〈第六回〉
・会社の玄関をくぐった浩一の携帯に電話が。今大丈夫かと聞かれて「これからプレゼン始まるんですけど」。敬語で話してるところからすると相手はスクール長か。今何が起こってるか考えてもいない緊迫感のない声が何だか切ないです。
・ドアを開けようとそのへんの物をぶつけてみる恵都。息切れしたところに別のドアからマーサが入ってくる。食べ物を差し出すが、恵都はそれを払い落とし牛乳瓶が砕けて割れる。「どうして、マーサ」尋ねる恵都に「ぼくは奈子さんに恩があるんだ」「奈子さんに拾ってもらって今まで仕事が続いてる」。元モデルだったというマーサがモデルを続けられなくなった理由は不明。モデル時代奈子とどんな縁があって拾われるに至ったのかも不明。
しかし「奈子さんは今苦しんでるんだ。ぼくは苦しんでる人が好きだ。高いところでいい気になってる人間よりね」と続くところからして、恩義があるからというより奈子本人への好意、彼女の苦しみへの共感から肩入れしてるように思えます。となると奈子や彼の視点からは苦しんでなさそうに見える恵都にはやはり反感があるのか。これまでの態度、この先の行動からすると決して恵都を嫌ってるようじゃないんですが。
・浩一も含めた三人+スクール長がリストンの庭に走りこんでくる。紅葉は恵都が本番前のトラウマに襲われて逃げたのではというが、浩一は冷静に「いや、それはないよ。あいつは戦ってるはずだ。きっとどこかで」。
以前PV撮影の時に逃げかけたのを知っているのに、今の恵都はそうはしないはずだと信じている。恵都が浩一を信じているのにも劣らない信頼の固さ。やはりいいバートナーだと思います。
・ロケ現場。主演他まだ待機中。「いい度胸してるわよね~」。恵都への怒りが充満してます。そろそろ始めようとスタッフが言い、監督は無言だが仕方ないかという雰囲気を出している。今後の恵都への風当たりが心配になってきます。
・部屋で座ってる恵都はヒールの音を聞いてドアに向かい、ドア越しに「奈子」と声をかける。ドアのあっちとこっちを同時に移すアングルで二人の会話と表情を追う。こうした手法をとることで会話の中での二人の感情変化を詳細にたどっています。
・「あなたが、立ち直ったからよ。あんたに負けたくなくてずっと必死だった」「でもいつも最後には言われたの」「おまえは恵都にはなれないって」「もう二度とあたしの目の前に現れないで。あたしがあんたを超えようと歯を食いしばってきた7年間、意味ないじゃん」。
血を吐くような奈子の言葉。彼女が恵都と比べられ続けたのは7年も前のことなのに奈子にとってずっと最大のライバルは恵都であり続けた。奈子も7年間恵都とは別の形で呪縛されていた。
恵都目線で見れば「私の行く手にもう一度現れたのは」奈子の方ですか(遊園地での再会のとき)、奈子にとってはマーサがオーディション会場で恵都と出会ったこと―恵都が再び自分のフィールドをうろうろしてたことを恵都側からの侵犯と感じてしまったんでしょうね。
・「意味なくなんかないよ。奈子が頑張ってきたの。あたし知ってるよ」「でもあたしも頑張ってきたんだよ。奈子の知らないところで。日の当たらない世の中の隅っこで」。
恵都が頑張ってきた「日の当たらない世の中の隅っこ」はリストンを指すのかそれとも7年引きこもってた家のことか。7年間確かに恵都は苦しみに耐えてはいましたが、その苦しみから逃れる、克服するために何か努力をしたわけではなかった(だからこそ7年も苦しむはめになった)。だから大事な仲間と出会ってその苦しみを乗り越え、失恋を乗り越え今まで経験がないほどの怒りや憎しみを経験しそれらへの対処法を学び、7年間の空白を埋めるべく子供がやるような漢字ドリルや料理などの一般常識の勉強、発声の練習にも取り組んでるリストンに出会って以降の生活を指してるとするほうが妥当そうです。
奈子や世間が人生の敗残者の逃げ場所、甘やかされた空間と見なすフリースクールは、自分にとって世間と戦うための足場であるのだと、そう宣言してるわけですね。
・恵都の言葉を聞きながら奈子は泣きそうな顔。その後ろで途中からマーサも聞いている。「怒りや憎しみで人に当たりそうになる。でもそれじゃダメなんだ。自分に勝たなきゃって。そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる。転んだら起き上がればいい。それも友達が教えてくれた。負けないよあたしは」。
穏やかだが芯の強さを窺わせる表情で言う恵都。ここまでやってもあきらめない、倒れてもまた立ち直ってみせると言い切る恵都にもうどうやれば勝てるのかもわからない。奈子が小さく嗚咽を始めたのはいわば敗北宣言といえるでしょう。
・もはや潮時と見たか、マーサは「奈子さんもうやめませんか」「彼女を痛めつけてあなたが気が済むならいい。それであなたが一歩でも前にすすめるなら」と言いながら奈子の体を強引にどかしてドアを開ける。
彼は最初から奈子の「気が済むなら」と恵都監禁に加担した。そんなことをしてもおそらく奈子は前に進めない、かえって自身を傷つけることになると察していながら。それはまさに奈子に恵都に敵意を燃やすことの空しさを知ってほしかったからでしょう。そしてもしかしたら恵都がへこたれず奈子に立ち向かってくれて結果奈子の呪縛を解いてくれるかもしれない、そんな一縷の望みもあったのでは。
そのためには恵都の都合は(気にしてないわけじゃない、十分申し訳ないとは思いつつも)完全に後回し。彼にとって一番大切なのは奈子だったから。結果マーサが狙った以上の効果があがったようです。
