壁際椿事の「あるくみるきく」

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『震災復興 欺瞞の構図』(原田泰著)

2012年06月04日 | よむ

『震災復興 欺瞞の構図』(原田泰著)を読みました。著者は早稲田大学教授。ぼくにとって、コペルニクス的転回の内容でした。

日本全体の工場や自宅、道路や橋、港などの物的資産(土地は含まず)は、1234兆円(内閣府「国民経済計算」2009年より)。日本の人口は、1億2806万人。割り算をすると、1人あたり966万円です。

僕には、一人当たり資産が、966万円といわれても、ぜんぜんピンと来ませんが、裕福な人もいるので、まあ、妥当な線でしょう。

一方、このたび被災を受けた人は東北の太平洋沿岸部の人が多い。「震災で非難された方は、ピークで約40万人である(警察庁緊急災害警備本部)。すると、自宅に住めないような深刻な被害に遭われた方はせいぜい50万人程度だろう。」(引用)

よって、(モノの回復に限った)震災復興に必要な予算は、966万円×50万人=4・8兆円。
(注:心理的キズの治癒・文化的な回復に必要な予算は含んでいません。っていうか、心理・文化の復興にお金は決定的要素にならないですよね)

著者は、あらゆる角度から、この数字の妥当性を示し、震災復興にはこの程度の額で十分だろう、と言います。であるのに、なぜ政府が言うような19兆~23兆円もの予算が必要なのか? (命を救う活動は素早かったのですが、その後の)被災者の生活再建の支援は、なぜ遅々として進まないのか? この2つの疑問に答えるのが、本書の内容です。

●結論
莫大な予算が必要な理由>高台移転や仮設住宅など、実効性のない政策をしようとしているため。
遅々として進まない理由>政治や行政が、市民が寄せる期待感を、長く持たせるようにするため。

著者は、労多くして効少ない高台移転は、(農地法を緩和し)塩害を受けた田畑に家を建てることで解決できる、また仮設住宅は、空きアパートなどを活用(一部、みなし仮設として採用されていますね)すればいいと言います。仮設住宅は1世帯500万円かかるけど、2年で撤去ですからねぇ。ムダです。実際、恒久的なアパートのほうが暮らしやすい、とも聞きます。

政策の実施が遅い理由は、こんな例で説明します。北海道や北陸の新幹線。計画あれど、工事は進みません。なぜか? 「新幹線が来るよ」と地元に期待させているうちは、与党の政治家は支持されるが、いったん開通してしまえば、市民にとって、与党も野党も関係ないからだ、というのです。いま権力を持っている者にとって「寄らしむべし」を地で行く作戦ですね。

もちろん土地収用など計画が進まない問題はほかにもあるのでしょうが、なかなか説得力のある論理です。

ご興味のある方は、ぜひ。




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