・天晴が闇太郎にお泪の親たちの仇討ちをそそのかし、一方で呼びよせておいた沢谷村の幼馴染と引き合わせる。
二人はお泪を見て喜び、「そんならこうしようー、でおなじみの平太だよ」などと名乗る。最初に蜉蝣峠にいたあの人か!。そんなポジションの人とは知らなんだ。
後から思えば天晴が二人を呼んだのは闇太郎の面通しのためだったんでしょうね。
・最初は陽気だった二人だが、話をするうちに闇太郎が出ていってから村は悪くなる一方でみな食いつぶしちまったと嘆きだす。
「俺があの時直訴状を奉行所に届けていれば・・・」と苦しげにいう闇太郎。お泪は闇太郎のせいじゃないというが、やみ太郎が道に迷って奉行所に辿り着かなかったのは本当に闇太郎(久太郎)のせいじゃないからなあ。
お泪やがめ吉に聞かされた(他人の)過去話が過去を持たない闇太郎の中ですっかり事実として定着してしまってるのがわかる。アイデンティティを持たぬ闇太郎の空虚を見たような気がしました。
・天晴はおまえは村を見捨てたんだと嘲るように言う。「毎年冬になると人がばたばた死んでいく、おまえの親も」とさらに追い打ち。
「俺の親・・・どうしたらつぐなえる」と口にした闇太郎に天晴は「世直しだ」と刀を取り出す。村を悪くしてる張本人を見せしめに斬るんだという天晴に平太ら二人は引き込まれた様子。
「俺に役人を切れと」とためらいを見せる闇太郎だが、幼馴染二人も「そんならこうしようー」「世直しだー」とあおる。
闇太郎の心の空虚につけこむような天晴の煽動に、そんな意識はないだろう二人組も乗っかってしまう。やはり主体性に欠けてそうだった本物の闇太郎(やみ太郎)もこんな流れで一揆の首謀者にまつりあげられたのかも。
・闇太郎は天晴に「それであんたにはどんな得がある」「ヤクザが百姓の味方するなんてよっぽどのことだからな」と問い質す。このあたり確かに闇太郎はバカではない。
天晴の代わりに二人組が「百姓だけでもヤクザだけでもやつらは相手にしねえが、その二つが手を組んだと聞けば少しは考える。」と答え、その直後に「ですよね」と天晴を見る。
二人組には天晴が入れ知恵済み、闇太郎をかついで世直しをやろうというプランが天晴主導なのがこのやりとりでわかります。
・「今夜ご領主さまご一行がお忍びで女を買いにくる」「田丸善兵衛。おらが村を地獄に追い込んだ張本人よ」。
天晴いわく田丸は父親の代からこの宿場を取り壊そうとしてる、立派が賄賂を贈って必死に食い止めているがそのためにこの宿場の経済が悪くなってるのだとか。
それを聞いた闇太郎は「あいつが死ねばあんたもなわばり争いで有利に立てるってわけだ」と返す。天晴が故郷である街を救うために無私で行動しているとは考えないらしい。
のっけから「あんたにはどんな得がある」と尋ねたのもそうですが、闇太郎には天晴が故郷や同朋のために動く人間だとは思っていない。そもそも人間自体損得でしか動かないものと思っているのかも。
・続けて闇太郎は「その片棒を担いだ俺にはいったいどんな得がある」と尋ねる。先には自分の親を含む沢谷村の住人を見殺しにしたも同然の状況に責任を感じていたはずの闇太郎が、村のために無心で働くのでなくやはり自身の損得を口にする。
このへん闇太郎は非常にドライではある。やはり記憶がないだけにいくばくかの責任を感じはしても沢谷村を心から故郷と感じることができないための反応なのかも。
・罪悪感をついたにもかかわらずすんなり計画に乗ってこない闇太郎に驚くでもなく、天晴が出した条件が「この女と所帯を持たせてやろう」。
記憶のない闇太郎にとってはお泪は出会ったばかりの女。それでもお泪が闇太郎にそれだけの吸引力を発揮すると睨んだのか。ならば大した慧眼。
・お忍びなのに「やあやあ田丸様、お待ちしておりました田丸様」と名前を連呼する立派。嫌がらせですか(笑)。向こうがあわてて「腹から声を出すな」と止めに入る。
続けて、「今夜は年増から若いのまでよりどりでございます」(お寸)「蟹衛門さまもどうぞ」(立派)「いや今日はわしはお供じゃ」(蟹衛門)「まあたあなたほどのど変態がー」(立派)といった会話が。あの騒動の中生きてたのか蟹衛門。しかし「ど変態」って本人に言い切っちゃうのか。
・「ここだけの話ですが、生娘がいるんですよー」「なにー!それはまことかー!」。ここで誰が出て来るかと思えば現れた(店から突き飛ばされて出てきた)のは女装の銀之助。か細い声で「二代目、お菓子でございまーす」。
おいおい生娘好きに男あてがっていいのか。そりゃ「ないテイ」で通すまでもなく本当に「ない」とは言え胸だってないしなあ。しかし先のいきさつがなければお寸たちはあのお菓子ちゃんをあてがうつもりだったのか?
