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俳優・勝地涼くんのこと。

『蜉蝣峠』(2)-6(注・ネタバレしてます)

2013-09-22 05:36:23 | 蜉蝣峠
・闇太郎の家の一階で沢谷村の一同は宴会中。いつまでも騒いでる彼らにもう遅いから帰ってくれと闇太郎は切れる。
なんか祝言からこっち闇太郎はずっと不機嫌で笑顔を全然見せてません。記憶のない今の状態では恨みもない領主を斬ってまで望んだ結婚だったはずなのに。
その迫力に皆黙り込んでしまうが、「新婚初夜だから」「とても大事な夜だからー」と力強く宣言する闇太郎に、不機嫌の理由がわかって安堵したごとくに皆引き上げていく。
と見せて隣の部屋にいたりするわけですが。それと気づいた闇太郎は二人の恩人であるがめ吉まで容赦なく追い出してます。

・「お泪、村までどれくらいだ」「村に連れてったらあんた元気になるか」と尋ねる闇太郎。
元気がないのはむしろ闇太郎のように思えますが、「あたし元気ない?」「おれはあんたを裏切っちまった。人殺しになっちまった」という闇太郎発言からは祝言以来のお泪の笑顔は無理をしてそう振る舞ってるだけで、彼女の元気をなくさせたのは彼女の望まぬ殺しをして彼女の意思を裏切ってしまった自分だと思ってること、それで責任を感じて闇太郎まで元気がなくなってたことがうかがえます。
お泪に対する思いやり、愛情を感じさせるワンシーン。

・「おれはそんなに変わっちまったか」と問う闇太郎に「そんなことない、昔のまんま」「せっかく所帯持ったんだから笑ってなくちゃね」と前向きになろうとするお泪。
なのに闇太郎は「おれはあんたが好きだ。不安なんだ。何度もそういってないとまた忘れてしまいそうで」などと言い出す。せっかく前向きになろうとしたお泪をまた不安がらせるようなことを。
しかし同時に殺し文句になってるというか、記憶喪失ゆえの足元の頼りなさに脅えて自分に懸命にすがりついてくるような闇太郎がお泪には愛おしく思えたことでしょう。
不安を消そうとするように二人は抱き合うが、実は追い出したはずの皆に思い切りデバガメされてるのに気づいて二人で撃退する。切なくも重い場面をギャグで軽くオチをつける、このへんの緩急は実に巧みです。

・変態プレイ中の蟹衛門はプレイ中にもかかわらず「この宿場は世の流れに逆行しておる、これでいいのか」と意外に真面目な話を始める。
「いいんじゃないですか」と最初は軽く受けていた天晴ですが、民の評判は上がったが出世は望めないと蟹衛門が言い出すと唐突に変態プレイ終了を宣言する。
せっかく街が繁栄して皆喜んでいる現状を蟹衛門が内心良く思ってない、この男も所詮ろまん街のためにはならないと切り捨てるつもりになったのかと思いきや、住所不定の輩を蟹衛門が取り締まれば彼の手柄になる、ろまん街の評判を聞いて集まってきた悪党たちを天晴がかくまい、増えまくったところで蟹衛門が一網打尽にすればよいなどと入れ知恵し、蟹衛門もその気になってしまう。
立派組が実質消滅した今となってはろまん街は天晴の天下だろうに、一国一城の主も同然の彼が自らその城を破砕するようなことを言い出すのに驚かされますが、すぐ後で述べるようにその「城」に天晴は執着がない、というかすでにこんな小さな宿場町で頭を張ってること自体にうんざりしてるようです。

・「そんなことしたらこの街は」と天晴の態度に驚いたような蟹衛門に「言ったでしょ。こんな宿場、どうなったって構わないって」。
さらに年貢を上げた結果百姓一揆が起きても首謀者を潰せば簡単に潰せると提案。そしてその首謀者には闇太郎を担ぎ上げる、沢谷村の連中は世直し大明神とあがめているが、当の闇太郎は中身は空っぽだからいくらでもこちらで操れる、一気に鎮圧すればまた蟹衛門どのの手柄ですよ、とそそのかす。
この計略、天晴はいささか闇太郎を甘く見すぎてはいないか。その中身空っぽの闇太郎とやり合って、相手の得物は下駄や田楽の串だったにもかかわらず遅れを取った経緯があるのに。お泪をエサに田丸善兵衛を殺させる計画が上手くいったことで、闇太郎を自分の手駒にできる自信がついたのか。

・蟹衛門が城勤めになったら自分もついて江戸に上ると言い出す天晴。「侍になるのか」と聞かれて「なりそこなってますからねえ」と吐き出すように言う。
ここで白黒反転の影絵動画で覆面の二人組が大量虐殺を行う様子が描かれる。斬られる側が鍬を持ってることから百姓だとわかる。話の流れ的に百姓一揆を武力鎮圧してるところのよう。天晴のセリフの後に続いてこのシーンが挿入されるので天晴の想像ないし記憶であろうと思われます。
この作品で百姓一揆の武力鎮圧といえば沢谷村の事件がある。天晴があの事件に関わってた(それも鎮圧側として)ことの伏線となるシーンです。

