goo blog サービス終了のお知らせ 

about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『幸福な食卓』(2)-2(注・ネタバレしてます)

2008-04-30 01:54:57 | 幸福な食卓
・器用に鶏小屋を作る直ちゃん。さすが音楽以外は何でもできる男。鶏に「クリスティーヌ」なんて名前を付けるセンスが笑えます。

・卵を取り上げて「ついに産んだの、クリスティーヌ!」と叫ぶ佐和子。この台詞でクリスティーヌが来てから数日~数十日が経過してるのがわかるようになっている。

・食卓に現れる父さん。ちゃんと父さんの分の箸や焼き魚も用意されている。
「父さんをやめる」宣言以来朝食を一緒に取らなくなったらしい父さんの分もちゃんと箸などが用意してある(魚は暖め直して食べてってことでしょう)のが、家族の暖かさですね。

・直ちゃんが父さんの(というか全員の)ごはんをよそい、それを佐和子が父さんに運ぶ。
食事の仕度を自然と助け合ってるのも、近年では薄らいでしまった古き良き家庭のあり方を象徴しています。

・「これでようやく肩書きができたな」。
よき家庭人・職業人であろうとするプレッシャーに追いつめられて3年前手首を切った父さんですが、逆にいえば、それだけ彼にとって「あるべき役割」は捨てがたいもの。
家庭人・職業人として立派に役割を果たすことに自身のアイデンティティーを置いている人なのですよね。最終的に彼が塾に再就職し「父さん」に戻る下地がここにあります。

・「一度やってみたかったんだ」と言いつつ、ごはんにみそ汁をかける父さん。これはプロデューサーが自身の経験に鑑みてぜひ入れたかったシーンなのだそう。
確かにいささかお行儀は悪いですが、外食じゃなくて家の食事なんだし、そんなにやりたきゃやってみりゃ良かったのに。このへんにもつい自分を規範でがちがちに縛ってしまう父さんの性格が表れています。
こういうところでガス抜きをしつつちゃんと家庭人をやるのが一番いいバランスなのかも。

・大雨の中銭湯に出かける母さん。アパートにお風呂はちゃんとあるのに(先に佐和子が母さんのアパートを訪ねたとき、母さんは風呂場を磨いていた)。
これは後の回想シーンを見ると、彼女が夫の自殺未遂を想起させる浴室を使えないせいだと察せられる(実際の現場ではないにもかかわらず)。
そこに三年を経てなお癒えない彼女の心の傷の深さがうかがえます。使いもしない浴室を掃除しつづけているのにも。

・夜遅くまで受験勉強を続ける父さんを、部屋の前を通る佐和子の目線で捉える。この場面、机に並ぶ赤本数冊を映すことで、父さんが目指しているのが医大ないし薬科大なのだとわかる。
そしてはっきり子供たちにどういう系統の大学に行くか告げなかった(わざとぼかした)のは、目的が自分のせいで梅雨になると体調を崩すようになった佐和子にいい薬を作るためだと早々に知られると、佐和子に気を遣わせると判断したからなのでしょう。
勉強する父さんを見つめる佐和子の表情からすると、そうした父さんの思いをこの時点で読み取っていそう。それは後の父さんと相合傘で帰るシーンの会話に表れます。

・母さんが銭湯に出かけてゆくシーンに平行して、佐和子が家の風呂に向かうシーンを入れる。
なぜかアパートに風呂があるのに銭湯にゆく母さんと風呂場を暗い目で見つめる佐和子を並べて描くことで、母娘がともに「浴室」に何かマイナスの思い入れがあること、それが三年前に起きた「あのこと」に関係してるかもしれないことを、種明かしの回想シーンに先がけてそれとなく示しておく。
この映画はこうした伏線が細々張りめぐらされているので、注意深く見るほどに味わいが増す。

・給食のサバに憂鬱そうに文句をつける佐和子。その前の「梅雨かあ・・・」に続く彼女の欝気分があらわれている。
この時代わりにサバを食べてくれた大浦くんの行動は、やがて彼が佐和子を梅雨の欝から救い出してくれることの象徴になっています。

・「それがサバの持ち味だからな」 こんな台詞を大真面目に言っているのが可笑しい(笑)。
続くサバについての薀蓄。大浦くんは結構雑学博士なんですが、得々と知識を披露するさまは実にストレートなだけに嫌味がない。
ついでに佐和子の「どうしたらサバを給食から追放できるかな」も「追放」という大仰な表現がやはり可笑しい(笑)。結構この二人感性が似てるというか、天然同士でお似合いなのでは、と思わせる。

・断る前に、というか断りながら佐和子のサバをもっていく大浦くん。新聞配達もそうですが、言う前にもう行動してる人ですね。
しかし「朝食取ってないからちょうどいいんだ」っておかずの減った佐和子の方はお腹すくんじゃあ(あれだけ嫌がるってことは残すという選択肢を考えてない、つまりいつもは嫌々ながらも食べてるわけですよね)。代わりに何かおかず分けたげなよ。

・朝ごはんを食べない、食事のときにお父さんがいたためしがないという大浦くん。
「俺んち崩壊してんだよな」なんて大浦くんは言いますが、ラストで出てくる大浦くんのお母さんも家庭そのものもごく尋常なように思えます(しかし大浦母、息子の受験にそんなに熱心なら朝食はしっかり食べさせないと)。大浦くんのパーソナリティもいかにも暖かな家庭で育ったふうの大らかさを感じさせますし。
ちなみに映画公開ごろのインタビューによると、勝地くんは朝食は食べない、きいちゃんは必ず家族(おばあちゃん)と一緒に食べるとのことで、なんか大浦くんと佐和子を地でいってるような。まあ成人男子と女子高生では食生活のリズムが違って当然なんですが。