それにしても「お供」の蟹衛門の方がより念入りに接待されてる感がある。貴重な「生娘」を提供してるし。
おそらくろまん街を潰したがってる田丸を押し止めてるのがろまん街でいい思いさせてもらってる蟹衛門で、重要なパイプ役ゆえにますます好待遇を受けている、今回も田丸にろまん街を気に入ってもらおうという狙いで説き伏せて連れてきたという流れなんだと思われます。
・匂いとか嗅いで(苦笑)みてから「全然ありです」と言い切られて、銀之助はえっと驚く。「ムリムリおれ男」と抗弁しても無理やり立派宅に連れ込まれてしまう。
目撃した闇太郎はただただ驚くばかり。そりゃ先のいきさつとか知らないしねえ。
・「やみちゃん、引き受けるの」「あんたはどうしてほしい、俺と所帯を持ちたいか」「俺には決められない。あんたにもあの男たちにもここではじめて会った」「だったらよしなよ。逃げなよ夜が明けるまえに。何もかも忘れなよ」「あんたのことも」。
ここの闇太郎とお泪の会話は諦めと自棄と躊躇い、相手への愛着が混ざり合って何とも言えず哀しくも艶のある雰囲気を醸し出している。大人の男女なのではの生活感を伴った色香というか。歌舞伎でいう「柝」のような音が入るのも静かな緊張感を高めます。
・「俺はあんたが好きだ。覚えてないけど、好きだ」「一緒に逃げよう。自分が何者か知ってしまった以上、もう元のバカには戻れん。忘れようとしてもきっとあんたのことを思い出す」ほとんど殺し文句のような言葉。
空っぽだった頭と心に沢谷村の闇太郎としての(虚偽の)記憶をすりこまれた結果、覚えてはいなくても当時好きだったはずの、今も漠然と好意をおぼえているお泪の存在が、またたくうちに闇太郎の心の支柱のようになってしまったんでしょうね。
・「あの男からは逃げられない」「好きなのか」「天晴を甘くみないほうがいいよ。冷たいんだ、あいつ、氷みたいに冷たいんだ」。
「好きなのか」という闇太郎の問いをお泪は否定していない。少し後で天晴と交わす会話からしても、二人が男女の仲にあった(ある?)こと、お泪が闇太郎と天晴の間で揺れていることがわかります。
・お泪が天晴の家に入っていったあと、闇太郎はがめ吉の家を訪ねる。
応対に出たがめ吉は「握り飯、作ってくれないか」という闇太郎の言葉だけで彼が街を出て行こうとしているのを察して「そうかそのほうがいい。おまえさんこの町で暮らすには心が優しすぎる」と返答する。
この時点では闇太郎は天晴の話を蹴って一人街を出て行くつもりになってたんでしょうか。お泪を置いて?それとも強引にでも連れて?
