何のために誰のために繰り返すのか戦争を
「東京新聞」2022年7月30日
国家と国家が意地を張り合う戦場で、犠牲になるのは民衆だ—。ロシアのウクライナ侵攻を受け、シンガー・ソングライターの加藤登紀子さん(78)が反戦歌「果てなき大地の上に」をつくった。自分がかつて国家に捨てられた民だからこそ、「今すぐ戦争をやめて」と募る思いを歌声に乗せる。(林啓太)
◆旧満州から引き揚げ、実体験に重ね
「ひとりで歩きなさい。歩かないと死ぬことになるのよ!」。2歳8カ月の加藤さんは母親に促された。1946年9月、旧満州(中国東北部)から日本に引き揚げる時のことだ。ソ連軍が終戦の直前に侵攻すると、日本軍は邦人を見捨てて敗走。加藤さん一家は約1年にわたり、同地に留まることを強いられた。
あれから76年。数百万というウクライナの人々が戦争で故郷を追われ同国の内外に逃れている。〈明日を祈って眠った命の欠片かけら握りしめて〉〈目覚めれば白い道をただひたすらに歩いた〉。新曲では「満州から逃れる日本の人々と、今のウクライナの人々の姿を重ね合わせた」といい、最後にこう問い掛ける。
〈何のために誰のために繰り返すのか戦争を〉
ロシアの侵略行為が不当なのは言うまでもない。同時に危ぶむのは、反撃するウクライナ人の「滅私奉公」を美化する傾向だ。
同国政府は、徴兵が可能な18〜60歳の男性の出国を禁じている。夫が従軍するウクライナ人の女性に会う機会があり、「夫が残るのは嫌だって言えなかったの?」と尋ねると、女性は口をつぐんだ。ゼレンスキー大統領は「最後の1人まで戦う」と息巻くが、加藤さんは「それは戦中の日本と同じでは」とみる。
国同士は威信や誇りをかけてぶつかり合う。その影で民衆はけなげに、したたかに命脈をつないできた。人間の歴史をこう振り返り、「歌うということは、国家の側ではなく、生き抜こうとする人々の側に立つこと」と、力を込める。
加藤さんが中学生の時に父親が東京で開いたロシア料理店の従業員には、ロシア系の他にウクライナにルーツを持つ人もいて、一緒に歌ったり踊ったりした。「互いへのわだかまりなんて、全然なかった」
想起するのは、ジョン・レノンが国境なき世界を夢想した反戦歌「イマジン」。歌を和訳してカバーしてきた加藤さんは「国の壁を壊すことは難しい。でも人の心を開くことはできるはず」。新曲で連呼する〈ノーウオー!、フォエバー!(戦争反対、永遠に)〉がジョンの精神と共鳴し、世界に響き渡ることを願っている。
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加藤さんは8月31日午後6時から、東京都渋谷区桜丘町の渋谷区文化総合センター大和田さくらホールで公演する。「果てなき大地の上に」も歌う。S席7000円、A席6500円。問い合わせは、コンコルディア=電03(6441)3301
果てなき大地の上に
園のようす。
鬼百合が咲いた。
終わったオオウバユリ
草夾竹桃。
ヤマアジサイ(間違い)ガクアジサイ。