ビオトープ考Ⅷ

2010年05月06日 | ビオトープ





5)田んぼの設計・施工と育成管理

❸ 生きものを育む伝統的な稲作

近年、多くの稲作は、化学農業で生態系を
壊し、化学肥料で有機物の循環を断ち切っ
た水出や、大型コンバインを入れ稲株の分
げつを抑えるため、初夏の中干しで耕上を
乾かす水田、さらに圃場整備で暗渠や排水
側構が入り多くの水生生物を追い出した水
田で実施される。これに対し昭和30年代ま
で各地で行われた伝統稲作は、水田にカエ
ルやドジョウ、トンポ、ホタルなどの生物
を育んだ。現代的視点から当時の農法に学
び、安全安心な米を生産し生物の生息地を
再生する。

1)古くからの伝統的な稲作

・田の土を砕いて緑肥などを鋤き込む(田起こし)。
・圃場を整え田植えに備える(代掻き)。
・苗代(なわしろ/なえしろ)に稲の種・
 種籾をまき、発芽させる(籾撒き)。
・苗代にてある程度育った稲を本田(圃場)
 に移植する(田植え)。
・定期的な雑草取り、肥料散布等を行う。
・稲が実ったら刈り取る(稲刈り)。
・稲木で天日干しにし乾燥させる。
 
 ※稲架(馳)を使用したハセ掛け、棒杭
  を使用したホニオ掛けなど

・脱穀を行う(籾=もみにする)。
・籾摺り(もみすり)を行う(玄米にする)。
・精白(搗精)を行う(白米にする)。

2)稲苗の育成

田植えに先立ち、耕転した水日に導水して
育苗用の苗代を設置。当期の湛水はトノサ
マガエルや越冬性のホソミオツネントンボ
などの産卵に重要。

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❹ 湿地植物群落の育成管理

施工のポイントは、水田跡などですでに該
当する植物群落が定着している場所を選定
とすることにある。植生の育成管理では、
定着している水生生物の生息環境を現地で
狩続させながら植生管理を行う必要がある。
このため、現地では区画を決め、刈取り跡、
伐採跡、除草跡での植物の再生が進んでか
ら、別区画の植生を処理する。刈り屑など
は搬出処分し、堆肥やエコスタックなどに
リサイクルする。

Hannokihayasi.JPG ハンノキ

1)ハンノキ、ヤナギ林

●育成管理
10~ 15年毎に1回程度、萌芽更新で若返り
が必要。

●主な生息生物
ミドリシジミやコムラサキなどチョウ、サ
ラサヤンマ、(オオ)エゾトンボなどの生息
地育成。

2)ヨシなど高茎植物群

●育成管理

数年~年1回毎に冬季刈取りを継続。茎丈
が高く見通しがきかない場合には、ポール
などで入り日がわかるよう目印を打つ。ま
た、ぬかるんで作業の障害になる場合には、
木板を敷き、その上に乗って作業を進める。
この木板は移動用の歩行路、希少な動植物
が生息する場合には、湿地の環境構造を歩
行圧から守る上でも効果がある。

Blyxa echinosperma et al.JPG スブタ

3)オモダカ・コナギなど植物群生

クリックすると新しいウィンドウで開きます オモダカ

●育成管理
耕土を耕転してくぼみを作り、最大で10cm
深程度に湛水する。埋土種子を中心に草丈
0.8m以下の中低茎の湿地植物が群在する環
境条件を育成管理する。

Vaginalis.jpg コナギ

●主な生息生物
カエル類、ミズカマキリ類、コオイムシ類
ゲンゴロウ類、ショウジョウトンボ、シオ
カラトンボなどの生息地育成。類、アカハ
ライモリなどの生息地になる可能性もある。
水生植物のスプタやミズアオイ、ミズオオ
バコなど希少種が再生する可能性があり、
個別別に保全対策が求められる。

 ミズカマキリ

イグサのドイツ産基本変種 イグサ

4)ミツソバ・イなど植物群生

Mizosoba 06d0169csv.jpg ミゾソバ

●育成管理
1~2年毎に1回、区画を違えて除草は、除
草屑に付着した水生々物を水域に戻してか
ら処分。

卵塊を背負った雄 コオイムシ

●主な生息生物
カエル類、ミズカマキリ類、コオイムシ類、
ゲンゴロウ類、ヘイケポタルなど、水生生
物の生息地育成。サラサヤンマ、ヒメタイ
コウチなど希少種の生息地が再生する可能
性があり、個別に保全対策が求められる。

Sagisou2.jpg 鷺草

5)サギソウ、トキソウなど植物群落

Pogonia japonica.JPG 朱鷺草

●育成管理
刈払いなどで高茎草本や低木類を抑制し、
湧水地をはじめ貧栄養な湿地に自生するト
キソウやモウセンゴケなどの群落を再生す
る。

 キイトトンボ

●主な生息生物

 コサナエ
 サラサヤンマ

ヘイケポタル、キイトトンボ、コサナエ、
ハラビロトンポ、ハッチョウトンポなどの
生息地育成。希少種のサラサヤンマ、ヒメ
タイヨウチなど水生生物やモウセンゴケ類、
ミミカキグサ類なども混生する可能性があ
り、個別に保全対策が求められる。

 ハラビロトンポ
Hacchoutombo 20080811.jpg ハッチョウトンポ

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【温暖化による米作収量変動予測】



植物は、二酸化炭素と水を材料にして光合
成を行うことによって生きている。材料と
なる二酸化炭素の濃度が上昇すると光合成
が活発になるため、植物の成長量は増える
と考えられている。二酸化炭素濃度が高ま
ると、作物の成長や収量も増加するのだろ
うか?この疑問に農業環境技術研究所(大
気環境研究領域)酒井英光は興味深い実験
報告を常陽新聞連載「ふしぎを追って」で
行っている(「環境変動:大気中の二酸化
炭素濃度の上昇とイネ」)。

実験水田(写真) 農家水田での二酸化炭素濃度増加実験の様子

(1)温室や人工気象室を使ってこれまで
に行われたさまざまな作物の実験結果を平
均すると、二酸化炭素濃度が2倍になると
収量は約33%増加するが、実際の水田でど
の程度増収があるかは不明だった(2)

際の農家水田の一画に、囲いのない条件で
二酸化炭素を水田に吹き込み、二酸化炭素
濃度を周囲よりも 200 ppm 増加させてイネ
を栽培。3年間の実験の結果、イネの収量
は平均で、14%程度増加することが分った。
(3)
他の作物の増収効果と比較すると高
くない(4)イネの成長量に及ぼす二酸化
炭素濃度増加の効果は、イネが若い時期は
30%程度と大きいが、成長ともに効果が低
下(5)しかし、増加効果の低下を小さく
することができれば、二酸化炭素濃度の増
加による増収効果をさらに高められるとし
ている。

Nepa hoffmanni.jpg ヒメタイコウチ