・流石が客(領主)を先導して出てきたのを見て闇太郎は隠れて様子を伺う。
「蟹衛門さまはただいま二階にて絶賛プレイ中でございますゆえ」代わりに屋敷まで案内すると流石は説明。ここで「いや~」という銀之助の太い悲鳴が。絶賛プレイ中の相手はやはり彼だったか(苦笑)。
しかし領主の世話ほったらかしてプレイ中とは不届な話。よく出世できたな。
・「拙者流石やるもんだなおつぐと申す者でございます」とこの機会に売り込みにかかる流石。そりゃヤクザの用心棒より領主に取り入って仕官できたほうがいいですもんね。元は武士なのだし学もありそうだし。
いかに立派組や天晴組がろまん街では覇を競ってるといっても領主の一存で潰されてしまう程度の存在なわけですし。うずらも息子を武士にしようと思ったのも、ヤクザの力はその程度のものという諦観があったからなんでしょう。
この場面の流石の行動はそうしたヤクザの〈この程度〉感を提示する意味合いがあるんじゃないかと思うんですが。
・これまで隠れていた闇太郎は二人の後を追っていく。がめ吉がおにぎりを持って出てくるとすでに闇太郎はいない。名前を呼んで探すがめ吉。
それを見てお泪は嫌な予感を覚える。なんとなく大通り魔が現れた夜を思わせるシチュエーションですからね。
おにぎり頼んだくらいで街を出て行くつもりでいたはずの闇太郎が突然変心したのは「絶賛プレイ中」+銀之助の悲鳴が関係しているように思います。25年前久太郎が大通り魔に変貌したのは蟹衛門が彼の母親を手篭めにしようとした時だった。銀之助の悲鳴に覚えていないはずの記憶が刺激されたのかもしれません。
しかし25年前といい今回といい、肝腎の蟹衛門以外の相手ばかり斬っているのはどういうわけやら。
・「これあたし届けるよ。だいじょうぶまだそう遠くへは行ってないから」とお泪が走り出したところに天晴が現れる。お泪ははっと立ち止まって背を向ける。
「どうした、忘れ物届けるんじゃねえのか」「お前の言う通りだよお泪、おれは冷たい男だ」。この台詞で天晴がさっきからの会話を立ち聞きしていたのがわかります。
「本当のところ血が通ってるかもわからねえ。だから酒を飲む。酔いがさめると死んでしまうからな。生きていることをたしかめるために、飲んで、刀を振り回す。それがたまたま人に当たるだけのことよ」「あいつも本来そういう人間じゃねえかっておれは思うんだ」「あの人はちがう。やみちゃんはあんたとはちがう」「あたしのこと好きだって言ってくれた」。
ここまではすこぶるハードボイルドな会話だったのが「おれ言ってねえか」「言われてません」「・・・思っちゃあいるんだけどなあ」「思ってて言わないのは思ってないのと同じです」と一気に痴話ゲンカモードに。
この会話聞くかぎりお泪が愛してるのは天晴の方ですね。ただここで肩にかけられた天晴の手を拒絶して背を向け家に逃げ込んでしまうあたり、すでに仲が(というよりお泪の感情が)こじれまくって修復不可能な域に行ってしまってる。それでも逃げ込む先が天晴の家だというのがなあ。他に行くところもないからですけども。
・騒がしい声に天晴は姿を隠す。そこへ現れたのは初出の若い男(サルキジ)と仲間たち。街の寂れ方を大げさに嘆くサルキジ。
してみるとろまん街がこうも荒廃したのはここ最近のことであるらしい。観客は今のろまん街しか知りませんが、田丸がろまん街を潰そうとしてるなんて話も考えるとここ数年のうちにどんどんジリ貧になってきた感じでしょうか。
立派・天晴両家の争いで人死にが出まくってる(天晴が斬りまくってる)のも何気に大きいのでは。
・名前で呼ぶ仲間をつきとばし「ここじゃ親分、あるいは兄貴とよべ」といきがるサルキジ。そこに天晴が現れ声をかける。
「江戸へ修行へ行ったんじゃなかったのかい」とにやにや話しかける天晴に「ああ、わけあって帰ってきた」と答えるサルキジは虚勢を張るような態度。「さては父ちゃんに呼び戻されたか」と薄笑いで歩いてくる天晴に後ずさりしながら「それ以上は近寄らないほうがいいぜ」とサルキジは短銃を抜く。
