入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

    ’17年「冬ごもり」 (44)

2017年02月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 2月24日、法華道の登り口まで行くも雪はなかった。乾いた枯れ葉の埋まった山道を、スノーシューズを背負い登る気が萎えた。確信はないまま、オオダオ(芝平峠)からさらに上まで、車で強行することに予定を変えた。
 「枯れ木橋」の先からは前々日の雪が積もっていたが、そこまで先導してくれた轍は諦めたのか引き返していた。上ではかなり降ったと聞いていた雪も、日中には雨に変わって水分をたっぷりと含み、さらに昨夜一晩でその表面が凍ったせいだろう、お蔭で、タイヤは薄いベニヤ板の上を走るような塩梅となり、車体が完全に沈まないため”カメ”にはならずにすみそうだった。
 峠に出ると、あとは運を天に任せて危うい走行を続けるしかなかった。猟期も終わり、猟師の車や、その乱雑な轍に手を焼くことはなかったが、途中何度か冷や汗を流し、何とか1時間足らずで牧場内に着いた。そして、入笠山の登山口と長谷に下る分岐点まで来て、車は雪に隠れた窪みに前輪を落として止まった。
 積雪は予想以上にあった。一望、白い世界が広がり、上空にはゾクッとするような青空があった。
 
 その夜、炬燵の中でただ呆けていたら、酒が寒さに耐えて外に出ろと唆(そそのか)した。重い腰を上げて、冬の星座を眺めてみろと。
 中天より南西に下がってオリオン座、そして冬の大三角形を構成するベテルギウス、小犬座のプロキオン、大犬座のシリウスと、これらはすぐ目に飛び込んできた親しい星たちであり、星座である。そこから双子座、ぎょしゃ座・・・、プレアデス星団を眺めながら双眼鏡を忘れたことを悔いた。しかし、それでも十分だった。広大な夜空にはヒソヒソと星々の饒舌がいつまでも続いた。何を語っているかまでは分からなかったが、もしも、艶福家ゼウス神にまつわる、最新の噂話でもしていたのだったら聞いてみたかったのだが、サテ。
 管理棟に帰り、ラジオを点けた。うまい具合にバロックが流れてきた。冬の星座と宗教音楽。かつて音楽は10段階の1という評価に甘んじた者が、音楽を聞き、宇宙を眺めているという不思議。チェンバロの音が感情の深みへと誘う。そのまま落ちていく・・・。
 この小屋で、こういう夜を一体幾度過ごしたことか。冬の夜の山の中、時がゆっくりと流れていく快感を、誰でもが、そうそう味えない贅沢だと分かっていた。

 明るい光、そして残雪、3月の入笠・・・、知ってる?
 
 【平成28年度冬季営業】
平成28年度冬季営業についてはこちらをクリックしてください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

    ’17年「冬ごもり」 (43)

2017年02月23日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

       今では単なるガラクタ、嗚呼!

 昼間これといった制約もなく、気ままな冬ごもりをしている身だからか、前にも書いたが夢の中で忙しく働いたり、思いもしない苦労、苦痛を強いられる夜がある。数日前は、処刑されそうになった。安眠ではなく、どころか、命がけで眠っていたわけだ。
 まっ、いつも悪夢ばかりではないが、昨夜の夢、これもまたも変わっていた。誰かに一生懸命岩登りに使うロープの結び方を教えようとしていたのだが、それが何故かどうしてもできない。ブーリン結びとか、マスト結びとか基本中の基本が、である。相手の反応は覚えていないが、教える方は戸惑い、焦り、混乱するばかりで、それで目が覚めた。
 必死でブレーキを踏んでも、坂を逆走する車が止まらないという夢も”得意”で見るが、そういう時は目が覚めても、まだ夢が意識の中に半分ぐらい居座ることがある。昨夜もまさしくそうで、深い霧の中でもがいたあと、また眠りに落ちたのか、朝になってもまだスッキリとしなかった。それで、もう長いこと押し入れの中に放置したままの9ミリのロープを引きずり出し、試してみた。当然だが、何の問題もなく結べた。
 もう岩登りなどするつもりはないから、どうでもよいと言えばそうだが、それではいくら大したことはやってなくとも登攀に費やした時間や努力とか、それに払った諸々多少の犠牲も嘘になって、消えてしまう。安堵した。

