入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

        Ume氏の入笠 「冬」 番外編(18)

2014年12月30日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


(前日から続く)
 本当にキクはどこへ行ってしまったのだろう。充分に時間があったにもかかわらず、なぜ雪の山を選び、小屋へ来ることをしなかったのだろう。あれからもう、1週間が過ぎた。
 こちらの呼びかけが届いていながら姿を見せなかったということなら、それはキクの意思だから仕方ない。野生に帰り、もう人間に飼われることを望まぬということだろう。それもキクらしいといえるかも知れない。
 しかし普通に考えたら、何かの間違いでキクは後を追えなかったと思うしかないだろう。そして雪の山を彷徨した挙句、力尽きたか、運よくどこかの人里にたどり着き、そこで誰かから保護を得ているか・・・。そう願いたい。
 いつか会える日が来るかも知れない。もしも新しい飼い主に大切にされていて、古い飼い主のことなど忘れてしまっていたとしても、それならそれでもいい。あるいは野生の中で、誇り高い川上犬として、狼や山犬の血の命ずるままに生きるならそれでもいい。死なずにいてくれたら、今はそれだけでいい。
 今日は雪催いの天気だ。昨夜降った雪が残っている。いつもキクの定位置だった場所は、そこだけポッカリと風景に穴があいてしまったようだ。




 アサンジ・アジモヘタ・キク

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Ume氏の入笠 「冬」 番外編(17)

2014年12月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 (昨日からつづく)
 ゴンドラの山頂駅から管理棟へ行く間、最近見知ったばかりの「歩く中毒」のF氏と一言二言言葉を交わす。彼はスノーシュー(ズ)の講習中だった。屈託のない笑い声が快晴の、今やゲレンデと化した入笠湿原に響いていた。
 まだ先があるからといつもよりペースを落として歩き、1時間で管理棟に着いた。わずかな期待はあえなく外れて、管理棟にキクの姿はなかった。10分ほど周囲の様子を見たりしてから出発した。
 たったの三日が過ぎただけだというのに、白蛇弁天から先は踏み後が判然としなかったり、潜ったりと厄介な雪道をもくもくと歩く。北門を抜けると八っ株沢、座頭沢の上部を横切る林道が始まり、山腹を巻く幾つものカーブはゆるやかに下る。キクの名を連呼すると同時に、雪の上に残された動物の足跡にもそれなりの注意を払い、あまり日の射さない山道を下っていった。
 キクがもしこの林道にまだいたとしたら、こちらからの呼び声、もしくは笛の音はほぼ確実に届いていたはずだ。しかし、何の反応もない。その一方、雪面に残る動物の足跡には、キクのものではないかと思える足跡が随所に認められた。しかも足跡はまだ新しく、爪先が着地した後なのかその前なのか、スーッとすじ状に残っている雪面を幾度となく目撃した。まるでつい少し前、キクがこの辺りを通過したかのように思え、呼び声は自然と大きくなり、歩行の速度も速まった。
 そうやって2時間後、焼き合わせを通過、さらに1時間と少々で芝平峠に到着した。そのまま休まず山室川の谷を40分ばかり下り、新しい砂防ダムの現場が見える、車ではこれ以上上流には進めない地点で、折よく迎えに来てくれた「奥山いつもいる」のジムニーに拾われた。
 
 足跡から判断すれば、キクは鹿の死骸があった地点を中心にしてかなりの距離、5,6キロを行ったり来たりしたように見える。しかし、こちらの呼びかけには応答しなかった。姿を見せることがなかったということは、足跡はキクのものではなかった可能性も残る。ただしこれについては、24日に一緒に下りたHALの足跡を参考にしてキクの足跡だろうと推定したわけだが。
 キクはすでにどこか山深くへ、空腹と寒さの中を移動してしまったのだろうか。(つづく)

 Chiyさん、そんなわけでブログの閲覧をしばしご無礼していた間に、すごいことをやりましたね。おめでとうございました。顔をはっきりと見せてもよかったんじゃないですか、二人とも若作りなんだし、はい。
 
 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては11月17日のブログをご覧ください。現在の積雪は例年に比べ、一月(ひとつき)は早いです。
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       Ume氏の入笠 「冬」 番外編(16)

