裏通りの仇花

当店のある裏通りは

古い建物が幾つか取り壊されて更地になっている

其処にはかつて飲み屋があった

スナックだったり赤提灯だったり…

たまたま、この町の住人と思われる人のブログに辿り着いた事がある

彼は昭和の面影を残す建築物に執着しており

駅周辺の古い飲み屋街も幾つか採り上げていた

と言っても店に入るわけではなく

時代に取り残された佇まいに興味があるだけの様だ

私の懇意にしている小料理屋も紹介されており

早速ママさんに紹介したら

「あら嬉しいわ　

　その人飲みに来ないかしら

　サービスするんだけれど…」

ママの店はこの町の“しょんべん横丁”と呼ばれる路地にあり

レトロ感漂う何とも言えない店構えだ

カウンターだけの狭い店内は５人も入れば満席で

お馴染みさんがママの家庭料理を楽しみにやって来る

「３月１１日の地震では仕込みの最中だったんだけど

　棚の上の大型テレビを支えながら必死だったわよ」

今にも崩れそうな木造２階建ての古びた建物だ

よく持ち応えたと思う

「でも今度おっきいのが来たらどうなるかね」


そう言えばこの店の奥

共同トイレの隣に３０代のマスターがショットバーをオープンした

去年の夏の終わり頃だったろうか

彼は“しょんべん横丁”に少しでも若いお客さんを呼び込める様に

かなり色んな努力をしていた

おしゃれなネオン看板を店前に置いたり

しょんべん横丁の入り口には街灯まで立てた

そして女性が躊躇する汚く薄暗かった共同トイレも

アメニティを置いたり清潔に変えた

横須賀出身らしい店名も人目を引いたが

お客さんの入りは芳しくなかった

その内営業時間も適当になって

マスターの士気がどんどん下がっているのは目に見えた

それでも一部の常連さんで朝方まで灯りが点いていた


今月に入って例のママから

「あの店、先月いっぱいで閉めちゃったのよ

　マスターが挨拶に来たんだけど

　何だか突然だったわね…」

そう言えば少し前にその店の常連さんに

「色々嫌がらせとかされちゃうみたいだよ

　おもてに出している看板の電源コードを切られたり

　街灯も倒されたりしてたみたいだよ」

と聞いたことがあり

薄暗い裏通りなので酔っ払いがイタズラする事はあるだろう

しかし意地悪な嫌がらせは単なるイタズラの域を超えている様だった

そう言えばチンピラに乗り込まれて

店の中をメチャメチャにされて

マスターも殴られたと言う話も聞いた

そんな事が続けばやはりやる気も失せると言うものだ


先述のブログの管理人がこのしょんべん横丁にまた訪れていたら

きっとマスターの店もカメラに収めていただろう

其処にはどんな感想が添えられていただろうか

２月最後の土曜日の模様

喉の具合がまだ悪い

時おり激しく咳込んでしまうのだ

薬とのど飴は常に鞄の中に入っている

そんな調子なので仕事から帰って来ても

すぐに横になってしまう毎日である

不思議と食欲は衰えないで

先程も近所のスーパーに食料を調達に行って来た

何にも予定のない暇な日曜の夜である


さて今週末は早い時間が暇だったが

日付が変わる辺りから店は一気に賑やかになった

珍しく女性客が少なく

イケメンばかりの楽しい夜となった

中でも初めてご来店のＡ大の先輩後輩３人組が最高だった

先輩格のユウヤは２９歳で広島出身だと言う

南国系の濃い顔で目元が非常に印象的だ

オリラジ藤森の様なメガネをかけているが

それを取るとホントに女性には不自由しなさそうなルックスだ

そのユウヤは３人の中で落ち着いていて

あまり積極的に話さない

どこかミステリアスな雰囲気をたたえている


隣に座って色々と聞いてみたら何と超ドＭだと言うのだ

しかもかなりのレベルの様で

ここでは書けない様なプレイもＯＫとの事

そんな２人の危ない会話を

後輩のミスチル桜井似の腰パン君が心配している