ただ歩いてきただけなのにもう銃を出すって。サルキジが内心天晴にビビりまくってるのが、彼の気の弱さがすでにこのワンシーンでわかります「ガキがそんなおもちゃでいきがるんじゃねえよ」と真顔になった天晴の迫力に銃構えてるにもかかわらずやっぱり後ずさってますしね。
・その時ガラスの割れる音がして立派家の玄関から銀之助が飛び出してくる。「やっぱ無理ですー男は無理ですー」と叫ぶ声の裏返り方がナイス。先の悲鳴から大分時間が経ってますが、果たして未遂のうちに逃げられたのか。
お寸が追ってきて「このチンカス野郎」と銀之助を張り倒す。女のなりをさせながらも銀之助を男と見てるからこその罵倒ですねこれ。「うちの大事な商品傷物にしたんだから元はとらせてもらうよー」と凄まれて銀之助涙目。どうもこの先もお菓子としてお客取らされそうな雰囲気です。「ないテイ」で通させるのか女装のニューハーフで売るのかは不明ですが。
・ここで「母ちゃん」とサルキジに呼びかけられたお寸はしばし静止。それから銀之助を突き飛ばしてサルキジと抱き合い再会を喜ぶ。ここでサルキジが立派・お寸の子供だったのが判明。あのヘタレなのに強がるくせは父親ゆずりか。
・「あんた、サルキジ帰ってきたよー」と立派の家に飛んでいくお寸。対して天晴は彼らに背を向けて距離を置く。
これまでいざとなると夫より弟を取ってきた感のあるお寸ですが、今後は息子可愛さにサルキジと上手くいってそうもない天晴から離れていく可能性がある。それが示唆されているようなシーンです。
・立派も息子を迎えに飛び出したところへ、ちょうど流石も帰ってくるが妙にそわそわした様子。サルキジを紹介しようとした立派だが「先生刀どうしました」とふと問い掛ける。
「刀・・・あ、ありますよここに」「ありませんよ」「ありまーす。私には見えるんです!」。流石はあからさまに挙動不審。さらに「ほら、ほら」とない刀で素振りまでしてみせる。それを銀が指差し「あるテイだ!」。これもあるテイと評するのね。まあ確かに。
・そこへ返り血あびた闇太郎が現れ悲鳴があがる。しかし闇太郎は何も言わない。その姿に天晴は「闇太郎。おまえ、善兵衛を斬ってきたのか」と問い、百姓二人は「ほんとにやったのか?やったー世直しだー!」と歓声をあげる。
闇太郎はそちらには反応せず「天晴、約束通りおれはこの女と所帯を持つ」と血まみれの手でお泪の肩を引き寄せる。しかしお泪は脅えた顔。
血まみれの相手に抱き寄せられたら無理もないですが、それ以上に闇太郎だけには人殺しをしてほしくないという彼女の気持ちを踏みにじられたことへの悲しみと怒りがあるのかもしれません。
これで所帯を持ったとしてもとても幸せになれそうもない。二人の先行きがすでに暗示されています。
二人はお泪を見て喜び、「そんならこうしようー、でおなじみの平太だよ」などと名乗る。最初に蜉蝣峠にいたあの人か!。そんなポジションの人とは知らなんだ。
後から思えば天晴が二人を呼んだのは闇太郎の面通しのためだったんでしょうね。
・最初は陽気だった二人だが、話をするうちに闇太郎が出ていってから村は悪くなる一方でみな食いつぶしちまったと嘆きだす。
「俺があの時直訴状を奉行所に届けていれば・・・」と苦しげにいう闇太郎。お泪は闇太郎のせいじゃないというが、やみ太郎が道に迷って奉行所に辿り着かなかったのは本当に闇太郎(久太郎)のせいじゃないからなあ。
お泪やがめ吉に聞かされた(他人の)過去話が過去を持たない闇太郎の中ですっかり事実として定着してしまってるのがわかる。アイデンティティを持たぬ闇太郎の空虚を見たような気がしました。
・天晴はおまえは村を見捨てたんだと嘲るように言う。「毎年冬になると人がばたばた死んでいく、おまえの親も」とさらに追い打ち。
「俺の親・・・どうしたらつぐなえる」と口にした闇太郎に天晴は「世直しだ」と刀を取り出す。村を悪くしてる張本人を見せしめに斬るんだという天晴に平太ら二人は引き込まれた様子。
「俺に役人を切れと」とためらいを見せる闇太郎だが、幼馴染二人も「そんならこうしようー」「世直しだー」とあおる。
闇太郎の心の空虚につけこむような天晴の煽動に、そんな意識はないだろう二人組も乗っかってしまう。やはり主体性に欠けてそうだった本物の闇太郎(やみ太郎)もこんな流れで一揆の首謀者にまつりあげられたのかも。
