・オープニング曲をバックに歩く二人。闇太郎の「マイクロミニ」に触発されて(?)自分の股間を確かめた銀之助はやっぱりないのを確認して、ちょっと照れたような、けれども満面の笑みを浮かべる。笑ってる場合なのか。
ここでちょうど「連れの男はもっとバカー、キンタマ取られて笑ってるー」という歌詞がかぶさる。観客の心情を代弁するかのようです。
・歌の一番が終わったところで再びストーリーが流れ出す。「下履いたのか」「あの格好で二時間半はきつい」。いやまったく。
・「あと一息でろまん街だ」「ろまん街?」「牢獄の牢に肥満の満でろまん街だ」。ひどいネーミング、というか銀之助の説明がひどい。せめて満足の満とか。
「夢がないな」「あるさー。フランス語で夢とか野望とかいう意味でな、百姓も侍もないこの世の極楽だって話だぜー」。
たしかにろまん街には百姓も侍もいなかったが。この理屈だと「板の上ではみな平等」の蜉蝣峠だって極楽なんでは。
・二人が舞台袖へはけたところで曲がロック調に代わり反対側からぼろを着た男たちが踊るように舞台へ。力強い踊り。太鼓のやぐらが運びこまれてきて主題歌が流れ出す。
男女入り乱れての激しい歌とダンスの裏でろまん街のセットが運びこまれてくる。さぞエネルギッシュな舞台になるのだろうという観客の期待を煽りつつ、自然に場面転換を行う上手い進行です。
・踊っていた人々がはけた後、舞台は対照的に暗く閑散となる。首をくくった死体と行き倒れ風の死体。物乞いらしい老婆といざり車が行き交う。
ちょうどそこへやってきた銀之助が一言「地獄だー!」。確かにわかりやすい地獄絵図です。先に「この世の極楽」と言っていた銀之助の180度転換が面白い。
「何がろまん街だ。見ろ、ろん街だ」と銀之助は「ま」の字が取れた街の看板を指す。『犬顔家~』のラスト(「おかわり亭」の看板の「か」が落ちて「おわり」になる)を彷彿とさせるギャグ。宮藤さんの台本なのかいのうえさんの演出なのか。
・銀之助が闇太郎を連れて街を出ようとすると「闇太郎?」と老人が呼び止める。この盲目の老人=がめ吉との出会いによって物語が急速に動いていくことになります。
・天晴組と立派組についてがめ吉が説明してくれる。この時がめ吉がいちいち「わしにゃあ見えねえけど」というのに対し、闇太郎が「いちいち気を使わせるめくらだな」などという。
テレビや映画ならカット必至のこのセリフ、宮藤さんが書いたのかそれとも古田さんのアドリブでしょうか。舞台作品なのをいいことにやりたい放題やってます。
・「望みはなんだ。飯か酒かそれとも、女か?」と聞かれて「女ー!」と満面の笑顔で手をあげる銀之助。
女いたって役に立つまいに、と思ったら、なんと自分が「ない」状態なのを素で忘れていたらしいのが後ほど判明します。こんな逆境を忘れ去ってるあたりはやはりバカ。結局自分が女にされてしまったし。
この時「飯にしようよ銀ちゃん」という闇太郎の少し情けない感じの声がいい味です。
・対して銀之助は「女女」と連呼しながら足をばたばた。だだっ子か。しかしこの銀之助めちゃ可愛いです。
・立派とお寸の101回目の祝言。言うに及ばず往年の人気ドラマ『101回目のプロボーズ』を意識したお遊び設定ですね。
絶えず別れちゃくっつくを繰り返してるさまはバカバカしいんですが、この祝言シーンのおかげで舞台が明るく華やかになっているのは確か。