「あんまり先輩を変な道に誘わないで～」

「大丈夫よ、郷に入ったら郷に従えって言うでしょう」

ワケわかんない屁理屈で後輩達を無視して私たちは変態ワールドへ…

ユウヤは身体のアチラコチラの性感帯が

そっと触っただけなのに過剰反応して吐息を漏らしている

面白いくらいに敏感なのだ

ドＳの私は思いっきりいたぶってあげたのだ

と言っても脱がしたりピンサロみたいな事はしてないわよ


隣の席にはコウちゃんが居て恨めしそうに見ている

さっき電話で「新人が入ったから見にいらっしゃいよ～」と営業かけたら

ホイホイやって来たのである

新人と言ってもサナエさんである

ヘアスタイルを少し変えてイメチェンしたのだ

と言っても何度もこの手でコウちゃんを欺いているが

その都度「また騙された～！！！」とか言いながらもやって来るのだ

「ねえ何処？新人ニューハーフは？？」

「あらやだ、隣に居るじゃないヤヨイちゃんよ」

「うそー、このお婆ちゃん前から居るじゃん」

「誰がお婆ちゃんやねん！！！」

懲りないコウちゃんをからかいながらも

先程のユウヤもいたぶると言う合わせ技だ


他のテーブルにもイケメンが酔い潰れていて

先程からトイレを行ったり来たりしている

キャッチ中に隣の居酒屋へ入ろうとするグループに挨拶したら

後で寄ってくれたのだった

一緒に来ている女性もさっきは威勢が良かったが

日本酒を煽ったとかでずっと泥の様に眠っている


他にはやはり初めてと言うガテン系の２人

「オレたち何処も出入り禁止なんだよ」

「どうして～こんなに良いオトコなのに～」

「すぐに暴れちゃうからよ」

よく見ると指に少年院で入れたと思しき入れ墨が…

でもこう言うヤサグレ系は意外とオカマバーで盛り上がってくれるのだ

なるべく怒らせない様に気を遣いながらカラオケを勧める

「キャ～渋いわ～濡れちゃう～」

小一時間楽しんで帰って行った


ところでユウヤ

相変わらずトロンとした目でご主人様を待っていた

でも残念ながら時計の針は４時だ

そろそろお開きよ～

悪い魔法から覚めるように照明を明るくする

「店内が暗いから忘れ物が多いのよ

　よく確認してね～」

全てのテーブルがお会計を済ませ

お見送りをする

コウちゃんは物足りなかったみたいで

この後は吉祥寺に行くそうだ

いつものパターンである

ユウヤは後輩と向かいの店の前で座り込んでいる

「酔っちゃったのね～

　風邪引くから早く帰るのよ～」

手を振りながらドアを閉めた途端カツラを脱ぐ

さあこれから後片付けよ～

そして日曜日へと突入よ～

有線から流れるナニワ演歌が「おつかれさん」と言ってくれてる様だった

コスプレの女王

ここのところ私のブログの更新が滞りがちである

風邪がなかなか完治しないから

ついつい出勤ぎりぎりまで布団の中に居るのである

お店の方はありがたい事にお客様に恵まれている

体調が悪い中、満足に接客出来ないのがもどかしいくらいである


先日店の近所の韓国家庭料理店のママに

「アンタ私が着なくなった派手な服がいっぱいあるのよ

　今度遊びがてら取りに来て」

彼女は私と同じくらい太めなので

「あら嬉しいわ～」と

火曜日に早速遊びに行ってみた


ちょうどその日はママの店の常連ヒロミちゃんの誕生日

何人かのお客様が彼女を祝うために集まっていた

ママのお姉さんもこの日は店に出ていたが

彼女はかなりパンチが効いている

化粧ッ毛がないので最初はママのお母さんかと思った

「あら失礼ネエ」

良い按配に枯れた声もまるでオカマのようである


隣のお席にはＡＫＢの様なセーラー服を来た小太りの女性が腰掛けていた

「今日のテーマは前田敦子ちゃんよ」

彼女はコスプレ好きで

毎月その為に何万か費やしているらしい

この日も東急ハンズのバラエティグッズのコーナーで

上から下まで揃えて来たそうだ

他にも色々なバージョンがあるのよ

