家を出ると毎朝、天竜川の造った河岸段丘のさらに上に出る。林を抜けると遠くまで田畑が広がり、すぐ目に飛び込んでくるのが南アルプスの仙丈ケ岳である。今朝もその堂々たる山容を見ながら右折して一般道路に出た。すると今度は、こっちも見ろと言わんばかりに、右手に中央アルプスの山並みがその存在を訴えてくる。光線の加減もあって、仙丈ケ岳よりも山肌がかなり鮮明に見える。森林限界を超える辺りは紅葉が始まっているらしく大分赤味を帯びてきているが、それよりも下部にはまだ紅葉は下りてきてはいない。今に山肌全体が色付いて、赤と茶系の激しいまでの色彩に染まる頃には、稜線に初雪が降る。
会釈して 山は雪だと 言い交す 一伯
このところ罠に掛かる鹿は雄ばかりだ。何度でも書くが、動物の世界は、雄と雌では格段に違う。本質的には人間とて、肉体的には例外ではないかも知れないが、あまり性差のない社会にしようと努力しているようだし、職業によっては完全に、女性の方が男性を支配しているように見えることもある。
ともかく人間のケースはさておき、雄鹿の話。鹿を捕獲した場合はまず昏倒させて、素早く仕留める。できるだけ恐怖や、苦痛のないようにとの配慮だが、これが雄鹿と雌鹿では同じ鹿かというくらい違う。相手も暴れるし、反撃もしてくる。角や後ろ足に当たれば、こちらの被害も大きい。そして雄の生命力、これが人間よりも強いという人もいるほど凄い。角もこの時期になれば立派に成長し、なかなか一撃で倒すのは難しい。止めてからも、息を引き取るまでが長い。それを見守るのは、こちらの精神的苦痛も相当に大きい。
しかしである、いくら有害獣に指定され、捕獲が奨励されているとはいえ鹿は立派な野生の生き物ある。その生命を奪うのだ。こちらに肉体的、精神的負担があっても当然だし、鹿の反撃も、これまた当たり前すぎることだ。容易ならざることをしているのだという認識は、屠る鹿への最低の礼節だろう。
今日から10月。山はまた一段と秋色を深めた。
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