下手すりゃ日に二回も祝言やるものをよくヤクザのみなさん参列してくれるなあと思いますが、親分とその奥方が新郎新婦だから逆らえないという以上に、殺伐とした日々にあってこの祝言を心のオアシスのように思っているからじゃあ。
・繰り返し出てくる「腹から声を出す」っていうのはなんか元ネタあるんでしょうか。「喉に負担のかかる発声法」てのも。
・お寸の挨拶途中、ちょうどすごい顔になってる状態でお寸・立派、さらに回りもみんな静止し、背後のあばら家から覗いてるがめ吉と銀之助に焦点をあてて、がめ吉が背景の事情を銀之助に説明するという演出。
静止状態を演じる役者さんには冒頭の銀之助の〈同じセリフ繰り返し〉をも上回る試練ですが、それだけに一種の見せ場だとも言える。当然各役者のファンも喜ぶだろうし。
・がめ吉が話す後ろでもくもくと食べている闇太郎。全く話に関心を示さないのが笑えますが、実は自分の正体に関わる話なわけで、思い出したくないと願う無意識があえてスルーさせてしまってるのかも。
・天晴の名前を聞いただけで震え上がって挙動不信の立派。がめ吉いわく「悪知恵と銭儲けの才能だけでのしあがった小悪党」。
もしや久太郎の母親が息子の留守中に売られた一件も具体的に計画を進めたのは立派だったりするのか。
・立派は周囲にびびってるところをみせまいと意地を張って天晴を挑発する。そのうち天晴の家の中まで入っていってしまうが間もなく叫んで飛び出してくる。
「天晴いたの?」と聞かれると「目をつぶって行ったからわかんねえよ」。どれだけヘタレなのか。よくまがりなりにもヤクザの親分がつとまってるよなあ。
・お寸は「石松あんたちょっと様子みておいで」と最初に出てきた男に声をかけるが、石松はさっき斬られた左腕を傷口にくっつけようとしているところ。お寸はなんとその腕をかっぱらい天晴の家の中に放りこんで行ってこいとうながす。うわひでえ(笑)。
笑えるなかにも極道の世界らしい殺伐とした雰囲気を伝えてくれる一コマです。
・やむなく石松が「あっぱれくーん」と子供が遊びに誘いに行くような口調で暖簾をノックし中に入ると、奥から「あーとーでー」との声が響く。これが天晴の(天晴としての)初台詞。
「だそうです」と出てきた石松は直後に後ろから刺される。天晴ひどいなあ。こんな卑怯な手を使わずとも天晴なら普通に斬り殺せる相手だろうに。
・初登場の天晴はどぶろく片手に出てきて刀を肩にかつぐような決めポーズ。さっきまで軍鶏だった人とは思えない格好良さ。
なのに第一声は「軍鶏になる夢を見た」。客席爆笑。本人は全くの真顔でむしろ不機嫌そうだけども。
・「だからすこぶる機嫌が悪い」と暴れはじめる天晴。夢見が悪かったという全く個人的な事情でこの騒ぎ。実に迷惑な男です。
石松後ろから刺したのも卑怯とかそういう観念なしに「なんかそうしたくなったからそうした」とかなんだろうなあ。
・がめ吉によると「酒の入った天晴は手がつけられない。しかも立派は先端恐怖症だ」。本当なんでこの人ヤクザやってるんだか。
・こんな立派の姿にお寸はもう愛想が尽きたと突然101回目の破局。しかし「このアマまた寝返りやがった」「この子のためなら何度でも寝返るさ」なんて会話からすると、今までの破局も弟可愛さゆえだったのか。
山ほどの離婚と再婚も立派と天晴の間で相当に苦しんでるゆえなのかなあと思うとちょっとしんみりします。
・天晴も姉ちゃんにはちょっと優しい顔を見せる。しかし姉貴に「やっちまいな」と言われた天晴は、切りかかるとき両目を寄り目がちに剥いて舌吐き出した表情になる。間抜けな表情がかえって恐ろしさを感じさせます。