・マーサは恵都の腕をつかんで建物から出ていき、車に恵都を乗せる。「ありがとう」「奈子大丈夫かな」。この状況でマーサに礼を言い奈子を案じる恵都。優しさ-精神的余裕において完全に恵都勝利です。
「・・・大丈夫。・・・ぼくがそばにいるから」。これは恵都が「そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる」と言ったのを受けて、自分が奈子にとってそういう存在になると宣言してるんでしょう。これまでだって彼はずっと奈子のそばにいて、彼女がどんな我が儘を言おうと邪険にしようと彼女の味方でありつづけた。苦しむ奈子を支えるためせめて自分だけはどんな状況でも絶対的な味方であろうとしたんでしょうが、そうして彼女を甘やかしたことは結局奈子の苦しみを軽くすることには繋がらなかった。相手を思えばこそあえてキツい忠告もするべき、それでこそ相手を支えられるんだと恵都の言葉で思ったのかもしれません。
だからマーサは初めて奈子に逆らって、力づくで彼女を押しのけて恵都を連れ出した。それが奈子のためになると信じて。これだけ想ってくれる相手がすぐそばにいることを奈子が実感できるのはいつなんでしょう。自分が持っているものに気付かず恵都をうらやんでばかりいるのが奈子を不幸にしてるわけで、落ち着いて自分の回りを見回すのが今の彼女に一番必要なことなんだと思います。
・「いつか舞台で、仕事場でまた奈子に会いたいってそう伝えて」と恵都は言い、マーサは車を発進させる。一人建物の中で泣きじゃくる奈子。この涙が過去のしがらみ、今の苦しみを洗い流す、生まれ変わるための涙になればいいですね。
・ロケ隊が撤収するところにやっと恵都到着。スタッフ皆に詫びて回るがだれも返事をしない。それでも監督を追いかけて懸命に頼みこむ。「この仕事がどうしてもやりたいんです。もう一度よろしくお願いします」。
以前奈子は久々にやる気が出る役を奪われたとき無念ながらもそのまま諦めてしまった。もし恵都のように「この仕事がどうしてもやりたいんです」と監督に直訴でもしていれば、もしかしたら事態は違ったかもしれない。恵都と違って役を降ろすとはっきり言い渡されたのだから覆すのは難しくても、少なくともやる気が伝わって次の仕事に結びついたかもしれない。恵都は「あたしにはないガッツが奈子にはあった」と評したけれど、今やそのガッツ、役への執念も恵都が上を行っています。
・ちょっと間があってから監督は「今日おまえは全員を敵に回した。一度信頼を失った人間が信頼を取り戻すには人の十倍の努力が必要だ」と言い渡す。「頑張ります。私頑張ります」と強い目で訴える恵都に対して監督は何も言わないまま立ち去りますが、役を降ろすとは言わなかった。何も釈明をしない、遅れた事情を説明しないのは問題ですがその代わり言い訳もしない恵都を、もう一回信じようとしてくれてるのがわかります。
そういえば、この時点で恵都は事務所に所属もしてなければマネージャーもいないみたいですね。そもそもマネージャーがいたらマーサに送ってもらう状況にならなかったでしょうから。つまりフリーで仕事してる状態。それで映画のそこそこ重要な役についてるわけですから結構すごいことかも。そういやハンバーガー屋のバイトはどうしたんでしょう。完全にやめちゃったのかな。
・夜。帰り道の恵都。途中の階段に座って待ってた紅葉と剛太が気づいて駆けてくる。「どうしたの?」と驚く恵都。「どうしたもこうしたもないよ。撮影所に来ないっていうからみんなでさんざん探して」。
地下のろくに窓もないところに閉じ込められてたから携帯繋がらなかったのかと思ってましたが、「どうしたの?」という言葉からして、皆に連絡して助けてもらおうという発想さえなかったぽいですね(そう思ってできなかったんなら、「ああみんな知ってて捜してくれてたんだ」みたいな反応になると思うので)。一人で戦わなくてはという思いが強かったゆえかもしれませんが、そこは友達を頼ろうと思いついてもいいところ。たしかに「どうしたもこうしたもない」ですね。
・「警察に連絡しようとしたら園田奈子のヘアメイクだとかいう男が連絡してきて事情を説明してくれたんだけど、園田奈子のやつ、あいつ、どういうつもりだよ!」
はたして恵都は自分の失跡についてどう説明するのか、奈子をかばって仲間にも言わずにおくのか、と思いめぐらしてたんですが、紅葉たちはすでに事情を知っていたという形にもってきました。恵都が自分でなんらかの説明をしなきゃいけない展開だと、言えば奈子を裏切るみたいだし言わなければ仲間に対して不誠実みたいだし、というジレンマが生まれるのでいい落としどころです。
マーサがあえて奈子のやったことをバラしたのは(マスコミにでもバラされれば一大事だというのに)警察沙汰にされたらなおさらまずい(恵都にその意図はないでしょうが、恵都を心配した周囲が早々に連絡してしまう可能性は大いにある)という配慮でしょうが、それだけなら全部正直に話す必要はない(自分の独断で、とか奈子をかばうこともできた)。これはマーサなりの恵都周囲の人間に対するせいいっぱいの誠意だったように思います。
・浩一は恵都の無事を聞いて先に帰った、恵都を捜すためにゲームソフトのプレゼンすっぽかしちゃったみたいだと聞いて目を見張る恵都。自分の責任とはいえないにせよ、結果的に自分がさらわれたために浩一のチャンス(リストンの経営危機を救うためだけではない、彼自身のキャリアにとってもチャンスだった)を潰してしまったのだから、そりゃショックですね。
