カスピ海

2010年12月20日 | 世界の湖沼百選

 



 

カスピ海

所在地

ロシア・アゼルバイジャン・
イラン・トルクメニスタン・
カザフスタン

面積

374,000  km2

周囲長

6,380 km

最大水深

1,025 m

平均水深

209 m

貯水量

78,200 km3

水面の標高

-28  m

 
琵琶湖の 558倍、2844倍の貯水量、最大水
深が10倍で、日本の国土の広さとほぼ同一
の大きさである(下図はカスピ海の環境変
動を掲載→「水面標高変動」)。










カスピ海温暖気候は、ギーラーン、マーザ
ンダラーン、ゴレスターンの3州に接する
カスピ海南部の海岸地帯は、降雨量が多く、
春夏、昼夜の気温差が激しいことで知られ
植物や森林に覆われている。また、北部
低地はザフスタン、ロシアにまたがる低地
で、湖岸から100~200km以内は海面下であ
り、最も低い地点は-28m。世界でも有数の
低地帯である。1月の平均気温は北部で-14
℃、南部で-8℃、7月の平均気温はそれぞれ
22℃、24℃である。年降水量は150~300mm。

さらに、東部地域は、5~6月に吹く「スホ
ベイ」という熱風の影響もあり東部の乾燥
は特に著しく、低地に流れ込む小さな川は
途中で涸れてしまうことが多い。よって次
第に水に含まれるごく僅かな塩分が濃縮し
土地が塩化してしまっているため、アシ原
が広がるほかはあまり特筆すべき植物群は
見られない。放牧も行われているが生産力
は低い。工業は唯一エンバ川流域での石油
の産出とバスクンチャク、エリトン周辺の
塩湖での食塩の採取が行われているのみで
ある。

尚、西部地域はウラル川、ヴォルガ川、テ
レク川などの大河が流れており水を大量に
得ることができるので、果樹、野菜などの
栽培が盛んである。人口も多い。

ロシア気候区分地図

NASAのジェット推進研究所(Jet Propulsion
Laboratory
)に所属するフィリップ・シュナ
イダー(Philipp Schneider)とシモン・フック
Simon Hook)は、衛星データを用いて、
世界167の湖(カスピ海を含む)の表面温度
を測定した。湖は地表温度の変化に影響を
受けないよう面積500平方キロ以上で水が豊
富、海岸線からも十分離れていることとし
たところ、表面温度は10年あたり平均0.81
度上昇
しており、10年で1.8度上昇した湖も
あった。地球温暖化に関連した気温の変化
と整合していたと報告している。また、北
欧で最も急激に上昇し、表面温度が最も急
激に上昇し続けていた地域は北欧
だった。
欧州南東部や黒海・カスピ海沿岸部、カザ
フスタンでその傾向はやや弱まり、シベリ
ア東部、モンゴル、中国北部でやや強まっ
た。 湖の表面温度の上昇傾向は、米国で
は五大湖周辺よりも南西部の方がやや強く、
南半球の赤道および中緯度付近では比較的
弱かった。シュナイダーによると、気候変
動が世界の陸地に与える影響を分析する上
で、今回の研究は新たなデータソースを提
供した。「水温のわずかな変動でも湖の生
態系に悪影響を及ぼしかねないことを、結
果は示唆している」と話している(NASA、
2010年11月24日
)。

 

カスピ海は黒海や地中海と同様にテチス海
の名残である。大陸移動により 550万年前
に陸地に閉じ込められた。海水の塩分濃度
が世界の海の3分の1なのは一度干上がり
塩分が岩塩として沈殿したためと考えられ
る。北部ではヴォルガ川などの流入で塩分
が薄く、南部ではイランからの流入河川が
少ないため塩分が濃いとされる。カスピ海
の水位は何世紀にも亘り上下の変動を繰り
返してきた。ロシアの歴史家たちは中世に
おける水位の上昇がハザール王国のカスピ
海沿岸の町に洪水を引き起こしたと述べて
いる。カスピ海の海面は、19世紀にはおお
むね海抜 -25~-26mで上下していたが、2
0世紀に入ると低下しはじめ1930年代には、
2m弱急激に低下した。その後、1977年まで
海面の低下が続きその後上昇する。なお、
この間、1980年にはカスピ海の海面低下を
防ぐためカラポガスゴル湾を結ぶ海峡が堰
き止められ、塩害など別の災害を引き起こ
した。過去2000年の間でも、海抜-22mから
-34mの間で大きく変動したと考えられてい
る。
 