先ほどの「あーとーでー」といい、稚気を見せつつ残忍というのが天晴のスタイルなんですね。
・立派組の面々を斬りまくる天晴の殺陣。立派は流石先生を呼ぶ。しかし先般の軍鶏との戦いを見るかぎり結果は見えてるような(笑)。
実際流石先生、一度は天晴に向かいあったものの間合いをとってるような顔でそのまま立派の家に逆戻りする(笑)。戦わずしてもう負けますか。
・流石いわく天晴は五臓が弱りきってる、自分が手を下すまでもなく三年五年のうちには死ぬとの見立て。そんな先のこと今の戦いには全く関係ないんだが。
立派も困って、誰でもいいから天晴をやったやつには一両くれてやるといいだす。この場合「やった」イコール殺したなんだろうか。少し後で天晴に勝ったけど殺してはない闇太郎が(正確には代理人の銀之助が)一両を請求してたから勝てばOKなのかな。
・銀之助が言うには、一両に比べると一文は脇役、さしずめ打ち上げに出たけど誰ともしゃべれず、なのにビンゴゲームで海外旅行当てて、でもビンゴって言えなくって・・・って感じなんだとか。この話本人の言うとおりやけにリアルなんだが誰かの実話なのか。
・ビンゴビンゴ叫んでる銀之助に立派が「おまえがわけのわからないこと言ってる間にものすごーく斬られた」。
祝言のたびにこんな調子だとするとよく立派組全滅しないでもってるよなあ。
・業を煮やした立派が賞金を二両三両とつりあげてるのに「いいや一両!」と言い張る銀之助。アホか?
結局立派が妥協して(?)一両に。「ただしカブトムシはつけさせてもらう」「のったー!」。何の話だ?「バナナはおやつに入るんですか」みたいな定番ネタなのかな。
・「叫んでねえでツラ見せろツラあ!」。天晴に言われた銀之助が「そーれいけー」と軽い声(この明るさと爽やかさがまたなんとも)で差し向けたのがお茶碗とお箸もった食事中の闇太郎。こうなると思ったよ(笑)。
銀之助はなぜ闇太郎が強いと見抜いてたのか。あの軍鶏を絞めたからだろうか。となると闇太郎の腕を当てにして用心棒代わりに連れてきたってことなのか。それはなんかやだなあ。
・「なんだてめえは」「たったいま俺が雇った用心棒・・・みたい」「みたい?」 天晴と立派の爆笑ものの会話。
お寸なんて「おもしろいおじさん、あぶないからどいて」なんて戦力外扱いだし。しかし自分でバカじゃないと主張する闇太郎のこのときのアホ面はどうしたことだろう。
・立派の手先なら容赦しねえぞ、と斬ろうとする天晴にあっさり背中を見せてゆっくり駆け戻っていく闇太郎。
何なのだ、と思うと大盛りご飯と串に刺したおでんをもって戻ってくる。おかわりかい(苦笑)。やたら嬉しそうだし。
しかし立派組の男たちは「肝が据わってるぜこの先生」とかえって尊敬した様子。座りこんでご飯食ってるだけなんですけどね。
・立派は「お食事がお済みになりましたらあの悪党をやっつけてください」と丁重に言うが、闇太郎はもう食えないと寝転がってしまう。
お寸は「あーもう食えないか。おねむか」と子供に対するような扱い。この人の闇太郎評価が一番正解な気がします。
・しかし「なめくさってこの犬畜生が」と斬ろうとする天晴の刀を闇太郎は素早く下駄で受け止め、さらに串の先を天晴に突きつける。
25年まともに武術修業してないはずなのにこれなのだから、松枝久太郎がどれだけ手練れだったのかわかります。
しかし(鉄)下駄を武器にし、おでんの串など手近にあるものをとっさに役立てる無手勝流の戦闘流儀はおよそ武士階級らしくない。いったいどんな師匠について修業したんだ。
