣、楽器の演奏法を専門に研究、実践してきた団体だけに、素晴らしい演奏を聴かせてくれる。ピッチは、当時の器楽音楽に一般的なカンマートーンより約全音高いコーアトーンを採用している。録音は1982年7月にブラジンゲンの聖ペテロ教会で行われた。筆者の持っているCDは、1991年にドイツ・ハルモニア・ムンディから発売されたものだが、現在ソニーBMGには、ムジカ・フィアータのCDは数枚あるが、このCDはない。

発売元:Deutsche harmonia mundi

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