この湖に接している国は、ロシア連邦(ダ
ゲスタン共和国、カルムィク共和国、チェ
チェン共和国、アストラハン州)、アゼル
バイジャン共和国、イラン(マーザンダラ
ーン州など)、トルクメニスタン、カザフ
スタン共和国である。湖の北から東にかけ
ては中央アジアの大草原(ステップ)が広
がる。主な流入河川にはヴォルガ川、ウラ
ル川、クラ川、テレク川などがあるが、流
れ出す河川は存在しない。アゾフ海とは
クマ=マヌィチ運河やヴォルガ・ドン運河
によって繋がっている。面積は374,000 km2
ある。なお日本の国土面積は377,835km2
のでほぼ同じ面積に値する。多くのチョウ
ザメが生息し、その卵はキャビアとして加
工されている。乱獲によりその個体数は減
っており、専門家は数が回復するまで捕獲
を完全に禁止することを提唱。カスピ海の
水質や周辺諸国の境界線をどのように引く
かということが問題になっている。国際法
上、この水域を海とするか湖とするかで、
沿岸各国の利益が変わる。カスピ海で最も
早く油田生産が始まったアゼルバイジャン
がバクーを中心として一大石油生産地とな
っており、ロシア、カザフスタン、トルク
メニスタン、イランでも探鉱が進められて
いる。カザフスタンで開発中のカシャガン
油田には日本含め大手石油企業が参加して
いる。西欧へ輸出するために、地中海に達
するBTC(バクー・トビリシ・ジェイハン)
パイプラインが2006年に建設された。


【エピソード】

 

カスピ海は海か?湖か?これは大切な議論
であり、焦臭い話でもある。カスピは「塩
水湖」だ。ところが「いやカスピ海は海」

だ!」という主張が沿岸国で強まっている。
これが沿岸国の利害に大きく関わる問題な
のだ。国際法に「国連海洋法条約」があり、
海についての国際法を定めたもの。水産資
源や地下資源を優先的に自分たちのものに
できる「排他的経済水域」は、200海里(約
370キロ)、相手国までの沿岸までが近くて
200海里とれない場合、岸からの中間点まで
を境とするように決められている。

もし、カスピ海を「海」と考えて、排他的
経済水域を設定すると「海岸線」の小さな
イランには不利になってしまう一方、カス
ピ海を海洋法条約で規定されていない湖と
考えると、慣習的に沿岸国で均等に分割す
るべき、ということになりイランには有利
となるが、ロシアなどほかの沿岸国は、あ
くまでカスピ海は海である、と主張し、自
国の排他的経済水域をできるだけ大きくし
ようとしている。

この問題の打開に、2002年4月に「カスピ
海サミット」が開かれ、沿岸5ヵ国の首脳
会談が実施されたが、議論は平行線のまま
。なぜ、カスピ海に各国ともこれだけこだ
わるのか?カスピ海は実は「宝の山」なの
だ。石油が豊富で、ペルシャ湾並みに埋蔵
されているらしく、この問題を複雑にして
いる。世界第一位の石油輸入国米国も、カ
スピ海に大注目。危ない中東などより、ロ
シアなど紛争の少ない地域から安定し石油
を買いたい思惑が働く。

これには、沿岸国のうちカザフスタン・ト
ルクメニスタン・アゼルバイジャンはトル
コ系語族の民族で友好国のトルコもからん
でくる。当然、イランとの関係で、米ロ大
国、沿岸各国の思惑がからみ石油の産出だ
けでなく「第二のペルシャ湾」のように武
力紛争が生じないとも限らない状態にある。


 

【脚注及びリンク集】
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(1)「世界
大湖沼
(2)「
世界湖沼会議」、財団法人 国際湖沼
  環境委員会
(3)「
世界の湖と琵琶湖
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