前々回の続き
家族にも職場にも過去にも複雑な悩みを抱え
少しでもそのストレスから逃れようと
最近よく遊びに来てくれているK子
この日も一番乗りでドアを開けた
彼女はバツイチで思春期の息子と二人暮しだ
目鼻立ちはハッキリしているが
仕事柄メイクをしてもすぐに落ちるのでいつもすっぴんだ
細身だが身長が174cmあり
それほど大きくは感じないが本人はとても気にしている
そして「アタシが好きになる男はアタシを好きにならない」
と、いつも思い込んでいて
「誰か居たら紹介して頂戴」が口癖だ
その日、アニメイターのYちゃんが久々に来店した
彼は人を怒らせる天才で
最初は仲良く談笑していても
途中から相手を見下した様な物言いになって
必ず喧嘩になってしまう
なので来店時には他のゲストとの釣り合いを考えて
どの席に案内するかで悩むのだ
キャストは私とヒデミの2人
既にヒデミはコンノちゃんを接客していて
彼の隣にYちゃんは絶対に危険だ
何故ならコンノちゃんもちょっとややこしい性格だからだ
K子の隣のテーブルにYちゃんを案内した
「よろしくね、アニメ界の大御所Yちゃんよ」
「あらァ、私もアニメ大好きなの!」
何となく意気投合しそうな雰囲気だった
その後はコンノちゃんも巻き込んで大アニソンカラオケ大会で盛り上がった
カラオケ大会の最中、若い男性から店に電話があり
30分以内に来店すると言う
「あら今からイケメンが来るわよ~」と
私はK子に期待を持たせる様な事を言ってしまったのだ
K子はコンノちゃんの方に一度席を移して軽く会話したが
イマイチ噛み合わないと思ったのか
「じゃ、そろそろお会計して」と申し出た
「あらもうちょっとしたらイケメン来るのに…
せめて顔だけでも見ていけば?」
電話の声だけでイケメンと言う根拠は何一つなかったが
K子に少しでも潤いをと考えたのが間違いの元だった
いつの間にかコンノちゃんの隣から
またYちゃんの隣に移動したK子
ドアが開き、さっきの電話の主が登場
彼を一瞥してK子はまたYちゃんと話し始めた
タイプではなかった様だ
ヒデミはコンノちゃんにベッタリで
初来店の彼を完全シカトの構えだ
いつもなら目を吊り上げて
「ちょっとお姐さん、1人で2組見るの当たり前でしょ
コンノちゃんに色気こいてんじゃないわよ!!!」
と注意するところだが
初めてのお客様の前なのでそうも行かぬ
K子とYちゃんの前を離れて
彼(後でオナベちゃんと判明)を接客することにした
しばらく彼と話し込んでいると
K子が声を荒げた
「ちょっと、アンタに何が解るって言うのよ!」
その声はYちゃんに向けられている
「ちょっと、どうしたの?」
すぐに私は2人の前に戻った
「この人が私の事を“幸薄い顔”だの
“これまでロクな男と付き合って来てない”だの
あんまりな事ばかり言うのよ
冗談じゃないわよ
アンタに一体私の何が解るって言うのよ!!!」
いつもは温厚で大らかなK子が鬼の形相だ
マジギレ状態でYちゃんに食って掛かっている
やっぱり心配が現実になった
Yちゃんはヘラヘラしながら
「そんな事言ってないじゃない
バカじゃないの」といつもの調子だ
YちゃんがK子を逆撫でしたのは火を見るより明らかだ
さっきも彼の心無い一言でK子は半ギレしていた
「さっきお会計した時に帰っていれば良かったね」
また私もK子を傷付ける様な事を言ってしまった
引き止めたのは私だった事を忘れていた
その途端彼女は堰を切った様に泣き出したのだ
その涙はこれまで背負って来た全ての重荷を洗い流すかの様に
止め処なく流れ続け
彼女の口からは
「やっぱり皆そうなのよね
誰も解っちゃくれないのよね」
何処の店に行っても皆、調子良い事ばかり言って
人の事なんかこれっぽっちも解っていない
そんな時、たまたま連れて来られたこの店で
もしかしたら此処は今までの店とは違うのかもしれない
そう思ってK子は週に3~4日通ってくれていた
彼女は一昨年亡くなったマーちゃんとオーバーラップする部分がある
思春期に病気で片足を失くし
その後も子宮を全摘するなど女性にとっては辛い事が続き
更には3度の結婚をするも
最後の夫とも上手く行かず
最愛の母親も病気で失くす
連日酒びたりで飲み屋で知り合った男と行きずりの恋を重ね
挙句の果てはどうしようもない男に引っかかり
夫を捨てて九州に逃避行
酒びたりは相変わらずで男も辟易
その後は入退院を繰り返すも状況は改善されず
最期は兵庫のアパートの一室だった
変わり果てた姿の彼女のそばに男は居なかった
K子もマーちゃん同様に悲しい過去を持つ女だ
しかもその連鎖は現在も彼女の心に暗い影を落とし続けている
詳しくは書けないが誰もが同情の涙を禁じ得ない
そんな彼女を他人が救う事は出来ないだろう
しかし我慢していた物を取っ払って
思いっきり泣けば少しはスッキリ出来るかもしれない
問題の解決にはならなくても
気分が少しでも晴れればマシではないか
飲み屋にはそんな役目もあるのだと思う
K子は「もう来ない」と言い放って帰ったが
翌々日「アタシ今、職場の近所で酔っ払ってんだからァ~」
とメールを寄越して来た
数時間後にベロンベロンで当店のドアを開けたのは言うまでもない
K子に本当の笑顔が戻るのはいつだろうか