 きょうは「富士山の日」とか。山小屋経営の期間と、便所の問題は、増加する登山者の扱いと並ぶ課題ではないだろうか。同じく、熊野古道の補修に民間の有志が活躍しているという報道もあった。入笠にも「石堂越え」と「法華道」という古道がある。北原のお師匠の、これらの古道へ注いだ熱意を忘れるわけにはいかない。
 昨日はTOKU氏から、それからもちろんカント氏、今月の初めにはIWA氏や他からも、牧場における天体観測についての問い合わせなどが続いた。各位、かなり欲求不満のよう。明日は上にいくので、また現地の情報をお伝えしたい。冬ごもりの独り言、そんなわけで27日まで休みます。

 雪があれば、3月の入笠は最高だが・・・、知ってる?
 【平成28年度冬季営業】
平成28年度冬季営業についてはこちらをクリックしてください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

    ’17年「冬ごもり」 (42)

2017年02月22日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

「IC348」(再録) Photo by かんと氏

 じっと停滞していた自然の動きが、ためらいつつも始まったようだ。「季節は巡る」、そういう思いを感じている。夜空を賑わせていた冬の星々や星座が、舞台を譲る時が来つつある。時の運航に神妙を感じながら、去っていく季節と、やって来る季節のはざまで、想いが揺れる。しばらくは見送る余韻に浸っていようと思っていたが、迎える期待の方が優勢になっていくことをいつの間にか赦している。

 久しぶりのボイジャー1号、地球から現在どのくらいの距離を飛行しているかと、アメリカの「ジェット推進研究所(JPL)」のサイトで見てみた。宇宙空間を時速約6万キロというスピードで遠ざかりつつある探査機の、その到達距離は約206億の後に206329XXと8桁の数字が続いていた。もうすぐ打ち上げられてから40年になる。
 しかし、これだけの年数を要した距離も、光ならたった1日足らずで進む。光の速さ(259億キロ/1日)からすれば、だから大した距離ではないとみることもできる。そのように、以前に知ったかぶったことを書いた。
 ところが、JPLサイトでその数字を見ていて驚いた。数字が増えていくと思って見ていたら、下2桁の数字がものすごい速さで減少していた。ということは、遠ざかっているのではなくて、近づいていることになる。頭が混乱してきた。
 しかしそこは世界的権威のある研究所のこと、こういう読者のために「Because Earth moves around the sun faster than Voyeger 1 is traveling from Earth,・・・・」、地球が太陽を周回する速度は、ボイジャー1号が地球から遠ざかるスピードよりも速いため、1年のある時期においては地球と探査機の距離は短縮すると、「注意」があった。親切。
 そういうものなんだと、今現在も飛行を続けているボイジャーの、健気とも言いたくなる姿を思い浮かべた。

 昨日あんなことを書いて気を悪くしないかと案ずる人もいたけれど、そんなことないですよね! もしそうなら大変失礼しました。そうですか、何かと続いて大変でしょうが、早く決着をつけて、また入笠牧場からの星空を観望しに出掛けてください。きょうの知ったかぶりは一応、お見舞いを兼ねたつもりです。

 【平成28年度冬季営業】
平成28年度冬季営業についてはこちらをクリックしてください。


 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

    ’17年「冬ごもり」 (41)

2017年02月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 日の光が明るい。春が少しづつ勢いをつけつつあるような暖かさを感じる。晴れ渡った空に、時折激しく聞こえてくるあの風の音も、追い立てられつつある冬の季節の抗いであろう。
 この時期、毎年のように小さな白い花を咲かせていた「雪の下」が、今年はその姿を見せない。日の当たらない植込みの石の影に、春に先駆け控え目な花を一輪か二輪決まって見せてくれたものだが、花どころか、深緑のお馴染みの葉すらどうやら季節を待てず、花に殉じてしまったようだ。ささやかな季節の楽しみだったがそれがなくなってみれば、もう少し手をかけてやればよかったと、軽い悔いが残る。



