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俳優・勝地涼くんのこと。

『機動戦士ガンダム00』(1)-24(注・ネタバレしてます)

2025-06-04 20:27:55 | ガンダム00

王留美

ソレスタルビーイングのエージェントの一人。大富豪である王家の令嬢で、先代亡きあと15歳の若さで当主となる。
莫大な資産と人脈によって、プトレマイオスクルーに有益な情報を数々提供、三国家群合同軍事演習の頃にはマイスターを除くプトレマイオスチームの面々をしばらく豪奢な別荘でもてなしたりしている。
思えばこの頃が彼女とプトレマイオスクルーが一番上手く行っていた頃ではないか。その後より過激な武力介入を行うチームトリニティが現れるとプトレマイオスチームには内緒で彼らとも接触を持ち、セカンドシーズンではイノベイター(イノベイド)に接近する。
最初はリーダーであるリボンズ・アルマークと親しくしていたが、ダブルオーライザーの能力にショックを受けたリボンズに八つ当たりで平手打ちされる侮辱を受けてからは、リボンズに含むところのあるリジェネ・レジェッタに近づく、というか近づかれる。

こう書いていくと明らかなように、彼女は自分の目的のためにより有益と思われる相手にどんどん乗り換えていく。それも前の相手と完全に切れるわけではなく、そちらとの関係も保っておきつつ軸足を移すといった感じで、結果的に二重三重スパイのような立ち位置となっている。その目的とは世界を変革すること。
イオリア・シュヘンベルグを筆頭に、ソレスタルビーイング関係者はプトレマイオスクルーから監視者のアレハンドロ・コーナーまで何かにつけ「世界の変革」を口にするのだが、変革を望む気持ちにおいてはある意味王留美が一番切実だったかもしれない。

物語の終盤近くなって、留美のそばに常に秘書兼ボディガードとして付き従っている紅龍という青年が実は留美の実兄であり、彼が大家の当主としては器に欠けると見なされ廃嫡されたために留美が王家を継がざるを得なくなったことが明かされる。
テレビアニメでは「お兄様に当主としての器がないから私の人生は歪んだ」というだけで具体的な事情は語られないが、小説版によると、善良だが気弱な兄を当主の器ではないと見切った先代は、留美を次期当主と定め徹底した帝王教育をほどこした。自由な時間の全くない完全管理された奴隷のような生活と、社交界で財界人・政界人たちの裏面の醜さを見せつけられたことで、彼女はやがて世界が灰色に見えるようになったという。
それは先代が亡くなりその管理下から脱したのちも変わらなかった。再び光彩に溢れた世界を取り戻したい、自分は自由を取り戻した(変わった)のに世界に色が戻らないなら世界の方を変えなくては、というのが彼女が「世界の変革」を望む理由だ。
そこにはプトレマイオスクルーのような、戦争やテロを憎み根絶したい、自分たちのように紛争のために苦しむ人間を生み出したくないといった想いは全く感じられない。何年も心を殺して生きてきたせいで世界が灰色にしか見えなくなったという状況には同情の余地はあるが、どこまでも自分の都合だけなのだ。

そもそも光彩に溢れた世界を取り戻したいというなら、彼女に世界の色を失わせた原因の王家を捨ててしまえばよかったのだ。
先代が亡くなった時点で兄の紅龍に当主の座を押し付け(留美に辛い役割を負わせたことに責任を感じて自ら彼女の従者となる道を選んだ紅龍ならいやいやながらも引き受けるだろう。周囲が〈能力不足で先代に見切られた人間など当主として認めない〉と横槍を入れたとしても、王家の財産と社会的地位を思えば当主に手を挙げたがる人間はいくらもいるだろうし)、自分は最低限の生活費だけ持って家を出て、一般人の少女として生活すればよかった。
ルイスのように普通に学校に通ってクラスメートやボーイフレンドと食事したり買い物したり。超セレブの世界しか知らない彼女には庶民の暮らしは新鮮であり刺激的だろう。そうした日常を送ることで自然と世界に色も戻っていったのではないか。

王家ほどの大家(小説版によると「世界有数の多国籍グループ企業を持つ」そうだが、当主の王留美がソレスタルビーイングがらみの活動以外はパーティーに出席するくらいしか仕事らしいことをしている場面がないので、経営そのものは各企業のトップに任せておいて王家当主は各界有力者と密接な関係性を築いておくことがお仕事、という感じだろうか)であれば、内部で働いている人間や関係各方面に与える影響を思えばそう簡単に立場を捨てられないと考えた可能性もなくはないが、実際に彼女のやったことを見れば、ソレスタルビーイングやアロウズに対する財政支援のために王家の莫大な財産をほぼ使い果たしてしまっている。到底王家や周りの人間を思いやって行動しているとは思えない。
最初、留美は代々監視者の役割を担ってきたコーナー家同様に先代からエージェントの任務を引き継いだのかと思っていたのだが、これも小説版によると「(灰色の世界を変えるために)戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングの理念に彼女は飛びついた」とあり、王家の情報網を通じてソレスタルビーイングの存在を知った留美が自らエージェントに手を挙げたものらしい。
王家先代にしてみれば王家の繁栄の基盤である現行の世界の変革などを望みそのために王家を傾けるなどもってのほかであろう。紅龍の気弱さを疎んじたからには先代は留美の気の強さ・行動力を買ってそれを伸ばすべく教育を施したのだろうが、かえって裏目に出た格好である。
(むしろ紅龍の有能さ―妹への贖罪意識から武術を習得して護衛役を務めたり、留美の我が儘な言動の数々に耐えたりできる忍耐力、留美がネーナに撃たれた時身をもって庇ったとっさの判断力・行動力、妹への思いやりなど見るに、そのまま紅龍を後継者にしておいた方が良かったのでは?と思えてならない。気弱で頼りない部分は〈おまえがそんなだと留美を当主に据えるために過酷な英才教育を施すぞ〉と脅しをかければ、妹想いの彼は奮起して自己改革できたんじゃないか)

