私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Frédéric Chopin (1810 - 1849) “Chopin chez Pleyel” (Paris, 1842)
Harmonia mundi France HMC 902052
演奏:Alain Planès (piano Pleyel, 1836)

フレデリク・ショパン(Frédéric François Chopin; ポーランド語では:Fryderyk Franciszek Szopen, 1810 - 1849)は、フランス人の父とポーランド人の母との間に、ポーランドのジェラゾヴァ・ヴォラで生まれた。7才の時からピアノを習い始め、その年に最初の曲『ポロネーズト短調』を作曲、8才の時にワルシャワで初めて公の場で演奏をした。1826年から1829年までワルシャワ音楽院で学び、首席で卒業した。1830年にヴィーンを訪れたが、その年の11月に「ワルシャワ蜂起」が起こり、それがロシアとの戦争に発展、ヴィーンの反ポーランド感情のため演奏会も開けない状態になり、1831年にパリに向かい、結局1749年に死亡するまでとどまることとなった。しかし終生ポーランドへの望郷の念を抱き続け、マズルカやポロネーズなどのポーランドの民族舞曲や、ポーランドの国民に広く愛唱されている賛美歌を取り入れた作品を作曲している。1849年10月17日にパリで死亡、埋葬されたが、心臓は姉によってポーランドに持ち帰られ、ワルシャワの聖十字架教会に埋葬された。ショパンの作品は、ほとんどがピアノのための作品である。その作品は、ロマン主義時代の代表的なピアノ曲として演奏され続け、今日でもピアニストの主要なレパートリーとなっている。「子犬のワルツ」や、練習曲の中の「別れの曲」、「革命」を始め、題名を付けられ広く聴かれている曲も多い。
 2010年3月2日にNHK BShiで「仲道郁代 ショパンのミステリー 特別編」*と言う番組が放送された。仲道郁代は、ピアニストとしてショパンの作品だけを演奏しているわけではないが、その作品に関連して様々な疑問を抱いていることがあった。2008年には、「『ショ パン鍵盤のミステリー』 ~ショパンはすべてのピアニストにとって永遠のミステリーである~」と題するレクチャー・コンサートを開催、2010年にはその第2回目が行われた**。
 仲道は、ショパンの作品はほとんどがピアノのための曲で、その曲はピアノという楽器と密接な関係があると考える。特に、その独特な指使いやペダルの用法に謎があると感じている。そしてSPレコードの収集家を訪ね、ショパンの孫弟子や曾孫弟子の演奏の録音を聴き、ショパンの演奏の面影を探す。
 2007年にはポーランドとフランスを訪れ、この謎を解く鍵を探す。ワルシャワのショパン博物館で、ショパンが死ぬ前に所有していたプレイエル社製のピアノを見ることが出来、さらにパリで古いピアノの修理を行っている工房で、同じ時期のプレイエル社製のピアノの構造を見ることが出来、ますますピアノへの関心が強くなる。仲道は、ショパンの音楽は、手の動きが曲になっているという。例えば、ある出版譜では、夜想曲ハ短調(作品48-1)の冒頭で、短音を右の第三指(中指)で何度も弾く指示や、上昇音型で第四指(薬指)が第五指(小指)の上を越えて行く指示など、なぜそのような指使いになっているのか、そしてペダルを踏むところと放すところの指示にも疑問を抱き、自筆譜や様々な時期の出版譜を比較する。
 そして、シャトー・ルーのベルトラン博物館で、古い出版譜や、教え子の楽譜に、練習中にショパンが書き込んだ指示などを見た後、1848年製のプレイエル社製のピアノに出会う。居合わせた調律師によると、このピアノはハンマーのフェルトや弦に至るまで、ほとんどオリジナルの状態にあるという。そしてそのピアノを実際に演奏して、現在のピアノと較べると、非常に単純な打弦機構がタッチによって音に微妙な変化をもたらすこと、ペダルの効果が現在のものと異なっていることなどを実際に体験して、「このピアノのような効果を得ることは、現代のピアノでは難しい」と感じる。「このピアノを強く弾いて壊れることはないですか?」と尋ね、了解を得て真剣にピアノを弾く姿は感動的である。その後フランスのピアニスト、イヴ・アンリが1838年製プレイエルを演奏するところが挿入される。
