水俣病未認定者に救いの手を差し伸べたのは、またもや司法だった。国は直ちに、水俣病特別措置法(特措法)の基準を見直すなどして、救済を急いでほしい。
居住地域など、特措法の「線引き」で、救済対象から漏れた128人が、国と熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めていた訴訟で、大阪地裁は、原告全員を水俣病と認定し、損害賠償を命じた。
国は、水俣病の認定基準を「複数の症状の組み合わせが必要」などと厳しく定めていたが、最高裁が2004年、「手足の感覚障害だけでも認定できる」とより広い基準にすべきだとの判断を示した。
それまで国の救済対象は「認定患者」ら約1万4千人にとどまっていたが、最高裁判決に促され、09年、対象を広げるための特措法が議員立法により成立した。その3条では「救済を受けるべき人々が、あたう限り(できる限り)すべて救済されること」を目的に挙げている。
ところが、同法に基づく救済措置(1人210万円の一時金支給など)を定めた閣議決定で、対象を、水俣湾に近い熊本、鹿児島両県の一定地域に1年以上住んでいた人▽チッソがメチル水銀の排出を止めた翌年の1969年11月末までに生まれた人-などと限定。このため、申請者4万8千人余のうち1万人弱が不認定になった。
今訴訟の原告はこの一部で、出身地の熊本、鹿児島両県から、就職などのために愛知、岐阜、三重の各県や大阪府などに引っ越した後に症状が出た人も多い。熊本県内だが対象地域外で生まれ、今は名古屋市に住む女性は「しびれなどに今も苦しんでいる。『最終解決』を掲げた特措法に切り捨てられた」と昨年の法廷で訴えた。
判決は、原告らの主張を全面的に認め、「対象地域以外でも汚染魚を多食すれば発症しうる」「水銀の摂取後、長期間経過して発症する遅発性水俣病の存在を示す研究結果がある」-などと述べ、国の線引きの合理性を否定した。
同趣旨の訴訟の判決は今回の大阪地裁が皮切りだったが、熊本、東京、新潟の各地裁でも続いている。水俣病が公式に確認されてから67年が経過し、総数約1700人の原告も高齢化が進む。国は、他訴訟の結果を待つことなく、早期に線引きを見直し、全面救済にかじを切るべきだ。でなければ、水俣病に終わりの日は来ない。
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「ノーモア・ミナマタ」近畿訴訟勝利
「国は控訴するな」 環境省前で被害者ら
「しんぶん赤旗」2023年9月28日【社会】
水俣病被害者救済特別措置法の救済対象から外された患者らが原告となり、国などに損害賠償を求めた「ノーモア・ミナマタ訴訟」。大阪地裁で近畿訴訟の判決が言い渡された27日、東京都内でも全ての水俣病被害者の早期救済を求める行動が取り組まれました。
環境省前には全国各地の水俣病被害者と支援者らが集まり、勝訴の横断幕を広げて「国は控訴するな!」と声を上げました。
近畿訴訟の早川光俊弁護士は「完全勝利です。環境省が続けてきた地域や年代による線引きを突破した」と判決の意義を強調。これまでの行政の誤りを明確に断定する内容だとして「環境省はただちに反省し、全ての水俣病被害者の救済に向けて行動するべきだ」と述べました。
集会には近畿訴訟の原告も参加し、支援への感謝を表明。熊本県天草市出身の森下照美さん(61)は「私たちが精いっぱい頑張ってきたことが認められた。職を失った仲間もいる。国は絶対に控訴しないでください」と切実な思いを語り、鹿児島県長島町出身の本(もと)良夫さん(67)は「長期間の裁判で亡くなる人や症状がひどくなる人が増えてきた。国に早期の全面解決を求めたい」と述べました。
熊本地裁で勝訴を目指す原告団の上田正幸副団長は「環境省は健康調査もせず、何をしてきたのか。私たちは自信をもって国とたたかいたい」と力を込め、新潟水俣病の被害者救済を求める原告団の昆(こん)義雄副団長も「近畿訴訟の判決をテコにして、完全勝利を目指したい」と決意を示しました。
ここにも「人権侵害」がくっきりと見えている。
70年近くを・・・・!