・浩一の家を訪ねる恵都。まだワイシャツでネクタイ緩めただけの姿の浩一が出て、驚いた顔をする。勝地くんがスーツ着る役のときは短髪のことが多いですが(サラリーマン役の一環としてスーツ着るケースがほとんどなので必然的に短髪になりがち)、長髪にワイシャツネクタイの取り合わせが(『カムフラージュ』もそうでしたが)似合う似合う。あまり見る機会がないのが残念なくらいです。
・「ソフトに欠陥が見つかったんだ。今それを直してるところだから気にしなくていいよ」。要は恵都の行方不明騒ぎに関係なく自分のミスゆえにプレゼンに行かなかったのだというニュアンスの発言。無表情だが優しい声音です。見え見えのこんな嘘で恵都の気持ちを楽にしようとしてくれる。本当に後にいくほど浩一は優しくなっていきます。それも恵都の影響か。
・「何か作ろうか」という恵都に「洗剤で米、洗うなよ」。まあ前科がありますからね。「あたし覚えたよ。ごはんの炊き方」。浩一がちょっと驚いた顔をする。「お味噌汁のつくり方も」「ちょっとずつできないことを減らして。できることを増やして。浩一のおかげだよ。浩一とみんなの」。ちょっと微笑む。ちょっとずつ、でも確実に一歩ずつ進む。何事につけそれが一番大事なんですよね。
浩一は少ししてから目をそらして「その年でそれくらいのこと、できなきゃ仕方ないだろ」と水を差すようなことを言いますが、それは「浩一のおかげ」と言われたことへの照れ隠しなんでしょうね(あとからちょっと反省してるみたいな顔してるし)。ぶっきらぼうになりきらない口調にもそれが表れています。
恵都もそれが浩一なりの照れの表現だともうわかっているからむっとしたり傷ついたりはしない。いつのまにか恵都の方が大人みたいです。
・「友達っていいねー。友達ってすてきねー」。「サニー」の歌を口ずさみながら料理する恵都。ちょっと前なら考えられなかった行動。恵都が完全に過去の傷を克服したのがわかります。ノリノリの恵都はだんだん振り付けまで入ってきて、キッチンの入口で浩一がそれを見てる。気づいて「あ」と止まる恵都。
「それから先、どうすんの」「えっと」。続きを踊ろうとする恵都の横をすりぬけた浩一が「踊りじゃなくてカレー」。ちょっと笑えるやりとりです。
・作り方を恵都が説明するのですが、「ルーを入れます」とか教則本口調になってるのが可笑しい。それじゃこげつくと浩一は冷静に指摘して(さすがに一人暮らしが長いだけある)あとは自分がやると交代する。恵都不承不承な顔。せっかく自分が料理作ると張り切っていたのに。家で何度か試してから再トライですね。
・浩一のパソコンの前に座って打つふりしてみる恵都。勝手にいじっちゃいけないと思うゆえの打つふりというより、多分本当に打ち方知らないんだろうなと思わせる。そこへ新着メールが。しかも開いちゃうあたりがタイミングよすぎです。
・「映画楽しかったね。お金いっぱい使わせちゃってごめん」 口に出して内容を読む恵都。ちゃんと漢字が読めるようになってる、とこんな場面ですがちょっと感動ものです。しかし「ダーリンへ プリンセスより」って(笑)。
この「浩一がバソコンでバーチャルデートしてた設定」、放映当時わりと評判悪かった記憶が。いわゆる「キモオタ」的行動ですからねえ。原作の“長らく血の繋がらない姉に片想いしてた”設定を(話が長くなるから)省いたのはいいとして、こんな形で浩一の恋愛ネタを持ってくるとは。恵都側から見れば浩一への恋心を自覚するためのステップとなるエピソードですが、それだけなら「身内の女の子とのやりとりを恵都が彼女相手と誤解した」みたいなところに落としてもよかったはず。
女に興味なさそうな顔して女と付き合いたい気持ちはあった、現実の女の子はめんどくさいけど、気分だけいいとこ取りできる恋愛はしてみたかった浩一が、そのめんどくさい現実の女の子(恵都は普通の女の子にありがちな面倒くささは希薄そうですが、別の意味で面倒ではありそう。お米洗剤で洗っちゃうとか男に無防備についてって監禁されるとか)との付き合いに踏み出せるほどに成長した、そういう部分を描きたかったゆえの設定でしょうか。
・一人夜の道をダカダカと歩く恵都。そういや誘拐事件のあと家に帰ってないのでは。両親こそすごく心配してるだろうに。
「私はものすごく早く歩いた。でないと今見たことが今知ったことが心に突きささってしまう。きっとあとですごく痛くなる」。恵都にとって浩一が友達という以上に特別な存在になっているのを視聴者にはっきり知らせ、かつ恵都も自覚に向かっていくきっかけとなるシーン。その場で吐き気を催し心の整理がつかず行方不明になった大洋への失恋のときに比べ、どうすればショックを少しでも軽くできるか考え実行してるあたり成長著しいです。
・リビングに戻った浩一が「あと十分くらいでできるよ」と声をかけるが恵都がいない。閉じてたパソコンを開けてメールが開いたままなのを見つける。この時点で彼は事態(メール読まれた)を察してたはずですが、追いかけもせずメールで釈明もしなかった。バーチャル彼女の存在を話すのが恥ずかしかったのか、それを告白することはそのまま恵都への気持ちを話すことに直結しそうでまだその覚悟が定まらなかったのか。
・リストンにやってきた恵都。紅葉と剛太が雑誌広げて何の映画見るか話してるのを後ろから見つける。「一緒に映画行くってのはさ、付き合ってることになるんだよね」。いきなりの言葉に振り向く二人。ちょっと気まずい感じ?
