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ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

乱能の準備

2009-01-21 01:21:01 | 能楽
最近はどこの楽屋に行っても、ちょいと楽屋の片隅に人が集まると、来月の乱能の情報収集の話題で持ちきりですね~(^_^;)

「まだぜ~んぜん調べてないんだよね。。今忙しくて。。」(・_・、) と稽古不足に悩む人があったり、自分につけられたお役の稽古の中でわからないところを「ね、ね、ここんとこ、どうやるの?」と専門職の友人に聞いてみたり。ぬえも囃子方の友人に仕舞の型を教えたり、反対に鼓を打つうえでの注意点を囃子方に教えてもらったりしています。

「まさか全曲やらないよね?」「そうそう、上歌を省略するって言ってたよ」という会話もあります。乱能で長い曲が上演される場合は、やはり型のないところなどを一部省略することもあります。ぬえも年末に、小鼓のお役を頂いた能『邯鄲』でおシテを勤められる太鼓方の観世元伯さんに会ったので、省略箇所や上演のやり方で注意すべき点を聞いておきました。やはり多少の省略と、楽の段数の省略があるそうでしたが、もうすでに気分はあちらがおシテでこちらは囃子方だったり。(^_^;)

それから「あの人って太鼓は何流なの?」「ん~と、たしか○×流で稽古していたんじゃなかったっけな」と囃子のお役がついた人がお相手の流儀を調べたりするのは必須の準備ですね。乱能では普段の自分の専門職を離れて別のお役を勤めるわけなのですが、そうすると いろいろと相手をして頂く方の流儀の特徴も知っておかく必要があって、これを知らなければ上演は不可能だし、その前に自分の稽古もできないのです。

たとえば囃子の場合、お笛が一噌流であるのか、あるいは森田流であるのかによって、同じ曲であっても太鼓も大小鼓も打つ手が変わってきます。また太鼓の流儀によっても、とくに大小鼓はその太鼓の流儀によって手を変えて打たなければなりません。大鼓の流儀、小鼓の流儀の相違が全体に大きく影響することは比較的少ないのですが、それでもそのお流儀の特徴もありますので、やはり相手がどのお流儀であるかを知っておくのは演奏の上で大前提になるのですね。

で、これが通常のお能の上演であれば、誰がどのお流儀に属しておられるのかは自明なので、これは問題がない。番組を見れば、今回はどのお流儀の組み合わせで演奏されるのかは一目瞭然で、それに従ってそれぞれのお役は公演前に準備や稽古をしておくのです。

余談ですが、考えてみれば、シテ方だって流儀によって詞章も異同があるし、舞の寸法にも違いがあります。シテ方には5つの流儀があってワキ方には3流。そして囃子では笛方が3流、小鼓が4流、大鼓は5流、太鼓が2流。間狂言として能に登場する狂言方にも2流あります。そうすると、同じ曲であっても流儀の組み合わせの違いによって、上演の内容には3,600通りのバリエーションがあるということになります。まあ、都市によっては在住の演者がいない流儀がある、という事もありますが、それを差し引いて、さらに演者の個性や家による違い、また実演上では装束や面の選択による演出効果の違いなどをすべて無視しても、やはり全く同じ状態での能の上演というのは、事実上あり得ない確率になるのですね~。

さて乱能に戻って、乱能では たとえばシテ方が囃子を勤めたりするわけで、その場合、あるシテ方が鼓を担当するとすると、それはその人が書生時代に習った鼓の技術を思い出して、それを舞台で披露することになるわけです。つまり、その人が乱能で鼓を打つ場合、その人が書生時代に習った小鼓の先生の流儀で打つことになるのが一般的で、ぬえの場合は小鼓は幸流で習いましたし、今回も幸流の手を打ちます。

ところが、お相手の方が書生時代にどなたについて小鼓を習ったのかは、そりゃ、知るよしもありませんです。そこで、お相手の方と楽屋で会う機会でもあればご本人に直接尋ねますし、あるいは四方八方に情報を集めることになります。こういう情報は、いろいろな会の楽屋に出入りされるお囃子方がよくご存じですね~。おかげさまで ぬえもお相手の流儀をすべて知ることができ、ようやく鼓の稽古が本格的に始動しました。