ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

否定と肯定

2019-06-15 10:38:35 | 映画

 


(これは2018年7月14日の記事です)

今日紹介する映画は「否定と肯定」(原題はDENIAL)
(アメリカ・イギリス合作、2016年公開)
2000年にイギリスで行われた、ナチスドイツのホロコーストに関する裁判の実話を基に作られた映画で、主人公のリップシュタット本人が脚本を書いています。

アメリカ在住のユダヤ人歴史学者デボラ・E・リップシュタットは『ホロコーストの真実』という本を書き、ナチスのホロコーストはなかった、ガス室で殺されたユダヤ人はいない、と主張する歴史学者ディヴィッド・アーヴィングに真向から立ち向かいますが、彼女の講演会の最中、当のアーヴィングが現れて彼女を糾弾し、あろうことか名誉棄損で彼女を訴えます。

裁判はイギリスで行われることになるのですが、奇妙なことに、イギリスの法律では、訴えられた方に立証責任がある。
つまり、リップシュタット自身がアーヴィングの主張は捏造である・・彼はホロコーストが実際にあったことを知りつつ歴史を捻じ曲げている・・と立証しなくてはいけない。

リップシュタットのために大弁護団が結成されます。

弁護団のリーダーはアンソニー・ジュリアス。
リップシュタットは弁護団と共に、裁判に向けた調査のためアウシュヴィッツを訪れます。アウシュヴィッツの映像は何度見ても陰惨で胸が締め付けられます。

このアンソニーを演じているのがアンドリュー・スコット(「シャーロック」のモリアーティ役)、弁護団の一人に同じく「シャーロック」のマイクロフトもいて、しかも彼女を訴えるアーヴィングがティモシー・スポール(「ハリー・ポッター」シリーズに登場するネズミ男)とあっては、話の筋よりもそちらに目を奪われがちではありますが・・(話がそれました)

アーヴィングが主張するのは、
ヒトラーはユダヤ人を殺せという命令書を書いていない、だからユダヤ人虐殺はなかった、というものです。
もし、ヒトラーの命令書があるなら持ってこい、その人には賞金1000ドルを出す、と言い放ちます。


もちろんヒトラー自身でさえ、ユダヤ人虐殺が本当に正しいことだと思っていたわけではなく(収容所に入りきれなくなりやむなく虐殺した)だからこそ命令書などは書いていないし、ガス室の写真も撮らせなかったわけですが、
それを盾に「だからホロコーストはなかった」といい放つ歴史修正主義者たちの主張は、一見お粗末に見えますが、それが新聞ネタになり、若い人たちが「もしかしてホロコーストはなかったのかも・・」と思い始めるから厄介です。

歴史修正主義というのは、いつの時代もあるようで、日本でも、
「南京虐殺はなかった」「従軍慰安婦はいなかった」「朝鮮人虐殺はなかった」という形で存続しています。
アーヴィングと同じように、様々な資料や証言を駆使して、だから「なかった」と主張するわけですが、それを一つずつ崩していく作業は困難ですが、必要なことだと思われます。

この映画は、裁判シーンがメインなので、残念ながらリップシュタットの主張を詳しく解説してくれません。そこが少々物足りないところではありますが、彼女は冒頭で学生たちにこう説明しています。

ホロコースト否定論者は以下の四点を主張する。
① ヨーロッパの全ユダヤ人虐殺というナチス全体の命令はない。
② 死者の数は600万人よりはるかに少ない。
③ ガス室など新たに建設された殺戮施設はなかった。
④ よってホロコーストはユダヤ人が捏造したもので、彼らは賠償金をせしめてイスラエルを建国した・・

「ホロコーストは事実なので議論する気はない」というリップシュタットに、
「君の見解に合わない事実を恐れるからだ、私の主張する歴史が真の歴史だ」とアーヴィングは主張します。

裁判の結果がどうだったのかは、映画を見ていただきたいと思いますが、この裁判には多くの人たちが関心を寄せ、裁判費用を援助しました。スティーヴン・スピルバーグもその一人です。

歴史というのは時間がたてばたつほど、見方が変化していきます。
今目の前で起きている事実さえ、目を閉じ耳をふさぎ、認めようとしない人たちがいる、という事実を最後のシーンが教えてくれます。

世界はふたたび混沌とした様相を呈し始めていますが、歴史に学ぶことは重要で、だからこそ実際に何があったのか検証し、それを歪曲させないことが必要だ、ということをこの映画は教えてくれます。

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ゴジラ・・再び

2019-06-12 11:07:49 | 映画

 

前回「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」について書きましたが、
その後、再度日本版ゴジラを幾つか見て、また映画評論家の町山智浩氏と切通理作氏の対談(ゴジラ論というより、本多猪四郎論)をYou Tubeで見たりして、私自身のゴジラ観も少し変化してきましたので、それを改めて書いてみたいと思います。

