アレハンドロ・コーナー
ソレスタルビーイングの「監視者」の一人。国連大使でもあり、太陽光発電施設建設支援の使者としてアザディスタンを訪問したりしている。
このアザディスタン支援、マリナ王女が技術援助を頼みに各国歴訪しては断られ続けてきたのを国連が引き受けてくれたものだが、使節団の代表として訪れたアレハンドロに対し、マリナは「(交渉がまとまれば)この方がアザディスタンを救ってくれる」と思い、シーリンは「見返りは何もないというのに。あの男、何を考えてるの」と警戒心を抱いている。
大使はあくまで交渉役であって決定権者ではないだろうに、マリナはともかく(決定権はなくとも直接の交渉役が好感情を持ってくれるか否かが最終決定を大きく左右するのは確かなので)、シーリンがアレハンドロをアザディスタンからの支援要請受け入れを決めた(決める)当人のように見なしているのは不思議である。
ただこの国連支援をきっかけとしてアザディスタンの宗教的指導者で保守派を代表するマスード・ラフマディが誘拐され本格的内紛に至っている。内紛とそれによるソレスタルビーイングの介入を誘発する(ソレスタルビーイングに見せ場を作る)動機があるのは国連組織ではなく、ソレスタルビーイングの監視者としての顔を持つアレハンドロ個人であろう。
一大使という立場ではあるが上層部にかなりの影響力を有していて、国連に利益があるとも思えないアザディスタンへの支援を巧みに推進したものと思われる。シーリンが不可解な支援をアレハンドロの裁量のごとくに受け取ったのは結果的に当たっていたことになる。
しかしなぜアレハンドロはアザディスタンを紛争地として選んだのだろう。イオリア計画に沿って世界が一つにまとまるに当たっては、三国家群が統合され地球連邦を樹立する形になることは予測できたろう(実際そうなった)。その時、三国家群に属さず太陽光発電も立ち遅れている中東の諸国家(国際連合に加盟しているとはいえほとんど世界から見捨てられている状態にある)ははじき出されることになる。
イオリア計画が進行する上で中東国家の立ち位置は現状以上に困窮し、貧困を背景にした紛争もさらに激化するのは目に見えていた。そのうえで中東国家をどうにか救済し連邦の一員として協調してゆこうとするのではなく見殺しにする―群れからはぐれる者は見捨ててしまえばいい、それで歯向かってくるなら叩き潰せばいいというのが後の連邦政府とアロウズ、そしてアレハンドロのスタンスだったのではないか。
中東はどうせ切り捨てる予定なのだから、ガンダムの力を誇示する実験場にしてもよいと。中東の国ならどこでもよかったが、ちょうど王女から援助の要請があったアザディスタンを選んだという流れだったのではないか。
ちなみに小説版ではアレハンドロがリボンズに「私は見ていたいのだよ・・・・・・世界というものを(中略)アザディスタンである理由など何もないよ。しいて言えば、一番変わる可能性を・・・・・・あるいは危険性を孕んでいる国だったからかな」「期待しているのだよ、この国がどのように変わるかを・・・・・・」と語る場面がある。
国が、世界が変わるのを見たいという願望はエージェントの王留美と共通するものがある。留美とアレハンドロが何かと情報交換を行っているのも、お互いに似通ったものを見出してるのかもしれない。
ただ留美が世界に変革を起こすべく積極的に動き回ってるのに対して、初期のアレハンドロは「私は監視者であって実行者ではないよ。私にできるのは見つめ続けるのみ」とあくまで状況の外から第三者的に悠然と事態を眺めるという立ち位置で振る舞っている。アザディスタンの件でも技術援助を行うことで紛争の火種を撒く、というか元々あった火種に火花を散らしはしたものの、火がついた後はそれを煽るでもなくただ離れた位置から眺めるのみである。
ただそれはあくまでそう「振る舞っている」というに過ぎず、陰ではチームトリニティを生み出し国連に疑似GNドライヴとガンダム様のMSを提供し――と暗躍したあげくに、リボンズによるヴェーダ本体完全掌握の(半ばは)失敗を経て、いきなり巨大モビルアーマー・アルヴァトーレを駆って、地球連邦軍によるソレスタルビーイング掃討作戦(フォーリンエンジェルス)にしゃしゃり出てくる。
