人身事故

この時期って多いのよね～

何が？って

電車への飛び込み自殺が

もう勘弁してよ～って感じなの


昨日も駅に着いたらアナウンスが響き渡っていたわ

「先ほど○○駅で起きた人身事故の影響で…」

またなの？

先ほどって事は電車止まってんのかしら

ホームには、ぎゅうぎゅう詰めの各停新宿行きに人が殺到

やだわ、最悪の事態なのかしら？

先週も新宿駅のホームで起きた人身事故で

私の乗ってた電車も足止めを食ったばっかなのに

待合室の椅子に座って、店に「遅れる」旨のメールをしようとしてたら

金切り声を張り上げて向こうから歩いてくる女性が…

「ったく！事故は仕方ないと思うの

　　　だけどね、駅員の態度が最悪だったのよ！！
　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　どうなってんのよホントに！！！！」

どうやら事故の影響で、待ち合わせに遅れそうな彼女

駅員に「次の電車は何分頃に来るんですか？」と尋ねたところ

「ちょっと分からないですね～その都度アナウンスでご案内します」

って返事だったようなのよ

ダイヤが滅茶苦茶に乱れて、駅員も正確な到着時刻はすぐに答えられないよね

それなのに、彼女は他のストレスも一緒に駅員にぶつけたようなのよ

「もう田舎の駅ってコレだからイヤになっちゃうわ！！」

一方的にガンガン吼えまくっている彼女の電話の相手に同情したわ

その内に怒りは少し収まったようで

「なんかさァ、○○ってバイなんでしょ？

　　　　私はデキるけど、やっぱ△△がイイわァ～」

話はあらぬ方向へ

待合室に居合わせた人たちは、さきほどからの彼女の剣幕に

かなりウゼ～と思っていたはず

さらに下品な話に変わってからは

「コイツ今すぐ消えて！！！」

って視線を浴びせているの

さすがに彼女も

「やだ～、何か私ヒンシュクみたい」

今頃気付いてんじゃないわよ


もう人身事故はこりごりよ～




　　