パッと離れた二人は「そ、そ、そんなんじゃ」と二人して否定気味ですが、あくまで「気味」であって完全否定でないあたりもう認めてるようなもんですね。はたしてお互い同士の間でははっきり彼氏彼女という合意ができてるんでしょうか。
・「銀座でご飯食べたりバッグ買ってあげたりするのも恋人にすることだよね」。いきなり自分たちから離れた、しかも妙に具体的な話を振られたことに首かしげる二人。一人歩き去る恵都を紅葉が追いかけ、「誰が誰と銀座行ったの?」と問い恵都が答えない前に「・・・浩一!?」と解答にたどりつく。なかなか鋭いというかそれくらいしか選択肢がないというか。
「違うよ。ていうか知らないしあたし。浩一がだれとつきあってるかなんて」。ここで否定したのは浩一がみなに話してない、偶然知ってしまった秘密を勝手に話しちゃいけないと思ったからでしょうね。肯定することで現実を認めるのがイヤというのもあったでしょうが。
浩一じゃないと聞いてじゃあ誰という風に紅葉は首かしげてますが、あとで浩一の家を訪ねてるのでやっぱり浩一のことだと察したわけですね。
・リストンの屋上。「もう二度と、人を好きになって傷つくのはいやだ。でも」「恵都。あなたは強くなったんじゃなかったの。今のあなたなら立ち向かえるんじゃないの。たとえどんな答えが待ってるとしても」。
台本開いて台詞練習しながら考えてる恵都。あわや失恋かという時にも目の前の仕事、やるべきことから逃げてない。恵都が本当に「強くなった」ことを感じさせる場面です。
・ロケ現場。恵都はロケバスに笑顔で「おはようございます」と入っていくが、中の会話が止まる。そして無視。想像された結果ではありますけれど。真顔になってメイク中の主演女優の隣りに座った恵都は「あの、誰か」とヘアメイクに話しかけるが、メイクの女はぎょろっとした目で「自分でやれば」と意地悪く笑う。見事な悪役演技です。結局自分でメイクやっんだろうか。
・一人浩一の家を訪ねた紅葉は浩一に(恵都が食べそびれた)カレーを振舞ってもらう。「浩一って付き合ってる人いるの」「人に言う必要ないだろう」「意外と経験少ないんじゃないのー浩一 ?」なんて会話が、もろに恵都のために探り入れにきた感じです。浩一もすぐそれと察したことでしょう。
浩一は横目で紅葉を軽くにらみながら「面倒なんだよ」「答えの出ないことは嫌いなんだ」と答えますが「それって自分が傷つきたくないんじゃん。結局プライドが大事なんだよね」と即座に返される。
浩一は呆れたように溜息をついて見せますが、急所をつかれたわりに傷ついたようではない。自分でももともとわかってる、特に恵都がメールを見て帰ったあとは改めて自分のそのへんの心理とずっと向き合ってたんでしょうから。
・立ち上がって「もう帰れよ。おれ仕事だから」という浩一に「恵都今頃メイクもおわってスタンバイしてるころかなあ」「恵都が今なにを求めてるかわかる?」「励ましてもらうこと。それから好きだって言ってもらうことだよ」とじわじわ押していく紅葉。「赤ん坊じゃあるまいし」と流そうとするのへ「恵都は赤んぼと同じだって言ったのは浩一じゃん」「7年ぶりにカメラの前で台詞しゃべるんだよ。足が震えるくらい怖いんじゃないかなあー」と追い打ちをかける。
浩一は顔をしかめますが、それから何か決意したような表情になり、立ち上がるとポケットに手を入れて「ちょっと買い物」と部屋を出ていく。なんだかんだ言っても彼も恵都との恋愛へ向かって一歩を踏み出すため誰かに背中を押してもらいたい気持ちがあったんでは。紅葉もそれを悟ってぐいぐい攻めてみたんでしょう。しかし鍵の置き場所を教えとかないと(外へ出ると自動的に施錠するタイプならいいけど)紅葉が帰るに帰れませんよ?
