入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

    ’17年「初夏」 (26)

2017年06月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 管理棟に着くのを待っていたかのように雨脚が強まってきた。それでも囲い罠の牛たちは、それほど気にするふうも見せず草を食んだり、濡れた草の上に横たわって口をモグモグさせたりしていた。大きな声をかけてやると、遠くから一斉にこちらに顔を向け、牛特有の無表情な顔をして、しばらく動きを止めたままじっと声の主の方を見続けていた。
 昨日の脱柵した牛の様子見に第1牧区に上がっていくと、その牛59番は草の上で反芻中だった。近づいていくと「昨日はほんの出来心で、ご迷惑をおかけしました」などといった態度などもちろん見せない。せいぜい「あれぇ、おめえどうしたんだ」ぐらいのものだろう。昨日、群れに戻してやる前は、不安に駆られてあんなに吠えていたのに。
 牛を見ていると、それだけで気が和む。

 雨の日でも、最低やっておかなければならないことがある。それが牛の状態を見ながらの頭数確認と、電気牧柵の電圧点検である(今はやっていないが、それにくくり罠の見回りが加わることもある)。今年のように牛の頭数が少ないと簡単に終わるが、雨に濡れながら、広い牧区の中を牛を探し求めて延々苦労したことならいくらでもある。
 電気牧柵は、第1牧区なら7千、第4牧区なら6千ボルト程度は維持するようにしているので、それ以下の場合だとどこかで問題を起こしていることになる。一昨日も小入笠まで問題処理のために上がったばかりだ。

 上に行って辺りを見回すと、所々に雲が破れ、その隙間から緑の山肌が見えていた。雲の動きは緩慢で、まるで静止画像を見るように、しばらく見入っていた。どこかの山で見たような眺めだったが、目の前のダケカンバの森を再び覆い始めた霧のように、いつにか長い時間が霧に代わってその記憶を隠してしまったらしい。
  
 雨の森も悪くない。キャンプ場及び山小屋の営業内容につきましては、「H29年度の営業案内」「続H29年度の営業案内」を参考にしてください。
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    ’17年「初夏」 (25)

2017年06月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 長谷方面に向かう南テキサスゲートを過ぎたばかりだった。一瞬、よく分からなかったが、1頭の牛が囲い罠の金網柵の外にいてドキッとした。目の錯覚かと思ったが、間違いなく1頭のホルスタインが外に出ていた。脱柵である。そして、柵の内側には種牛のマッキーが目敏く来ていた。
 鹿も逃げることのできない罠の中から、牛が出ることなど不可能なはずだと思った。と言って、標高差で100メートル位はある上部の第1牧区からここまで下りてこられるものか、とも思った。急いで罠の中の牛の頭数を数えてみると、ちゃんといた。やはり金網柵の外にいるのは、わざわざ第1牧区から逃げてきた牛だと断定するよりなかった。
 いつも脱柵牛には一人で対応してきたが、今回は大事を取って下から応援を頼むことにした。応援を待って、第1検査場のパドックに追い込み、ロープで縛り、上に引きずり上げようと手順を決めたが、それまでの間に脱柵場所と、脱柵牛がこの牛1頭かを確認する必要があった。第1牧区で脱柵場所を確認した後、牛の群れを雷電様の南の放牧地で見付け頭数を数えてみた。幸い、脱柵した牛は1頭だけだった。
 昼近くに、応援が二人来て、後はそれほど手を焼くこともなく牛を予定通りパドックに追い込み、縄を打ち、無事に第1牧区へ戻すことができた。
 脱柵牛が出たのは、今年は初めてのことだった。この牛の脱柵と、もう一つ突然死が、牧場を管理する立場からすれば一番起きてほしくない事故だと言える。多くは、予測しようがないのだが。


        Photo by Ume氏

 品川のIさん、PHを送ってくれたようでありがとうございます。実はもう、データー消費がいっぱいなので、明後日、月がかわってから大切に扱わせていただきます。

 キャンプ場及び山小屋の営業内容につきましては、「H29年度の営業案内」「続H29年度の営業案内」を参考にしてください。
 
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    ’17年「初夏」 (24)

2017年06月28日 | 法華道と北原師

Photo by Ume氏

 雨に濡れたクリンソウの写真は、きょうの天気に相応しい。霧の深い幽玄なあの森の中に行けば、クリンソウの大群落はまるで桃色の池塘のような光景を見せながら、突然現れた顔見知りの侵入者を迎えるだろう。誰もいないこんな山の中の牧場で、雨に濡れながらわずかの数の牛を見回る者へ、それは自然の過分なるねぎらいだと思うことにして、感謝したい。