・その強さで天晴の度肝を抜きながら、すぐに「すみませんでした」と引っ込んでしまう闇太郎。その姿に天晴が「やるやんけ」と一言。この口調やはり軍鶏なのか。
・足をなごうとした刀をあっさりかわした闇太郎に天晴は驚くが、今度はおそるおそるという感じでもう一度ゆっくり足を斬ってみるとさくっと入って闇太郎は痛がる。
要は殺気に対して体が勝手に反応して防戦してたってことなんでしょうね。一種戦闘マシン的な怖さがあります。
・しかし「えーそれでは」と堪えたようでもなく、闇太郎はおでん串を手に立ち去る。終盤に顕著ですが闇太郎は痛がりはするものの異様に打たれ強い。
まあこの場面は傷のダメージを受けてないことより、天晴との戦いなどまるでなかったことのような態度の方がむしろ怖い。まさに「てめえなにもんだ」。戦ってるのは自分ではなく自分の中にいる(でも没交渉の)何かとでも言いたげな。
過去に激情のあまり大虐殺を行い、おそらくは自分のしでかしたことへのショックで記憶を失った闇太郎であってみれば、「戦ってる時の自分」は別人格として切り離してしまっててもおかしくないですが。
・「新郎新婦の門出を祝しましてわたくしから一曲」「歌うの?今さっき別れたばっかりなんだけれど」。戸惑うお寸を尻目に歌い出す闇太郎。しかも上手いし。
「闇太郎が歌が上手い」というのはお泪がやはり歌が得意だった幼馴染のやみ太郎と彼を混同したのはそのせい、という設定なんでしょうか。少なくとも失明直後のがめ吉が久太郎をやみ太郎と間違えた理由として一番考えやすいのは〈声が似てた〉可能性なので、歌う声も似てるんでしょうね。
・この歌につられて回り中の男女が抱き合い出す。天晴なんていきなり走りよってきた女がなにやら不埒なことをしようとしてます(笑)。これテレビじゃ放送できないなー。
しかし意外に天晴は女を突きのけて着物の前を直している。意外に身持ちが固いのか好みじゃなかっただけか。あるいはそのへんにお泪がいるはずなので、彼女への遠慮があったりするのか。
この時色男の銀之助に誰も女が寄って行かないのが意外ですが、存外無意識に彼が正常な男でないと感じ取ってるのかも。“ない”にもかかわらず、あれだけ女女言ってる銀之助もこんな状況にもかかわらず自分から女に寄っていってないし。
天晴の態度も合わせ、歌に触発されてか皆の無意識が表に滲み出してしまってる場面のように思います。
・揺れるお寸の女心を蜉蝣に例えた歌詞。しかし離れられない二人の関係を「ウンコと蝿」ってのもひどいな。
ついに抱きあって復縁する立派とお寸。歌の力ってすごい。あの天晴でさえ「あんたの歌を聴いてたらなわばりがどうしたと言ってる自分がちっぽけに思えてきた」なんて言ってるし。
立派から(さっきはまともな会話も成り立たないほど天晴にびびってたのに)今日のところは手打ちにしないかと提案し天晴も「今日のところはな」といいつつも握手に応じてます。
・いいかげんに名乗ったらどうだい、と天晴にうながされて「蜉蝣峠の、闇太郎」と名乗る闇太郎。どっかで聞いた名前だな、という天晴発言はもちろん伏線だろう。
「身分は」「知らん」「里は」「知らん」。そっけないようですが事実だもんなあ。
・「面白え。闇太郎。ついて来い。腹いっぱい食わしてやる」と言われて天晴について組に入っていく闇太郎。やっぱり闇太郎釣るには食べ物が一番と思われたんでしょうね。
立派は闇太郎を天晴の方に行かせちゃっていいのか?
