私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Chopin: 24 Etiudy
Narodowy Instytut Fryderyka Chopina NIFCCD 007
演奏:Tatiana Shebanova (fortepian)

フレデリク・ショパン(Frédéric François Chopin; ポーランド語では:Fryderyk Franciszek Szopen, 1810 - 1849)の「エチュード(練習曲集)」は、作品10と25のそれぞれ12曲と、作品番号の無い3曲がある。作品10の12曲は、1829年から1832年までの間に作曲され、1833年にフランス、ドイツ、イギリスで出版された。 ショパンがワルシャワ音楽院を卒業して1830年にヴィーンを訪れ、その年の11月に起こった「ワルシャワ蜂起」のためポーランドに戻れず、1831年にパリに向かい、結局定住することとなった激動の時期に作曲したことになる。 作品25の12曲は、1832年から1836年の間に何度かに分けて作曲され、1837年に出版された。あとの3曲は、イグナーツ・モシェレスとフランソア=ジョセフ・フェチスの「ピアノのためのメトード中のメトード(Méthode des méthodes de piano)」という練習曲集のために1839年に作曲され、1840年から1841年にかけて出版された。そのためショパンの作品としての作品番号がない。
 ショパンの練習曲は、単なる演奏技術を磨くことを目的としたものではなく、むしろ表現技術を追求したものと言うことが出来るだろう。そのため単なる練習曲ではなく、聴衆の前で演奏する曲という性格を持っており、愛称を持つ曲も多い。作品10では、第3番の「別れの曲」と第12番の「革命」が特に良く知られており、第1番の「滝」、第5番の「黒鍵」も用いられている。作品25では第1番の「エオリアン・ハープ」、第9番の「蝶々」、第1番の「木枯らし」等が有名で、第7番の「恋の二重唱」、第12番の「大洋」もある。ショパンは練習曲を作曲するに際し、バッハの「巧みに調律された鍵盤楽器のための前奏曲とフーガ」第1集の前奏曲を参考にしたが、その高度に表現的な個々の曲は、ショパンが表現の可能性とピアノの技法を追求した結果生まれた個性的な作品となっており、以降の練習曲の方向を示すものとなった。
ショパンは、パリに移った当座はエラール製のピアノを弾いていたが、カミユ・プレイエルからピアノを贈られて以来、後者を好んで弾いたと伝えられている。しかしエラール・ピアノも所有していて、「私は気分のすぐれない時には音がすでに完成されているように思われるエラールのピアノを一番好んで弾くが、体調が良くて自分の音を創り出す力が充分にある時はプレイエルのピアノを弾く」と言う言葉を残している。ショパンが弾いていた当時のプレイエル・ピアノは、依然としてチェンバロから発展した状態が維持されており、基本構造は木材を用いており、部分的に金属で補強をしている。打弦機構はシングルアクションという単純な構造をしていて、鍵を完全に戻さないと次の音が弾けない。この様なプレイエル・ピアノは、音量は小さいが、繊細なタッチにより、微妙な音色の変化を得られることが、ショパンに特に好まれた理由であろう。大きな演奏会場よりサロンにおける親密な雰囲気での演奏を好んだ彼に向いた楽器であったと思われる。
 一方のエラール・ピアノは、アルザス地方出身のセバスティアン・エラール(Sébastien Érard, 1752 – 1831)がパリで工房を開いて1777年以来製作しているもので、革命の時期にはロンドンに工房を移し、その後再度パリに戻って生産を続けた。セバスティアン・エラールは、創意工夫に富んだ人らしく、ハープに関しても2つの特許を獲得している。ピアノに関しても多くの特許を獲得しており、中でも「ダブル・エスケープメント」と呼ばれる打弦機構は、1821年にイギリスで獲得した、同音の早い連打を可能にした機構として、今日のピアノにも採用されている。
 今回紹介するCDは、ポーランドの国立フレデリク・ショパン協会(Narodowy Instytut Fryderyka Chopina)が制作、販売している、ピアノ作品全集の内の1枚で、タチアナ・シェバノヴァが1849年のエラール・ピアノを演奏し、作品10と作品25の前奏曲集を収録しているものである。この全集は、21枚のCDのボックスセットと、一枚ごとのCDの両方が販売されている。使用楽器は、ショパンと同時代のプレイエルとエラール製のピアノで、演奏しているピアニストも国際的にショパンの演奏を得意としている様々な演奏家が起用されている。例えば、2曲のピアノ協奏曲は、ダン・タイ・ソンとフランス・ブリュッヒェン指揮、18世紀オーケストラによるライヴ録音である(NIFCCD 004)。
 このCDで演奏しているタチアナ・シェバノヴァ(Tatiana Shebanova, 1953 – 2011)は、1980年の第10回国際ショパン・ピアノ・コンクールで第2位を獲得した、ポーランドのピアニストである。ショパンを始め、幅広いレパートリーを持ち、国際的にも活躍したピアノストであったが、2011年3月1日に58歳で死亡した*。
 演奏に使用されているエラール・ピアノは、1849年に製作され、21118の製造番号を持つ楽器で、金属製の枠を使用しており、20トンまでの弦の張力を可能にしている。この楽器はオリジナルの状態を非常に良く維持しており、消耗品のみ製作当時の素材と技法によって製作されたものに交換されている。演奏のピッチはa’ = 430 Hzであるが、調律法は記されていない。前に紹介したプレイエル・ピアノと比較すると、硬質で現代のピアノにより近い音である。と言ってもモダン・ピアノの音とは明らかに違っており、19世紀中頃にフランスのピアノの音の一例を聴くことができる。同じくエラール・ピアノで弾いたリストなどの作品も聴いてみたくなる。

 発売元: Narodowy Instytut Fryderyka Chopina

* タチアナ・シェバノヴァの経歴については、ポーランドの国立フレデリク・ショパン協会のウェブサイト内にあるショパン関連の人物に関する情報にあるTatiana Shebanovaの欄を参考にした。

注)ショパンとその練習曲集については、ウィキペディアドイツ語版の”Frédéric Chopin”、ウィキペディア英語版の”Études (Chopin)”等を参考にした。

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