雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「どっちも、どっち」

2013-02-01 | ミリ・フィクション
 霊界での八五郎とご隠居の会話。

   「おや?八つぁん、今年の盆は家に帰らなかったのかい」
   「これは、これはご隠居、そうなのですよ」
   「それはまた、どうしたことじゃな」
   「いえね、ご隠居もご存知のように、今年は盆と霊界の運動会が重なりまして、帰るか運動会か迷ったのですが…」
   「それで、運動会をとったのか、子供達の元気な姿を見るよりも運動会が良かったのじゃな」
   「楽しかったのもそうですが、ご先祖さまとのお付き合いも大事かと思いまして」
   「ほお、感心というべきか、馬鹿というべきか… 」
   「馬鹿とは酷い」
   「ところで、運動会っての言うのは、どんなことをするのじゃな?」
   「霊(たま)入れとか、大霊(おおたま)転がしとか、ボートレースとか…」
   「ボートレース? それはまたどうして?」
   「精霊流しの舟に乗って、スピードを競うのです」
   「なるほど、他には?」
   「競歩もありますが、これが難しくて」 
   「儂らは足がないからな」
   「それだけじゃないのです、必ず体が地に着いていなければならないのです」
   「そうか、そうか、儂らはすぐに浮きあがってしまうからな」
  
 と、話しておりますと、お盆が終わって現世からゾロゾロと帰って来ました霊たちの喋る声の賑やかなこと、まるで幼稚園児の遠足帰りのようでございます。

   「あの中に八つあんの隣に住んでいた男がいるじゃろ、女房や子供の様子を聞いてはどうかね」
   「さすがご隠居、良いことを仰います、ちょっと行って聞いてまいりしょう」
 
 八五郎、男となにやらひそひそと話をしていたと思うと、ご隠居の元に戻ってまいりました。

   「どうだ、みんな元気であったか?」
   「それが、お盆の前からずっと留守だそうで…」
   「仏壇にお供えもなしか?」
   「覗いてみたら、それは有ったそうです、セットした時間が来るとお供え物がコロンと一つ」
   「水はあったか?」
   「舌で球を押すと、水が滲み出てくるのだそうです」
   「お灯明は?」
   「LEDで点きっぱなし」
   「お線香は?」
   「一時間に一度、プシュッと自動でお線香の香りが…」
   「仏花は?」
   「造花」
   「家族は皆どうしたのじゃな」
   「盆休みを利用して、韓国旅行をしているそうで… 有名俳優と逢えるのだとか」
   「八つあん、落ち着きなされや、そんな思いつめた顔をして、どうする積もりじゃ?」
   「来年の盆は…」
   「来年は…?」
   「安心して運動会に打ち込んで、競歩で優勝して見せます!」
  ご隠居「…」
   

   (修正)  (原稿用紙4枚)


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