ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

太刀、作ってます

2010-01-22 02:30:57 | 能楽

久しぶりの工作の時間~
今回の ぬえは太刀を作っております。と言っても作っているのは刀身だけ。これを「つなぎ」と言います。

元来、刀剣は鞘に納められているものですが、たとえば時代のある刀剣が売りに出される場合、刀身は白鞘に入れて売却され、鞘や柄などの刀装、すなわち「拵え」は美術的な価値があるため別売りされる事が多く、ところが拵は刀身がなければバラバラに分解してしまうため、木製の刀身…要するに竹光を中に入れてその形状を保つのです。この竹光が「つなぎ」ですね。

竹光と言っても「つなぎ」は木製です。白鞘を含め刀の鞘や柄、そして「つなぎ」はすべて朴の木で作る事が多いのです。ぬえも一昨年、『一角仙人』を勤めたときに剣を自作してみましたが、この時 試しに朴の木で鞘を作ってみたのですが、なるほど木目が素直で、それなのに加工がしやすいです。そのうえカンナで削るだけでツルツルに仕上がる。これなら中に入る刀身を痛めません。木目が詰まっているためか、少々重いのが玉に瑕かしらん。

この画像の太刀は子方用で、数年以上前になりますか、骨董市かどこかで見つけた物です。これは五月人形の飾り太刀だと思いますが、それにしてはかなり大きい物で、子方の太刀としてなら十分に舞台での使用に耐えるものです。五月人形の飾り太刀としてはたいそう立派な拵で、戦前の良い時期に作られたものでしょう。中には刃は引いてあるものの鉄製の刀身が入っています。来月 豆ぬえが『船弁慶』の子方を勤めるので、これを舞台で使ってみようと考えて、この太刀の刀身を木製のものに替えようと、「つなぎ」の製作に取りかかりました。…が、予想はしていましたが、やっぱりこれは大変でした~



これが一昨年に作った剣なのですが、これは鞘から柄から刀身まですべて自作しました。まあ~大変な作業で、完成までに半年ほど掛かったのですが、剣はまだ「直刀」ですんで、おおかた予想した通りに作ることができました。がしかし、この剣を作ったときに、湾曲した太刀の「つなぎ」を作ることはさぞ難しいことだろうと痛感しました。すでに鞘が先にそこにあって、その反りに合わせて「つなぎ」を作るとは…驚異的。…ぬえには不可能だと思いましたが、今回は止むに止まれずこれに挑戦することになったのです。

まずは薄い木(今回は朴の木ではなく西洋材)の板を用意しまして、これに太刀に入っていた鉄製の刀身を載せて形を写し取り、ノコギリやカンナを使ってだんだんに削っていって、刀身のコピーを作るわけです…が、うまく写したと思っても、できあがった刀身…「つなぎ」が、どうしても鞘の中に納まらない…どこか「つなぎ」の厚さや幅が微妙に間違っているんですね。これが、どの部分が狂っているのかが なかなか見つけられないのです。鞘を割って、「つなぎ」を合わせてみれば、どこが当たってしまっているのか分かると思うのですが、それでは漆をかけた鞘を破壊してしまうことになります…

刀身も鞘の内部も湾曲していますから、「つなぎ」が鞘の内部で当たっている部分がどこなのかは、「つなぎ」を何度も鞘に出し入れして感触で見当を付けるしかありません。で、あっちを削り、あれ、当たっているのはここじゃないな。んで、こっちを磨き。なんだよ、ここでもないのか…だんだん「つなぎ」が細くなっていく~ (T.T)

で、なんとかペーパーナイフになる前に「つなぎ」として削り出すことに成功しました。これが最初の画像の真ん中に写っているヤツです。あとは下地塗装をして銀色に塗って。そうして目釘を打って完成です。

豆ぬえ~、稽古で壊すなよ~。

だってさ…今週伊勢崎市で行われる催しで『海士』の子方で初子方を勤める豆ぬえ…その稽古ですでに稽古用の経巻を破ってしまいまひた… おねがい…壊さないで… (×_×;)