私的CD評
オリジナル楽器によるルネサンス、バロックから古典派、ロマン派の作品のCDを紹介。国内外、新旧を問わず、独自の判断による。
 




Nicolas de Grigny: Premier Livre d’Orgue: La Messe
VMS120
演奏:Anne Chapelin-Dubar (orgue)

ニコラ・ドゥ・グリニー(Nicolas de Grigny, 1672 – 1703)は、北フランス、ランス生まれのオルガニストで、父親や祖父もオルガニストとして、ランス大聖堂などで活動していた。 ドゥ・ グリニーの成長期については全く情報がない。1693年から1995年には、パリのサン・ドゥニ聖堂のオルガニストをしており、この時期にニコラ・ルベグ( Nicolas Lebègue )の教えを受けたようである。その後故郷のランスに戻り、1697年までにはランスのノートルダム聖堂のオルガニストに任命された。そして1699年に「オルガン曲集第1巻」を出版した。しかし ドゥ・ グリニーは1703年に31歳の若さで死亡した。
 ドゥ・ グリニーの作品は、上述の1599年に出版した「オルガン曲集第1巻。ミサと教会年の主な祝日の賛美歌からなる(Premier livre d'orgue contenant une messe et les hymnes des principalles festes de l'année)」だけが残っている。この作品の前半は、フランス・バロックのオルガン音楽の伝統に従って、ミサ典礼文の各節をグレゴリオ聖歌の旋律により、あるいはフーガやデュオなどの形式で作曲したもので、後半の主な祝日の賛美歌は、まず「プレイン・ジュー(Plain Jue、フル・オルガン)」で奏して、これにフーガが続く形式で書かれている。先にフランソア・クープランのミサの際も触れたが、このドゥ・グリニーのミサの譜面にも、豊富な装飾記号が記入されており、さらに使用すべきレギスターや、鍵盤も指定されている。例えば、キュリエの2曲目の「5声のフーガ、キュリエの聖歌に含まれる(Fugue à 5. Qui renferme le chant du Kyrie)」では、上段の五線には「コルネット」、2段目の五線には「クルムホルン」というレギスターの指定がされている。また、キュリエの5曲目「大ミクスチュアによディアローグ(Dialogue sur les Grand jeux)」では、大ミクスチュアと小ミクスチュア(Petit jeu)の交代が指定されており、小ミクスチュアの箇所には、「ポジティフ」という鍵盤の指定もされている。ミサの最後の曲は、その表題が「フル・オルガン(Plain Jeu)」とあり、手鍵盤は「16、8、4、2フィート、フル・オルガン(Claviers reunis: 16, 8, 4, 2, Plein-jeu)」、ペダルは「32, 16, 8, 4フィート、1-3/5’(Pédales: 32 ,16, 8, 4, Tirasse)」と言う指定がされている。この作品は、フランス・バロックのオルガン音楽の頂点と見なされており、バッハもヴァイマール時代の1709年から1712年の間にこの作品の写譜を作製している*。
 今回紹介するのは、この「オルガン曲集第1巻」の前半のミサ全曲を、フランス、ブルゴーニュ地方サンスの大聖堂のオルガンで演奏したVMSレーベルのCDである。CDに添付の解説によると、この演奏はミサの典礼を再現したものではなく、ドゥ・グリニーの時代と同じオルガンの響きを再現したものであるという。このオルガンは、1722年から1734年にかけて、ルイ・レベとジャン=フランソア・マンジェンにより建造され、1774年にジョアン・リシャールによって拡張された。その後1890年に改修されたが、1991年に18世紀末の状態に復元修復された。現在のオルガンは、4段鍵盤とペダル、主鍵盤(Grand Orgue)は56鍵、17個のレギスター、ポジティフ鍵盤(Positif)は48鍵、9個のレギスター、レシタティーフ鍵盤(Récit)は39鍵、7個のレギスター、エコー(Echo)鍵盤は46鍵、8個のレギスター、ペダルは30鍵、7個のレギスターを有している。レギスターは、閉管系(Bourdon)、フルート管のプリンシパル、それにクルムホルン(Cromorne)、コルネット(Cornet)、トランペット(Trompet)など様々なリード系パイプが有る。ピッチはa’ = 415 Hzであるが、音律については記されていない。
 演奏をしているのは、フランスのオルガン、クラヴサン奏者のアン・シャプレン=デュバールである。彼女はパリ・コンセルヴァトアールとエコール・セザール・フランクで学び、フランスバロック様式、特にラモーとメヌエットの研究をしている。このドゥ・グリニーの「オルガン曲集第1巻」のミサの他に、同じ「オルガン曲集第1巻」の後半の賛美歌、ルイ・マルシャンのオルガンとクラヴサン作品集などの録音がある。このCDのミサは、豊富な装飾音とフランス独特のイネガル奏法(notes inégales)によって演奏されており、直接音成分の多い録音によるのか、特にリード系のパイプの響きが支配的である。
 VMSレーベルは、ウェブサイトもなく詳細は不明だが、ネット上のCDショップ、湧々堂CDショップ・カデンツアによると、オーストリアのZappel Musicグループのレーベルとのことである。オーストリアで活躍した作曲家など、かなり多様な種類の音楽のCDがある。今回紹介したCDは、いずれのショップにもある。

発売元:VMS

注)ドゥ・グリニーについては、CDに添付の小冊子に掲載されている解説と、ウィキペディア英語版の”Nicolas de Grigny”を参考にした。

* このバッハによるドゥ・グリニーの写譜は、ジャン・アンリ・ダングルベールの「クラヴサン曲集」(1689)に装飾音一覧表やフランソア・デュパールの「6つのクラヴサン組曲」と1冊をなしており、外国の鍵盤楽器、オルガン曲の唯一の写譜である。

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