切通理作著「無冠の巨匠本多猪四郎」という本を巡っての対談は以下。
 https://www.youtube.com/watch?v=fl9yZP-SBg0

町山氏と切通氏の対談で一番興味深かったのは、町山氏の「ゴジラ愛」と博覧強記ぶり、そして優れた洞察力でした。何しろ全体で2時間半にも及ぶ対談の大半を彼一人でしゃべりまくるのです。

切通氏もたまに発言しますが、大方はただじっと静かに座って町山氏の論に耳を傾け、時おり相槌を打ち、あるいは「えっと、そこは・・」と訂正やら反論やら突っ込みを入れ、そしてまた町山氏が延々としゃべり続けるというトークショーです。

これはもう映画より面白いので、興味ある方はぜひ見ていただきたいのですが、そこで町山氏の言う「本多猪四郎論」の肝は、本多監督作品の「ゴジラ」は基本的にすべてラブストーリーである!というものでした。

ラブストーリー? 

町山氏が言うには、本多猪四郎監督作品(「ゴジラ」以外にもたくさんある)には基本的なパターンがある。それは、

 ゴジラ ― 科学者 ― 一般社会 

という三者の対立構造だというのです。

最初の「ゴジラ」(1954年)では、山根博士、芹沢博士という科学者、そして一般社会の代表として、尾形、恵美子(山根博士の娘)が登場します。

芹沢博士は顔に戦争による傷跡があり、研究者として引きこもり状態。彼の研究は社会に認められないという鬱積を抱えています。
芹沢博士は恵美子と婚約するも尾形に恵美子を取られてしまう。そこで、ゴジラを倒すことで自ら死を選ぶ、というのがメインのストーリーです。

この際に芹沢博士が使ったオキシジェンデストロイヤーという兵器は、ハリウッド版の「ゴジラ キングオブモンスターズ」にも登場します。芹沢と言う名前の博士も。

つまり、町山氏が言うには、芹沢博士自身がゴジラであるのだと。そして、本多猪四郎監督作には必ずゴジラがいろんな形で登場する、というのです。

「ガス人間第一号」ではガス人間がゴジラ、「フランケンシュタインVS地底怪獣」ではフランケンシュタインがゴジラ・・というように。

本多猪四郎監督作品はすべて基本このパターンで出来ている。本多監督のゴジラ映画はラブストーリー、悲劇に終わるラブストーリー。一般社会に受け入れてもらえない者の悲しみ、そしてその破壊衝動を描いているというのです。

本多猪四郎自身、8年半も戦争に行っていて、生き延びて帰国してみれば彼の居場所はない。つまり、本多自身がゴジラであるのだ、と言うわけです。

怪獣映画に拍手喝采するのは、どちらかというとこの芹沢博士のように、社会に居場所がない、受け入れてもらえないと感じている人たち。

この社会を守ることが市民の役目だ!と純粋に信じて疑わない人たち(ゴジラ、けしからん! と思っている人たち)は怪獣映画を見ないだろう、とも言っています。

なるほど。鋭い分析です。

でもね、この対談を見ていると、町山智浩氏自身が最もゴジラ的な人物なのではないか、と思えてきます。
彼の映画評論はいつも興味深いのですが、中でもこのゴジラ論はすごい。

博覧強記ぶりもさることながら、その熱の入り方は尋常じゃない。

だって、彼自身が「ゴジラ」なのだから。

でも、ゴジラ映画はたくさんあって、本多猪四郎監督作品の後、別の監督が引き継ぎます。それらもけっこう面白い。

私のお気に入りは「ゴジラVSビオランテ」です。
大森一樹監督作品で本多作品ではありません。
町山氏は平成ゴジラシリーズはつまらないと言っていますが、私はそうでもないと思っています。

なお、ゴジラに登場する人物たちに特徴的なのは、父と娘というパターンですね。

つまり、父親というのは、ゴジラなのですね。

(母親は魔女、そして父親はゴジラ!)

ゴジラについてはこの後も時々書いていきたいと思っています。

なお、町山智浩氏と切通理作氏の次なる対談「ジブリ論」も非常に興味深いのでよかったらぜひ見てみてくださいまし。

 

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ゴジラ キング・オブ・モンスターズ

2019-06-06 20:48:36 | 映画

 

いやあ、見てきてしまいました。

「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」

久しぶりの劇場映画。
何しろ、私、ゴジラの大ファンですねん。

子どもの頃に見て以来、病みつきに。

「シン・ゴジラ」は劇場で2回見て、家でさらに数回見ました。あれはよかったなあ・・

前回のハリウッド版「ゴジラ」には心底がっかりしたのですが、今回はどうよ?
という感じで行ってきました。

結論からいうとですねえ・・

あーやっぱりハリウッドだ。アメリカ製だ。これは日本のゴジラじゃない・・

でした。残念ながら。

ま、迫力満点ではあるんだけどね。

怪獣のプロレスごっこか?

