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アプレ・モワ・ル・デリュージュとふ罪深き言の葉浮かぶ震災の日に
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亡き祖母の煎じくれける野の草がかくも可憐な花咲かすとは
薄幸の祖母は俳句を詠みゐたりかな女を師とししげ女の名にて
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埼玉屋と新潟屋とを教へ子とはしごしたりき夏よ終れと
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―<「ハンス・コパー展―20世紀陶芸の革新」(汐留ミュージアム)を観て>
リーに次ぐコパーの峰の高かりきフォルム、磁肌の魂を奪ひて
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去り行かぬ酷暑の陽にぞ紫の秋色光る式部の珠の
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―<「ハンス・コパー展―20世紀陶芸の革新」(汐留ミュージアム)を観て>②
迫害を逃れ異郷で異才をば育て咲かせぬリーとコパーは
現代と古代の垣も超えゆけりコパーの磁器は謐(しづ)かに立ちて
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権萃(ゴンズイ)の実の熟して赤けれど鳥らも飛ばず酷暑の昼に
経済も政治もなにもうそ寒きこの列島ゆ熱波の去らず
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ジョギングで汗を流せば塩焼きの小鯛のうまし独り夕餉も
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雑草(あらぐさ)に白く可憐な花咲きて名をば知り初む六十路半ばで
人知るや狐の孫の丈低き草にぞ化けて身近に咲くを
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七重八重花は終れど山吹の実の黒々となるぞうれしき
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―<NHK「ファミリーヒストリー」第3回「高橋惠子」を観て>
会釈をばつひ為したれどさもあらむ関根惠子のいぶかしみけり
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やうやうに酷暑途切れど朝より雨風荒れて窓開けやらず
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ラクロスに若さ注ぎて濁りなき笑みをば笑みぬわが姪たちの
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新しきスポーツなれどラクロスの若きこころをとらえつつあり
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酷熱の終はり近きを知らせけりヤブミヨウガの実にアキアカネゐて
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―<9回目の9・11の日に>
暴力の連鎖断たむの気概持つ政治家出でよこの列島に
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蓼薫る野辺にぞ秋の近づかむ陽射しの未だ夏にしあれど
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吹く風の秋の気配を運び来てエアコン要らぬ夜とはなりぬ
江戸人(びと)の好みしボラの刺身をば今夜も食みぬカルパッチョにして
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地を覆ふ荒れ地瓜にぞつつましく咲く花あれど瓜は生らずと
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変革の期待のすでに喪はる民主の党首菅に決まれど
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生繁る猛き葉群に遅咲きし葛の花にぞ酷暑を思ふ
手造りし舌にとろける〆鯖を夕餉に食めば秋の来にける
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蓮の葉の覆ふ池面に一輪の花くれなゐに咲き残りけり
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空仰ぐレインリリーの花群の白き気品に眼奪はる
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クマゼミもツマグロヒョウモンも北上をじわり続けむこの列島は
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―<ハインリヒ・シュッツ「白鳥の歌」[遺作](合唱:ハインリヒ・シュッツ合唱団、指揮:淡野弓子、東京カテドラル聖マリア大聖堂、9/17を聴きて)
魂ゆすり魂を洗ひて聖堂にシュッツの歌は響き溢れぬ
戦乱の三十年を生き延びしシュッツの歌よ白鳥の歌よ
大シュッツ在りしゆゑにぞ大バッハ生(あ)れたるならむその幸思ふ
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江戸前の海の汚れて忘らるる鯔(ボラ)の美味をば知るぞうれしき
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不気味とてかつて厭ひし花咲けり此岸(しがん)を赤く彼岸に染めて
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―<大阪地検特捜主任検事の証拠フロッピー改竄事件の露見して>
絶対になればなるほど腐りゆく権力なりき特捜もまた
巨悪撃つ特捜神話崩れ去る検事自ら巨悪を為して
検察のトップはいづこ次席のみ記者会見に現はれにける
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天上で咲くやは知らぬ辺りをば異界と化して曼珠沙華咲く
昼もなほ小暗き杜に底紅の木槿の白く八重咲きに咲く
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酷熱の夏の去りゆき秋訪ふを知りて咲くらむ名もなき花らは
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暴虐の酷夏にとどめ刺すごとく秋風秋雨の荒れにぞ荒れし
胸底の深き淵にぞ眠りゐる思ひの時に疼き目覚むる
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―<「田中一村 新たなる全貌」展(千葉市美術館)を観て>
一村のかく一村となりたるか思ひ溢るる眼も胸も
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日中の共に滅びよ人住まぬ小島争ひ戦交へて
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見るたびに丈伸びゆきて驚きぬビルの狭間のスカイツリーは
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老いてなほこころ躍りぬくれなゐの彼岸の花に揚羽の舞へば
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宵闇の迫るを知るや咲き浮かぶ彼岸の花はくれなゐに燃え