・闇太郎は天晴に「それであんたにはどんな得がある」「ヤクザが百姓の味方するなんてよっぽどのことだからな」と問い質す。このあたり確かに闇太郎はバカではない。
天晴の代わりに二人組が「百姓だけでもヤクザだけでもやつらは相手にしねえが、その二つが手を組んだと聞けば少しは考える。」と答え、その直後に「ですよね」と天晴を見る。
二人組には天晴が入れ知恵済み、闇太郎をかついで世直しをやろうというプランが天晴主導なのがこのやりとりでわかります。
・「今夜ご領主さまご一行がお忍びで女を買いにくる」「田丸善兵衛。おらが村を地獄に追い込んだ張本人よ」。
天晴いわく田丸は父親の代からこの宿場を取り壊そうとしてる、立派が賄賂を贈って必死に食い止めているがそのためにこの宿場の経済が悪くなってるのだとか。
それを聞いた闇太郎は「あいつが死ねばあんたもなわばり争いで有利に立てるってわけだ」と返す。天晴が故郷である街を救うために無私で行動しているとは考えないらしい。
のっけから「あんたにはどんな得がある」と尋ねたのもそうですが、闇太郎には天晴が故郷や同朋のために動く人間だとは思っていない。そもそも人間自体損得でしか動かないものと思っているのかも。
・続けて闇太郎は「その片棒を担いだ俺にはいったいどんな得がある」と尋ねる。先には自分の親を含む沢谷村の住人を見殺しにしたも同然の状況に責任を感じていたはずの闇太郎が、村のために無心で働くのでなくやはり自身の損得を口にする。
このへん闇太郎は非常にドライではある。やはり記憶がないだけにいくばくかの責任を感じはしても沢谷村を心から故郷と感じることができないための反応なのかも。
・罪悪感をついたにもかかわらずすんなり計画に乗ってこない闇太郎に驚くでもなく、天晴が出した条件が「この女と所帯を持たせてやろう」。
記憶のない闇太郎にとってはお泪は出会ったばかりの女。それでもお泪が闇太郎にそれだけの吸引力を発揮すると睨んだのか。ならば大した慧眼。
・お忍びなのに「やあやあ田丸様、お待ちしておりました田丸様」と名前を連呼する立派。嫌がらせですか(笑)。向こうがあわてて「腹から声を出すな」と止めに入る。
続けて、「今夜は年増から若いのまでよりどりでございます」(お寸)「蟹衛門さまもどうぞ」(立派)「いや今日はわしはお供じゃ」(蟹衛門)「まあたあなたほどのど変態がー」(立派)といった会話が。あの騒動の中生きてたのか蟹衛門。しかし「ど変態」って本人に言い切っちゃうのか。
・「ここだけの話ですが、生娘がいるんですよー」「なにー!それはまことかー!」。ここで誰が出て来るかと思えば現れた(店から突き飛ばされて出てきた)のは女装の銀之助。か細い声で「二代目、お菓子でございまーす」。
おいおい生娘好きに男あてがっていいのか。そりゃ「ないテイ」で通すまでもなく本当に「ない」とは言え胸だってないしなあ。しかし先のいきさつがなければお寸たちはあのお菓子ちゃんをあてがうつもりだったのか?
それにしても「お供」の蟹衛門の方がより念入りに接待されてる感がある。貴重な「生娘」を提供してるし。
おそらくろまん街を潰したがってる田丸を押し止めてるのがろまん街でいい思いさせてもらってる蟹衛門で、重要なパイプ役ゆえにますます好待遇を受けている、今回も田丸にろまん街を気に入ってもらおうという狙いで説き伏せて連れてきたという流れなんだと思われます。
・匂いとか嗅いで(苦笑)みてから「全然ありです」と言い切られて、銀之助はえっと驚く。「ムリムリおれ男」と抗弁しても無理やり立派宅に連れ込まれてしまう。
目撃した闇太郎はただただ驚くばかり。そりゃ先のいきさつとか知らないしねえ。
・「やみちゃん、引き受けるの」「あんたはどうしてほしい、俺と所帯を持ちたいか」「俺には決められない。あんたにもあの男たちにもここではじめて会った」「だったらよしなよ。逃げなよ夜が明けるまえに。何もかも忘れなよ」「あんたのことも」。