・百二回目の祝言が始まる。斬られた人たちはどうなったんだろう。まだそのへんに転がったままだろうに。
そして闇太郎がもらうはずの一両は・・・と思ったらこれは一緒に踊ってた銀之助が「あ、一両くれよ一両ー」と後を追っていく。さすがに忘れてなかったか。
ここでちょうど「連れの男はもっとバカー、キンタマ取られて笑ってるー」という歌詞がかぶさる。観客の心情を代弁するかのようです。
・歌の一番が終わったところで再びストーリーが流れ出す。「下履いたのか」「あの格好で二時間半はきつい」。いやまったく。
・「あと一息でろまん街だ」「ろまん街?」「牢獄の牢に肥満の満でろまん街だ」。ひどいネーミング、というか銀之助の説明がひどい。せめて満足の満とか。
「夢がないな」「あるさー。フランス語で夢とか野望とかいう意味でな、百姓も侍もないこの世の極楽だって話だぜー」。
たしかにろまん街には百姓も侍もいなかったが。この理屈だと「板の上ではみな平等」の蜉蝣峠だって極楽なんでは。
・二人が舞台袖へはけたところで曲がロック調に代わり反対側からぼろを着た男たちが踊るように舞台へ。力強い踊り。太鼓のやぐらが運びこまれてきて主題歌が流れ出す。
男女入り乱れての激しい歌とダンスの裏でろまん街のセットが運びこまれてくる。さぞエネルギッシュな舞台になるのだろうという観客の期待を煽りつつ、自然に場面転換を行う上手い進行です。
・踊っていた人々がはけた後、舞台は対照的に暗く閑散となる。首をくくった死体と行き倒れ風の死体。物乞いらしい老婆といざり車が行き交う。
ちょうどそこへやってきた銀之助が一言「地獄だー!」。確かにわかりやすい地獄絵図です。先に「この世の極楽」と言っていた銀之助の180度転換が面白い。
「何がろまん街だ。見ろ、ろん街だ」と銀之助は「ま」の字が取れた街の看板を指す。『犬顔家~』のラスト(「おかわり亭」の看板の「か」が落ちて「おわり」になる)を彷彿とさせるギャグ。宮藤さんの台本なのかいのうえさんの演出なのか。
・銀之助が闇太郎を連れて街を出ようとすると「闇太郎?」と老人が呼び止める。この盲目の老人=がめ吉との出会いによって物語が急速に動いていくことになります。
・天晴組と立派組についてがめ吉が説明してくれる。この時がめ吉がいちいち「わしにゃあ見えねえけど」というのに対し、闇太郎が「いちいち気を使わせるめくらだな」などという。
テレビや映画ならカット必至のこのセリフ、宮藤さんが書いたのかそれとも古田さんのアドリブでしょうか。舞台作品なのをいいことにやりたい放題やってます。
・「望みはなんだ。飯か酒かそれとも、女か?」と聞かれて「女ー!」と満面の笑顔で手をあげる銀之助。
女いたって役に立つまいに、と思ったら、なんと自分が「ない」状態なのを素で忘れていたらしいのが後ほど判明します。こんな逆境を忘れ去ってるあたりはやはりバカ。結局自分が女にされてしまったし。
この時「飯にしようよ銀ちゃん」という闇太郎の少し情けない感じの声がいい味です。
・対して銀之助は「女女」と連呼しながら足をばたばた。だだっ子か。しかしこの銀之助めちゃ可愛いです。
・立派とお寸の101回目の祝言。言うに及ばず往年の人気ドラマ『101回目のプロボーズ』を意識したお遊び設定ですね。
絶えず別れちゃくっつくを繰り返してるさまはバカバカしいんですが、この祝言シーンのおかげで舞台が明るく華やかになっているのは確か。
下手すりゃ日に二回も祝言やるものをよくヤクザのみなさん参列してくれるなあと思いますが、親分とその奥方が新郎新婦だから逆らえないという以上に、殺伐とした日々にあってこの祝言を心のオアシスのように思っているからじゃあ。
