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「嫌韓世論」異様な蔓延

2019年08月05日 | 社会・経済

95%が支持?安倍外交より恐ろしい「嫌韓世論」異様な蔓延

 日刊ゲンダイ2019/08/05

 もはや、落としどころも、解決の糸口も見えない状況である。日本と韓国の対立は、あきらかに一線を越えはじめている。過去にも軋轢はあったが、これまでとは次元が違う。

 本来、日本と韓国は、アメリカを介した同盟国のはずだ。なのに、国際会議で顔を合わせるたびに、日本と韓国の大臣は互いに批判し合う異常事態となっている。ネット上にも、韓国に対する憎悪の言葉があふれている。

ここまで関係が悪化した直接の原因は、安倍政権が、韓国をいわゆる「ホワイト国」から除外したことだ。韓国サイドが徴用工訴訟問題で仲裁委開催に応じなかったことへの報復第2弾として政令改正を閣議決定した。

 すでに安倍政権は、報復第1弾として、半導体素材の韓国向け輸出を規制強化している。第3弾も用意しているという。トランプ大統領とまったく同じやり方である。

「これまで日本外交は“政経分離”のスタンスを取ってきました。歴史問題などで政治関係が悪くなっても、政治は政治として解決し、外交に経済を絡ませなかった。だから、決定的な対立も避けられた。政治家同士が対立しても、ビジネスの現場はつながっていました。ところが、安倍首相は“禁じ手”である、経済制裁を発動してしまった。引き返す橋を自ら燃やしてしまった形です。しかも、せめて半導体素材の輸出規制だけにとどめておけばよかったのに、“ホワイト国”からも除外してしまった。関係修復が難しくなることはわかっていたはずです。どうして、対立が決定的になるようなことをしてしまったのか」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)

徴用工問題は、日本と韓国が知恵を出し合えば、解決の道もあったはずだ。

 実際、まったく同じ問題を抱えていた中国とは、被害者救済のために原告と日本企業が和解している。

韓国サイドも、“中国方式”による解決を期待していたという。

 なのに、韓国の徴用工問題に対しては、民間企業が和解に応じることを許さなかった。なぜ、中国と同じ扱いをしなかったのか。安倍政権が経済制裁を科すまでは、韓国世論もヒートアップしていなかった。「ホワイト国」から除外したことで、韓国は国を挙げて対抗措置を取ると宣言している。日韓対立はエスカレートし、ブレーキを失っている状態だ。

“反韓”世論がさらに安倍政権を暴走させる

 安倍政権が“韓国叩き”に走っている理由は明らかだ。歴史修正主義ということもあるだろうが、支持率アップを狙っているのはミエミエである。

 韓国をいじめれば、支持が拡大すると計算しているのは間違いない。ここ数年、安倍政権とその周辺が“嫌韓”をあおったこともあって、日本国内に韓国嫌いのムードが広がっているからだ。タイミングを計ったように、参院選の直前に半導体素材の輸出の規制強化を決定しているのだから、あからさまである。

外交を政権維持に利用するのは、安倍政権のいつものやり方だが、仰天なのは、韓国を「ホワイト国」から除外することに、なんと95%が賛成していることだ。経産省が実施した意見公募には、4万件という異例の数が寄せられ、賛成が95%を超え、反対は1%だったという。

 95%が支持するなど、本来、民主主義国家ではあり得ないことだ。もちろん、ネトウヨが組織的に投稿した可能性もゼロではないが、この数字が事実なら、タダごとじゃない。安倍政権の誕生後、急速に“嫌韓”意識が強まっているということだ。慰安婦を表現した少女像を展示していた国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」も抗議が殺到し、展示の中止に追い込まれてしまった。

ヤバイのは、火がついた世論が、無定見な安倍政権をますます暴走させてしまう恐れがあることだ。戦前、軍部を暴走させたのも世論だった。

 昭和史に詳しい作家の半藤一利氏は、毎日新聞のインタビューにこう答えている。

「最初は政治家が先導しているようでも、途中から民衆の方が熱くなり、時に世論が政治家を駆り立てたんです」

 政治評論家の本澤二郎氏はこう言う。

「もともと安倍首相は、アメリカが『韓国と和解しろ』と迫れば、簡単に矛を収めるタイプです。でも、世論が強くなりすぎて、アメリカが仲介しても、振り上げた拳を下ろせなくなっている可能性があります。世耕経産大臣も『ホワイト国からの除外は、95%が賛成だった』と勝ち誇ったように口にしている。ここで韓国に屈したら、政権への支持が一気に落ち込むと考えていてもおかしくありません」

日中戦争がはじまった昭和12年、「暴支膺懲」というスローガンが掲げられた。「暴れる中国を懲らしめる」という意味だ。恐ろしいことに、安倍支持者は、「韓国を懲らしめろ」と口にしはじめている。

■“愛国心”が蔓延し、モノが言えない社会に

 このまま日韓の対立がエスカレートしたら、どうなってしまうのか。

 さすがに、韓国とコトを構えることはないだろうが、「排外主義」と歪んだ「愛国精神」が蔓延するのは間違いない。すでに、ちょっと安倍政権を批判しただけで、“反日”というレッテルを貼られる状態である。辺野古の基地新設に反対する沖縄までが“反日”扱いされる始末だ。韓国を擁護しようものなら、袋叩きに遭う異様な国となっている。

歪んだナショナリズムの行き着く先は、自由にモノも言えない社会だ。戦前の日本と同じように社会が一色に染まり、表現の自由も、言論の自由も失われていく。

国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」が中止に追い込まれた一件は、日本の将来を暗示しているのではないか。

 コラムニストの小田嶋隆氏は、著書「超・反知性主義入門」にこう書いている。

「こわいのはわれわれが愛国者になることではなくて、愛国者のふりをしないと孤立するような社会がやってくることだ」

 政治評論家の森田実氏はこう言う。

「外交の大きな役割は、国民レベルで対立が起きないようにすることです。政治家同士が激しくやりあっても、国民同士は友好を保てるようにする。もし、国民のなかで排外主義やナショナリズムが強まりそうになったら、政治が沈静化させる。世論が沸騰すると、政治がコントロールすることも難しくなるからです。ところが、安倍政権は嫌韓をあおり、ナショナリズムをあおっているのだから、どうかしています。そもそも、中国や韓国との関係がうまくいかないのは、安倍首相の歴史認識が間違っているからです。アジア諸国は“河野談話”や“村山談話”を、そのまま継承して欲しいと思っています。ところが、歴代内閣の方針を受け継ぐと口にしながら、“侵略の定義が定まっていない”などと繰り返している。本気で謝るつもりがない。侵略や植民地支配を反省していない。これでは歴史問題は解決しませんよ。大手メディアも、どうして中国や韓国との関係が悪化するのか、本質を伝えるべきです」

ただでさえ、安倍外交は行き詰まっている。周辺国である中国、ロシア、北朝鮮との関係も滞っている。このままでは、戦前のように孤立しかねない。