・マンションを出た浩一はいきなり全速力で走り出す。こんなに本気で走るの足のケガ以来なのでは。ていうか走れないわけじゃないんですね。
・雨のシーンの撮影スタート。シャワーが降る中を駆け出していく恵都。ヒロインに声を投げかける恵都のシリアス演技にスタッフもうなずいている。そして一発OK。監督は「声が出るようになったな。明日の撮影8時からだ。遅れるなよ」と暖かな言葉を。恵都の努力を認めてねぎらい、皆の信頼を取り戻せるだけの演技を彼女ができたとさりげなく伝えてくれる。さすが上に立つ人だけある心配りです。
恵都はちょっと笑顔になって「はい」とうれしそうに答える。いつも真剣な目真面目な顔つきで監督に向かってきた恵都がやっと監督に笑顔をみせられた初の瞬間なのでは。
・監督はスタッフに恵都のためにタオルを持ってくるよう指示する。監督を見送ってじわじわ笑顔になった恵都は明るくスタッフにお疲れ様ですと挨拶し、スタッフも今度はちゃんと返してくれる。これは彼ら自身が恵都の演技を認めたせいもあるし、監督の恵都への態度を見て彼女の扱いを考え直した面もあるでしょう。監督もそこまで考えて恵都にねぎらいの言葉をかけタオルを持ってくるよう指示したりしたんだと思います。
・ヒロイン役の女優がスタッフが渡したタオルを礼もいわず受け取っている向こうで、同じようにタオルを受け取った恵都は「ありがとうございます」と丁寧に返す。芸能界での立ち位置が全然違うとはいえ、スタッフにも礼儀正しく接する恵都が今後現場でどんどん評価が上がっていくだろうことを予感させます。
まあこのヒロイン役の女優も「お疲れさまです」と声をかけてきた恵都に「また明日ね」とちょっと笑って歩いていくのでそう悪い人じゃなさそうですが。あるいは今後芸能界で伸びてくる、あまり粗末に扱わない方がいい相手だと思ったんでしょうか。
・恵都は見物客の中に浩一の姿を発見する。浩一にしてみれば、紅葉に恵都は不安で震えてるかもなんて脅されて飛んできたら、恵都は堂々たる演技を披露してスタッフとも和気藹々という、心配して損したみたいな状況ですね。喜ばしいかぎりではありますけども。
それだけに「おれ必要なかったじゃん」的な、ちょっと居心地悪そうな表情したもののちょっと笑顔に。恵都も最初はこわばった顔(最後に会った時があれでしたから)だったものの、やがて薄く微笑んでいます。自分を心配してきてくれた、その事実をひとまず嬉しく受け止めることにしたんでしょう。
・夜。恵都が歩く少し後ろを歩く浩一。「よく頑張ったな」「うんすごい緊張したけど」「そんなふうには見えなかったけど。プロの顔になってた」。駅で漢字ドリル渡した頃ならエピソードのメインにもなったろうやりとりですが、ここではもっと肝心な言葉が待っている。二人ともその肝心なところをあえて外しながら仕事の話に逃げてる感じです。
・「あのね、浩一」とついに恵都が言いかけるのをさえぎって「おれさ、プライド高いし。マイペースだから女の子と付き合うの苦手なんだ」と浩一の方から切り出してくる。この台詞だけ取り出すと「だから付き合えません」と続きそう。
そもそも女と付き合ったこと自体あるのか、とも思いますが、考えてみればサッカー部時代はもてていたに違いない。ファンの女の子にうるさく群がってこられて、付き合う以前に苦手意識もっちゃったんじゃないかな。「だからネットで、バーチャルなデートしてた」「ごっこだよ全部」。この告白から「ごっこ」じゃない本当の恋愛に踏み出すわけですね。ともに星空眺める姿が彼らの洋々たる前途を思わせます。
・「うちすぐそこだからここでいいよ」「いや。送るよ玄関まで。大人のマナーだろそれ」。ただの“友達”なら必ずしも女の子を玄関まで送り届けるのがマナーということもないでしょう。今までも夜道だからって家まで送ってきたことなんてなかったし(恵都が二話冒頭で車に轢かれかけたときとかも)。
“男と女”だから女の子をエスコートするのが当然という、要は玄関でのお付き合い宣言より一足早くもう告白してるようなもんです。
・玄関というから玄関外かと思えば玄関の中まで入ってくる浩一。出てきた母親に目礼。ちょうど父親と知佳もコンビニに行こうと出てきて顔合わせてしまう。中まで入ったのは母親に挨拶するつもりだったんでしょうが、父親まで(さらに妹まで)出てくるとは浩一もよもや思わなかったでしょう。
さすがにちょっと気後れした顔になったものの、「こんばんは」「恵都さんとフリースクールで一緒の峰と申します。恵都さんとお付き合いさせていただいてます」。おおしっかり言い切った!恵都が堂々たるプロの顔で大勝負をものにしたのに触発されて自分を鼓舞した部分もあったか。
・驚いた顔で浩一を見る恵都。そりゃ抜き打ちもいいところですからね。こちらも動揺しつつも上がってお茶でもという母親に「今日はもう遅いので帰ります。」と浩一は出て行く。見送った恵都が正面に向き直ると父の困惑顔と知佳のショック受けた顔が。俯いてしまう恵都。