・「中原、今日どっか調子悪いのか?」。 
出会ってそれほど経ってないのに、佐和子の不調にさっと気づいてくれる。それは大浦くんの意外な神経の細やかさと彼がいつも佐和子を気にかけていることの両方を感じさせます。
こんな友達ないし彼氏がそばにいてくれたら頼もしいですね。

・「うちの家族、崩壊してるのかな」「どうして?恐ろしくいい家庭だと思うけど」。 
一般的な家族の形態を外れていても互いを思いあっている、その意味で確かに中原家は「いい家庭」なのだけども、その思いやりゆえに彼らは良き父・母・息子であろうとするあまり自身の生き方を窮屈にし、ついには3年前の事件をもたらす結果になった。
「とても」「すごく」でなく「恐ろしく」いい家庭という表現には、そんな「いい家庭」であるゆえの危うさが匂わされているように思えました。

・「近くにいると逆にぼんやりして気づけないことも、離れているとかえって敏感になって気づいたりできるんだから」。 
さらっとした口調ですが、かつて夫が自殺をはかるまで彼の苦しみに気づけなかった母さんの後悔の深さが感じられます。後に小林ヨシコも似たようなことを佐和子に告げますね。

・仕事に出かける母さんに佐和子は「ありがとう、来てくれて」という。
先の「梅雨かあ・・・」発言とあいまって、佐和子が梅雨が苦手(梅雨の時期に必ず体調を崩す)なのを暗示し、その流れで体調不良の原因となった3年前の事件へと物語を進めてゆく。このへんのエピソードの組み上げ方は秀逸。

・3年前の自殺未遂の光景。浴室の前にへたり込んで「どうして」とつぶやくだけで何もできない母さん。
夫の命の心配よりも、夫が死のうとした理由がわからず、自分が信じていた世界の崩壊にただ呆然としているように見える。
このとき夫を救うために即座に適切な処置を取れなかったことが、彼女の傷をなお深いものにしたように思えます。

・大浦くんに校外実習に関するプリントを届けるため彼の家を探す佐和子。
この場面、学校でプリントが配られる場面と隣りの空席を気にする佐和子の顔を映した後すぐに坂道を自転車を押して歩く佐和子の映像になっていて、何も具体的な説明はないものの、先に下駄箱前で大浦くんが学区の端っこの坂の上の方に住んでいると佐和子に語るシーンがあったことで、佐和子が彼の家を探してる(正確な位置まではわからないので一軒一軒表札を見ながら歩いている)のだとわかる。
こういう最低限の情報と映像の繋ぎ方で観客に状況を判断させる、あからさまに描かず行間を読ませることで観客が無意識のうちにキャラクターの心情に寄り添えるように仕組む手法は見事なもの。

・「おまえずっと俺んち探してたの?」という声のトーンと表情がさりげなく嬉しそう。わざわざ家を探してまで、そしてこの急な坂道を登ってまで、プリントを届けにきてくれた気持ちが嬉しいんでしょうね。
そして佐和子が差し出したプリントを受け取るため手を伸ばす仕草に一瞬見える戸惑い。恋しかかってる少年の初々しい心の動きが細やかに伝わってきます。

・「早く来い」というようにクラクションを鳴らされて振り向いたときの大浦くんの表情が実に悲しげ。もっと佐和子と話をしていたい、そんな気持ちがよく表れている。

・「あんな勉強の仕方ダメだよ。もっともっと父さんになっちゃってるよ」。
意味の取りにくい発言ですが、かつて自殺をはかるまでに自身を追いつめた生真面目な生き方(「父さん」らしい生き方)を放棄すると宣言しながら、夜遅くまで根を詰めて勉強する姿がこれまで同様生真面目すぎて、また自分を追いつめてしまうのではと心配してるわけですよね。
あえて婉曲的な言い方をするところに、控えめに父を傷つけないように心を配る佐和子の優しい性格が表れています。

・「私、薬なんかいらないよ」。 
これもやはり意味がわかりにくいですが、梅雨になると体調を崩す佐和子の持病を父さんが直したいと思っていること、佐和子が父の部屋に並ぶ医大の赤本でそれを察したことが、この短い台詞で示されている。
父さんが医大を受けようとするのは、娘を助けたいという父性愛だけでなく、自分が死のうとしたことが原因で佐和子の心にトラウマを残してしまった贖罪意識も多分にあるのでしょう。
そんな父さんに佐和子の言葉は字面だけだとそっけなさすぎるようですが、言葉の調子と表情の柔らかさがむしろさらっとした物言いの中に佐和子の優しさを滲ませている。きいちゃんさすがです。

・佐和子は西高を受験すること、そのために塾に行くことを告げる。
下駄箱で大浦くんと話してた時点では西高を受ける意思がはっきりしてなかった佐和子が西高受験を決めたのは、大浦くんの影響が大でしょうね。塾だってわざわざ彼と同じところを選んでましたし。

(つづく)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『幸福な食卓』(2)-1(... | トップ | 『幸福な食卓』(2)-3(... »

幸福な食卓」カテゴリの最新記事