ビワマス賛歌 P.10

2011年10月28日 | びわます賛歌


BiwaTrout(LakeBiwa-JP).jpg

秋になると北海道から東北地方にかけてシロサケとも
呼ばれているサケの群れが北洋から沿岸にやってくる。
河川に産卵のために遡上するサケの多くは捕獲され、
人工受精に回される。人間の手で育てられた稚魚は、
川に放流され、すぐに海へ旅立っていく。この事業は
サケの人工孵化放流と呼ばれる。1888年(明治21)に
この技術が初めて実用化する。
実はビワマスでもサケ
と同様な人工孵化放流事業が1883年(明治16)から知
内川漁業協同組合で開始されていることを知る人は少
ないという。日本における近代的な漁業制度は明治期
に始まるが、それ以前の時代であっても、さまざまな
漁業慣行があって、乱獲になるようなむやみな漁獲は
厳しく制限されていたが、明治維新の大変革によって
それまでの制度が崩れ、琵琶湖でも一時は乱獲状態に
なったと言われている。このため琵琶湖を代表する定
置網の一種である臥の数を減らす「臥逓減法」や築の
設置を隔年にする「築隔年法」などの法律が発布され、
乱獲を防ぐ措置が図られている。知内川漁業者組合で
はビワマスの増殖を目的に知内村共立養魚場を設け、
孵化放流事業を開始したのだ。この事業は、その後、
近江水産組合から滋賀県漁業協同組合連合会に引き継
がれ、現在も行われている。

この事業では、ビワマスが卵黄を吸収して浮上した稚
魚の段階で琵琶湖へ放流するビワマスの漁期はおもに
5月から9月頃で、産卵期である10~11月の2ケ月間
は禁漁
になっている。5月の連休明けくらいから漁師
さんたちは琵琶湖の沖合の水深20m付近に丈が5mも
ある長小糸網と呼んでいる刺網を仕掛ける。琵琶湖で
は夏にかけて水面の温度が上昇してくると、湖底の冷
たい水と表面の暖かい水との間に水温の傾斜ができる。



図ではビワマスの刺網漁が最も盛んな7月の水温分布
を示しているが、水深5mから30m付近で水温が急激
に低下していることがわかる。このように水温が急激
に変化する水深帯は「水温躍層」と呼ばれ、漁師さん
たちはこの層をねらって網を張るのである。水深20m
付近はビワマスが好む10℃前後の水温となっており、
また、ビワマスの好むアユなどの餌も多く分布してい
るものと考えられるという(藤岡康弘『川と湖の回遊
魚ビワマスの謎を探る』)。冬から春にかけて琵琶湖
は全体に水温が低下し、水温の制約がなくなったビワ
マスは、琵琶湖のどこでも生活できるようになる。こ
のため刺網を仕掛ける水深や場所が定まらないらしい。
初夏から秋には沖合の中層を回遊しているビワマスも
冬には時々湖岸の魞に入る。

アメノウヲ

ところで、秋には成熟したビワマスが産卵のため川に
遡上してくる。特に雨が降って川が増水すると一斉に
上ってくる。ビワマスが古来よりアメノウヲと呼ばれ
ていたのは、このためであると言われている。

 

【エピソード】 

安曇川のやな漁

Kamo-wakeikazuchi-jinja31ss4272.jpg

安曇川のやな漁の起源は千年近く前、一説には千数百
年前にまでさかのぼるという。文献には、平安時代後
半の寛治年間以降、安曇川は京都・上賀茂神社(賀茂
別雷社)の「安曇河御厨(みくりや)」となり、アメ
ノウオ(ビワマス)やアユ、コイなどを献上していた
という記録が残っている。「御厨」とは、神様へのお
供え物「神饌」を献じる重要な役割を担っていた神領
のことで、河口部の北船木周辺に住む「神人」の26戸
52人だけが漁を許されていたという。その由緒から、
現在でも毎年5月15日に上賀茂神社で執り行われる葵祭
りのときには、氷と塩でしめたアユを干した「干しア
ユ」が、10月1日の「安曇川献進祭」ではアメノウオが
奉納されている。一方、長い歴史のなかでは特権的な
漁に対して反発する者もいたため、中世、近世を通じ
て、ときには利害を巡って抗争も起きていたようだ。
明治時代の初めには政府から治水の問題があるとして
やなの廃止を命じられ、やなの歴史が始まって以来の
危機も訪れたが、形状の改善などの努力と関係者の熱
意により、安曇川のやな漁の伝統は絶えることはなか
ったという。

 【脚注及びリンク】
 -----------------------------------------------
1.「
淡水魚辞典 サケ科
2.「
WEB魚図鑑 硬骨漁網 サケ科
3.「
イワナ(サケ科魚類)の生活史二型と個体群過程
4.「
日本魚類学会
5.「魚類学(Ichthyology」Mojie
6.「成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と
 資源管理を考える
」清水宗敬
7.「
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山
 梨県西湖での発見
」2011年2月22日
8.「
醒ヶ井養鱒場
9.「
ビワマスにおける早期遡上群の存在」2006.2.7
10.「
ビワマス-湖に生けるサケ-」藤岡康弘
11.「
ビワマス」国立環境研究所
12.「
北湖深底部における底生動物の変化
13.「
琵琶湖の固有種
14.「滋賀県漁業協同組合連合会

----------------------------------------------- 
  

 

  


最新の画像もっと見る

post a comment