夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

新聞記事の間違いは文章を訂正すれば済む問題か

2011年01月21日 | 言葉
 今日の東京新聞の朝刊を読んでいて、小さな訂正記事で私はびっくりしましたねえ。訂正記事は次の通り。

 日航元機長らの会見記事で、原告団長の山口宏弥さんの発言に 「いずれ大事故に結び付く」 とあるのは、「今後、さまざまな問題が発生する」 の誤りでした。

 言葉の間違いではないし、外国語を翻訳した間違いでもない。どのような話し方をしたのかは知らないが、「今後」 が 「いずれ」 になるのは分かるとしても、「さまざまな問題が発生する」 と 「大事故に結び付く」 はまるで違うじゃないか。こんないい加減な間違いがあり得るものか。
 そこできのうの新聞を引っ張り出して来て読みましたよ。
 話の顛末は、昨年末に整理解雇されたパイロット達146人が、解雇は無効だとして東京地方裁判所に提訴して、その原告達の会見である。「裁判を通じて経営破綻の原因を突き止めたい」 と言う。見出しは 「再生 協力したのに」 である。これだけで言いたい事は十分分かる。団体交渉で破産管財人は 「破綻の原因は社員にあった」 と言ったと言う。原告達は、「労組は投資事業の拡大や放漫経営について再三指摘したが、経営陣は改めず、破綻に至った」 と経営サイドを批判している。
 こうした記事の最後に問題の発言が書かれている。

 機長で原告団長の山口宏弥さんは、日航の人員削減計画について 「いずれ大事故に結び付く」 と批判。 「安全と公共性を守るため146人は立ち上がった」 と訴えた。

 上の文章を訂正文の通りに訂正してみる。

 機長で原告団長の山口宏弥さんは、日航の人員削減計画について 「今後、さまざまな問題が発生する」 と批判。「安全と公共性を守るため146人は立ち上がった」 と訴えた。

 「安全と公共性を守るために立ち上がった」 の、特に「 安全を守る」 と 「大事故に結び付く」 は密接に関連する。我々は、そうか、社員を減らす事は安全に問題があるのか、と納得する。しかし本当はそうではなかったと言うのだ。「さまざまな問題が発生するから、安全と公共性を守るために立ち上がった」 のだと言う事になってしまう。でもそれではあまり説得力が無い。
 つまり、原告団長の発言はすっかり色あせてしまう。
 この記事に関して、私が思っている問題は幾つもある。
 一つは、上に述べたように、記事を訂正してみると、何のこっちゃ、と言いたい、内容のよく分からない記事になってしまう。団長の発言は意味を持たないし、と言う事は、記事の結びその物も意味を持たなくなる。単に文章を訂正しただけでは終わらない重大な結果となる。
 一つは、何でこんな考えられないような間違いが発生しているのか。これは普通によくある記事の訂正とはまるで性格が違う。団長の発言内容その物にまで疑問を感じてしまうような間違いなのだ。
 百歩譲って、こうした間違いが生じたのは無理の無い事だったとしよう。それでも、これは原告団長から抗議があったりして間違いに気付いたに違いない。もしもそうした事が無かったら、この記事は大手を振って通っている訳だ。そうなると、同紙の記事にはこうした間違いがしょっちゅうあるのかも知れない、それが単に間違いだと指摘されていなだけに過ぎないのだ、と思うのは不思議ではない。

 東京新聞は訂正記事で済むと思っているらしいが、これはそんな簡単な事ではない。新聞社の信用を揺るがす大問題だと私は思う。まあ、新聞がどこまで真実を書いているかとの重要な問題があるから、それを考えればこれは小さな事かも知れない。しかし、小さいけれども、新聞の真実とはこうした物なんだよ、と教えてくれる証拠の一つにもなる。
 こんな事を書いていると、どこからか、新聞を信じている方がおかしいんだよ、との声が聞こえて来そうだが、それでおしまいではどうしようもないとも思うので、それに購読料も払って読んでいるのだから、言ってみてもしようがないとは思いながら、書いている。