「ゴジラ」は古代の神話に登場する神だともいってるんだけど、そもそも神の捉え方が違うよね。

今回は、キングギドラが外来種の神で、地球を外来種に乗っ取られまいとして戦うのがゴジラ、という図式で、あいもかわらず世界制覇をたくらむ悪との闘い、みたいな筋書きでしたね。

エイリアン映画の亜種、さらに言えば「ジュラシック・パーク」の拡大版、かな。

確かに迫力満点ではあるけど、もう力づくという感じで、「シン・ゴジラ」のあの神々しさは微塵もない。

アメリカって、こうやって力づくで世界に君臨してるのね、と思った。

オリジナルの「ゴジラ」(1954年版)では、ゴジラは戦争で死んだ兵士たちの英霊だと言われています。

ゴジラが歩いた足跡は、アメリカのB29が爆撃したコースだとも言われています。

ゴジラは戦争から生まれた戦争の落とし子、そして、水爆実験の放射能から生まれた核兵器の落とし子だったはず。

いつのまに地球を守る神になったのか。

映画の冒頭で「東宝」のロゴが出たとき、

オオー、ゴジラ映画が始まるぞ~ と思ったのだけど、残念ながら日本の「ゴジラ」とは別物でした。

日本の魂をハリウッドに売るな! と言いたい。

ま、お子様向けの怪獣映画だと思えばどうってことないのだけど。

日本のゴジラだって、子ども向けのヒーロー映画みたいになった時期もあったので。
そういう映画を見て「ゴジラ、すげえ!」と思った大人たちが作った映画だと思えば、まあ、仕方ないのかも・・

という感じで、これ以上書くと怒りがどんどん沸き上がってくるのでこれくらいに。

皆さん、以上のことをしっかと心に留めて「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」を観るようにしてくださいまし。

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素敵な人生の始め方

2019-06-03 15:19:58 | 映画


(これは2018年7月9日の記事です)

たまたまGYAOで見た映画「素敵な人生のはじめ方」がけっこうよかったので紹介します。

これ、日本では未公開作品だそうですが、モーガン・フリーマン主演制作総指揮の作品です。
タイトルがイマイチで、似たようなタイトルが山ほどあって見分けがつかないのが難点です。
見よ、このタイトル群!
•『最後の恋のはじめ方』
•『新しい人生のはじめ方』
•『わすれた恋のはじめ方』
•『ファースト・タイム ~素敵な恋の始め方』
•『最高の人生のつくり方』
•『ウェイトレス ~おいしい人生のつくりかた』
•『恋するレシピ ~理想のオトコの作り方』
•『恋とニュースの作り方』

そして「素敵な人生のはじめ方」と来たら、見分けつく?
(原題は"10 Items or Less" 2006年公開)

でも、この映画は他の「作り方」「始め方」映画とはちょっと違う。
最後まで「愛してるよ」「愛してるわ」が出てこない珍しい映画です。だからね、安心して見られる。

ストーリーはシンプル。
モーガン・フリーマン演じるところの役者(一時は売れたものの最近は仕事がまわってこない初老の役者)がインディペンデントの映画の役作りのために、地方のスーパーマーケットを訪れるところから始まります。

このスーパー、客も従業員もヒスパニック系の移民たちで英語が通じない。
スーパーばかりでなく、他のシーンでも英語がしゃべれない移民ばかりが登場する、なんというか、これもまた、アメリカ的な映画です。

レジ係をしているスカーレット(英語しゃべれる)にモーガン・フリーマンが話しかけます。君の仕事ぶりは見事だと。
彼を迎えに来るはずの車がいくら待っても来ないので、彼は途方に暮れ、彼女が彼を自宅まで送ることになります。
その途中、スカーレットは建設会社の秘書の面接を受けるというので、モーガン・フリーマンがいろいろ伝授する(新しいブラウスを買って着替えて化粧をする等々)とまあ、それが全てです。

すべてはモーガン・フリーマンにかかっている映画といってもいい。登場人物もほぼこの二人。それでも、一本のロードムービーに仕上がっていて、けっこう最後まで見飽きない。

何ということないのだけど、最後に、いいなあ、と思わせてくれる映画です。こういう映画、好きだなあ。

車の中で、モーガン・フリーマンがスカーレットに言います。

人生の中で好きなものを10個あげてごらん。
でも、彼女は好きなものを7つまでしかあげられない。それに対して、彼は11個あげます。

彼女はスーパーで、10品目以下の買い物客専用のレジ担当なので、11個はダメよといい、彼は、でも全部好きなんだもの、という。君も残りの3個をあげてごらん。

そして、ついに彼女も残りの3個をあげます。
秘書面接の合否はわかりません。でも、彼女はもう二度とスーパーのレジ係には戻らないと彼にいい、彼もまた役者として復帰する決意をします。

そんな映画。

なんかね、拾いもん! という感じです。

あなたなら、好きなこと10個、何をあげますか?

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