 二日前、北原のお師匠がお孫さんの運転で牧場へやってきた。そろそろハナビラタケというキノコのことが気になりだしたのだろうが、生憎今年はまだ早かったようで、収穫はなし。
 しかしその帰り、本家・御所平峠のお地蔵さんに立ち寄り、賽銭箱の中を調べたら4千数百円が入っていたという。お金は市の社会福祉士協議会に持っていくようだが、一人100円として40数人、500円硬貨も2,3枚あったというから、それでもあの古い峠を通った人々のうち30人ほどが足を止め、お地蔵さんに額ずき、賽銭箱に善意を入れていったことになる。そういう人々の中にはきっと、法華道とお地蔵様の由来や、古道に注いだお師匠の努力を知っていた人もいたことだろう。
 前に一度書いたが、知人のM谷が汚れた5千円札を手にして、神妙な顔をしてここに来たことがあった。、訳を聞けば、本家・御所平峠のお地蔵さんの賽銭箱で見付けたというのだ。それも今にも風に吹き飛ばされそうだったので、取り敢えずここへ持ってくればと考えて、来たというのだった。
 後日その尊いお金を師匠に渡し、経緯を話すと、師の感動しまいことか。幾つかの善意が重なって、そのお蔭で金は無事、落ち着くべき所に落ち着くことになったのだから、無理もない。師匠はその後も、この大枚5千円の喜捨をした人が誰だか知りたいと、折に触れては話している。先日もそうだった。

 キャンプ場及び山小屋の営業内容につきましては、「H29年度の営業案内」「続H29年度の営業案内」を参考にしてください。
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    ’17年「初夏」 (23)

2017年06月27日 | 入笠牧場からの星空


 この時期、月にちなむ話題とくれば、少し早くてもやはり七夕を取り上げたい。ただ、梅雨のど真ん中では天の川や、年に一度の牽牛と織女の逢瀬を眺めることはむずかしいかも知れない。また天の川の位置も東に低く、どうせなら月遅れか、旧暦の7月7日の方が、夏と秋が行き違う季節の祭り、という意味でも相応しいと言う声もある。ちなみに調べてみると、旧暦の今年の7月7日は、8月25日、もうここでは秋風が立つころだ。
 それにしても、芋の葉の上の露(つゆ)を使って硯で炭をすり、願い事を短冊に書いて竹の葉に飾るなどというようなことを、今でもあの人は変わらずしているのだろうか、浴衣姿で。



 このごろは木星そのものよりも、イオ、ガニメダ、エウロパなど木星の衛星が注目されている。特にエウロパは、厚い氷の下には水があるかも知れないと、衛星の内部構造やその活動が話題になった記憶がある。クラークの「2010年 宇宙の旅」ではそれを予言し、前提に物語が展開されていた。
 以前、かんとさんの教えを受け、低倍率で木星を眺めたことがあったが、この時も木星よりか、それを取り巻く針の穴のような衛星の小さな光の点が、闇の中に幾つか観測できて感動した。

 きょうの写真は2枚とも、5月のまだ相当に寒かった夜、かんとさん忍耐の作品。

キャンプ場及び山小屋の営業内容につきましては、「H29年度の営業案内」「続H29年度の営業案内」を参考にしてください。




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    ’17年「初夏」 (22)

2017年06月26日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 きょうはもう、牛でも脱策しない限り仕事はしない。そう決めた。ようやく、第1牧区の電気牧柵下の草刈りが終わった。不安定な斜面や、草の陰に隠れている石や岩に怯えつ、6日をかけて何とか済ませた。もっともまだ第4が残っているし、第3に至っては、まだ立ち上げもできていない。
 草刈りでは避けようもないが、不注意で草刈り機の歯が岩にあたると、ガキッと嫌な音がして、飛び散る火花と一緒に跳ね返されることがある。飯に石粒が混ざっていて、それを噛んでしまったときのような感触だと言えば分かるだろうか。それが熟達者ともなれば、軽く石や岩にチリーンチリーンと歯を当てながら、まるでそれを楽しむかのようだが、あれは変態の趣味だと思っている。あっ、これは失言か。
 
 仕事を終えて管理棟へ下りてくる途中、霧ヶ峰がよく見えた。長いこと行ってないが、高原がたまにはおいでと呼んでくれてるような気がしたた。
 蓼科、霧ヶ峰、今のことは知らないが何十年も昔、夏になるとあそこは華やかな都会が出現し、田舎の若者が、そんな雰囲気に惹かれって出掛けていったものだった。時には良い思い出もできたり、都会人との対抗試合をしたこともあった。
 「山小屋の灯」という歌がある。あの曲を聴くと、霧ヶ峰の見晴るかす緑の草原と、広い空が目に浮かんでくる。そしてそこに、空想の山小屋が見えてくる。
 なんでも戦後の抑留中に、この曲の作者が、遠い故国を偲んで作ったのだと聞いたが、さて望郷にかられ思い浮かべた山小屋とはどこだったのだろう。
 霧ヶ峰も白樺湖も変わったという。今、そんな変貌を目にしては、名曲「山小屋の灯」は聞えてこないかも分からない。代わって、入笠がそんな役を少しでも果たせるとよいのだが・・・。

 O沢さん、多謝。Ume氏のきょうの写真、緑が目に沁みたら来なはれ。明日はかんとさんの天体写真でござる。

 キャンプ場及び山小屋の営業内容につきましては、「H29年度の営業案内」「続H29年度の営業案内」を参考にしてください。
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