・尾羽うち枯らして蜉蝣峠にやってきた立派。乞食になって米をめぐんでもらおうとするのへ、お触書を見てた百姓たちが怒りをにじませて振り返る。領主の新年貢のお触れに善兵衛の方がましだったと激昂する人々は、やがて闇太郎ならなんとかしてくれるとすっかり盛り上がる。
そしてボコボコにされ捨て去られた立派。新年貢が重いのは立派のせいではないが、人々が窮迫してる(まもなくする予定)のときに食べ物を乞うたことが彼らの怒りを招いた、というより立派がよそ者なのを幸い八つ当たりしたというのが実情でしょう。タイミングが悪かった。

・立派は落ちぶれた自分を嘆きつつ坂を転がり落ちる。そこで嘆きの立派による独唱が始まり、続けてうずらの親分の亡霊+前領主田丸善兵衛の亡霊とトリオで歌う。歌の名前は「ヤクザ・イン・ヘブン」(笑)。
「久しぶりの劇団員だけの手作りトリオ楽しゅうございました」とのオチの台詞ともどもこの舞台で一二を争うほど笑い声が起きてました。

・天国で三人でトリオを組もうというのを、立派は顔ぶれが地味すぎるからと拒否。「もっとぎらぎらした人いませんか」と呼びかけたところで、プレスリーをさらにハデハデにしたような外見の男が登場。声はやたら部分的に甲高いし。
これがあのやみ太郎少年のなれの果て。でも子供の時と同じ歌歌ってます。

・立派はやみ太郎をろまん街に連れてきてこれが本物の闇太郎だと説明するが誰も信じない。嘘ならもっと上手くつけと言われる始末。しかしやみ太郎が沢谷村の連中の顔も名前も覚えていたことで疑いが晴れる。
なのにこれほどの証拠があるにもかかわらず天晴は偽者と決めつける。いわく「こいつには説得力がない」。無理矢理な感情論・・・のはずなのに何かすごく納得してしまう(笑)。実際周囲の反応も「たしかにこいつが闇太郎だとしたらなんだか頼りないなあ」でしたし。

・見るからに眠そうな様子でお泪が現れる。闇太郎はまだ寝てるそう。「てめえらこのところ毎晩だな。さかりのついた猫みてえに」と突っ込む天晴に「だって新婚ですもの」と可愛らしい素振りで答えるお泪。
隣家にまで聞かれているというのにまるで悪びれるところがない。しかも相手は過去の男?である天晴なのに。いろいろ不安要素はあっても闇太郎と上手くいっていて、今がとても幸せなのがわかります。
それだけにすぐ一歩先に辛い展開―本物のやみ太郎との再会にともなう闇太郎の正体の発覚が待ち受けているのを知っている観客には見ていて切ない姿でもあります。

・「説得力がない」呼ばわりされていたやみ太郎は、お泪を一目でそれと見抜いて呼びかける。あやうく偽者と決め付けられるところから一気に形勢逆転です。
明らかにやみ太郎しか知りえない思い出を次々突きつけられたお泪は動揺。「こちらが本物かもなんていまさら」。もしやみ太郎がもう少し早くろまん街に来て闇太郎より先にお泪に会っていればこんなことにはならなかった(今のやみ太郎をお泪が愛せたかどうかはともかく)。まさに「いまさら」です。

・周囲に動揺が広がる中「おれが闇太郎だ」と片肌脱いだ姿の闇太郎がついに登場。どっしりした迫力ある調子で「おまえは誰だ」と誰何されていきなり謝ってしまうやみ太郎。だめじゃん。「追い込まれると過呼吸になるんです」とか言い訳してるし。
こりゃ確かに“大通り魔事件を生き延びた男”“世直しのヒーロー”闇太郎像としてどちらが相応しいかといえば圧倒的に闇太郎に軍配が上がりますね。なんかもう人間の格自体が違うというか。
これがついこないだまで蜉蝣峠で究極のバカやってた人だとは。まあ今思えばあれはあれで迫力あるバカではあった・・・。

・そこへ八州回り(吉田)のお出まし。前領主田丸善兵衛殺しについて詮議中とのこと。そして容疑者として探してる男の名前は闇太郎だという。ということは流石先生の疑いは晴れたらしい。
ここで闇太郎を探してると言われたのを受けてなんとやみ太郎が自ら名乗って出てしまう。やっと自分をやみ太郎として認めてくれそうな人たちに出会えたと見事に状況を読めずに嬉々としているのがなんとも。当然ながら縄を打たれて連行されることになるわけですが。

・やみ太郎が引かれていくのをお泪が止めて、「やみちゃん。あんたやみちゃんなの」と問いかける。
これまで事の重大さにやみ太郎こそが本物だという事実を受け入れかねていたお泪ですが、彼が官憲に連行される瀬戸際にあってついに彼がやみ太郎であることを認めてしまう。彼女と闇太郎の関係に決定的な亀裂が入った瞬間です。
ちなみにやみ太郎はこのままフェードアウト。笑っちゃうようなテンションの高さゆえに目立ちませんが、あらぬ罪で囚われるわ幼馴染の恋人は偽者に寝取られるわ、この人も相当気の毒ではある。長らくお泪のことなど忘れて江戸で小悪党やってたんだから自業自得ではあるけれども。せめて処刑なんてされてないことを祈ります。

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