留美は(先代の死により自由を得たことで)自分は変わったと見なしているようだが、彼女を取り巻く基本環境自体は何も変わっていない。自分を取り巻く狭い特殊な世界しか知らず、その世界を破壊したいほど憎みながらその外に出ようともしない。
結局彼女は現状の豪奢な暮らしを放棄する気はないし、そもそも豪奢でない生活という物を想像すらできないのだろう。
「何でも持ってるくせにもっともっと欲しがって」とネーナ・トリニティが嘲笑する所以であり、自ら変わろうとはしない彼女を「君はイノベイターにはなれない」とリボンズが突き放すのもわかろうというものだ。
「俺は変わる。俺自身を変革させる」と宣言した前後から真のイノベイターとして覚醒を始めた刹那とは対照的であり、むしろ自ら変革することの重要性を際立たせるために、世界の変革を求めながら自らは変われない人間の代表として王留美というキャラクターを登場させたのかもしれない。

とはいえ、上で書いたように王家の財産をほぼ使い果たしてしまった彼女は、ネーナの造反がなくとも遠からずこれまでのような優雅な暮らしはできなくなっていたかもしれない。必然的に彼女の世界は変わらざるを得なくなる。
そして「ソレスタルビーイングも、イノベイターも、お兄様の命も捧げて、変革は達成される。私はその先にある素晴らしい未来を・・・」という発言からは、彼女が今の生活を、公私にわたり彼女を傍らで支え続けてきた紅龍を失うことすら怖れていないようにも思える。
彼女の夢見る「素晴らしい未来」が具体的にどのようなものなのかはさっぱりわからないが、ソレスタルビーイング・イノベイター(イノベイド)・アロウズの全面衝突(とそれによる三者の共倒れ)が起こればブレイクピラー以上の死傷者が出てもおかしくないのに、自分はその惨禍を免れうることを前提にしているのに驚く。
これまた小説版だと、「財産を投げうち、紅龍を失ったいまでも、彼女は己の能力と広い人脈によってこの不遇から再起し、うまく立ち回っていく自信がある」のだそうだ。自分も自分と付き合いのある有力者も皆生き残れる前提になっているのは、“自分(たち)は大丈夫”という特権階級にありがちな無根拠な思い込みによるものだろうか。
確かに上流階級の人間はいろんな裏情報も入ってくるし、セキュリティの強固な場所にいられるので一般庶民に比べて危機を回避しやすくはあるだろうが、セレブだって無惨に殺される時があるのはハレヴィ一族やラグナ・ハーヴェイの例を見ても明らかで、他ならぬ王留美自身がこの直後にそれを証明してしまった。
ただ留美が〈世界に色を取り戻す〉というごく私的な望みのために、王家を捨てるのでなく王家そのものの基盤を揺るがすような選択をしたのは、自分をこんな境遇に追い込んだ王家への強い憎しみがあったのかもしれない。
チームトリニティに接触した際に紅龍に「それほどまでに、いまの世界がお嫌いですか?」と問われて「ええ、嫌いよ。変わらないのなら、壊れてもいいとさえ思うほどに」と答えた彼女には世界に対する強い破壊願望が感じられたが、それも王家への破壊願望が王家の立脚する現行世界への破壊願望へと拡大したものだったのではないか。
「素晴らしい未来」に具体性が見えないのも、実際に彼女を動かしているのはただ〈現状を破壊したい〉という衝動だけで、その先は〈不幸の原因がなくなれば幸福になれるはず〉程度のふわふわしたイメージしか描けていないからではないか。
身勝手な人間には違いないのだが、そこまで追い詰められた結果と思えばいささか気の毒に思えるところもある。

もう一つ気の毒なのは、彼女が近づいた相手からことごとく“仲間”として扱われないことだ。リボンズもリジェネも彼女の財力やプライドを利用しただけで手ひどい切り捨て方をしたし、チームトリニティの生き残りで行き場を失くしたところを一応は保護した格好のネーナにはついには兄も自分も殺された。
一番円満な関係が築けていたと思えるプトレマイオスチームにしても、人命救助を優先してミッションを放棄したアレルヤを咎めた際に「あなたにはわからないさ。宇宙を漂流する者の気持ちなんて」と一方的に通信を切られている(切ったあとの台詞なので留美には聞こえていないが、例えば相手がスメラギなら「あなたにはわからない」なんてきつい表現は一人言でもしなかったと思う。安全圏から物を言ってくる留美に対する反感がアレルヤの中にあったのではないか)。
またメメントモリ破壊ミッションの直前に留美から暗号データが送られてきた時にもティエリアが「今まで何を」と苛立ちの滲む声を発している。以前のようには留美と連絡がつかないことが多く彼女の行動に不信感を抱きつつあったのが背景にあるのだが、何かあったのかと彼女の身を案じるのでなく“今まで何やってたんだ”という反応になるあたり、やっぱりあまり留美を好きじゃないのかなという感がある。
それぞれ事情はあれど本気で戦争根絶を願っているには違いないプトレマイオスクルーは、自分たちとの温度差のようなものを留美に感じていたのかもしれない。
実際留美は二重三重スパイのようなことをやっているのだから自業自得ではあるのだが、唯一本当に自分を案じ大切にしてくれた兄の愛情に気づくことがないまま彼を失ってしまったのも含め、可哀想な人だなという気がするのである。

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