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俳優・勝地涼くんのこと。

『幸福な食卓』(2)-4(注・ネタバレしてます)

2008-05-07 02:39:00 | 幸福な食卓
・クリスティーヌの小屋にクリスマスリースが飾ってあるカット、ついで門松が飾ってあるカットを入れて季節の経過を表現する。
こんな場所に門松飾っちゃうの?というツッコミはさておき(まあクリスティーヌにも季節の気分をおすそわけ、という発想はすごく中原ファミリーらしい気もする)、歳時記的な描き方の風流さと、物言わぬ動物が餌を食み育ってゆく姿にうかがえる伸びやかな生命力は、映画全体に流れる日本的情緒とさわやかな明るさを象徴してるように思えます。

・夜遅くまで勉強を続ける佐和子。受験票がすでに用意されてるくらいだから入試間近なのだろうに、彼女の表情には笑顔がある。
大浦くんも今こうして勉強してるだろうことを思うと、何だか一体感があって嬉しかったりするのでしょうね。微笑ましいなあ。

・ヨシコの別の男と鉢合わせして喧嘩したという直ちゃんに「男いたの?だって直ちゃん来るってわかってたんでしょ」という佐和子。他の男の存在自体に驚いてないのは先に他の男とのデート現場を目撃してるからですね。
この「鉢合わせ事件」ですが、もしかすると何事にも熱くならない直ちゃんの「いけすかなさ」に業を煮やしたヨシコの「賭け」だったのかとも思えるのですが。

・合格発表の日、結果を知るのに怯える佐和子がすっと手を握ってくるのに、大浦くんは一瞬はっとして、ややあってからしっかり手を握り返す。
大浦くんの反応からするに、二人が手をつないだのは初めてだったのでは?映画では二人がいつ友達から恋人に変わったのか明確な描写はありませんが、高校入学時にはもう付き合ってるような感じなので、この「手つなぎ」がターニングポイントだったんでしょうね。

・佐和子の名前を見つけて「あったおまえ!」と掲示板を指さす大浦くん。この時の声のトーンが何か好きです。
そして大浦くんの名前を探すべく比較的大人しい性質の佐和子が人ごみをかきわけて果敢に前進する。その思いきった行動に彼女の愛を感じました。

・大浦くんの名前を見つけて佐和子は恥ずかしいほどの大声で「あった!あったよ、大浦勉学!」と大騒ぎする。
実際まわりから失笑が洩れてますが、これは佐和子の騒ぎ方と「勉学」という名前が可笑しいだけでなく、「彼氏」のために一生懸命な女の子の姿が微笑ましかったのもあったんでしょう。大浦くんも夢中で名前を恥ずかしがるどころではなさそう。

・大浦くんが掲示板を見つめながら感慨深げに「何だか、軽かったよなあ」とつぶやくのに、佐和子は「え~?」と笑う。
受験が終わるなりこんなこと言ってしまう、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」を地でいってるような彼の台詞が可笑しかったからでしょうが、この大浦くんの台詞にはもう一つ別のニュアンスがある気がする。
大浦くんはきっと長いこと、親しい友人から恋人に昇格するきっかけ―たとえば初めて手をつなぐタイミング―を探してたのだろうと思うのですよ。でもなかなか踏み出せずにあれこれ考えあぐねていたところへ、佐和子の方から手を握ってきたことで、ごく自然な形であっさりハードルを越えてしまえた。
案ずるより産むが安しだったなあ、という感慨も篭ってたんじゃないでしょうか。

