ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第15次支援活動<石巻川開き祭り>(その1)~

2013-07-31 11:53:05 | 能楽の心と癒しプロジェクト
珍しくリアルタイムでのご報告です。ただいま石巻。石巻市中心部では毎夏の8月初旬、1年で一番盛り上がるお祭り「石巻川開き祭り」が開かれます。いつもこの頃は伊豆で教え子の子どもたちと花火見物に出かけている ぬえではありますが、川開き祭りへの出演は以前から興味を持っていたので、今年は子どもたちにゴメンして石巻にやって参りました。

あ~ところが。実際には川開き祭りはあまりの盛り上がりで、街中でパレードが行われたり、コンサートが開かれたり、また仮設商店街でも出店が軒を並べたりで、どうも能の上演は難しい様子でして。。これまでの活動の中では最もヒマな時間を過ごしております。だからリアルタイムでご報告ができているという。。

とはいえ、そこは転んでもタダでは起きない ぬえ。よく東北で一緒に活動しているピアニストの御子柴聖子さんのご紹介受けまして、昨日は土地の名士・秋田屋さん。。浅野さんのお屋敷で『能とピアノの夕べ』公演を持たせて頂きました。これが、予想以上に大変ロマンチックで良い催しとなり、活動のスタートとしてまずまずの出足の良さに安堵しております。

【7月29日(月)】

未明に笛のTさんと一緒に東京を出発、昼前に石巻到着。この日は8月に活動を行う登米市の会場の下見など予定していましたが、翌日に予定されている石巻での活動の宣伝が少々不安で石巻にて活動することに。

ラジオ石巻や三陸新報社、観光協会などで宣伝活動を行い、またチーム神戸やガレージ湊など旧知の方々に顔を出して挨拶して宿にチェックイン。夜は商工会の方と打合せを兼ねて会食。。というか酒盛りでした~。

【7月30日(火)】

この日も夕方まで予定はなし。Tさんは単独登米市に行って打合せと下見をしてくれ、ぬえは今後活動を展開する予定の東松島市の会場の下見に行って参りました。

午後2時、ピアニストの御子柴さんも石巻に到着、Tさんも鉄路石巻に戻り、相前後して秋田屋さんへ。御子柴さんとは、それはそれは古くから。。お父さまの時代からのおつきあいだそうで、そんなこともあって以前からこちらでの活動の可能性の打診は御子柴さんから受けていました。今回はプロジェクトのスケジュールの空きを埋めるような感じで計画をスタートさせることになりましたが、それがまさかこんな素晴らしい上演になるとは、そのときには夢にも思わず。。

秋田屋さんは前述の通り石巻の名士のお家でして、見事な庭園が有名。桜の季節だけ一般公開をしていて、そのときは大勢の市民の方が訪れるそうです。かつてはさらに広大なお屋敷だったそうですが、震災の復興のため、さらに今後土地を譲ることになるそうです。市による駅前の大規模な開発の計画もこの日はじめて伺いましたが、本当に大改造が行われるようですね。

さて秋田屋さんにお伺いしてご挨拶を交わし、早速に公演準備。この日は石巻や気仙沼で展開している『星と能楽の夕べ』に通じる上演を考えまして、庭園をライトアップしたり、キャンドル(100均で買ったLEDキャンドルですが。。w)を庭園に並べたりして。PAも電子ピアノも能楽師が用意しての上演だったので、機材は大変な量になりました。

じつは。。この日の日没の時間もちゃんと事前に調べてありまして、ピアノ演奏をしているうちに日が暮れるように計算して、18:00の開演としました。夕食準備もあるし、お客さまが集まるか不安ではありましたが。。