このフォーリンエンジェルス作戦第二次攻撃時の大仰かつ傲岸な言動は、これまで紳士的な態度に包んできた自己顕示欲を露わにした印象がある。こちらが彼の本性であり、三国家群による合同軍事演習の際にガンダム4機の危機にも悠然と「私の仕事もここまでかもしれんな」と呟いたのを受けてリボンズが密かに「そんな気なんかないくせに」と失笑した所以だ。内心はイオリアの計画を私物化しようとの野心に満ち溢れて(実際そのために行動を起こして)いながら、表面は事態の推移に無関心のように振る舞う、そんな彼の欺瞞をリボンズは嘲ったのであろう。
しかしリボンズ相手に無関心なポーズをしてみせる必要性がわからない。リボンズにはヴェーダ本体の位置を調べさせているくらいで、その野心を隠してないんだろうに。
そもそもアレハンドロはリボンズを何者だと思っていたのだろうか。アレハンドロはリボンズをしばしば「天使」と形容するが、彼が人間ではないとわかっていたのか。
「ネーナ・トリニティ」の項で“アレハンドロはリボンズをイノベイドとは知らなかっただろう”と書いたが、小説版を読み返すとリボンズの裏切りに遭うシーンで「イノベイターである彼を見つけ出し、保護したのは私だ。彼の能力に気づき、ヴェーダを掌握させたのも私。彼の細胞を調べ、トリニティたちを作らせたのも私。」との記述があった(汗)。つまりアレハンドロはリボンズがイノベイター=イノベイドだと知っていたことになるのだが、アレハンドロがイノベイドの何たるかを本当に把握していたかは疑問だ。
「イノベイド」という概念自体は、アレハンドロはヴェーダのレベル7に指定されているガンダムマイスターの個人情報を把握していたはずなので(リボンズが意図的に歪めて伝えていなければだが)、ティエリアのデータを介して彼がイノベイドであること、イノベイド=イノベイターとはイオリア計画のために人工的に生み出された強化人間だと知っていただろう。
ただ、リボンズがイノベイド―計画促進のためにイオリアによって造り出された、能力的には人類の上位種と言ってよい存在とわかっていたなら、「保護した」という発想が出てくるのは不思議である。イオリア計画のために生み出された、イオリアの忠実な僕であってしかるべき相手が、計画を私物化しようとする自分になぜ協力するのか疑問視しないのも。
このへんはリボンズがアレハンドロの性格を理解したうえで彼のプライドをくすぐるよう振る舞った結果なのだろうが(「拾ってくださったことへのご恩返しはさせて頂きます」という発言とか。ただセカンドシーズンで傲岸な態度を見せつけまくるリボンズだけに、口調にどこか不遜なものが混じりこんでいるのだが)。
アレハンドロの言う両者の「運命的」な出会いというのがどんなものだったのかは知る由もないが、コーナー一族が数世代に渡って密かに(疑似)GNドライヴを建造していることに気づいたリボンズが奇跡的な偶然を演出してアレハンドロに接近したことは間違いないと思われる。
そしてアレハンドロの態度からして、リボンズは自身を天才ハッカーのような存在―アレハンドロの前でヴェーダ本体に続く扉を手も機械も使わず目を金色に光らせるだけで開けてみせているので、コンピューター操作に特化した超能力者とでも思わせるよう図っていたように見える。
そうしてアレハンドロに従うと見せながら暗に彼を利用したのだろうが、それにしてもヴェーダを完全掌握できるほどの力を有する“ハッカー”が、自ら主役になろうとせずアレハンドロが計画の主役に押し上げることに協力するとなぜ本気で思えたのかという疑問は相変わらず残る。
上流社会に生まれついて、周囲の人間が自分に従うのは当たり前と思って生きてきたゆえの無意識の傲慢さの顕れ・・・とでも理解するよりないか。
システムトラップによってヴェーダの完全掌握に失敗(とはいえマイスター情報が完全消去された以外は掌握できてるようだが)、プトレマイオスのガンダム4機にトランザムシステムという新機能を結果的にプレゼントしてしまった怒りからか、これから少し後に行われた上掲第二次フォーリングエンジェルス作戦にアレハンドロは唐突に参戦する。
一応参戦に先だって国連の司令部から現地のマネキンの元に増援を送るとの通達が来てはいるのだが、その異様な外形から当のマネキンに「何だ、この機体は!?」と言われてしまっている。まあ三国家群どの陣営の機体とも特徴が一致しない、“ソレスタルビーイングの裏切り者”から合わせて30個しか提供されなかったはずの疑似GNドライヴを7つも搭載している機体、パイロットが誰かも不明という時点で、“ソレスタルビーイングの裏切り者”当人かそれに近い人物なのは察しがついたろうが。