・繰り返し出てくる「腹から声を出す」っていうのはなんか元ネタあるんでしょうか。「喉に負担のかかる発声法」てのも。
・お寸の挨拶途中、ちょうどすごい顔になってる状態でお寸・立派、さらに回りもみんな静止し、背後のあばら家から覗いてるがめ吉と銀之助に焦点をあてて、がめ吉が背景の事情を銀之助に説明するという演出。
静止状態を演じる役者さんには冒頭の銀之助の〈同じセリフ繰り返し〉をも上回る試練ですが、それだけに一種の見せ場だとも言える。当然各役者のファンも喜ぶだろうし。
・がめ吉が話す後ろでもくもくと食べている闇太郎。全く話に関心を示さないのが笑えますが、実は自分の正体に関わる話なわけで、思い出したくないと願う無意識があえてスルーさせてしまってるのかも。
・天晴の名前を聞いただけで震え上がって挙動不信の立派。がめ吉いわく「悪知恵と銭儲けの才能だけでのしあがった小悪党」。
もしや久太郎の母親が息子の留守中に売られた一件も具体的に計画を進めたのは立派だったりするのか。
・立派は周囲にびびってるところをみせまいと意地を張って天晴を挑発する。そのうち天晴の家の中まで入っていってしまうが間もなく叫んで飛び出してくる。
「天晴いたの?」と聞かれると「目をつぶって行ったからわかんねえよ」。どれだけヘタレなのか。よくまがりなりにもヤクザの親分がつとまってるよなあ。
・お寸は「石松あんたちょっと様子みておいで」と最初に出てきた男に声をかけるが、石松はさっき斬られた左腕を傷口にくっつけようとしているところ。お寸はなんとその腕をかっぱらい天晴の家の中に放りこんで行ってこいとうながす。うわひでえ(笑)。
笑えるなかにも極道の世界らしい殺伐とした雰囲気を伝えてくれる一コマです。
・やむなく石松が「あっぱれくーん」と子供が遊びに誘いに行くような口調で暖簾をノックし中に入ると、奥から「あーとーでー」との声が響く。これが天晴の(天晴としての)初台詞。
「だそうです」と出てきた石松は直後に後ろから刺される。天晴ひどいなあ。こんな卑怯な手を使わずとも天晴なら普通に斬り殺せる相手だろうに。
・初登場の天晴はどぶろく片手に出てきて刀を肩にかつぐような決めポーズ。さっきまで軍鶏だった人とは思えない格好良さ。
なのに第一声は「軍鶏になる夢を見た」。客席爆笑。本人は全くの真顔でむしろ不機嫌そうだけども。
・「だからすこぶる機嫌が悪い」と暴れはじめる天晴。夢見が悪かったという全く個人的な事情でこの騒ぎ。実に迷惑な男です。
石松後ろから刺したのも卑怯とかそういう観念なしに「なんかそうしたくなったからそうした」とかなんだろうなあ。
・がめ吉によると「酒の入った天晴は手がつけられない。しかも立派は先端恐怖症だ」。本当なんでこの人ヤクザやってるんだか。
・こんな立派の姿にお寸はもう愛想が尽きたと突然101回目の破局。しかし「このアマまた寝返りやがった」「この子のためなら何度でも寝返るさ」なんて会話からすると、今までの破局も弟可愛さゆえだったのか。
山ほどの離婚と再婚も立派と天晴の間で相当に苦しんでるゆえなのかなあと思うとちょっとしんみりします。
・天晴も姉ちゃんにはちょっと優しい顔を見せる。しかし姉貴に「やっちまいな」と言われた天晴は、切りかかるとき両目を寄り目がちに剥いて舌吐き出した表情になる。間抜けな表情がかえって恐ろしさを感じさせます。
先ほどの「あーとーでー」といい、稚気を見せつつ残忍というのが天晴のスタイルなんですね。
