夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

「なぎ倒す」 ってどのような事?

2011年01月16日 | 言葉
 日本列島が大雪に見舞われて、あちこちで被害が出ている。今朝のテレビ朝日では石川県金沢市で大雪で根元から倒れた樹木を映して、アナウンサーが 「木がなぎ倒された」 と言っていた。えっ? 「なぎ倒す」 ってこうした事か? と疑問に思った。
 と言うのは、「なぎ」 は 「なぎなた」 の事だと思っていたからだ。つまり、なぎなたを横に払って切るようにして倒す事を 「なぎ倒す」 と言う。映像で見た樹木はそんな風には見えない。雪の重さに絶えかねてメリメリッと折れたのだろうから、最初は少しずつ、そして徐々に加速して、最後にはドサッと倒れたに違いない。従って、その折れた部分はギザギザで複雑な形をしている。
 辞書で 「なぎ倒す」 を調べた。

・薙(ぎ)倒す=横に打ち払って倒す。相手を勢いよく打ち負かす。「強豪をなぎ倒す」
・薙(ぎ)倒す=大きな草などを、横に払って倒す。「たたくたびに杖の先がすすきを薙ぎ倒す」
・薙倒す=刃物をよこにはらって、切りたおす。「雑草を薙倒す」。大ぜいの敵をうち負かす。
・薙ぎ倒す=勢いよく横にはらって倒す。「台風で薙ぎ倒された稲」。大勢の相手を勢いよく打ち負かす。

 四冊の小型辞書はほとんど同じ見解である。原義は 「刃物を横に払って切り倒す」 である。「なぎなた」 は 「長刀」 「薙刀」 と書かれるが、物を 「なぐ」 からの命名である。「なぐ=横ざまに払って切る」。
 それぞれの辞書の用例で 「薙ぎ倒す」 対象は、「すすき」 「雑草」 「稲」 で、樹木は無い。樹木は刃物を横に払っても切り倒せない。「強豪」 とか 「大勢の敵 」に対しても使うのは、「勢い良く倒す」 事からである。

 またまた重箱の隅をつついている、と言われるのは覚悟の上。「薙ぐ」 との言い方から 「薙刀」 の名前が生まれた訳だが、「薙ぐ」 の言い方がされなくなっても、「薙刀」 は残っている。だから 「薙ぎ倒す」 の意味も 「薙刀」 を通じて分かるはずである。
 倒れた樹木を見て、我々が「 木が薙ぎ倒されている」 と言うのは許されても、プロであるアナウンサーが言っては駄目だろう。アナウンサーとは元々はその言葉通りに 「アナウンス」 をする人である。だから発音がはっきりしていて、標準語が話せる事が必須だった。今では原稿を読むだけでなはく、外に飛び出して行って取材もする。だから物を見る目もしっかりしていなければならない。特別に 「アナウンサー」 と 「リポーター」 に分ける必要は無いはずだ。
 だから、カメラに向かって報告をする人は、正確に物事を見て、はっきりと正確に伝える必要がある。それが出来て初めてプロである。聞く所によると、民放の社員の給料は非常に高いそうだ。もちろん、その給料は我々が払う訳ではないが、我々が払う商品の価格の中から、CM料金として民放各局に支払われている。
 そこまで考えずとも、自分の仕事を考えたら、もっと言葉に敏感であるべきではないだろうか。物事をいくら正確に見ても、それを正確に伝える技術が伴わなければ、情報はいい加減にもなってしまう。そう言う私とて、そんなに言葉が正確ではない。だが、敏感ではある。だからこのように疑問に思うたびに辞書に当たり、色々と調べている。
 言うまでも無く、我々は言葉で考えている。その言葉が不確かなら、考えた結果も不確かに終わる。
 テレビ朝日の先輩社員は、あの放送のあの表現を聞いて、多分、そのアナウンサーに 「君、ああした場合に、薙ぎ倒す、は不適切だよ」 と言って、正しい言い方を教えているに違いない、と思っている。正しい言い方は何かって?
 さあ、私も知らない。でも 「薙ぎ倒す」 ではなく、「雪の重みで根元から折れている」などと言う。