まさかの展開ですから恵都的には俯くしかない。言うだけ言って自分は帰っちゃうんだからある意味「言い逃げ」だよなあ浩一。そもそも親に宣言するより先にまず恵都にちゃんと告白しろよ。
・恵都が浩一を追ってくる。「何走ってきてんだよ。意味ないじゃんせっかく送ったのに」「でもどうしても言いたいことがあって」。ここの会話ちょっと距離離れたままで話していて、今さら他人行儀ぽなあと思ったら会話の流れに応じて距離を縮めていくための伏線でした。いい構図です。
・「嘘ついちゃだめだよ浩一」。この言葉に浩一はちょっとショック受けた顔に。そりゃメール読んで無言で帰った恵都の態度とかわざわざ家まで押しかけてきての紅葉の言葉とか、恵都が自分を好きなのはもう決定事項だと思ってたでしょうから。さらに「あたしたち付き合ってなんかないじゃん」と追い打ちをかけるような言葉に「そっか・・・」と力なく呟く。
こんな誤解されそうな言い方じゃ浩一が可哀想みたいですが、いきなりの宣言に驚かされた仕返しってことで(恵都にそんな意図はないでしょうが)相殺ですかね。
・「これから付き合うんだよ」。浩一も視聴者も一気にほっとさせてくれる一言。「浩一はいつもそばにいてくれたよね」「あたし、今まで浩一にしてもらうことばっかりで、してあげられることとか本当に悲しいくらい何もなかった。だからせめて今日はあたしから言わせて」「浩一、あたし、あたし、浩一のことが、好きです。付き合ってください」。
ゆっくり、本当に一言一言を一生懸命に考えながら口に出してるのがわかる恵都の告白。洒落た台詞より何より胸にずんと響いてきます。浩一幸せ者だなあ。浩一も真顔の感動顔でそんな恵都を見つめています。
そして無言で目の前に立って「こちらこそ、よろしく」と右手を差し出す。恵都はその手を握りかえし、そのまま二人は自然と寄り添い浩一が恵都を抱きしめる。二人の周りをカメラがぐるぐる回りながら抱き合う二人をじっくりと映す。駅の別れと並ぶ気合いの入った名シーンです。
・リビングで晩酌する恵都の両親。「泣いてるの?」「こんなこと心配できるようになったと思うとさ。ボーイフレンドだぞ」「そうね」。二人の会話が暖かい。恵都の場合7年間があれだっただけに何をやっても親に喜んでもらえる許してもらえるところがあって、また知佳がひがむんじゃないかとちょっと心配になるくらい。
・舞台でもう一人を相手に踊る剛太。客席で見てる紅葉たち。例のヒップホップコンテスト本番てことですね。客席の反応は上々な感じ。
剛太がコンクールに出た直接の動機は賞金でしたが、他はなんもないんでしょうか。大きな事務所から声かかるとか自動的にテレビ番組への出場決定とか。まあ新人賞ってものは往々にしてそれだけでは後のキャリアに繋がらなかったりするらしいですが(それを足がかりに積極的に売り込みしたり運良く向こうから声かけてもらえたりしないと)。
まあここはドラマでもあり、きっと(作中では描かれてませんが)どこかの事務所から声かかって華々しくデビュー、人気ダンサーへ、というルートを歩むんでしょうが。
・そして優勝者発表。剛太の名が呼ばれて恵都たち三人は微笑むが、喜びの一言をどうぞ、とマイクを向けられた剛太の姿に恵都たちの顔こわばる。応募から審査までの間、良くも悪くも吃音が発覚せず来ちゃったわけですね。
案の定声が震えてしゃべれない剛太。感激のあまり、というには不自然な様子にさすがに客席もざわつきはじめるところへ、紅葉が「剛太サイコー!さすがあたしの彼氏ー!」と大きく声をかける。これには恵都たちも剛太もびっくりですが紅葉は晴れ晴れとしたいい笑顔。
紅葉と剛太もいつのまにか自然と付き合ってるぽくなってた感じのカップルなので、もしかしたらこれは浩一の交際宣言同様の抜き打ち告白だったのかもしれません。
・紅葉の勇気ある、堂々たる宣言を受けて浩一が、ポーカーフェイスの彼としては嘘みたいにいい笑顔で、続いて恵都が大きく拍手する。浩一は恵都と本式に付き合い出してからまた一つ殻を破ったというか表情が豊かになったような気がします。ラスト恵都のステージで涙ぐんでたことといい。
・やがて周りにも拍手広がる。これでいい感じに収まったと思ったら、なんと剛太が一歩前に出てマイクを引ったくると「ありがとう」と一言だけながら震えずにはっきり告げる。紅葉の勇気ある行動に背中を押されて自分も、と奮起したのが伝わってきます。
紅葉は驚きの顔から笑顔になり、剛太も二重の意味で嬉しそうに頭下げる。これをきっかけに完全に吃音が治ってしまったりしないのも、かえって勇気が呼んだ奇跡という感じで胸に響きます。