・立派組の面々を斬りまくる天晴の殺陣。立派は流石先生を呼ぶ。しかし先般の軍鶏との戦いを見るかぎり結果は見えてるような(笑)。
実際流石先生、一度は天晴に向かいあったものの間合いをとってるような顔でそのまま立派の家に逆戻りする(笑)。戦わずしてもう負けますか。
・流石いわく天晴は五臓が弱りきってる、自分が手を下すまでもなく三年五年のうちには死ぬとの見立て。そんな先のこと今の戦いには全く関係ないんだが。
立派も困って、誰でもいいから天晴をやったやつには一両くれてやるといいだす。この場合「やった」イコール殺したなんだろうか。少し後で天晴に勝ったけど殺してはない闇太郎が(正確には代理人の銀之助が)一両を請求してたから勝てばOKなのかな。
・銀之助が言うには、一両に比べると一文は脇役、さしずめ打ち上げに出たけど誰ともしゃべれず、なのにビンゴゲームで海外旅行当てて、でもビンゴって言えなくって・・・って感じなんだとか。この話本人の言うとおりやけにリアルなんだが誰かの実話なのか。
・ビンゴビンゴ叫んでる銀之助に立派が「おまえがわけのわからないこと言ってる間にものすごーく斬られた」。
祝言のたびにこんな調子だとするとよく立派組全滅しないでもってるよなあ。
・業を煮やした立派が賞金を二両三両とつりあげてるのに「いいや一両!」と言い張る銀之助。アホか?
結局立派が妥協して(?)一両に。「ただしカブトムシはつけさせてもらう」「のったー!」。何の話だ?「バナナはおやつに入るんですか」みたいな定番ネタなのかな。
・「叫んでねえでツラ見せろツラあ!」。天晴に言われた銀之助が「そーれいけー」と軽い声(この明るさと爽やかさがまたなんとも)で差し向けたのがお茶碗とお箸もった食事中の闇太郎。こうなると思ったよ(笑)。
銀之助はなぜ闇太郎が強いと見抜いてたのか。あの軍鶏を絞めたからだろうか。となると闇太郎の腕を当てにして用心棒代わりに連れてきたってことなのか。それはなんかやだなあ。
・「なんだてめえは」「たったいま俺が雇った用心棒・・・みたい」「みたい?」 天晴と立派の爆笑ものの会話。
お寸なんて「おもしろいおじさん、あぶないからどいて」なんて戦力外扱いだし。しかし自分でバカじゃないと主張する闇太郎のこのときのアホ面はどうしたことだろう。
・立派の手先なら容赦しねえぞ、と斬ろうとする天晴にあっさり背中を見せてゆっくり駆け戻っていく闇太郎。
何なのだ、と思うと大盛りご飯と串に刺したおでんをもって戻ってくる。おかわりかい(苦笑)。やたら嬉しそうだし。
しかし立派組の男たちは「肝が据わってるぜこの先生」とかえって尊敬した様子。座りこんでご飯食ってるだけなんですけどね。
・立派は「お食事がお済みになりましたらあの悪党をやっつけてください」と丁重に言うが、闇太郎はもう食えないと寝転がってしまう。
お寸は「あーもう食えないか。おねむか」と子供に対するような扱い。この人の闇太郎評価が一番正解な気がします。
・しかし「なめくさってこの犬畜生が」と斬ろうとする天晴の刀を闇太郎は素早く下駄で受け止め、さらに串の先を天晴に突きつける。
25年まともに武術修業してないはずなのにこれなのだから、松枝久太郎がどれだけ手練れだったのかわかります。
しかし(鉄)下駄を武器にし、おでんの串など手近にあるものをとっさに役立てる無手勝流の戦闘流儀はおよそ武士階級らしくない。いったいどんな師匠について修業したんだ。
・その強さで天晴の度肝を抜きながら、すぐに「すみませんでした」と引っ込んでしまう闇太郎。その姿に天晴が「やるやんけ」と一言。この口調やはり軍鶏なのか。