ここの闇太郎とお泪の会話は諦めと自棄と躊躇い、相手への愛着が混ざり合って何とも言えず哀しくも艶のある雰囲気を醸し出している。大人の男女なのではの生活感を伴った色香というか。歌舞伎でいう「柝」のような音が入るのも静かな緊張感を高めます。
・「俺はあんたが好きだ。覚えてないけど、好きだ」「一緒に逃げよう。自分が何者か知ってしまった以上、もう元のバカには戻れん。忘れようとしてもきっとあんたのことを思い出す」ほとんど殺し文句のような言葉。
空っぽだった頭と心に沢谷村の闇太郎としての(虚偽の)記憶をすりこまれた結果、覚えてはいなくても当時好きだったはずの、今も漠然と好意をおぼえているお泪の存在が、またたくうちに闇太郎の心の支柱のようになってしまったんでしょうね。
・「あの男からは逃げられない」「好きなのか」「天晴を甘くみないほうがいいよ。冷たいんだ、あいつ、氷みたいに冷たいんだ」。
「好きなのか」という闇太郎の問いをお泪は否定していない。少し後で天晴と交わす会話からしても、二人が男女の仲にあった(ある?)こと、お泪が闇太郎と天晴の間で揺れていることがわかります。
・お泪が天晴の家に入っていったあと、闇太郎はがめ吉の家を訪ねる。
応対に出たがめ吉は「握り飯、作ってくれないか」という闇太郎の言葉だけで彼が街を出て行こうとしているのを察して「そうかそのほうがいい。おまえさんこの町で暮らすには心が優しすぎる」と返答する。
この時点では闇太郎は天晴の話を蹴って一人街を出て行くつもりになってたんでしょうか。お泪を置いて?それとも強引にでも連れて?
・流石が客(領主)を先導して出てきたのを見て闇太郎は隠れて様子を伺う。
「蟹衛門さまはただいま二階にて絶賛プレイ中でございますゆえ」代わりに屋敷まで案内すると流石は説明。ここで「いや~」という銀之助の太い悲鳴が。絶賛プレイ中の相手はやはり彼だったか(苦笑)。
しかし領主の世話ほったらかしてプレイ中とは不届な話。よく出世できたな。
・「拙者流石やるもんだなおつぐと申す者でございます」とこの機会に売り込みにかかる流石。そりゃヤクザの用心棒より領主に取り入って仕官できたほうがいいですもんね。元は武士なのだし学もありそうだし。
いかに立派組や天晴組がろまん街では覇を競ってるといっても領主の一存で潰されてしまう程度の存在なわけですし。うずらも息子を武士にしようと思ったのも、ヤクザの力はその程度のものという諦観があったからなんでしょう。
この場面の流石の行動はそうしたヤクザの〈この程度〉感を提示する意味合いがあるんじゃないかと思うんですが。
・これまで隠れていた闇太郎は二人の後を追っていく。がめ吉がおにぎりを持って出てくるとすでに闇太郎はいない。名前を呼んで探すがめ吉。
それを見てお泪は嫌な予感を覚える。なんとなく大通り魔が現れた夜を思わせるシチュエーションですからね。
おにぎり頼んだくらいで街を出て行くつもりでいたはずの闇太郎が突然変心したのは「絶賛プレイ中」+銀之助の悲鳴が関係しているように思います。25年前久太郎が大通り魔に変貌したのは蟹衛門が彼の母親を手篭めにしようとした時だった。銀之助の悲鳴に覚えていないはずの記憶が刺激されたのかもしれません。
しかし25年前といい今回といい、肝腎の蟹衛門以外の相手ばかり斬っているのはどういうわけやら。
・「これあたし届けるよ。だいじょうぶまだそう遠くへは行ってないから」とお泪が走り出したところに天晴が現れる。お泪ははっと立ち止まって背を向ける。
「どうした、忘れ物届けるんじゃねえのか」「お前の言う通りだよお泪、おれは冷たい男だ」。この台詞で天晴がさっきからの会話を立ち聞きしていたのがわかります。
「本当のところ血が通ってるかもわからねえ。だから酒を飲む。酔いがさめると死んでしまうからな。生きていることをたしかめるために、飲んで、刀を振り回す。それがたまたま人に当たるだけのことよ」「あいつも本来そういう人間じゃねえかっておれは思うんだ」「あの人はちがう。やみちゃんはあんたとはちがう」「あたしのこと好きだって言ってくれた」。
ここまではすこぶるハードボイルドな会話だったのが「おれ言ってねえか」「言われてません」「・・・思っちゃあいるんだけどなあ」「思ってて言わないのは思ってないのと同じです」と一気に痴話ゲンカモードに。