 今週末は上に行く。いつものように、宿泊者の来る1日前の24日に登り、3泊4日の予定となる。期待されている雪の状態が心配だが、天気予報によれば週の半ばに1日だけ悪くなるだけで、それ以後は来週も水曜日ごろまでほぼ安定するらしい。長野県は南北に長く、伊那谷はどちらかと言えば表日本の天候に近く、春に向かう今は比較的晴天の日が多い。1週間近い先の予報が当たれば昨年以上の雪不足になり、雪を期待していた人たちは落胆するだろう。それに代わる2案ばかりを考えてあるが、もし案内を頼まれたら大事なお客さんたちだが、さて応じることができるだろうか。
 ふと、あの人を呼べば、天気は急変するかも知れないと思った。しかし彼は雪男ではない、雨男である。どしゃ降りの雨にでもされたらたまらない。ただ当人にすれば、大雨でも降らせることによって雪道を走行可能にし、1日も早く煌めく星々や星座と、久闊を叙したいところだろう。25日㈯、月齢28.12。美しい星空が期待できそう。クク。
 
 木曜日の天気いかんでは、週末車で上がってみようかとも考えている。海老名出丸さん、大変ありがとうございました。

 【平成28年度冬季営業】
平成28年度冬季営業についてはこちらをクリックしてください。

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

    ’17年「冬ごもり」 (40)

2017年02月20日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 昨日の話をもう少し続けたい。串田孫一だとか彼の代表作「山のパンセ」を持ち出し、あげく横道に迷い込んでしまったが、この本について特に何かを語りたかったわけではない。書き方はあまり好意的でなかったかもしれないが、当時の山とか登山者の雰囲気のようなものが伝わる1冊かと考えたからで、ついでにまたこの本の愛読書たちの横顔でも想像してもらえたらと思ったという、それだけのことである。
 
 なぜ1960年前後の山のことに触れようとしたかというと、そのころから山も人も大分変ってきたような気がするからだ。特に地域の活性化などという名のもとに、観光地化が方々で進んでいる。かつてあちこちにできたスキー場ブーム、一過性の賑わいの後閉鎖され、放置されたままの錆び付いたスキーリフトを目にしたことはないだろうか。ああいう結果が物語っているのは何か。
 にもかかわらず観光目的で、相も変わらず交通の利便性が重視され、その方面の開発が止まらない。結果、観光客と登山者の間の境界が曖昧になり、区別がつきにくくなってしまった。そういう山や観光地が日本中に増え、人気の場所には人が溢れ、一層の猥雑化が進んでしまった。
 人が人を呼び、それ以前の景観や自然、静けさが傷付き、失われる。そうでありながら、そういう負の面の検証がされているという話をあまり聞かない。耳に入ってくるのは手遅れになって、何か社会問題になったような場合だけだ。
 
 観光事業は難しい。人が来なければ成り立たないが、来過ぎてもそれはそれで問題となる。美しい自然の景観を、牛やタヌキに見せているだけでよいとは思わないが、そうなれば最低でも施設が必要となり、人が増えれば人工的な物が拡大する。入笠牧場もやがて変わっていくかもしれない。だが、とりあえず今は、来てくれた人に喜ばれ、キャンプ場や山小屋が少しでも牧場の支えになってくれればと思っている。
 そしていつか、変わる日が来たらその時は、今の牧場が先人たちのお蔭でそうであるように、何世代も先の人々にも受け入れられ、喜ばれるような観光地になってほしいと願っている。それまでは当分、時代遅れの山小屋「農協ハウス」を細々とでも守っていきたい。

 【平成28年度冬季営業】
平成28年度冬季営業についてはこちらをクリックしてください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする