1
人間という商売を長らくやっていて
ふと気がつくと あっちもこっちも傷だらけ。
傷みがひどく だれも買い手がつかない果物か野菜 みたいにね。
箱ごとすてられそうになって かろうじて 逃げ出したキュウリ
さもなければ ナス。
きみもわたしも どこかにそんな面差しをやどしている。
今日は5月で風がすずしい。
・・・と書いて つぎのことばがつづかない。
午後には真夏日になるそうな。
その場つなぎの一汗をかきながら
畝起こしをおえて 草の家に帰る。
縁の欠けた 古い茶碗みたいな家へね。
2
南方からはるばる渡ってきたツバクロが 家の庇をついとかわして飛んでいく。
孕み猫のコリコリした胸乳(むなぢ)にそっとふれる。
砂時計がさらさらと 耳許で音をたてる。
さっきからブラームスの第3番のシンフォニー
あの第3楽章のチェロのすすり泣きを聴きながら
うつらうつらとして。
遠くから釣り人が騒ぐ声が聞こえる。
「おーい なにを釣ったんだ」
「出世という大魚さ。釣ったと思ったら逃げられた。
いままでで 最高の大物だったのに」
騒いでいる人の後ろ姿は 見たこともない盛唐の詩人
李白や杜甫に似ている。
うたた寝の夢の中で そんな気がする・・・というだけのことだけれど。
3
わたしの草の家の周囲にも
うすっぺらな時代の ぺらぺらした漂流物が毎日吹き寄せられてくる。
映画やテレビが一日中たれ流す情報という名の――。
過ぎてしまえば なんの価値もない他人の――。
草の隣の草。
そのまた隣の草。
家は草や時代の漂流物にうもれて わたしはほとんど毎日
草の中をさがしまわって 帰宅する。
嗤いごとではないよ きみ。
深夜 ひっそりと 音楽や酒でこころに包帯をする。
蕪村の絵やグラマラスな愛人が待っていれば・・・それが包帯として役にたつなら
もっといいのだけれど。
さ もう帰ろう 帰ろう。
ほかにいくあてはないのだから。
地球は帰宅者の足許から 昏くふかあく その大部分が欠けている。
人間という商売を長らくやっていて
ふと気がつくと あっちもこっちも傷だらけ。
傷みがひどく だれも買い手がつかない果物か野菜 みたいにね。
箱ごとすてられそうになって かろうじて 逃げ出したキュウリ
さもなければ ナス。
きみもわたしも どこかにそんな面差しをやどしている。
今日は5月で風がすずしい。
・・・と書いて つぎのことばがつづかない。
午後には真夏日になるそうな。
その場つなぎの一汗をかきながら
畝起こしをおえて 草の家に帰る。
縁の欠けた 古い茶碗みたいな家へね。
2
南方からはるばる渡ってきたツバクロが 家の庇をついとかわして飛んでいく。
孕み猫のコリコリした胸乳(むなぢ)にそっとふれる。
砂時計がさらさらと 耳許で音をたてる。
さっきからブラームスの第3番のシンフォニー
あの第3楽章のチェロのすすり泣きを聴きながら
うつらうつらとして。
遠くから釣り人が騒ぐ声が聞こえる。
「おーい なにを釣ったんだ」
「出世という大魚さ。釣ったと思ったら逃げられた。
いままでで 最高の大物だったのに」
騒いでいる人の後ろ姿は 見たこともない盛唐の詩人
李白や杜甫に似ている。
うたた寝の夢の中で そんな気がする・・・というだけのことだけれど。
3
わたしの草の家の周囲にも
うすっぺらな時代の ぺらぺらした漂流物が毎日吹き寄せられてくる。
映画やテレビが一日中たれ流す情報という名の――。
過ぎてしまえば なんの価値もない他人の――。
草の隣の草。
そのまた隣の草。
家は草や時代の漂流物にうもれて わたしはほとんど毎日
草の中をさがしまわって 帰宅する。
嗤いごとではないよ きみ。
深夜 ひっそりと 音楽や酒でこころに包帯をする。
蕪村の絵やグラマラスな愛人が待っていれば・・・それが包帯として役にたつなら
もっといいのだけれど。
さ もう帰ろう 帰ろう。
ほかにいくあてはないのだから。
地球は帰宅者の足許から 昏くふかあく その大部分が欠けている。