この会話聞くかぎりお泪が愛してるのは天晴の方ですね。ただここで肩にかけられた天晴の手を拒絶して背を向け家に逃げ込んでしまうあたり、すでに仲が(というよりお泪の感情が)こじれまくって修復不可能な域に行ってしまってる。それでも逃げ込む先が天晴の家だというのがなあ。他に行くところもないからですけども。
・騒がしい声に天晴は姿を隠す。そこへ現れたのは初出の若い男(サルキジ)と仲間たち。街の寂れ方を大げさに嘆くサルキジ。
してみるとろまん街がこうも荒廃したのはここ最近のことであるらしい。観客は今のろまん街しか知りませんが、田丸がろまん街を潰そうとしてるなんて話も考えるとここ数年のうちにどんどんジリ貧になってきた感じでしょうか。
立派・天晴両家の争いで人死にが出まくってる(天晴が斬りまくってる)のも何気に大きいのでは。
・名前で呼ぶ仲間をつきとばし「ここじゃ親分、あるいは兄貴とよべ」といきがるサルキジ。そこに天晴が現れ声をかける。
「江戸へ修行へ行ったんじゃなかったのかい」とにやにや話しかける天晴に「ああ、わけあって帰ってきた」と答えるサルキジは虚勢を張るような態度。「さては父ちゃんに呼び戻されたか」と薄笑いで歩いてくる天晴に後ずさりしながら「それ以上は近寄らないほうがいいぜ」とサルキジは短銃を抜く。
ただ歩いてきただけなのにもう銃を出すって。サルキジが内心天晴にビビりまくってるのが、彼の気の弱さがすでにこのワンシーンでわかります「ガキがそんなおもちゃでいきがるんじゃねえよ」と真顔になった天晴の迫力に銃構えてるにもかかわらずやっぱり後ずさってますしね。
・その時ガラスの割れる音がして立派家の玄関から銀之助が飛び出してくる。「やっぱ無理ですー男は無理ですー」と叫ぶ声の裏返り方がナイス。先の悲鳴から大分時間が経ってますが、果たして未遂のうちに逃げられたのか。
お寸が追ってきて「このチンカス野郎」と銀之助を張り倒す。女のなりをさせながらも銀之助を男と見てるからこその罵倒ですねこれ。「うちの大事な商品傷物にしたんだから元はとらせてもらうよー」と凄まれて銀之助涙目。どうもこの先もお菓子としてお客取らされそうな雰囲気です。「ないテイ」で通させるのか女装のニューハーフで売るのかは不明ですが。
・ここで「母ちゃん」とサルキジに呼びかけられたお寸はしばし静止。それから銀之助を突き飛ばしてサルキジと抱き合い再会を喜ぶ。ここでサルキジが立派・お寸の子供だったのが判明。あのヘタレなのに強がるくせは父親ゆずりか。
・「あんた、サルキジ帰ってきたよー」と立派の家に飛んでいくお寸。対して天晴は彼らに背を向けて距離を置く。
これまでいざとなると夫より弟を取ってきた感のあるお寸ですが、今後は息子可愛さにサルキジと上手くいってそうもない天晴から離れていく可能性がある。それが示唆されているようなシーンです。
・立派も息子を迎えに飛び出したところへ、ちょうど流石も帰ってくるが妙にそわそわした様子。サルキジを紹介しようとした立派だが「先生刀どうしました」とふと問い掛ける。
「刀・・・あ、ありますよここに」「ありませんよ」「ありまーす。私には見えるんです!」。流石はあからさまに挙動不審。さらに「ほら、ほら」とない刀で素振りまでしてみせる。それを銀が指差し「あるテイだ!」。これもあるテイと評するのね。まあ確かに。
・そこへ返り血あびた闇太郎が現れ悲鳴があがる。しかし闇太郎は何も言わない。その姿に天晴は「闇太郎。おまえ、善兵衛を斬ってきたのか」と問い、百姓二人は「ほんとにやったのか?やったー世直しだー!」と歓声をあげる。
闇太郎はそちらには反応せず「天晴、約束通りおれはこの女と所帯を持つ」と血まみれの手でお泪の肩を引き寄せる。しかしお泪は脅えた顔。
血まみれの相手に抱き寄せられたら無理もないですが、それ以上に闇太郎だけには人殺しをしてほしくないという彼女の気持ちを踏みにじられたことへの悲しみと怒りがあるのかもしれません。
これで所帯を持ったとしてもとても幸せになれそうもない。二人の先行きがすでに暗示されています。