2014年12月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 しばしブログを中断してしまった。
 
 雪深い山の中で起きた事件に翻弄される日々が続く。実は、愛犬キクがいなくなってしまったのだ。22日の夜、牧場の北門までおよそ1キロほど手前、「ど日蔭のコーナー」を目前にして、暗い雪道に鹿の死骸と出くわしたのが事の始まりだった。
 一瞬「まずい」と思ったが、2匹の犬はすっかり鹿に狂奔し、肉を漁り始めた。すでに日はとっくに暮れて辺りは暗く、時折雪交じりの突風が襲ってくるような天候状態に、先を急ぐ必要があった。しばらくすればいつものようにすぐ追いかけて来るだろうと、犬をそこに放置したまま進んだ。
 案の定5分もしないうちに、HALが来た。しかしキクの姿は続かなかった。道は深くU字に曲がりながら続くから、キクにはこちらから呼ぶ声がずっと聞こえていたはずだ。にもかかわらず来なかった。小屋に着いてからも待ち、夜中も何度も外の様子を見るために起きた。
 翌日も一日待った。が、キクは姿を見せなかった。
 翌々日の24日、富士東高校の一行を送り出すと、大急ぎでこちらも戸締りなどを済ませ出発した。道中犬の名を連呼しながら下っていったが、二日前に鹿の死骸があった場所には、わずかに毛が残っていただけで、本体は跡形もなく消えていた。キクの動静を知る手掛かりも、風にあおられ雪が消してしまっていた。
 道々考えていたことは、あの夜なぜキクが後を追いかけて来なかったかということだった。それをする時間は十分にあった。
 以前、冬の法華道でも似たようなことがあった。登り始めてしばらくすると、キクの姿が見えなくなった。このときもHALだけが管理棟に着いて、キクは追随しなかった。一息入れるとやむなく予定を変えて、4時間かけた雪道をまた引き返した。そして2時間後、先行していたHALの姿が二つになった、と思ったらキクだった。
 このときも、キクは残臭を頼って後を追うということをしなかった。一度は駐車した場所まで下りたかも知れなかったが、6時間ほどの間姿を消した場所からあまり離れた様子がなかった。今回もキクは迎えが来ると思って、待っていたのだろうか。
 25日、26日と車を停めた芝平のハイランド入口まで行ってみた。簡単な小屋を作り、キクの使っていたマットや餌も置いてきた。関連する役所には、伊那、富士見、諏訪と届け出を済ませた。
 そして昨日27日、もう一度富士見のゴンドラを利用して管理棟に上り、再度4時間の道程をキクの消息を求めて歩いた。

 
 この間幾つもコメントを頂いています。Chiyさん、TDS君、猫さん、F/C Nさん、歩く中さん、Akiさん、ありがとうございました。

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。
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冬の入笠牧場、12月22、23、24日

2014年12月25日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 「冬の星座を眺めて」などと好きなことを書いて、またしても天候に味方してもらえず、長い雪道を6時間かけて登った。それでも雪雲の乱れ飛ぶ合間に、暗い森の梢の向こうに冬の輝く星々を見ることができた。苦労が報われたという気にもなれたが、この味わいは魔性を孕み禁断ゆえ、お勧めはできない。仮によほど天候に確信が持てたとしても、夜間行動を伴う冬山の6時間の雪道である。この時期の雪は、スノーシュー(ズ)を履いていても踝まで潜るモナカ状で、足にくる。歩き方にも工夫が要る。


    雪に埋もれた軽トラック

 翌日23日は良い天気で、2名ほどの来訪者のお相手をした他は、漫然として過ごした。他にも「遊びに行きたい」という℡があったが、不慣れな雪道に難渋してか、このグループは途中で断念すると連絡してきた。
 予約を受けていた富士東高校ワンダーフォーゲルの一行は、4時過ぎの到着だった。若い元気な登山者は、いつ見てもいい。静岡県は、高校生の冬の登山活動も認められているそうだ。ただし、許可を得るためにはそれなりの手続きが必要のようだ。




  24日朝7時過ぎ、元気に去っていく一行7名を見送る

 まあそれでも、月明かりや星明かりの中をあまり遠くへは行かぬようにして、近くの雪の森の中を歩いてみたらいい。そしたらきっと聞けるだろう、「洞穴の住人」や「NOMAD(=放浪者)」の囁きが。
 

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。12月5日、9日のブログも参考にしてください。
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Ume氏の入笠 「冬」 番外編(15)

2014年12月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 予約を受けて、23日に上がるつもりでいたが、車で行けないとなると、それでは遅くなってしまうかも知れない。となれば、前日に登るしかないが、明日はやっておきたいこともある。そうなると出発は夕方、早くても午後になる。
 そんなことをぼんやりと考えていたら、俄然夜の山道を歩いてみたくなってきた。車で行けるところまでいって、あとは車を捨てるということになるから法華道でなく、通い慣れた林道を行く方がよいのかどうか、迷う。新月で月明かりを当てにはできないが、その分冬の星座を仰ぎながらゆくことができる。最悪、昨日も行った県道の終点から歩き出すとすれば、芝平峠までは約3キロの道のりで、峠からは管理棟までは10キロまであるかないかというところだろう。7年も通った道だが、いつの間にか正確な距離は忘れてしまった。念のため北原のお師匠にも尋ねてみたが、概ね変わらなかった。お師匠は
、夜の山道を歩いてみたいのだ話すと意外なほど納得してくれ、ご本人も行ってみたそうだった。
 
 そこへまた、山奥センセイから電話が入った。センセイの隠れ家の辺りも今日の晴天で大分雪が融けたようだが、やはり当分の間は車では無理のようだと親切な助言。ただし、いくらセンセイが北海道生まれでスキーや山は言わずもがな、雪道の運転も超が付くほどの腕前だと自慢してくれても、センセイが育ったころはまだ馬橇の時代だったのではないかと思え、そこは聞き流すことにした。
「また1ッ本飲んでしまったよ」
「焼酎でござるか」
「焼酎がボクには一番合うんだ」
「さようでござるか。やつがれは焼酎はたしなまぬゆえ、家にあるのを今度持っていきまする」
 などの会話。
「それにしても、山奥さぁはそうやって山の中でエライもんでござるな」
「ボクはチャージしているんだよ、今は一人で。ボクの本性を知らないな、ここで体力、気力を蓄えたあとの」
「大暴れするのでござるか」
「そうだよ。何かあったら連絡よこしな。消防に連絡してやるから、ガハハハ」
 などの会話。

 明日の今頃は、もう上にいるだろう。

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては11月17日のブログをご覧ください。12月5日、9日のブログも参考にしてください。
 Chiyさん、ご明察の通りです。楽しく会話することができました。
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