秋田屋さんも事前に新聞に広告を出してくださったおかげもあって、前日から ぬえの携帯にも何本もお問い合わせのお電話を頂いたので、ひょっとすると。。という期待もありましたが、予想はまったくつかず。ところが開演時刻よりずっと前に次々とお客さまが集まってくださいました!あとで芳名帳を見て、全体を推測すれば80名ほどもお客さまが集まってくださったでしょうか。当初はお座敷を舞台に、見所もお座敷のつもりでいたのですが、庭園まであふれんばかりのお客さまが。。感激してしまいました。あ、伊豆の国市の観光協会さんから頂いてきた大量の団扇、みなさんに喜んで使って頂きましたよ~





上演は、御子柴さんのご紹介によって実現した公演でもあり、また能楽師も例によって二人だけの参加なのでダイジェスト版しか上演はできない事情もあり、ピアノ・コンサートの中に能の上演が挟まる、という感じに組み立ててみました。

御子柴さんもお客さまに若い人や子どもたちも混じっているのを見て急遽演奏曲目を替えたり、相変わらずフレキシブルな対応。最初は明るい曲から、次第に静かでロマンチックな曲に移っていきます。曲数もあまり事前に打合せせずに上演を開始しましたが、御子柴さんが『月の光』の演奏を始めたのを聞いた ぬえは、ははあ、これは能の上演曲『羽衣』に繋げるつもりだな? とすぐに気づいて、すぐに上演できるようにスタンバイ。。案の定、『月の光』が終わったところで ぬえたちにバトンタッチされて『羽衣』を上演しました。





ぬえの計算通り、ちょうど庭園も日が陰って幻想的な雰囲気になっています。鴨居に天冠をぶつけないように気をつけて(ぶつけましたが)、縁側にも置いてあるキャンドルを蹴らないように注意して(蹴りましたが)、でも縁側まで出て行ったり、座敷まで戻ったり、座敷のお客さまにも、庭園にいらっしゃるお客さまにも演技が向けられるように工夫しながら。。気は遣いましたが楽しく勤めさせて頂きました。

能の上演のあとは再びピアノ・コンサート。御子柴さんが「どうしようかな、止めようかな」と考えていた『沈める寺』は ぬえが御子柴さんの再登場の直前に舞台袖でリクエストしたところ、冒頭に弾いてくれました。終演時に ぬえらも再登場してお客さまにご挨拶することになっていましたが、これもピアノ演奏の曲数など決めておきませんでした。。と、やっぱり『月の光』が聞こえてきます。あ、これで終わりのつもりだな、とすぐに解ったので、これを弾き終わったところで ぬえらも再登場。。じつは先ほどの『月の光』は、なぜだか御子柴さんはアップテンポに弾いていたので不思議に思っていたのですが、こちらは心を込めて、静かに、静かに弾いていました。エンディングのためにとっておいたのですね。心憎い演出でした。



終演後、なんとお客さまが自発的に庭園のキャンドルを集めてくださったり、と片づけに協力してくださいました! これは驚いた。やっぱり石巻の人、優しいっちゃ~!

だいたい片づけも終わったところで秋田屋さんがメロンやお茶、お菓子を勧めてくださり、こういう時にまったく遠慮のない ぬえはバクバク メロンを頂戴しました。「あ、もうひとついいですか?」「1切れ残っていますが、これ、頂戴していいですか?」。。たぶんご家族は手をつけておられないけど、おいしいんだもん。ぬえ、おそらくメロン丸々1個は一人で頂きました~。

終演後、汗だくで宿舎に戻りたいところだけれども、やっぱり石巻に行ったなら、ということで湊の焼き鳥屋さん「東助」に行って祝杯をあげました。



いやいや、本当にロマンチックな上演になったと思います。活動の最初からこんなに手応えを感じて幸せ。当初はお座敷に面や装束を展示したり、また終演後に装束の着付けや笛の体験など「ふれあいコーナー」を予定していたし、それはチラシにも謳ってあったのですが、この美しい夜にはもう余計でした。お客さまにも終演を迎えたときのお気持ちのままでお帰り頂く方がはるかによろしい、と考えて「ふれあいコーナー」は割愛。。というか自然に消滅していきましたね。