里の家ファーム

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内田樹-韓国メディアからの質問と答え 1/2

2019年08月11日 | 社会・経済

内田樹

2019年07月20日

 韓国の Kyunghyang newspaper というところからメールで安倍政権の対韓制裁についていくつか質問が来た。英語でのやりとりだったのだけれど、日本語訳をここに掲げておく。

質問そのものがたいへん徴候的だった。

 それは「日本の改憲運動は『アメリカから押し付けられた憲法』を廃絶する目的のものだから、それを推進している安倍は反米のはずである」という不思議な推論である。たしかに海外から見たら「アメリカ的民主主義を否定する親米政権」というのは理解に難いものだろう。だから、今回の対韓制裁も、アメリカが仲裁に入って、韓国側についた場合に、「日本国内に反米感情が高まり、それを推力に改憲を進めようとしているのではないか」・・・というような不思議な考えを示してくれた。日本では絶対にありえない発想だけれど、それはむしろ「われわれにとっての常識」が「日本の外から見たら理解不能」だということを意味している。

 安倍政権のねじれた政治性について韓国の読者に説明できる好機なので、先方が予測しているよりはるかに長い返事を書いてしまった。

韓国の記者の質問と私の答えの「ずれ」を味わって欲しい。

質問1参議院議員では、韓国への報復以前には自民党の勝利が予測されていました。安倍政権はこの争いから何を得ようとしているのでしょうか?

 参議院選の結果がどうなるかはまだ不明です。大手メディアは与党勝利を予告していますが、これは無党派層の有権者の間に「与党勝利が確定しているなら、投票に行っても無駄だ」という気分を醸成するために、かなり作為的に行われているものだと思います。

 というのも、低投票率が与党に有利に働くことは、これまでの経験から明らかだからです。

 それでも、投票結果はまだ未確定です。与党が大きく議席を減らす可能性があります。その場合には、危機感を抱いた自民党議員たちの中から「安倍おろし」が始まるかも知れません。

質問2.選挙後も安倍の対韓報復は続くと思いますか?

 長く続くとは思いません。安倍が対韓強硬姿勢をとっているのは彼のコアな支持層への「選挙用アピール」としてです。安倍のコアな支持層はその語の厳密な意味での「右翼」ではなく、新自由主義的なレイシストたちですが、安倍が今回の対韓強硬姿勢から得られるものは、最大で「選挙においてこのコアな支持層を固めること」です。この政策によって無党派層から新たな支持者を獲得する見込みはありません。韓国との摩擦が国益の増大ももたらすこともありません。ですから、選挙が終わった時点で、なんらかのそれらしい口実を設けて、対韓制裁を緩和してくると思います。

質問3. 安倍政権の韓国との争いは日本国内では報道されていないというのはほんとうですか?

 いいえ。メディアは報道しています。ただ、政策の適否についての深みのあるコメントはなされていません。ですから、一般国民の多くは問題の本質を理解していないし、かなりの国民は制裁の事実そのものについても十分な情報を持っていないと思います。

質問4. 安倍の対韓報復措置は日本経済にもダメージを与えます。これは日本のエリートたちの「自己破壊願望」と解してよいのでしょうか? 安倍を含む日本のエリートたちは何を破壊しようとしているのでしょう? 対米従属システムをですか?

 隣国への対立的なポーズは支持率が低下している為政者が最後に切るカードです。ご指摘の通り、日本経済は韓国との貿易が制約されることからダメージを受けますので、財界は経済制裁には内心では反対しています。しかし、安倍政権は財界に対してこの日韓貿易の不調によって失う以上の利益をこれまでもたらし続けてきましたし、これからももたらし続けるはずです。ですから、財界は対韓貿易における短期的な損害を受け入れても、安倍政権の継続を願っています。おそらく官邸からは「これは選挙用のポーズなので、長くは続けない」という黙約が提示されているのだと思います。

質問5. 安倍政権は日韓関係の対立では、アメリカが韓国側に立つことを予期してこのようなことをしているのでしょうか? アメリカによって起草された憲法を改定しようとする人々の間にある反米感情をかき立てようとしているのでしょうか?