穏やかに語る彼女

でも何故そんなにコスプレに命を賭けるのだろう

聞くと私と同い歳だ

どちらかと言うと地味な印象だ

酒を飲む時くらい思いっきりハジケたい

コスプレで違う自分になって大暴れしたい

変身願望の一種だろうか

飲み屋のお客様って色んな方が居るわよね～

ヒデミもインフル

風邪ひいて辛い日々を送っている

熱が出ないのがホント不思議なくらいだが

当所は悪寒が酷く一日仕事を休んだ

現在は悪寒も治まり食欲も出て来たので

仕事終わりに松屋に立ち寄ったりもしている

しかし治りかけた頃にまたうつされる事だって有り得るので

通勤以外では人の集まる所へはなるべく近付かない様にしている

これだけインフルエンザが流行っていると言うのに

未だにノーマスクで平気で居られる人が多いからだ


今朝も仕事帰りの小田急線

向かいの座席に腰掛けたオヤジが激しく咳込んでいた

その口にマスクはなくハンカチなどで押さえる事もない

「もう勘弁してよ～」と私はすぐに車両を変えたが

後から乗って来た男子学生はさほど気にする風でもなく

スマホの画面をなぞっている

日曜日の早朝なのでまだ座席に余裕はあるが

これが平日の満員電車内であったらどうだろう

マスクは面倒だし息苦しいかもしれないが

保温効果や口周りの肌を乾燥から防ぐ良い面もある

私も一時期、乾燥による唇の荒れが酷かったが

マスクをするようになってから症状が改善されたのだ

それにマスク美人効果ってのもあると思う

顔の下半分を覆うので目元が綺麗な人はさらにそれが強調される


ところで先日ヒデミが悪酔いした翌日

早々と私にメールがあり「風邪引いたので休ませて」との事

きっとインフルだと思うので

「さっさと病院に行った方が良いわよ」と念を押した

更に翌日メールで

「インフルだったわ、休みます」

あの強靭なヒデミですら倒すインフルの猛威

ホントご用心あそばせ

風邪引いて…

月曜日の仕事終わりに軽い悪寒がしたので

もしやと思ったら

案の定風邪を引いてしまった

西友で買った食材で手っ取り早く雑炊を作り

その後はひたすら布団の中から出なかった

と言うよりも出られなかったのだ

悪寒は時間が経つにつれ酷くなり

お薬を飲んでも緩和しないので

仕方なくヒデミに代打を頼んで

私は火曜日、お休みする事にした


そんな日に限って私のケータイが鳴るのだ

かれこれ何時間寝ていたのだろうか

目覚まし時計は１０時過ぎ

店の営業は既に始まっている

この日はバレンタインデーで

毎年女性客か女性連れのお客様がチラホラお見えになる程度で

それほど忙しかったと言う記憶がない

クリスマス・イブとバレンタインデーに

男性が単独でお見えになるのは珍しい

いろいろ訊いてみたところ

その日に飲み屋に行くのはいかにもモテないみたいで

敢えて行かないと言う

決してそんな事はないと思うのだが

むしろこの日に来て下さった方にはいつも以上に真心接待するのに…


一夜明けて水曜日

この日は私とヒデミの２人体制だが

実はまだ体調が万全ではなく

誰かに代打を頼もうとしたが見つからず

ママに連絡すれば「お店を臨時休業して頂戴」と言われるに決まっているので

何とか頑張って出勤した


一番乗りはアッ子ちゃん

今度の土曜日に彼女のお誕生日をお祝いする為に

立川のショーパブからママを始め何人か集まって下さるので

そのご挨拶も兼ねてのご来店だった

続いてⅠちゃん、久々のＹちゃん、そしてカラオケ好きのＫさんと続き

Ｏさんは吉祥寺のキャバ嬢と一緒にお見えになった

こんな日はヒデミが悪酔いしてお客さんを怒らせるパターンだ

カラオケ好きのＫさんは歌う気分ではなかったらしく

早々に退散

入れ替わる様に久々のコンノちゃん登場

相変わらず大きな声だ

と、ここまで記していたら吐き気がし始めた

さっさと寝る事にしよう

また次回…