・リストンの自室でダンボールを整理するスクール長の部屋に恵都たち四人がどかどか入ってくる。はっきり触れられはしませんが明らかに身辺整理、リストン廃業は決定したと示す光景です(実際にはこの建物が使えなくなるだけで規模縮小して営業は続けるとわかりますが)。
剛太がどもりながら「優勝した」。剛太の賞金の20万、紅葉がフリマで稼いだ金と恵都のギャラ、浩一のソフト売れたお金が次々差し出される。先にプレゼンすっぽかした会社なのかはわかりませんが、無事ソフトがものになったんですね。
・スクール長は「立派になったなあおまえら」と感慨にふける。自力でお金を稼ぐというのは一人前になったことのバロメーターの一つですからね。しかし「じゃあこうしようか。これから卒業式やろうか」とスクール長は思いがけない提案を。
一人前になった=卒業というのはスクール長的には当然の考えですが、スクールを存続させるため、自分たちの居場所を守るために頑張った恵都たちにしてみれば、卒業=リストンから追い出されるというのは不本意な結果としか言いようがない。「卒業式?」と問い返す恵都がちょっと泣きそうな表情になっています。
・スクール長は食堂で「それでは今から卒業証書を授与します」と各自にお金を返す。「それは全部君たちへの卒業祝いだ」。
自宅を新しいエル・リストンにするなら家賃はいらないでしょうが、改造費用とかもろもろの維持費は必要なはず。そんな時なのに4人もの、それもリストンに人一倍の愛着を持ってくれてる生徒たちを卒業させたうえ、貴重なお金も全額返してくれる。ここであっさり受け取っちゃうようじゃ確かにお話にならないんですが、スクール長の勇気ある決断が感動的です。
・「息子の話したことあったかな」。スクール長の事情については第3回で浩一の口からすでに語られていますが、この建物のオーナー(スクール長の理解者)というのが死んだ息子の同級生の親というのは初耳。もしかするといじめた当事者の親だったり?
そうではないとしても同級生の親というなら、いじめに苦しむ子供を見殺しにしてしまった罪悪感があっての行動だったのかもしれませんね。
・そのオーナーが去年亡くなった、だからもうすぐこの建物は使えなくなる、それは残念だが「だけど君たちにとって一番大切なことはこういう場所がもう必要じゃなくなるということなんだよ」「君たちはもう十分やっていける。自分の意志と力で」。
まだまだ手助けの必要な子のために我が家を改造してエル・リストンを続けるつもりと続けるスクール長。あくまでリストンは一時疲れた心を休め新たに羽ばたく力を育むための場所。その考えはストーリーを通じて一貫しています。
・「ここに来る子たちはみんな何か一個足りないものを抱えてる。その分人にはないものを持っている。おれはそう信じている。信じてやりたいんだ」。
確かに恵都も浩一も紅葉も剛太も人にはない才能をもっていた。フィクションだけに彼らの才能はわかりやすい形で示されていますが、それ以外の子供たちも、現実世界でフリースクールに通ってる子たちもきっと何かを持っているはず。そういうメッセージを篭めた、視聴者へ当てた台詞なんじゃないでしょうか。
・浩一は「ありがとうスクール長。おれたちエル・リストンを卒業します。これからは一人一人自分の足で歩いて頑張っていきます。な?」
上で書いたように自分たちの居場所としてのリストンを守りたいために頑張ってきた4人にとって「卒業」は不本意な結末のはず。特にいち早くリストンの経営危機に気付いた浩一はそれだけ努力した期間も長かった。なのにその彼が真っ先にリストン卒業に同意する。それはスクール長の言う通り今の自分たちに羽を休める場所としてのリストンは必要なくなっている、リストンを守るための戦いを通して自分たちはリストンがいらなくなるくらい強く成長できた、その手ごたえをはっきり得たからでしょう。
それは彼のみならず4人に共通する思いであり、浩一もそれをわかってるから「おれたち」と発言したのだと思います。実際剛太・紅葉も続けて頑張る宣言しましたしね。
・そして最後の「な」は恵都の方を向いてとても優しい声音で言う。こういう何気ないところに二人が付き合ってる感が出てます。スクール長は一人一人の頭に手を置いて別れの挨拶。恵都は涙目の笑顔でそれを受ける。またとない素敵な卒業式です。
・四人で手をつないで並んで歩く。右から浩一・紅葉・恵都・剛太という並び順。恋人同士が手を繋がない並び順なのは4人の友情を示す場面だからですね。
「それでも人生の散歩道はまだ遥かで、あたしたちは迷うこともあるだろう。そんな時は隣りにいる友の手をそっと取ればいい。暖かな手がきっとそこにあるから」。エンディングテーマの映像を彷彿とさせる並んで歩く4人の姿も恵都のモノローグも実に美しい。見事な幕切れです。
・そして後日談とも言うべきラストシーンは恵都の舞台。恵都のメイクはマーサが手がけてる。恵都誘拐事件のとき「奈子のヘアメイク」と電話してきたそうだから奈子専属なのかと思ってました。二人の繋がりの強さからいっても普段はそうなのかも。
