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俳優・勝地涼くんのこと。

『幸福な食卓』(1)-2

2008-04-22 02:43:29 | 幸福な食卓
また特筆すべきは主人公佐和子を演じた北乃きいちゃん。
最年少で「ミスマガジングランプリ」に選ばれたグラビアアイドルでもある(映画公開当時はまだグラドルイメージの方が強かった)彼女ですが、スクリーンの中の彼女はグラドルとして元気いっぱいのコケティッシュな笑顔を振りまいている時とは全く違う、ごく普通の女の子の素朴な可愛らしさを持つ初々しい少女でした。
まさに原作の佐和子そのもの。オーディションの際満場一致で彼女が選ばれたというのも納得です。

その一方で、インタビューなどで見せる「女優」北乃きいの顔には、無邪気な明るさの中に不思議なスター性があったように思います。
メイキングで、始業式のシーンを撮影したあと壇上に上がってエキストラの人たちに挨拶をしている映像がありますが、外見は佐和子のままなのに、大人しいタイプの佐和子にはない強い輝き、オーラのようなものを感じました。
そしてその堂々とした(偉そうという意味ではなく)態度。これで映画初出演・初主演とは。
演技においても『女優誕生・北乃きい』(きいちゃんにスポットをあてた『幸福な食卓』の宣伝番組)で石田ゆり子さんや勝地くんが、
「最初のころはじっとカメラの前に立ってることってすごく緊張するものなのに、そういう間を怖がらずに作ることができる」「緊張してる緊張してるっていいながら、台詞とかも自分のことでいっぱいいっぱいになってるんじゃなくて、勉学にかける言葉ということを(その時の佐和子の心情を)ちゃんと意識して演じていた」(ともに大意)
と話しているあたり、新人離れした才能を感じさせます。

主演のきいちゃんについては「この子が佐和子を演じる」というのを知ったうえで原作を読んだので、だからきいちゃんと佐和子が違和感なく重なった部分もあったんですが、読了後に配役がわかった他のメインキャストについても、ほぼ皆さん見事にイメージ通りの外見だったのに驚きました。
特に直ちゃん役の平岡祐太くん。優男系の美男子で、でも結構ガタイのいい平岡くんは、元優等生で現在は農業(肉体労働)に勤しむ直ちゃんにぴったりでした。
小林ヨシコは原作だともっとケバいスッとんだ外見な感じがしてたので、さくらさんは普通に綺麗だよなあと最初は思いましたが、佐和子に対するちょっと挑むような目付きや、ぶっきらぼうだけど優しい重みのある言葉を見聞きするうち、映画のヨシコを原作のヨシコ以上に好きになっていました。
各キャストの演技力とインタビューからうかがえる役と作品への愛着が、これだけ個々のキャラクターを生き生きと輝かせたのでしょうね。

何より小説『幸福な食卓』に惚れ込み、エピソードを多分に取捨・加筆しながらも原作の空気感とキャラクターを忠実に別メディアに再現した(ただ物語の根本的なテーマにおいては原作と映画で実は異なっている。詳しくは(3)で)小滝プロデューサーと脚本の長谷川さん、それらを見事にフィルムに焼き付けた小松隆志監督が最大の功労者だと思います。
この映画は一貫して「行間を読ませる」手法を取っている。「すごく抑制されている」原作の味を生かすため、そしてそれ以上に近年の映像作品の「分かりやすさ」を苦々しく思うプロデューサーらの信条のために。
パンフレットのインタビューで長谷川さんや小松監督が、
「今、テレビも映画も語りすぎだと思うんです。」「今の時代、いろいろなものが〝分かりやすく、分かりやすく〟という風潮になっています。(中略)今回はそれを見せないように〝抑えて、抑えて〟作りました。」
と語っていたことからそれがわかります。やはり小滝・長谷川コンビによる『亡国のイージス』も観る側の読解力を要求する映画でしたし。

キャストにも演出・宣伝にも派手さがなかっただけに残念ながらヒットには至らなかったものの、公開から一年以上を経た今でもしばしば個人ブログでこの作品の感想を見かけます。
その多くが好評価・・・いやその程度ではなく、映画およびキャラクターへの深い愛情と、鑑賞を通して心洗われる感覚を味わわれたことが強く感じ取れる美しい文章なのに驚かされます。
これだけ人の心を動かす―それもじわじわと心に染みいるように―素晴らしい作品に重要なポジションで勝地くんが関わっていること、むしろその感動の少なからぬ要素を彼が負っていることが何だか誇らしく思えるのでした。

 

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