私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Joseph Haydn: Divertimenti per il Pariton a tre
Ricercar RIC 315
演奏:Guido Balestracci (baryton), Alessandro Tampieri (alto), Bruno Cocset (violoncelle)

今日では、主にハイドンがこの楽器のための作曲した176曲の作品によってその名が知られているバリトンという楽器は、17世紀後半に創られ、18世紀に盛んに用いられた。形状はヴィオール属の楽器に属し、通常6本のガット弦をD G c e a d’に調弦するが、さらにAAの弦を持つものもある。これに加え、前面は板で覆われた9本か10本あるいはそれ以上の金属弦があり、共鳴弦であると同時に、左手の親指で弾くことが出来る。この共鳴弦は、通常ニ長調に調弦され、旋律を奏することも出来た。この楽器は”Balyton”あるいは”Bordon”、”Barydon”、”Paridon”、”Pariton”、イタリア語では”Viola di bordone”もしくは”Viola di bardone”等と呼ばれた。


バリトン(ウィキペディア英語版の”Baryton”掲載の画像)

 ハイドンは1761年にエステルハージ家の副楽長に採用され、1766年に楽長のグレゴール・ヨーゼフ・ヴェルナー(Gregor Joseph Werner, 1693 – 1766)が死亡すると、主席楽長に昇格した。エステルハージ侯爵は、オーストリアのアイゼンシュタットに領地と居城を持ち、冬の離宮をヴィーンに、そして1880年代にハンガリーのエステルハーザに新たな城を建設した。エステルハージ候は、パウルII世(Paul II. Anton Esterházy, 1711 – 1762)もその後継者のニコラウスI世(Nikolaus Esterházy I., 1714 – 1790)も音楽を理解し、特にハイドンが宮廷楽長であった時期の当主であったニコラウスI世は、ハイドンの宮廷における活動を大いに奨励したため、ハイドンは多くの作品を生み出し、宮廷に於いて演奏していた。
 ニコラウスI世はバリトンという楽器を非常に好み、自ら演奏もした。ハイドンはこのニコラウスI世の求めに応じて、それまで知らなかったバリトンという楽器を研究し、126曲のトリオ( バリトンとヴァイオリンまたはヴィオラとチェロ)、25曲の二重奏、3曲の協奏曲などを作曲した。ニコラウスI世が所有していたバリトンは、上記の6本のガット弦と、A d e fis g a h cis’ d’に調音された9本の金属弦を有しており、ハイドンはこの楽器に基づき作曲した。ハイドンの作品に於いては、バリトンは旋律を奏する上声部の楽器であり、低弦のD G は使われておらず、c弦もほとんど使われない。ハイドンのバリトン・トリオは、緩・急あるいは時に急・緩の2つの楽章にメヌエットを加えた3楽章形式を標準としている。調性はシャープの付いた調、ニ長調、ト長調、イ長調にハ長調、それにトリオではイ短調とロ短調が1曲ずつある。共鳴弦は、時には一部調音が変更されることもある。ハイドンが、バリトンのためのトリオや二重奏曲を作曲したのは、ある程度作曲年が分かっているものによると、1760年代の中頃から1770年代中頃にわたっており、ニコラウスI世が候位に就いてからおよそ10年ほどの間ということになる*。緩徐楽章に於いては、しばしば背面の弦を弾く箇所がある。これは、通常のヴァイオリン属、ヴィオール属の楽器のピツィカートとはとは異なった独特の響きがする。また、ガット弦を弓で奏する音も、独特の甘美な音色である。
 今回紹介するCDは、ハイドンのバリトン・トリオ7曲を収録したリチェルカール盤である。バリトンを演奏しているグイド・バレストラッツィ(Guido Balestracci)は、1971年トリノ生まれのヴィオール属の楽器奏者である。ヴィオラを演奏しているイタリア人のアレッサンドロ・タムピエリ(Alessandro Tampieri)とチェロを演奏しているフランス人のブルーノ・コクセ(Bruno Cocset)については、それぞれヨーロッパ各国のオリジナル編成のグループや独奏者と競演をしていること以外詳細はよく分からない。
 演奏に使用しているバリトンは、ライプツィヒの楽器博物館所蔵の1785年パッサウのジーモン・シェトラー作の楽器を2008年にミラノのピエール・ボールが複製したもの、ヴィオラは1768年ロンドンのリチャード・デューク作、チェロはガスパーロ・ダ・サロ作の楽器を、2009年にフランス、ブルゴーニュ、フールのシャルル・リシェが複製したものである。
 録音は、2010年10月にサンテイユのノートルダム教会で行われた。録音は、かなり楽器に近接してとらえており、演奏が終わった後の共鳴弦のかすかな余韻が続く間、残響をしっかりとらえている。このCDは、2011年5月に発売されたばかりで、容易に購入できる。

発売元:Ricercar

Klassikaのハイドンの作品目録の作曲年代順のリストに掲載されている二重奏曲およびトリオの38曲の作曲年による。

注)バリトンについては、主にウィキペディアドイツ語版の”Baryton”を参考にした。

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コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )


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コメント
 
 
 
はじめまして (メタボパパ)
2011-10-31 00:11:46
こんばんは

この度は拙いブログにお越し下さいましてありがとうございました。
ずっと以前からお書きになっていらっしゃるのですね。
同じブログ村にいながらなかなか拝見する機会がなく
申し訳ございませんでした。
今後ともよろしくお願いいたします。
 
 
 
こちらこそよろしく (ogawa_j)
2011-10-31 11:30:09
メタボパパさん、こちらこそよろしくお願いいたします。
現在聴いている演奏家には、あまり共通点がないのかも知れませんが、以前にはフルトヴェングラー、ベーム等独墺系の指揮者の演奏を主に聴いていました。東芝EMIが「フルトヴェングラー大全集」を出したり、ポリドールが「フルトヴェングラーの遺産」を発売した頃に一番熱中してクラシック音楽を聴いていました。その後バッハなどのバロック音楽、オリジナル楽器による演奏を中心に聴くようになっていったのです。このブログは、現在聴いている作品や演奏に基づいて、CDに限定して書いていますが、その一方で、LPも聴いています。何しろ結構多数のLPを持っていますので、それらを聴いてみたくなることは、しばしばあります。CD化されたからと言ってわざわざ買うのももったいない話ですしね。
 
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