よぼよぼのお爺さんだから、よぼよぼしているのが、もっともふさわしいのだけれど。
ちょっとばかし、よぼよぼ爺だってことを、忘れる。
そうしよう、そうしよう。
忘れよう。
*
忘れたら、いきなり風が爽やかになった。
爽やかな風の中から、あの人が現れて、手を振った。あの人は、首に、真っ赤なスカーフを巻いている。
スカーフを風がうしろに靡かせる。長い髪が真似をする。
というのに、あの人の声は聞こえない。
口がわたしを呼んでいるというのに。
*
お爺さんはよぼよぼでなければならない、ってことも、ないのではないか。
生きて来た歳月に拘束されていねければならない、ってことも、ないのではないか。
そういう不届きな考えが、岩の上の狼になる。
*
岩の上にも青空。岩の上にも爽やかな夏風。
軽くジャンプをしただけで、狼は太平洋まで飛び去って行ってしまった。
平原を越え、川と谷を幾つも超えて。
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