家族にも職場にも過去にも複雑な悩みを抱え
少しでもそのストレスから逃れようと
最近よく遊びに来てくれているK子
この日も一番乗りでドアを開けた
彼女はバツイチで思春期の息子と二人暮しだ
目鼻立ちはハッキリしているが
仕事柄メイクをしてもすぐに落ちるのでいつもすっぴんだ
細身だが身長が174cmあり
それほど大きくは感じないが本人はとても気にしている
そして「アタシが好きになる男はアタシを好きにならない」
と、いつも思い込んでいて
「誰か居たら紹介して頂戴」が口癖だ
その日、アニメイターのYちゃんが久々に来店した
彼は人を怒らせる天才で
最初は仲良く談笑していても
途中から相手を見下した様な物言いになって
必ず喧嘩になってしまう
なので来店時には他のゲストとの釣り合いを考えて
どの席に案内するかで悩むのだ
キャストは私とヒデミの2人
既にヒデミはコンノちゃんを接客していて
彼の隣にYちゃんは絶対に危険だ
何故ならコンノちゃんもちょっとややこしい性格だからだ
K子の隣のテーブルにYちゃんを案内した
「よろしくね、アニメ界の大御所Yちゃんよ」
「あらァ、私もアニメ大好きなの!」
何となく意気投合しそうな雰囲気だった
その後はコンノちゃんも巻き込んで大アニソンカラオケ大会で盛り上がった
カラオケ大会の最中、若い男性から店に電話があり
30分以内に来店すると言う
「あら今からイケメンが来るわよ~」と
私はK子に期待を持たせる様な事を言ってしまったのだ
K子はコンノちゃんの方に一度席を移して軽く会話したが
イマイチ噛み合わないと思ったのか
「じゃ、そろそろお会計して」と申し出た
「あらもうちょっとしたらイケメン来るのに…
せめて顔だけでも見ていけば?」
電話の声だけでイケメンと言う根拠は何一つなかったが
K子に少しでも潤いをと考えたのが間違いの元だった
いつの間にかコンノちゃんの隣から
またYちゃんの隣に移動したK子
ドアが開き、さっきの電話の主が登場
彼を一瞥してK子はまたYちゃんと話し始めた
タイプではなかった様だ
ヒデミはコンノちゃんにベッタリで
初来店の彼を完全シカトの構えだ
いつもなら目を吊り上げて
「ちょっとお姐さん、1人で2組見るの当たり前でしょ
コンノちゃんに色気こいてんじゃないわよ!!!」
と注意するところだが
初めてのお客様の前なのでそうも行かぬ
K子とYちゃんの前を離れて
彼(後でオナベちゃんと判明)を接客することにした
しばらく彼と話し込んでいると
K子が声を荒げた
「ちょっと、アンタに何が解るって言うのよ!」
その声はYちゃんに向けられている
「ちょっと、どうしたの?」
すぐに私は2人の前に戻った
「この人が私の事を“幸薄い顔”だの
“これまでロクな男と付き合って来てない”だの
あんまりな事ばかり言うのよ
冗談じゃないわよ
アンタに一体私の何が解るって言うのよ!!!」
いつもは温厚で大らかなK子が鬼の形相だ
マジギレ状態でYちゃんに食って掛かっている
やっぱり心配が現実になった
Yちゃんはヘラヘラしながら
「そんな事言ってないじゃない
バカじゃないの」といつもの調子だ
YちゃんがK子を逆撫でしたのは火を見るより明らかだ
さっきも彼の心無い一言でK子は半ギレしていた
「さっきお会計した時に帰っていれば良かったね」
また私もK子を傷付ける様な事を言ってしまった
引き止めたのは私だった事を忘れていた
その途端彼女は堰を切った様に泣き出したのだ
その涙はこれまで背負って来た全ての重荷を洗い流すかの様に
止め処なく流れ続け
彼女の口からは
「やっぱり皆そうなのよね
誰も解っちゃくれないのよね」
何処の店に行っても皆、調子良い事ばかり言って
人の事なんかこれっぽっちも解っていない
そんな時、たまたま連れて来られたこの店で
もしかしたら此処は今までの店とは違うのかもしれない
そう思ってK子は週に3~4日通ってくれていた
彼女は一昨年亡くなったマーちゃんとオーバーラップする部分がある
思春期に病気で片足を失くし
その後も子宮を全摘するなど女性にとっては辛い事が続き
更には3度の結婚をするも
最後の夫とも上手く行かず
最愛の母親も病気で失くす
連日酒びたりで飲み屋で知り合った男と行きずりの恋を重ね
挙句の果てはどうしようもない男に引っかかり
夫を捨てて九州に逃避行
酒びたりは相変わらずで男も辟易
その後は入退院を繰り返すも状況は改善されず
最期は兵庫のアパートの一室だった
変わり果てた姿の彼女のそばに男は居なかった
K子もマーちゃん同様に悲しい過去を持つ女だ
しかもその連鎖は現在も彼女の心に暗い影を落とし続けている
詳しくは書けないが誰もが同情の涙を禁じ得ない
そんな彼女を他人が救う事は出来ないだろう
しかし我慢していた物を取っ払って
思いっきり泣けば少しはスッキリ出来るかもしれない
問題の解決にはならなくても
気分が少しでも晴れればマシではないか
飲み屋にはそんな役目もあるのだと思う
K子は「もう来ない」と言い放って帰ったが
翌々日「アタシ今、職場の近所で酔っ払ってんだからァ~」
とメールを寄越して来た
数時間後にベロンベロンで当店のドアを開けたのは言うまでもない
K子に本当の笑顔が戻るのはいつだろうか