ぬえの能楽通信blog

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活動報告書(05/25~29)

2013-07-28 22:00:56 | 能楽の心と癒しプロジェクト
能楽の心と癒やしプロジェクト

第14次被災地支援活動(2013年05月25日~29日)


 〔活動報告書〕

【趣旨と活動の概要】

 東日本大震災被災地支援を目指す在京能楽師有志「能楽の心と癒やしプロジェクト」の4名(※注1)は、能楽の持つ邪気退散、寿福招来の精神を被災地に伝えるべく、2011年6月よりすでに13度に渡り岩手県釜石市、宮城県石巻市、気仙沼市、南三陸町、女川町、東松島市、仙台市、大崎市、および福島県双葉町の住民が避難している旧埼玉県立騎西高校避難所にて能楽を上演することによって被災者を支援する活動を行って参りましたが、このたびメンバーの八田、寺井は、去る05月25日、および05月28日・29日に渡り宮城県・気仙沼市内にて計3回、能楽の上演を行いました(※注2)。

今回の活動は気仙沼市で震災の前より知的障害をもった児童の社会進出支援団体「NPO法人ネットワークオレンジ」の新拠点「東新城オレンジ」の落成式にお招きを頂いての実現することができました。「ネットワークオレンジ」関係各位に深謝申し上げます。

今回特筆すべき活動は、言うまでもなく「東新城オレンジ」落成式での上演です。5月25日に挙行された落成式当日には、あいにく笛の寺井宏明は東京の舞台の都合で欠席となり、八田達弥が単独で気仙沼に参上しての上演となりました。このときは舞囃子の形での上演とはなりましたが、落成式の中で唯一のイベントとなり、式典に華を添えられたのではないかと思います。また「ネットワークオレンジ」さんのご厚意により、この落成式の直後の能楽師の都合の良い日に改めて能楽の上演を、というお招きに預かり、落成式の3日後に寺井も参加して改めて落成記念としての能楽を上演する機会を頂きました。

さらに、寺井も参加して気仙沼に参上するうえは、せっかくの機会でもありますので、気仙沼市内で活動を展開しようと試み、仮設商店街の「鹿折復幸マルシェ」で上演させて頂くことが実現致しました。

また今回の活動でもう一つ注目すべきは、今回は能楽の上演活動に留まらず、各地の関係者の方と会談して、今後のプロジェクトの活動について可能性が高まった点でしょうか。これはプロジェクトメンバーの寺井の人脈、交友関係の広さに負うところが大きいのですが、プロジェクトの活動の中でネットで知り合った方、また古くからの交友関係の中で、じつは被災地に関係していた事が判明した方、そのまた関係者、と多岐に渡る人的交流が一挙に相互関係をもってつながり、またこれに八田も加わることができた、という事で、プロジェクトの今後の活動が新たな局面に広がることが期待されます。

付言すれば、今回の活動に際しては震災後のそれぞれの街において住民さんが復興に向けてどのように取り組んぢるのか、その生の声を実感する、印象的な旅だったと思います。また、前回気仙沼の「リアス・アーク美術館」で行った「星と能楽の夕べ」公演が現地のタウン紙(フリーペーパー)にて報道されていたことを知るなど、我々プロジェクトの活動も、少しずつ気仙沼市民の間に浸透し始めた可能性を感じることもできました。さらには住民さんとの交流の中で、仮設住宅等への支援に地元商店主さんなどと協力しながらの活動の話も出まして、これは次の活動の中で実現する事になりました。今回の活動は、能楽の上演活動もさることながら、細かい、個人対個人というレベルで地元住民さんとふれあい、また協力関係を構築する可能性がふくらんだ事を成果として感じるものだったと思います。

もうひとつ、今回も前回に引き続いて静岡県伊豆の国市の「子ども創作能」の参加児童のご家庭より支援物資(遊具)の提供を頂き、気仙沼市の地福寺さまにお預かり頂くことができました。これは再開予定の階上地区の保育所にて活用頂ける予定ですが、その前回の支援に対して保育所よりお礼状が届けられました。伊豆の国市「子ども創作能」のご家庭からは震災の年の夏より継続して食料や書籍、子どもの遊具を支援頂いておりますが、お礼状という目に見える形になって謝意が届けられたのはこれが初めてでした。贈った方、贈られた方、その双方の善意が感じられ、大変喜ばしいことだと思います。

※注1 プロジェクトメンバーは八田達弥(シテ方・観世流)、寺井宏明(笛方・森田流)、大蔵千太郎(狂言方・大蔵流)、小梶直人(同)の4名。ただし都合により今回は八田・寺井の2名での活動となった。
※注2 今回の上演場所は①気仙沼市・東新城オレンジ②気仙沼市・鹿折復幸マルシェ(仮設商店街)③気仙沼市・東新城オレンジの3箇所。

【活動記録】
 5月24日(金)
八田達弥のみ夜行バスにて東京を出発。

 5月25日(土)
早朝、気仙沼到着。ご厚意により「ネットワークオレンジ」三日町事務所にて休息させて頂き。午前9:00頃「東新城オレンジ」へ移動。

午前11:00より「東新城オレンジ」落成式開式。この冒頭にて舞囃子『高砂』を勤める。ついで開式宣言、気仙沼市長さまほかの来賓挨拶、「ネットワークオレンジ」代表の小野寺美厚さんの挨拶、くす玉割り、所属の子どもたちによる歌の披露と続いて閉式、その後会食。