・佐和子はめでたく合格したものの父さんが不合格だった中原家の食卓の空気は重い。照明を暗めに撮っているのがその重さをさりげなく伝えてきて上手い。

・「人間には役割ってあるよね。我が家はそれをみんな放棄してるんだよな。」 この状況だと父さんへの痛烈な批判として聞こえてしまう。父さん食べずに上に行っちゃいましたし。
しかし「みんな」というものの、仕事をやめて浪人生やってる父さん、家を出て一人暮らししてる母さん、エリートコースを自らドロップアウトした直ちゃん(とはいえちゃんと、おそらくは正規職員として働いてるわけだが)はわかるとして、佐和子は一般的女子中学生・中流家庭の娘としての「役割」をごく真っ当に果たしている。
今どきの子としてはいい子すぎるくらいですが、(そうした性格形成に三年前の事件が作用してるとしても)特に無理をしてる感じはしないし。
佐和子が唯一家族の中であるべき役割を果たしているからこそ、後に彼女が大浦くんの死の衝撃でそこから逸脱してしまった時、家族が彼女を守るようにして「役割」に戻ってくるのですね。

・対照的に母さんはアパートで一人きり食事をする。おかずが共通ぽいので、おそらく母さんがお祝いのために家まで夕飯を作りにきたのでしょうね。どうせなら一緒に食べていけばいいのにそうはしない。
家族四人揃った食卓の光景というのはラストまで一度も登場せず(大浦くんの死後、佐和子を心配して食事を作りに来てくれたときも、一緒に食卓に座る場面は少なくともシーンとして存在していない)、そのことがエンディングで四人分並べられた食器―家族が揃う食卓の暗示―の感動を高めている。

・佐和子が学級委員に選ばれたと聞いて大浦くんは「なっちゃったの?お前が!?」と驚く。(映画では)佐和子は中3の時もクラス委員だったんだし、そこまで不向きでもない気もするが。
「昔っからクジ運悪いんだよね」と佐和子が慨嘆してるところからすると、中3の時もハズレクジを引いたんでしょうね。

・「学級委員て学校生活が二倍は楽しくなるからな。中原が一緒ならもっとだ。」 みんなの人気者らしいポジティブ思考がいかにも大浦くん。
「二倍になる」と言うのも大浦くんの口癖ですね。彼の単純明快な性格が良く表れています。高一二学期終業式の日、駅での別れ際にも言ってましたね・・・。

・「翼をください」を歌う佐和子。線が細いけれど綺麗な声をしてます。きいちゃんはたしかCDも出していたはず。聴いてみたいかも。
ちなみにこの交流会のエピソードの原型とおぼしき実話を、原作者・瀬尾まいこさんのエッセイ「生徒会」(『見えない誰かと』収録)で読むことができます。

・指揮の手振りもですます調の喋り方もいかにも学級委員な堅さの佐和子。元気に合いの手を入れ、指揮棒の振り方も妙にノリノリな盛り上げ上手の大浦くん。二つのクラスの明暗が鮮やかに表れてます。
(勝地くんがインタビューで話してたところによるとあの合いの手は彼のアドリブとのこと。生徒役のエキストラの方たちがリアルで佐和子のクラスのような感じだったので、盛り上げるよう頑張ったのだそうです)
黒板に歌詞を貼る戦略もナイス。しかしあの歌詞の紙、大浦くんの筆跡じゃないので、クラスに協力者がいるんでしょうね。それともお母さんに手伝ってもらったか?

・この歌の練習が何のためなのか、佐和子の口を通して状況説明がなされる。
しかし彼女の言葉の選び方はなまじ丁寧な話し方とあいまってなかなかにキツい響きがあり、クラスメートから反発を受けるのもわかるような。

・クラスの皆に非難の言葉を投げられ笑われる佐和子は、一見無表情ながら口もとや喉のあたりがわずかに引きつるように動いている。
辛さを懸命に堪える苦しさ、その苦しさをストレートに出さず押さえ込もうとする佐和子の性格がよく出ている。
女優としてはまだごく経験が浅いはずのきいちゃんの表現力に驚かされました。

・悩む佐和子に秘策を授ける大浦くん。秘策の内容は実際の佐和子の行動によって明かされます。
しかし高校に入ってからの短期間でよそのクラスの力関係まで洞察し、それを巧みに利用する大浦くんはなかなか世渡り上手。
大浦くんは「おまえ女だろ」「きちっとしてるから」とだけ言うけれど、佐和子の容姿の可愛さを大前提にしての作戦ですね。