 アメリカが日韓のトラブルで韓国側に立つことを安倍政権が「予期している」ということはないと思います。

 慰安婦問題への仲裁から知れる通り、アメリカはその伝統的な「分断支配」戦略に基づいて、日韓関係をコントロールしています。それは日韓が外交的緊張に至らない程度には友好的で、親密な同盟関係を形成しない程度に敵対的であることです。アメリカが日韓どちらかに継続的に味方するということはありません。

 わが国における改憲運動を駆動するセンチメントはなかなか説明が難しいものです。

 たしかに安倍自身はアメリカが与えた平和憲法に対する反発を口にしています。自主憲法制定というのは自民党の立党以来の党是です。彼も形式的にはそれを引き継いでいます。

 改憲運動の目的はその当初においてはアメリカに占領され、従属している状態からの離脱をめざすものでした。しかし、安倍政権下で、改憲運動の目的は完全に変質しました。

 安倍にとっての改憲の目的は「日本を再び偉大な国」にすること、つまり日本を再度軍国化し、「戦争ができる国」にすることです。それは現実的には「アメリカの二軍としてアメリカの戦争に参加して、アメリカに奉仕する」ことに他なりません。「アメリカからの自立」を口実にして、「アメリカへの従属を完成する」というのが安倍における改憲の目的です。

質問6. 日本では安倍政権はいまも人気があると言われています。安倍政権の人気の理由は何でしょうか?

それについては質問10の答えをご覧ください。

質問7.  安倍政権は最終的に改憲をめざしていると思いますか?

 めざしてはいますけれど、今回の選挙で改憲の発議に必要な3分の2の議席を確保できなければ、安倍政権下での改憲のチャンスは事実上消えます。 そして、たぶん3分の2の議席は確保できません。

質問8. 安倍政権をどう評価しますか?

 戦後日本の歴代政府の中で、もっとも無能で、倫理的にも知性的に最も問題の多い政府だと思います。

質問9. 今回の事件によって韓国内の反日感情がまた高まりました。この事態に対して韓国政府はどう対処すべきでしょうか?

 安倍政権の対韓政策は日本人の総意に基づいたものではありません。一政権が短期的な党派的利益のために採択した政策のせいで、日本全体が評価されることを私は遺憾に思います。

 韓国政府が原則的な対応をとることは理解できますが、そのことが韓国市民の間に反日感情を醸成することに直結しないことを願っています。

質問10. 最後に韓国の読者に一言お願いします。

 みなさんに何よりもご理解願いたいのは、日本は敗戦国だということです。74年前に戦争に敗けて、国家主権を失い、国土の一部はアメリカに占領されたままで、彼らはこれからも望むだけの期間日本の主権の及ばない土地を日本国内に所有し続けるでしょう。

 敗戦によって、日本は安全保障をはじめ、外交、エネルギーなど重要政策のほとんどについてアメリカ政府の許諾なしには政策決定できない「属国」になりました。

 先人たちはこの「属国身分」を脱して、国家主権と国土を回復するために努力してきました。

 けれども、現在の日本人はもう「アメリカからの自立」の希望を失っています。日本のエリートたちは、対米自立のために虚しい努力をすることよりは「対米従属マシーン」の一部に組み込まれることで、国内的なヒエラルヒーでのおのれの地位を上げ、個人資産を増やすことを優先するようになりました。

 これは74年という歳月の重みの効果です。74年というのは報われない努力を続けるにはあまりに長い歳月だからです。

 敗戦直後は、当時成人であった国民はかつて「主権国家の国民」であった時代のことをはっきりと記憶しておりました。それが祖国を破滅に導くような愚かな政策であったとしても、国家戦略を自己決定できるというのがどういうことかを知っていた。ですから、彼らが「国家主権の回復」というときに、どこに戻るべきなのかについてはある程度具体的なイメージがあったと思います。

 しかし、私自身を含めて、現在80歳以下の日本人は「属国としての日本」しか知りません。どこに戻ったらいいのか、もうわからなくなっているのです。

 韓国は日本の植民地から独立を果たしたあと、ずっと主権国家です。あなたがたは自分たちの国の運命を自分たちで決定することができる国です。日本人にはそれができないのです。政治指導者たちはつねに「アメリカからの評価」「アメリカの許諾」を求めて判断し、行動することと強いられている。

ですから、純粋な日韓関係というものは存在しないのです。われわれ日本人にとって、日韓関係はつねに「日-韓-米」の三国関係なのです。アメリカの意向を勘定に入れないで日韓関係を決定することができないからです。

ですから、今回の対韓制裁についても、ホワイトハウスが「やめろ」と言ってきたら、日本政府はただちに停止するでしょう。けれども、そのせいで安倍の支持率が下がるとか、政権を失うということはありません。それは彼が日本の国益よりアメリカの国益を優先させる、たいへんすぐれた「属国の代官」だからです。

 日本人は自国の総理大臣が「アメリカの代官」だということを知っており、「代官」に求められる最優先の資質が「宗主国のボスからの信認」だと知っているからです。そして、安倍はみごとにその条件を満たしているのです。


 参議院選挙投票日前の記事ですが、面白い記事でしたので紹介させていただきました。

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