憧れのエレガ

私が子供の頃に憧れた職業はエレガだったわ

デパートに連れてって貰う度に、用もないのにエレベーターに乗ったの

「上に参りま～す」

白い手袋も眩しく、フロアの案内をするお姉さんが素敵だったわ

ある時、そのデパートがリニューアルして展望エレベーターを設置したの

ビルの外壁を這うように昇降する姿が神々しかったわ

何度も乗ってお姉さんの口上も丸暗記したわ

その内、自分でもエレガの気分を味わいたくなって

近所のマンションのエレベーターで遊んだものよ


学生になってバイトニュースを見ていたら

ビアガーデンのエレベーターボーイ募集ってのがあったの

当然応募したわ

面接当日になって他のバイトの方がギャラが良くて泣く泣く諦めたんだけど

どうしても気になって、そのビアガーデンに行ってみたの

１階エレベーターホールに独特の抑揚が響き渡ってたわ

私と同じくらいの男の子が

「ビアガーデンまで直通でご案内いたしま～す」

必要以上のスマイルと大袈裟な仕草がノンケじゃない事を物語っていたわ

混んでも居ないのに

「どうぞ中ほどまでお繰り合わせ願いま～す」

よく見るとリップクリーム塗ってるし

ビューラーでまつ毛を９０度にカールしてるワケ

本人はすっかりアイドル気分なんだわ

でも、その気持ち　わっかるゥ～

アタシだって負けないわ～

意味のないライバル心を燃やし

近所の雑居ビルのエレベーターで

「上にまいりま～す」


ホントにアホなわ・た・し

悪夢ふたたび

新潟でお店をやっているミッ子ママから久々に連絡が…

このママとは、オカマデビューしたお店からのお付き合いだ

近所でミッ子ママも店をやっていた


何らかの事情で、実家の新潟に戻る事になり

お姉さんと一緒にクラブを開いた

「ねェ、今度一周年記念のイベントやるからアンタも手伝って」

ママの誘いに、友達のオカマと一緒に東京から応援に行った

美味しいバイトと思っていたのだが甘かった

さすが新潟、みんな酒が異常に強い

私も負けじと飲みまくっていたら

意識を失った

だって半端じゃないんだもん

気が付いたらトイレの冷たいタイルに頬を当てていた

ショータイムが酔いに拍車をかけたようだ

円広志の♪飛んで飛んで、周って周って～

に合わせて暴れたのがいけなかった

胃の中は苦い汁しか残っていないのに

何度も何度もこみ上げる

この日のために用意したドレスもヅラもドロドロだ


懲りない私は、あれから何度かミッ子ママの店を手伝いに行った

その都度ナイアガラの滝の様に吐きまくった

もう二度と行くまいと心に誓ったのに

またミッ子ママの電話に出てしまった


「ねェ、新潟の店閉めたのよ～」

「うっそ～、あんなに繁盛してたのにィ？」


「それでねェ…

　　　　　　　こんど東京で店開く事になったの」

「　…ママ…良かったね…　」


ううッ…胃がシクシクしてきた

酒乱のヒデミ

んもうッ！またヒデミさんがやらかしたわ

ヒデミさんは私がこの店に入る前から居たんだけど

その時に居た先輩のミコさんが

「あの子には気を付けなさいよ。変わってるからね～」

その時はミコさんの言ってる意味がまだ分からなかったの

不器用でトークもイマイチ

人の良さだけが取り得みたいなヒデミさん

お世辞にも可愛いとは言えないルックス

胸だけは１００万かけて手術済み

しかし、それが活かしきれてないの

「胸より前に治す所があるだろッ！」

ってお客さんから突っ込まれてたわ

そんなヒデミさん、実はかなりの酒乱なのよ

ビールをグラスに５～６杯でモード突入

タチの悪い酔っ払いになって大人しいお客さんにクダまき始めるの

おまけにママにまで楯突いて一度クビになったの

出戻ってからも相変わらずで

最近はママから禁酒令が出されていたの

それなのに又…

このヒデミさんに最も頭に来てるのがサナエさん

「今度からんで来たらタダじゃおかないわ！！」

お客さんが差し入れてくれた折り詰めをつまみながら

怒りに手が震えてる

「お姐さん、そんなにカッカしないでェ」

とか何とかサナエさんをなだめながら

ハブとマングースの戦いを期待している

悪魔のワ・タ・シ

春の嵐

昨日は凄い強風だったわね～

せっかくの日曜日だったからお買い物でもと思ってたんだけど…


そう言えばデビュー当時に働いていた店でこんな事があったわ

大ベテランの純子姐さんに可愛がってもらってた私

「エドナちゃん、もし良かったらこのカツラあげるけど」

オシャレな純子姐さんはドレスや着物、靴やウイッグに至るまで

もの凄い数持ってて

使わなくなった物は後輩に譲ってたの

安物のヅラを被っていた私を不憫に思ったようで

人毛で出来た高価なウイッグをくれたの

他店にお客様を迎えに行く前で純子姐さんも素敵なウイッグを被ってたわ

「お姐さん、豪華ねえ。ハイネットの最高級品じゃない」

「そうなの、とってもフィット感も良いし自然でしょ？」

ピンクのロングドレスを更に引き立てる見事なヘアだったわ

二人はタクシーで人通りの多い場所にある“サパー綾”へ向かったの

「さあ着いたわ、先に降りて」

私を先に降ろして、支払いを済ませた純子姐さん

その日は春の嵐が吹いてて

運悪く目的の店はビル街にあったの

タクシーを降りた純子姐さんを容赦ない強風が襲ったわ

「あっ！お姐さん！！」

無残にも高価なウイッグは風に飛ばされ

道路を転がって行ったわ

そこへ何台もの車が通過して行ったの

呆然と立ちすくむ私とお姐さん

店では黒木瞳ばりに女っぽい姐さんだけど、普段は短髪オネエ



その日を境にお姐さんは髪を伸ばし始めたわの