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私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Berlioz: Symphonie Fantastique
Philips 434 402-2
Orchestre Révolutionnaire et Romantique, John Eliot Gardiner

ルイ・エクトル・ベルリオーズ(Louis Hector Berlioz)は、1803年生まれのフランス生まれの作曲家、指揮者、著作家である。父は医師で、当初家業を継ぐ勉学のためパリに来たが、途中で音楽に転向、パリ音楽院でオペラと作曲を学んだ。1830年にローマ大賞を受賞し、2年間ローマに滞在した。その代表的な作品は、今回取りあげる「幻想交響曲」のほか、劇的物語「ファウストの劫罰」(1846年初演)、劇的交響曲「ロメオとジュリエット」(1839年初演)(いずれも混声合唱と管弦楽のための大作)、歌曲集「夏の夜」、ヴィオラ独奏付きの交響曲「イタリアのハロルド」(1834年初演)などである。ベルリオーズの作品は、楽器編成のはなはだしい拡張や、色彩的な管弦楽法によってロマン派音楽の動向を先取りしたと言われる。
 ベルリオーズが23歳の1827年、パリでシェイクスピア劇団による「ハムレット」が上演され、それを観たとき、その中でオフィーリアを演じたハリエット・スミスソンに熱烈な恋心を抱き、手紙を出したり、面会を求めるなどの行動に出るが彼の思いは通じず、そのことによって受けた失望感が「幻想交響曲」作曲のきっかけになった。
 ベルリオーズは指揮者としても良く知られ、イギリスやドイツその他のヨーロッパの国々で指揮をし、自作だけでなく他の作曲家の作品も指揮した。リストのピアノ協奏曲第1番は、ベルリオーズが初演を指揮した。彼の著作である「管弦楽法(Grand Traité d'Instrumentation et d'Orchestration Modernes, 1844年、1855年補訂)」は、マーラーやリヒャルト・シュトラウス、リムスキー=コルサコフなど、後世の作曲家に大きな影響を与えた*。
 「幻想交響曲」は、1830年12月5日にパリのコンセルヴァトアルでベルリオーズの友人であったフランソワ=アントアーヌ・アブネックによって初演された。この1830年という年は、ベートーフェンが死亡してからまだ3年しか経っておらず、当時のパリでは、交響曲といえばハイドンの作品を意味しており、モーツァルトの交響曲ですら難解であると考えられていた。その一方で、1827年からアブネックの指揮で紹介されたベートーフェンの交響曲は大きな反響を呼び、ベルリオーズもその影響を受けた。特に交響曲第3番「英雄」にベルリオーズは表題性格を感じ、「幻想交響曲」の手本となったと思われる**。
 「幻想交響曲」には、伝統的な楽器編成、バルブやピストンのない自然ホルンや自然トランペットが含まれる一方で、軍楽隊の楽器であったピストン付きのコルネット(Cornet、ルネサンス時代からある、指穴を持つ木製の楽器に金管楽器の吹き口を持つコルネット<Cornett、ドイツ語ではツィンク[Zink]>とは全く別の楽器)、 オフィクレイド(Ophicleide、ピストン付きの低音金管楽器。1817年に発明され、1821年にフランスで特許が取られた)、Esクラリネットなどの新しい楽器、それに時代遅れとなったセルパン(Serpent、木管のコルネットの最低音楽器。指穴に手が届くように、太い胴が蛇のようにくねくねと曲げられていることから蛇を意味するこの名が付けられた)が採用されている。楽譜上の指示も詳細で、特にティンパニに対しては、マレットを「木」、「皮張り」、「スポンジ」の3種を使い分ける指示がされており、打ち方も例えば、第4楽章の冒頭では、1つめと7つ目の8分音符は2本の撥で、他の10個の8分音符は右手の撥で叩くよう指示している。第5楽章に於けるヴァイオリンのコル・レーニョ(弓の背で弦をたたくように弾く)もそのような特異な指示の一つである。この作品は、初演の時から非常に高く評価され、2度演奏されたという。この「幻想交響曲」の大規模な編成、大胆な楽器法は時代を先取りしたものであった。 大仰な楽器編成で知られるヴァーグナーの「リエンツィ」は1840年作曲、リストの交響詩「前奏曲」は1854年の作であることを考えると、その先進性が分かるであろう。
 今回紹介する「幻想交響曲」のCDは、ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク(革命とロマン主義のオーケストラ)によるオリジナル楽器編成で、1991年9月に初演と同じ旧パリ・コンセルヴァトアルのホールにおいて録音されたものである。編成は、第1ヴァイオリン15、第2ヴァイオリン15、ヴィオラ10、チェロ11、コントラバス9、フルート2(一人はピッコロ兼務)、オーボエ2、コール・アングレ1、クラリネット2、ファゴット4、ホルン4、トランペット2、コルネット2、トロンボーン3、オフィクレイド2、セルパン1、ティンパニ2、打楽器4、ハープ6の97名という大規模なものである。このオーケストラは、1990年にガーディナーによって創設され、ベルリオーズを始め、主にロマン主義時代の作品の演奏を行ってきた。この「幻想交響曲」の演奏も、同じくガーディナーが創設したイングリッシュ・バロック・ソロイスツやモンテヴェルディ合唱団同様時代考証に基づいたオリジナル楽器編成による演奏を行っており、モダンオーケストラによる楽団の技能を誇示する演奏とは一線を画している。演奏されている旧パリ・コンセルヴァトアルのホールは、約1000人の聴衆を収容する小規模な会場で、残響も少ない。そのような空間で演奏されたこの「幻想交響曲」は、1730年12月5日の初演の響きをかなり忠実に再現したものと言える。
 なおこの演奏は、当時レーザー・ディスクでも発売されていたが、現在は”Berlioz Rediscovered”と言う表題で、新発見の同じくベルリオーズの荘厳ミサ(Messe Solennell)とともに収録されDVD(074 3212 9)で入手可能である。この画像は、演奏会場の様子や、セルパン、オフィクレイドなどの楽器が演奏される様子を見ることが出来る、非常に興味深いものである。3,000円台で入手出来る様なので、購入する価値はある。なお、フィリップスのCDの現在のカタログ番号は 00289 434 4022である。

発売元:Decca & Philips Classics

* ベルリオーズの伝記データは、ウィキペディア日本語版の「ベルリオーズ」を参考にした。
** 今回紹介するCDの解説書に掲載されているクリスティアン・ベルガー(Christian Berger)の”Phantastik als Konstruktion”を参考にした。

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