入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

       Ume氏の入笠 「冬」 番外編(8)

2014年11月29日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 One Man's Wildernes(邦訳:「独りだけのウイルダーネス」東京創元社)は、ある冬の日に、高遠の山奥で隠遁生活始めたK氏(「山奥いつもいる」氏とは別人)を訪ねた折に紹介され、即入手した。アラスカの森の中に丸太小屋を自作し、そこで一人暮らしを始めた50代の男が日常を綴った本だ。
 小屋のすぐ前には「ツインレイクス」と呼ばれる美しい大きな湖があって、トウヒの森の背後に広がる極北の広大な草原は、上にゆくにしたがい勾配を強め、その頂は雪に覆われ青い空に消えている。本に紹介されている何枚かの写真が、記憶にあるアラスカの典型的な風景と一致して、蠱惑する。
 彼のクラフトマン魂は丸太小屋にとどまらず、当然とは言え一人の生活を支える家具や道具類にいたるまで、日常生活の全域に及んだ。しかし、ここでその内容に深く立ち入ることはしない。話題にしてみたかったことは、彼の生活にはその記述がなく、しかしそれがなければ自分にはとても耐えられない三つのことについての疑問だ。まず酒、次に本、そして最後が風呂。
 主人公は酒よりも小川を流れる水を好んだ。ムービーも撮っていたようだが、日記を記す以外に読書に関する記述は記憶にない。そして夏は沐浴ぐらいはしただろうが、入浴についても語っていない。タイトル通り自然の中での一人暮らしで、丸太小屋が完成した後もジャガイモやニンジンなどを栽培し、ブルーベリーを摘んできたり狩猟に出かけたりと、生活することに忙しい。文明への批判も忘れていないが、そんなかれが夜一息ついたとき、煙草をくゆらしたりウイスキーでも飲むといったような場面や、椅子にもたれながら読書するなどといった光景は描かれていない。しかし、そんなふうな時間の過ごし方は、この男にはなかったのだろうか。彼がアラスカの森の中で一人暮らしを始めたのは1968年、今から半世紀近くも昔のことである。
 遅い春、白夜の夏、そして短い秋は、周囲の自然や動物たちによって一人暮らしは癒され、慰められたようだが、太陽の昇らない極寒の夜、酒も飲まず、本も読まず、何が彼の孤独を救い、支えたのだろう。時間はふんだんにある、この冬の間に再読してみよう。
 
 さて、多少は変人・奇人の部類に入るだろうことは認識している。しかし、入笠の冬の夜は、凡人らしく酒を飲み、美味い物を食べ本も読み、冬山の孤独の甘味も同時に味わいたいと願っている。音のない、雪に埋もれた管理棟にいて。

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。

 

 
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Ume氏の入笠 「冬」 番外編(7)

2014年11月28日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 このブログを始めてすでに1年半ぐらいになるだろうか。牧場の先行きが不安視されるようになり、少しでもキャンプ場や山小屋の宣伝になればと考え始めてみた。
 理想は今までのように牛が登ってきて、牧場経営が継続されればそれに越したことはない。入笠の自然や美しい景観はそれで守られ、キャンプ場や山小屋も今まで通りあまり営利に走らずに、やっていくことができる。しかし、いろいろな原因が重なって、年々そういうふうにはいかなくなってきた。
 多くの来訪者は、お馴染みさんである。そこに少しでも新しいお馴染みさんを増やしたいという思いと、もう一つある。それは、この美しい中級山岳と星空を、知るべき人たちに知って欲しいのだ。そして、その人たちに守り、育てて貰いたい。

 今日も信大の実験立ち合いがあり、行ってきた。下は星も見えているが、いまごろ上は時雨れているだろう。灯の点らない管理棟や、夜の淋しい牧場が目に浮かぶ。誰がいなくてもあの風景や自然はあるからと言い聞かせてみるが、すると今度は四季折々の牧場風景が牛とともに心をゆする。
 仕事をしていたころは、片道1時間15分くらいの通勤の間に何か思いついたり感じたことを、できる限り毒を消して書くようにしていた。その内容を昼の時間と、仕事を終える4時半ぐらいにPCに打ち込んだ。話し相手の替わりをしてくれるブログの作成は、最初考えていたほど負担ではなかった。しかし今は、そういうルーチンがない分、かえってブログ作成はやりにくくなったと言える。来週は2日(火)と5日(金)に登ることになっている。今週末来るようになっていた人は、通行止めで断念したみたいだ。

 12月6日からは富士見のゴンドラが営業を再開する。まだしばらく、伊那側は車で来ることに何の問題もない。今年は本格的な雪のシーズンは、まだ先のような気がしている。
 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。

 
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Ume氏の入笠 「冬」 番外編(6)

2014年11月27日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 牧場に来てみると、かつてはあれほど華やかな色どりを見せていた森の面影はもはや跡形もなく、そぼ降る氷雨の中に重く沈んでいた。改めて季節の移ろいの呆気なさを感じた。冬枯れの黄土色の牧草や、葉を落とした茶褐色の木々の林を眺めていると、ふと、「天人五衰」という言葉が浮かんできた。
 人ならぬ天女さえも五つの段階を経て衰亡していくという。まして人は・・・、自然はまた春がくれば甦るが、ひとたび衰えた人には、それがない。春がくればまた、過ぎた時間と残されている時間の天秤はさらに一年分、残された時間を軽くする。
 雨は降ったり止んだりを繰り返しながら、人気のない森の中を歩いている者の気持ちを、どこへ連れていこうとしているのだろう。



