♪ わたしゃ真室川の梅の花、コーリャ、あなたまたこの町の鴬よ、花の咲くのを待ちかねて、蕾の頃から通(っ)て来る。♪
民謡、真室川音頭より。
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若い娘は梅の花。若い青年は鴬。蕾の娘のところへ、足繁く若者が通い詰める。双方、気がはやる。いのちの絶頂期をいち早く感じて。待って待たれる。うずうずうずうずして、じっとしていられない。
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その後、こう続く。
♪ 夢に見た夢に見た夢に見た。あなたと添うとこ、夢に見た。♪
若いときはきっとこうだろう。これで健康だ。
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ふふ、これをお爺さんが歌っている。いい気で歌っている。79歳の枯れ木のお爺さんが歌っている。おかしくってならないが、花を迎えた人の幸福が、歌っていて嬉しくなる。
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(? ? ? 通って来なくなったらどうしようね)
(花の時を過ぎれば、後は長く長く足音が途絶えてしまう)(そしてよろよろのお婆さん、よぼよぼのお爺さんになる)
♪ わたしゃ真室川の枯れ尾花、コーリャ、あなたまたこの町の老鼠。冬の寒さをしのぐとこ(ろ)、枯れ草寝床があたたかい。♪