・足をなごうとした刀をあっさりかわした闇太郎に天晴は驚くが、今度はおそるおそるという感じでもう一度ゆっくり足を斬ってみるとさくっと入って闇太郎は痛がる。
要は殺気に対して体が勝手に反応して防戦してたってことなんでしょうね。一種戦闘マシン的な怖さがあります。
・しかし「えーそれでは」と堪えたようでもなく、闇太郎はおでん串を手に立ち去る。終盤に顕著ですが闇太郎は痛がりはするものの異様に打たれ強い。
まあこの場面は傷のダメージを受けてないことより、天晴との戦いなどまるでなかったことのような態度の方がむしろ怖い。まさに「てめえなにもんだ」。戦ってるのは自分ではなく自分の中にいる(でも没交渉の)何かとでも言いたげな。
過去に激情のあまり大虐殺を行い、おそらくは自分のしでかしたことへのショックで記憶を失った闇太郎であってみれば、「戦ってる時の自分」は別人格として切り離してしまっててもおかしくないですが。
・「新郎新婦の門出を祝しましてわたくしから一曲」「歌うの?今さっき別れたばっかりなんだけれど」。戸惑うお寸を尻目に歌い出す闇太郎。しかも上手いし。
「闇太郎が歌が上手い」というのはお泪がやはり歌が得意だった幼馴染のやみ太郎と彼を混同したのはそのせい、という設定なんでしょうか。少なくとも失明直後のがめ吉が久太郎をやみ太郎と間違えた理由として一番考えやすいのは〈声が似てた〉可能性なので、歌う声も似てるんでしょうね。
・この歌につられて回り中の男女が抱き合い出す。天晴なんていきなり走りよってきた女がなにやら不埒なことをしようとしてます(笑)。これテレビじゃ放送できないなー。
しかし意外に天晴は女を突きのけて着物の前を直している。意外に身持ちが固いのか好みじゃなかっただけか。あるいはそのへんにお泪がいるはずなので、彼女への遠慮があったりするのか。
この時色男の銀之助に誰も女が寄って行かないのが意外ですが、存外無意識に彼が正常な男でないと感じ取ってるのかも。“ない”にもかかわらず、あれだけ女女言ってる銀之助もこんな状況にもかかわらず自分から女に寄っていってないし。
天晴の態度も合わせ、歌に触発されてか皆の無意識が表に滲み出してしまってる場面のように思います。
・揺れるお寸の女心を蜉蝣に例えた歌詞。しかし離れられない二人の関係を「ウンコと蝿」ってのもひどいな。
ついに抱きあって復縁する立派とお寸。歌の力ってすごい。あの天晴でさえ「あんたの歌を聴いてたらなわばりがどうしたと言ってる自分がちっぽけに思えてきた」なんて言ってるし。
立派から(さっきはまともな会話も成り立たないほど天晴にびびってたのに)今日のところは手打ちにしないかと提案し天晴も「今日のところはな」といいつつも握手に応じてます。
・いいかげんに名乗ったらどうだい、と天晴にうながされて「蜉蝣峠の、闇太郎」と名乗る闇太郎。どっかで聞いた名前だな、という天晴発言はもちろん伏線だろう。
「身分は」「知らん」「里は」「知らん」。そっけないようですが事実だもんなあ。
・「面白え。闇太郎。ついて来い。腹いっぱい食わしてやる」と言われて天晴について組に入っていく闇太郎。やっぱり闇太郎釣るには食べ物が一番と思われたんでしょうね。
立派は闇太郎を天晴の方に行かせちゃっていいのか?
・百二回目の祝言が始まる。斬られた人たちはどうなったんだろう。まだそのへんに転がったままだろうに。
そして闇太郎がもらうはずの一両は・・・と思ったらこれは一緒に踊ってた銀之助が「あ、一両くれよ一両ー」と後を追っていく。さすがに忘れてなかったか。