 最近になって、フルート奏者、有田正広が1839年製のプレイエルを所有していることを知り、訪ねる。そして2010年2月21日に行われた演奏会で、このプレイエル・ピアノを演奏した。ピアノへの影響を避けるため、照明を暗くした舞台で演奏するところでこの番組は終わる。
 この番組を見て、筆者が常に主張している、音楽作品は、それが作曲された当時の楽器と密接に関連していると言うことを、改めて確認することが出来た。作品と楽器との関係は単に中世、ルネサンスやバロックの作品だけではなく、鍵盤楽器を例に取れば、モーツァルトやベートーフェンに限らず、ショパンやリスト、ドビュッシーやラヴェル、そしてラフマニノフに至るまで、いずれの場合にも言えることだと思う。
 と言うわけで、今回は1836年製のプレイエル・ピアノをアラン・プラネが演奏しているCDを紹介する。このフランス・ハルモニア・ムンディのCDに添付の解説書には、1842年2月21日に、パリのプレイエルのサロンで行われた演奏会を再現していると記されているが、その演奏会のプログラムによれば、ショパンの親しい友人達であるチェロ奏者のオーギュスト・フランショムとソプラノ歌手のポリーヌ・ヴィアド=ガルシアも加わって、ショパンの自作の演奏の間に、ヴィアド=ガルシアの歌やフランショムのチェロ独奏も挿入され、ショパン以外の作品も演奏されたので、厳密にはその演奏会の再現とは言えない。プログラムには、ショパンの作品について、夜想曲や前奏曲などの曲名が書かれてはいるが、具体的にどの作品であるかは明示されていない。しかし、当時の新聞に載った批評によって、曲を特定することが可能だという。事実、添付の解説書に、”Revue et Gazette musicales de Paris”のモーリス・ブルジュによる批評の抜粋が掲載されているが、その中には具体的な曲名があげられている。この様な資料にもとづき収録された曲は、アンダンテ・スピナート作品22に始まり、バラード、夜想曲、前奏曲、マズルカなど合計20曲である。演奏しているアラン・プラネは、フランスのピアニストで、アメリカや欧州各国でも独奏、室内楽、伴奏など様々な活動を行っており、現代音楽の演奏も幅広く行っているという。演奏している1836年製のプレイエル・ピアノは、「奇跡的に」オリジナルの状態を良く保っているという。さらにこの録音に当たっては、ショパンの演奏スタイルを、教え子達の楽譜にショパンが書き込んだ指示などを詳細に研究した、ジャン=ジャック・エジェンダジンの著作を参照して反映しているとのことである。これは、上述の仲道郁代の姿勢と共通するものである。
 このプレイエル・ピアノの音は、上に触れたテレビ番組で仲道郁代が弾いた2台の楽器同様、現代のコンサート・グランドとはかなり異なった、ベートーフェンの時代のフォルテピアノに近い、芯のあるしっかりとした美しい響きを有している。録音は2009年3月にパリで行われた。演奏空間の音をあまり多く取り入れず、鮮明に楽器の音を捉えている。ピッチや調律については、何も記されていない。このCDは、ショパンが演奏していた当時のピアノの響き、ショパンの演奏スタイルを体験出来る、非常によい企画である。2009年10月に発売され、現在でも容易に購入出来る。

発売元:Harmonia mundi France

* なお、「仲道郁代 ショパンのミステリー 特別編」は、NHK BShiで、2010年4月26日(月)午後3時より再放送されるらしいので、興味ある方はどうぞ。

** 仲道郁代のコンサート情報などに関しては、”Ikuyo Nakamichi Official Website

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