・大浦くんの読みどおり、佐和子がちゃんと説明する以前に快く協力を申し出てくれる吉沢くん。
別に佐和子が自分に気があると誤解したわけではなく(人気者-社交家だろう彼は当然佐和子が大浦くんの彼女なのも知ってるんだろうし)、「真面目で可愛い女の子に頼られたんだから力になってやらないと」という彼の男気の表れなのでしょう。
吉沢くんが皆に人気があるのが頷けます。大浦くんも似たようなシチュエーションでクラスの女の子に頼られてたりして。

・吉沢くんは交流会の歌の出来が内申書に載るらしいと(デマを)言って、クラスの皆が歌を練習するよう上手くリードする。「内申」という言葉で釣るあたりは原作より世知辛いかも。

・教室での歌の練習風景がそのまま実際の交流会の場にリンクする。「翼をください」という選曲もあって、なんだか胸にじんとくるシーン。

・帰ってきた佐和子はヨシコと家の前で出会う。
ヨシコは前に中原家に来た時と比べて化粧が薄くなり、表情もぶすっとした不機嫌顔だが、むしろ以前より好感がもてるし綺麗に見える。虚飾がなくなった、ということかな。

・ヨシコについての佐和子の質問に「やっぱりヨシコさんはすごいよ。」とずれた解答をする直ちゃん。
シュークリームを手土産にするのは(ヨシコとしては画期的でも)ごくポピュラーなセレクトだと思いますが、佐和子の好みを察知してシュークリームを持ってきたと思い込むあたりに、直ちゃんのヨシコへの過大評価―ベタ惚れっぷりが出てます。

・大きなパラソルで相合傘する佐和子と大浦くん。原作では大きすぎて使い物にならなかった傘がちゃんと活躍。
そしてこの場面についで和菓子屋に勤める母さんが「水ようかん はじめました」の紙を店のウィンドウに張り出すシーンがあることで、時期的にこの雨が梅雨なのが示唆されている。なのに梅雨のたび調子を崩してきた佐和子は、不調の陰もなく大浦くんの隣りで微笑んでいる。
以前宣言した通り、「大浦くんがいてくれればなんとかな」ったんですね。何だかこちらまで嬉しくなってしまいました。去年の梅雨の日にやはり父さんと相合傘で帰る場面では「梅雨が明けたら私の梅雨も治るから」の台詞通り不調を引きずっていたのと、ちょうど対照的に描かれています。 
また父さんとの相合傘では小さな傘のせいで肩が濡れてしまっていた(撮影時、羽場さんがきいちゃんを濡らすまいとしたところ、監督から「気持ちはわかるんだけどお父さん濡れすぎ」と言われて自分側に傘を動かした結果きいちゃんの肩が濡れてしまったそう)彼女が、今は大浦くんの大きな傘でしっかりと守られているのも、大浦くんが佐和子にもたらす安心感を表しているように思えます。

・二人の初めての(たぶん。原作によれば毎回同じ質問してるそうなので)キスシーン。
少し視線を泳がせてから、「キスしていいか?」っていう時のちょっとかすれた声と眼差しの真剣さ、「キスするまでのスパンが~」の説明のテンションの高さや、「キス」と連呼する恥ずかしさ・・・可愛いったらありゃしない大浦くん。

・ちょっと呆れた調子で「逃げるわけないでしょ」とごくシンプルに答える佐和子の言葉に愛があります。
対する大浦くん、口癖の「おう」が何か蚊の鳴くような声になっています(笑)。

・大浦くんがためらいつつちょっと近寄り、ずっと伏し目がちだった佐和子がそっと目を閉じながら顔をあげる。このキスシーンの流れはじつに丁寧に二人の表情の変化を捉えて映しているので、二人と一緒にこちらも息を詰めてしまう。
そしてここまでずっとBGMなしの無音だったところへ、佐和子が目を閉じた瞬間にポーンとBGMの導入部の音が鳴るのが、彼女の胸の高鳴りを思わせて何かきゅんとしました。
顔を近づけてゆく大浦くんが何度も目をしばたたいているのも彼のどきどき感を伝えています。

(つづく)

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