その後落成式で知り合いになった起業家の方々4名と意気投合、次に予定している気仙沼での活動でご一緒する夢を語り合う(これはその後すぐに実現することになりました)。

この起業家さんたちにお送り頂いて、仮設商店街「鹿折復幸マルシェ」に行き、翌週に催させて頂く活動のために関係者にご挨拶し、ポスターを貼らせて頂く。

終了後、BRT(バス高速輸送システム)を利用して柳津に到り(途中南三陸町の仮設商店街「さんさん商店街」を視察)、また仙台に出て、夜行バスにて帰京。
 
 5月26日(日) 活動なし

 5月27日(月)
八田は東京での用事を済ませてから夜に東京を出発。深夜走行にて翌早朝仙台に到着

 5月28日(火)
仙台にて寺井と合流、気仙沼に向かう途上、登米市の横山不動尊さま、南三陸町の上山八幡宮さまにて今後の活動について相談させて頂く。「さんさん商店街」にて昼食後、気仙沼市階上地区の地福寺さまにも立ち寄り、こちらでも今後の活動の相談をさせて頂いたほか、伊豆の国市の「子ども創作能」の参加者のご家庭から寄贈された子ども用の遊具などをお届けする。

17:00 気仙沼市の「鹿折復幸マルシェ」さんにて「能楽の心と癒やしをあなたに」公演。先日お会いした起業家の方のほか、ご近所の謡曲愛好家の方も見えて盛況のうちに能『羽衣』を上演。

終演後、ネットワークオレンジさんの関係者と会食。

 5月29日(水)
朝、徳仙丈山に行き、ステージのある公園とツツジを見てから東新城オレンジへ。先日の落成式には八田しか参加できず装束能が上演できなかったため、寺井が参加できるこの日に改めて能楽の上演をする予定。

この日、東新城オレンジを寄贈したドイツ人の団体の関係者やネットワークオレンジ所属の子どもたちも参加しての公演となり『龍田』を上演。終演後、これらの人に装束の着付け体験をして頂いて終演。

その後、寺井は鉄路、八田は陸路にてそれぞれ帰京。

【収入・支出】

  プロジェクトの活動は基本的に募金によって行われております。近来JIN'S PROJECTさまとの共催の形を取り、同団体の斡旋により企業より活動資金の一部を補助頂くことができる場合もありますが、今回の活動は純然たるプロジェクトの資金によって行わせて頂きました。

  募金は基本的にプロジェクトのボランティア活動資金(以下「ボラ」)として使わせて頂きますが、とくに被災地への直接支援を目的にプロジェクトに寄せられた義援金(以下「ギエ」)はプロジェクトとして支援するのに然るべき団体。。被災地に拠点を置き、直接被災者の支援活動に従事することを目的とした、非営利で公明正大な活動が長期に渡って期待できる、信頼すべき団体に寄付させて頂きます。

  プロジェクトの活動資金としては、前回活動繰越金として 316,944円(内訳:ボラ 284,444円 ギエ32,500円)があるほか、前回第13次支援活動の決算のあと銀行口座へ計33,000円を頂戴致しました。よって計349,944円(内訳:ボラ 317,444円 ギエ32,500円)が今次活動の前に計上されております。

これに対して今回の活動による支出の内訳は別紙決算報告書にある通りで、今回の活動終了時の残額は 301,492円(内訳:ボラ268,992円 ギエ32,500円)となっております。これらは今回の活動繰越金として計上し次回活動の資金として有効に使わせて頂きます。

  プロジェクトの訪問公演の支出につきましては節約を旨としております。交通費節約のため、できるだけ深夜割引の制度を利用して終夜運転をして早朝に現地に到着するなど工夫はしておりますが、体力や公演スケジュールによって、必ずしも深夜走行ができない場合もあります。また宿泊につきましても通常は住民ボランティアさま等のご厚意により無料、または安価での宿泊を旨としており、食費については酒食の区別がつきにくいため、すべて自己負担としております。

前述の通り今後は企業さまのご支援を頂ける可能性もありますが、今後も長期に渡って被災地での活動が継続できますよう、みなさま方には引き続きまして活動支援をお願い申し上げる次第です。

【成果と感想・今後の展望】
プロジェクトとして第14次となる今回の支援活動では、八田の単独活動と、中に1日をおいての八田・寺井の二人による活動の二つに分けられる、少々特異な活動形態となりました。また主たる活動の場がネットワークオレンジさまの新拠点「東新城オレンジ」の落成式であり、お招きを受けてのありがたい活動となりました。ネットワークオレンジさま、わけても代表の小野寺美厚さんが震災前から行っておられる障害児童の支援活動、また震災後の新しい復興のビジョンには大変感銘を受けました。またネットワークオレンジさまの落成式では様々な方とお話しをする機会が生まれ、新たな活動の可能性が見えてきました。大変ありがたいことです。また、せっかく気仙沼で活動をする機会ですので、はじめての活動場所として鹿折の「復幸マルシェ」さまより受け入れを頂くことができました。

この報告書を書いているのが7月下旬のことですが、じつはその後、今回の活動が大きな発展を遂げることとなりました。上記の東新城オレンジ落成式で出会った起業家の方々と8月に仮設住宅での活動をご一緒することになり、また鹿折の「復幸マルシェ」さんの商店の方の紹介により、新たな仮設住宅での活動が展開されることとなりました。近来、プロジェクトでは仮設住宅での活動が減少傾向にあり、少々心配していたのですが、次回は地元の住民さんとご一緒の有意義な活動となることが期待されます。

様々な出会いがあった今回の活動。これが新しい活動の源となる可能性も感じられることとなりました。ご協力頂いたネットワークオレンジや鹿折復幸マルシェさまの関係者には改めまして感謝申し上げます。




平成25年7月28日




                             「能楽の心と癒やしプロジェクト」

                               代表   八田 達弥

                             (住所)
                             (電話)
                             E-mail: QYJ13065@nifty.com