2022焦点・論点 「しんぶん赤旗」2022年7月30日
拝金主義をやめ賃上げ政策こそ デジタル投資でなく生活基盤に
円安による物価高騰、格差拡大など弊害が表面化する「アベノミクス」、それを継承する岸田文雄政権の「新しい資本主義」、その目玉の一つ「デジタル田園都市国家構想」をどう見るか―。地域エコノミストの藻谷浩介さん(日本総合研究所主席研究員)に聞きました。(伊藤紀夫)
―急激な円安による物価の高騰で庶民が苦しんでいるのに、その原因でもある異次元の金融緩和を日本銀行は継続すると言います。世界では63カ国・地域が金利の引き上げにかじを切っているのと対照的ですね。
異次元の金融緩和は、やめるべきですが、やめられない状況なのです。だれが首相でも日銀総裁でも同じでしょう。すべての原因と責任は、安倍晋三政権が無理やり進めたアベノミクスにあります。
アベノミクスは、本質的な問題を置き去りにして目先の株価を上げる政策でした。これを絶賛したのは、株が上がれば財産が増えて喜ぶ人たち。富裕層と大企業、それから税収が増えた財務省も喜んだでしょう。
ですが株価がいくら上がっても富裕層は消費をせず、大企業は投資せず、そのため庶民の給料は増えず、内需もGDP(国内総生産)も増えずの結果でした。若者の雇用が改善したのは、少子化で新規学卒者が減ったからで、アベノミクスとは無関係です。
アベノミクスの途中からは日銀に株や国債まで買わせましたが、やはり株価が上がる以外の効果はなかった。中央銀行が国債を買うなんて、欧米など諸外国ではあり得ません。
その結果、日銀はたくさん国債と株式を持っています。それで何が起きるか。株価と国債の価格は金利が上がると下がります。今はゼロ金利ですが、金利が少しでも上がれば、株と国債の価格が共に下がり、日銀に大量の損が出ます。
だから、日銀は破綻しないために、株が安くなること、金利が上がることを避けなければいけない。それで株を買い続け、市場を金でじゃぶじゃぶにする金融緩和でゼロ金利を維持することをやめられないのです。
日本だけが異次元の金融緩和を続け、外国が金融引き締めを始めると、日本のお金が相対的に余っている状態になるので、円安になります。円安になると輸入品が高くなります。昨年は平均1ドル=110円でしたが、今年135円になると、20%以上の値上がりになります。昨年の輸入は81兆円で、貿易収支はトントンでした。今年も同じ量を輸入すると額は100兆円を超えることになり、収支は20兆円の赤字になります。
他方で昨年、日本の輸出は82兆円で、史上最高でした。円安になると日本製品が安くなるので、売れるといわれます。しかし、すでに1ドル=110円の昨年に史上最高の輸出だったので、これが135円になったらもっと売れるというのは難しい。つまりこれ以上の円安では日本は損するだけなのに、緩和をやめられない状況にはまりこんでしまいました。国を挙げて拝金主義に踊り狂ったツケが回ってきたのです。
―「新しい資本主義」といっても、どこが新しいのでしょうか。
「新しい資本主義」と聞けば、アベノミクスの「株さえ上がればいい」という考えの限界を理解したのかと思いますよね。金融緩和はやめられないとしても、株価上昇で税収は史上最高なのですから、株高の恩恵のない勤労者にお金が回るような使い方をしないと、「新しい資本主義」とは言えません。
まず目指すべきは賃金格差の是正です。特に中小企業や福祉で働いている低賃金の人の賃金が上がる方向に誘導し、男女賃金格差はなくさせる。それから少子化対策。児童手当を増額し、大学までは教育費をゼロにする。返済なしの奨学金をもっと増やす。若い世代、母子家庭、勤労女性、非正規労働者に向けてお金を使うべきです。
こういう分配政策をきちんと行えば、経済も成長します。貧乏な人や困っている人ほどお金が入ると使ってくれ、消費が増えるからです。逆をやったのがアベノミクスで、株価が2・5倍になったのに、個人消費はほぼまったく増えませんでした。分配なくして成長なし、賃上げなくして成長なしなんですね。共産党のみなさんは、賃上げなどを労働者の権利として主張されますが、労働者の権利が尊重されれば、なんとあろうことか、日本全体の景気が良くなって、資本家ももうかるんです。
株を売った利益に対しては2割しか税金を取られないのに、事業での所得には最高で55%の税金がかかります。株の利益も他の事業所得と同じ税率にすべきです。少なくとも、労働よりも不労所得の方を優遇する理由はありません。岸田氏は自民党総裁選で金融所得課税の見直しを主張していましたが、首相になると撤回しました。見直しを言った途端に株価が下がったからです。拝金主義と手を切る勇気が必要ではないでしょうか。
―デジタル田園都市国家構想では基盤整備を強調していますね。
今、若い人たちが地方に移住してデジタルを生かした面白い活動をする状況が各地でどんどん増え、ものすごいスピードで変化が起きています。日本中、どこへ行っても、基本的に電波は飛ぶので、役所が新しく建設投資をする必要はありません。
地方に行った若い世代が困っているのは、デジタル回線がないことではなく、そこで普通に暮らそうとすると、かつてあった学校や病院や公共交通がなくなっていることなんです。学校は廃校になり、保育園や幼稚園もなくなり、病院も産婦人科や小児科がないなど医療が切り捨てられ、鉄道はどんどん廃止されていく。
必要なのはデジタルの整備ではなく、生活インフラです。しかも新設ではなく、存続なんです。
地方に若い人が就労して定着するために必要な生活インフラを残すことに政府は金を使うべきです。学校の廃校をやめ、産婦人科、小児科を増やし、保育園や幼稚園、ローカル鉄道やバスを維持しなさいということです。
とっくにできていることを今からやるというずれた政策ではなく、地方に移住して創意的な活動をしている若い人たちが伸び伸び暮らしていける政策への転換こそ必要です。
もたに・こうすけ 日本総合研究所主席研究員。1964年、山口県生まれ。著書は『デフレの正体』『里山資本主義―日本経済は「安心の原理」で動く』『進化する里山資本主義』など多数。
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