 第2検査場の罠にまた、鹿がかかっていた。遠くからその姿を目にして、しばらく葛藤が続く。普段なら天候を理由にして、処分を一日延期することも考えられる。しかし不定期にしか登ってこなくなった現在、そうするわけにはいかない。鹿は濡れた草の上でおとなしくしているが、近付けば逃げようと暴れ、空しい努力に前足を捕えた罠が傷を深くしてしまうかもしれない。
 20キロ入りの塩袋に繁殖を抑止する薬を開発して混ぜ、鹿のいそうな森の幾か所かに置いてみるという方法をもっと真剣に検討してみてはどうか。そして、もし人間が服用するような反復を必要とする薬剤なら、何度でも通わせればよいし、塩ならそれが可能だ。どこかの県ではある物質を使って、毒殺まがいの実験をしたと聞いたが、これは邪道としか思えない。鹿の侵入を防御していても、個体数は減るわけではない。あの動物の旺盛極まりない繁殖力をどうにかすることが、喫緊の課題だと言いたい。
 鹿を止め刺し、さらにその肉を頂くことが供養だと言う人もいる。肉を抜いて、欲しいという人に上げることもある。しかし今日はそのまま身を森に帰し、懇ろに葬るだけにする。そしてこれを、本年最後の鹿対決にしよう。

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。Chiyさん、了解しました。
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       Ume氏の入笠 「冬」 番外編(5)

2014年11月25日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 雨が降っている。これで里の季節も一気に進む。高い山は霙まじりの雨や水気の多い雪になっているだろう。この時期の今日のような天気が登山者を一番苦しめ、危険な状態に陥らせる。秋の取り入れが終わったら、森林限界を超える山には体力の落ちた中高年はの登るべきではないというのは、こういう気象状況を想定した上での意見だと思う。
 入笠牧場はここより約千メートル高い。単純に考えれば100メートル上がるごとに気温は約0.6度下がるというから・・・2、3度くらいで、雪にはなっていないと思うが、さて。仮に少しくらい積雪していても、明日の信大の実験にはさほど問題はないだろう。
 それよりも先日OZWさんと白岩岳に登ったときに見た、あの広大かつ急峻な斜面の伐採地、崩落の危険はないのだろうか。後から植林するそうだが、それまで生えていた人工落葉松では根が土壌を抱きとめていることが困難だと判断したからだろうか。伐採しても根は残るからしばらくは土留めとしての効果はそれなりにあるだろうが、早く植林して生育したそれらの木々が、小黒川林道の安全に寄与してほしいものだ。
 春の若葉の季節、清流が気持ち良い夏、秋の紅葉の時期は車ではなく、あの谷は一日をかけて歩いてもいい。小黒川の流域に残る古道「石堂超え」などは、忘れられたままになっている。



 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。そろそろ問い合わせ、予定など寄せてください。
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Ume氏の入笠 「冬」 番外編(4)

2014年11月24日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

    ヒルデーラ(大阿原)                                           Photo by Ume氏

 たわわに実った柿の実が薄曇りの冬空に揺れている。北原のお師匠やEさんが留守に来て捥いでいったようだが、まだまだたくさん残っている。信州に戻って暮らすようになった最初の年は、干柿と梅干しに挑戦してみたが、それ以来やったことはない。面白いといえば面白いが、その手のかかること。昔の人は偉かったと感服し、再びやろうという気は起こらない。せっかく実ってくれた柿の実には済まないが、鳥につつかれ、やがては熟して落ちるに任せている。
 今朝、Ume氏のかかわる写真展に行ってきた以外には何の予定もない。窓から射し込むやわらかな日の光を浴びながら、呆けているだけで時間が過ぎていく。昼の時間はいつしか過ぎたというのに、空腹感がない。風呂も朝から沸かしてあるが、何故か入る気にならないでいる。時折気分転換に外に出て、2匹の犬をからかってみるくらいで、ビールさえ飲まずにいる。
 ビールといえば、昨夜は500ccを1本飲んだだけだが、日本酒をいつもの熱燗で3合ばかり飲み、そのまま明け方まで正体なくつぶれていた。最近の傾向だが、ビールより日本酒の量が増えて、それと関係するかどうかは知らないが、これまで滅多にしたことのないうたた寝で一日を閉じたりするようになった。
 そのうちいろいろやることが出てくるまで、安気に暮らすしかない。本もまた、読みたくなるだろう。と、そういえば、昔一緒に働いたHさんが翻訳したという本が、書店に届いているそうだ。会社を辞めてまで没頭した世界だから、売れるといいが・・・。


 油小路・HAL2001年〈通称ハル)川上犬雌8歳


 アサンジ・アジモヘタ・キク(通称キク)川上犬雌3歳

 明後日の26日はまた、上に登る。信州大学の鹿の実験立ち合いがあるからだが、それと第1牧区の電気牧柵の冬対策が済めば、生活の中心も一応下に移る。

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。
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