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信濃(しなの)なる 千曲(ちぐま)の川(かは)の 細石(さざれし)も
君し踏みてば 玉と拾(ひろ)はむ
=巻14-3400 作者未詳=
信濃の千曲川の小石でも、貴方が踏んだ石ならば玉として拾いましょう。という意味。
万葉学者犬養先生の文章に、印象に残る次の名文がある。
「東歌の千曲川の歌はこの付近の庶民の間で謡われた歌でもあろう。恋人の踏んだ小石には、恋しい人の魂がついている。
この歌は恋する千曲乙女の純情の心で、彼氏の踏んだ小石を拾いあげ抱きかかえて、「玉だわ」といっているのだ。
一つの小石も彼女にとっては、なによりの珠玉でさえあるのだ。石を玉にする人間の心の厚みも深さも思われるではないか。
それは朝の曙光に輝く月見草の朝露にも増した綺麗な人間の心だ。・・・」
犬養先生はこの歌が大好きだったようで、本や講演でたびたび解説されている。
印象に残っているのは、広大な信濃から千曲川をズームインし、さらに河原の小石にズームインするといった生き生きとした映像描写を見るような歌だというようなことを言われたのを思い出す。
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万葉橋のたもとに立つと、はるか古代万葉の姿が彷彿と蘇ってくるようだ。しばし川風を感じながら川面を見入っていると、河原で円陣を組んで体操している元気な若者グループに気が付いた。万葉は遥か遠くに想うのみか。
この万葉歌碑は千曲市上山田温泉の千曲川堤にある千曲川万葉公園(万葉橋北側)に建っている。
この碑の揮毫者は万葉学者の犬養孝さん。
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歌碑は万葉仮名で書かれている
”信濃奈流 知具麻能河泊能 左射禮思母 伎弥之布美弖婆 多麻等比呂波牟 孝書”
この碑の裏面に、「佐久屋万葉歌碑の記」として以下の事が記されている。
「昭和六十年四月上山田温泉の新名所千曲川万葉公園竣工式が行われた。その折来賓として来町された大阪大学名誉教授文学博士犬養孝先生が当佐久屋に宿泊されこの碑の万葉歌の書をしたためられた。佐久屋ではこの書を石に刻み当温泉を訪れる文人墨客の旅情を慰めようと計画し犬養先生をお迎えしてこの碑を建立したものである。 昭和六十一年九月二十八日 上山田町長山崎尚夫書 (株)佐久屋旅館 小林茂一」
上山田温泉の佐久屋旅館の前庭に1986年(昭和61年)に建てられ、2010年にこの場所に移設されたという。
その犬養孝さんゆかりの佐久屋旅館は平成21年10月末に90年の幕を閉じ閉店したとのことである。
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