ともあれ初めて実際の戦場へ躍り出たアレハンドロは、7つの疑似GNドライヴによる強固なGNフィールドと超長距離からの砲撃でプトレマイオスとガンダムを苦境に追い込む。が、GNフィールドが直接攻撃―実体剣に弱い特徴を突かれ(相手が近接戦闘を得意とする刹那のエクシアだったのがまずかった)、アルヴァトーレをずたずたに切り裂かれ、さらに中から無傷のMSアルヴァアロンの姿で再登場し一時はエクシアを圧倒するも、(自分が発動のきっかけを作ってしまった)新機能トランザムシステムを起動させたエクシアにこれまたずたずたにされ、今度こそ機体と命を共にすることとなった。
これまで刹那を「力まかせだ。ガンダムの性能に頼りすぎている」「未熟なパイロット」と見下しておきながら、自分こそがGNドライヴを7個も搭載した機体頼みで、戦闘の場数を踏んでいる刹那にトランザムの恩恵ばかりでなく技量と戦闘勘においても負けた。
この後に真打というべきグラハム・エーカーとの戦いが控えている分アレハンドロとの戦闘が時間・手数ともに巻きが入ったという制作上の都合が窺える展開ではあるものの(最終回一話に対アルヴァトーレ戦の後半→アルヴァアロン戦→グラハムのカスタムフラッグ戦をよく詰め込んだものだ)、最後に何でアレハンドロに従ってるのか不可解だったリボンズに案の定裏切られての終焉を迎えるあたりも含め何となく間抜けで、自信過剰なところがかえって憎めないキャラではあった。
そんな“いい悪役ぶり”を買われてか、彼は映画版でまさかの再登場を果たす。といっても劇中劇『ソレスタルビーイング』の中であるが。
事実を大きく脚色したという設定のこの映画に、実際には彼の没後に台頭したアロウズ(実際よりわかりやすく悪者に演出)のラスボスとして、ソレスタルビーイングにぼこぼこにやられる立場で登場するのである。
彼の設定がどの程度現実に即しているのか(名前とか国連大使という肩書とか)は不明だが、あの金ぴかの機体とか傲岸不遜な物言いとかが評価(?)された結果の人選だろう。地球連邦軍に正式に属していたわけでもない(はずの)彼の機体と人となりが映画に使用されるほど有名なのかと首をかしげたくもなるが、ファーストシーズンで散ったアレハンドロが映画版で登場するというのはテレビ版以来の視聴者的には胸熱であったろう。
ところでアレハンドロは刹那たちを「イオリア・シュヘンベルグの亡霊」と呼んだり、ヴェーダをレベル7まで攻略したさいに現れたイオリアの眠る冷凍睡眠カプセルを拳銃で撃ったりしている。特に後者は弾丸を撃ち尽くすまで引き鉄を引き続けていて、そこには単にイオリアを完全に亡き者にして自分がイオリア計画を乗っ取りたいというだけでない執拗さ、憎しみをさえ感じる。
しかし実際会ったこともないはずのイオリアにアレハンドロが憎しみを抱く理由とは何か。それはおそらくアルヴァアロンが一たびエクシアを倒したと見えた時にアレハンドロが叫んだ言葉に手がかりがある。「残念だったな、イオリア・シュヘンベルグ。世界を統合し、人類を新たな時代へと誘うのはこの私、今を生きる人間だ!」。
自分がイオリア計画の主人公になるという発言はヴェーダ掌握以降たびたび見受けられるが、ここで初めて出てくる「今を生きる人間」というフレーズには、200年前に死んだ人間が世界を人類を操ろうとしていることへの嫌悪感が窺える。自分たちは死者の傀儡ではない、世界を動かすのはその時代に生きている人間であるべきだという主張には、個人的には大いに同意する。
この時代に生きる人間の代表がアレハンドロである必要は感じないし、彼の色に染められた世界など想像したくないが、自分が計画を変更しようとすることすらイオリアに予測されていたと悟ったアレハンドロが「神を気取る不遜な理想主義者にこれ以上踊らされてたまるものか」と呻いた無念・不快感には共感を覚えるのだった。
――実はイオリア自身も“計画の主役はその時代を生きる人間であるべき”と思っていたような節があるのだが、そのあたりは「ヴェーダ掌握」の過程にまつわる種々の疑問ともども追って掘り下げてみたい。