雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「蟠り」

2013-02-02 | ミリ・フィクション
 先生は、「ロボトミー手術」をご存知でしょうか。 これは、脳やその他の臓器の一塊を切除することを意味し、癌に冒された胃を切除することを指す場合もあります。 今、ここでお話しさせていただきますのは、大脳の前頭葉を切除する外科手術であります。 

 戦後間もない、まだ私が幼いころです。私の父は、もともと粗暴でしたが、そのうえにアルコール依存症で精神に異状をきたし、夜昼構わずに暴れ、大声で喚くために近所からの苦情が絶えず、母は悩んでおりました。
 とは言え当時の「精神病院」といえば監獄の独房のような病室に監禁状態にされて、悶え苦しむ父の姿を母は思い浮かべ、入院させるかどうかを思い悩んでおりました。たまたま見つけた「精神外科病院」で、母は思い切って相談してみました。病院の医師は脳の外科手術で大人しい性格になることを説明して、「ロボトミー」という手術を薦めてくれました。 

 母は、「家庭で介護が可能になる」という医師の言葉をなによりも有難たく思い、内容もよく理解できないまま手術の承諾書にハンコを押しました。入院中は完全看護で、しかも面会謝絶であり、退院の日まで母は病院に足を運ぶことは有りませんでした。 
 手術を終え、父は数週間後に退院が許され、我が家に一人で帰ってきました。 家の近くまで病院の車で送ってもらったようです。

 手術が功を奏してか、父は騒ぐことも暴れることもなく、ただ部屋の隅にしゃがみ込んだまま虚ろな視線を移動させているばかりでした。手術後の、父は無気力で抑制もきかず、食事は有ればあるだけ食べ続けます。時には散歩と称して外出しますが、戻ることが出来ません。母は度々警察に捜索願を出しましたが、思いもよらない遠方で補導されることもありました。

 時が経つうちに、無知な母も「何かが変だ」と気が付きました。母は、病院に相談に出かけました。ところが不可解なことに、病院が無いのです。付近の人に尋ねても「昔からこの辺りに病院などなかった」と、口々に答えます。 

 その父が亡くなり、母も間もなく父を追うようにポックリと亡くなりました。死亡診断書には、父の時も、母の時も「心臓麻痺」と記載されていました。現在にいう「心筋梗塞」でしょうか。
 私は父の手術を「人体実験」ではなったかと疑い続けています。父は医大かどこかの「実験室」に運び込まれたものではないでしょうか。このことは私の心の蟠り(わだかまり)となって、歳を取った今もこの胸にあります。
 
 先日、宇宙真理学の講演会で、先生のご講演を拝聴させて頂きました。今まで長年の疑問だった父の手術への疑いが、先生のお話しでくつがえりました。医学的人体実験ではなく、父の脳の一部が、地球外知的生物により持ち去られたのではないかと危惧するように変ったのです。もしや近い将来、アルコール好きで粗暴な知的宇宙人の軍団が、地球の略奪にやってくるのではないでしょうか。
 先生のご意見を賜ることを切にお願いします。 

 私はこの内容を手紙にしたため、宇宙真理学の講演会で貰ったパンフレットに記載された宛先に送りました。一週間ほど経って、手紙は付箋を付けて戻ってきました。

 「宛先が存在しないため、配達出来ませんでした…」

   (再掲)  (原稿用紙4枚)
 


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