恵都の(大人になってからは)初舞台ということで特別に奈子が貸してくれたってことなんじゃないですかね。だったらちょっといい話。
・客席に浩一たち三人。離れて青山一家。奈子とマネージャーの姿も。さらにあわてて開演ぎりぎりに飛び込んでくる大洋。彼女同伴じゃないんですね。恵都はきっと二人分チケット用意しただろうから大洋もしくは彼女の方で遠慮したのか。
恵都にはもう浩一がいるんだし、何より大洋のキャラ(というか友達として恵都と自然に付き合いを続けたいという宣言内容)とそぐわない気がするんですが。
・そして開始のベルが鳴る。奈子はちょっと泣きそうな顔に。幕が上がる。セリで一人出てくる恵都。真剣に見入る剛太。胸で手を組み笑顔こぼれる(わくわくしてる感じの)紅葉。そして頬杖ついて一見クールそうでいながらもう涙ぐんでる浩一。
正直この表情にやられました。泣いちゃいますか!浩一は実に魅力的なキャラクターで、ここまでもいい表情がいっぱいありましたが、最後の最後でとどめをくらった感じです。民放の連ドラ枠で放送してたら、一気に人気沸騰していたかも。まあその場合、これだけの作品のクオリティは保ててなかったでしょうけど。
・ステージ中央に一人堂々と立つ恵都。過去の自分を思い出しながら、隣に立つ子供の自分と手を繋ぐ。過去を捨てる、忘れるのでなく、向き合いながら前に進んでいこうとするそんな決意が見えるようです。ライトを浴びて笑顔になり前へと走って大きく手を広げる姿も恵都の前途を象徴しているように思えます。
・会社の玄関をくぐった浩一の携帯に電話が。今大丈夫かと聞かれて「これからプレゼン始まるんですけど」。敬語で話してるところからすると相手はスクール長か。今何が起こってるか考えてもいない緊迫感のない声が何だか切ないです。
・ドアを開けようとそのへんの物をぶつけてみる恵都。息切れしたところに別のドアからマーサが入ってくる。食べ物を差し出すが、恵都はそれを払い落とし牛乳瓶が砕けて割れる。「どうして、マーサ」尋ねる恵都に「ぼくは奈子さんに恩があるんだ」「奈子さんに拾ってもらって今まで仕事が続いてる」。元モデルだったというマーサがモデルを続けられなくなった理由は不明。モデル時代奈子とどんな縁があって拾われるに至ったのかも不明。
しかし「奈子さんは今苦しんでるんだ。ぼくは苦しんでる人が好きだ。高いところでいい気になってる人間よりね」と続くところからして、恩義があるからというより奈子本人への好意、彼女の苦しみへの共感から肩入れしてるように思えます。となると奈子や彼の視点からは苦しんでなさそうに見える恵都にはやはり反感があるのか。これまでの態度、この先の行動からすると決して恵都を嫌ってるようじゃないんですが。
・浩一も含めた三人+スクール長がリストンの庭に走りこんでくる。紅葉は恵都が本番前のトラウマに襲われて逃げたのではというが、浩一は冷静に「いや、それはないよ。あいつは戦ってるはずだ。きっとどこかで」。
以前PV撮影の時に逃げかけたのを知っているのに、今の恵都はそうはしないはずだと信じている。恵都が浩一を信じているのにも劣らない信頼の固さ。やはりいいバートナーだと思います。
・ロケ現場。主演他まだ待機中。「いい度胸してるわよね~」。恵都への怒りが充満してます。そろそろ始めようとスタッフが言い、監督は無言だが仕方ないかという雰囲気を出している。今後の恵都への風当たりが心配になってきます。
・部屋で座ってる恵都はヒールの音を聞いてドアに向かい、ドア越しに「奈子」と声をかける。ドアのあっちとこっちを同時に移すアングルで二人の会話と表情を追う。こうした手法をとることで会話の中での二人の感情変化を詳細にたどっています。
・「あなたが、立ち直ったからよ。あんたに負けたくなくてずっと必死だった」「でもいつも最後には言われたの」「おまえは恵都にはなれないって」「もう二度とあたしの目の前に現れないで。あたしがあんたを超えようと歯を食いしばってきた7年間、意味ないじゃん」。
血を吐くような奈子の言葉。彼女が恵都と比べられ続けたのは7年も前のことなのに奈子にとってずっと最大のライバルは恵都であり続けた。奈子も7年間恵都とは別の形で呪縛されていた。
恵都目線で見れば「私の行く手にもう一度現れたのは」奈子の方ですか(遊園地での再会のとき)、奈子にとってはマーサがオーディション会場で恵都と出会ったこと―恵都が再び自分のフィールドをうろうろしてたことを恵都側からの侵犯と感じてしまったんでしょうね。
・「意味なくなんかないよ。奈子が頑張ってきたの。あたし知ってるよ」「でもあたしも頑張ってきたんだよ。奈子の知らないところで。日の当たらない世の中の隅っこで」。
恵都が頑張ってきた「日の当たらない世の中の隅っこ」はリストンを指すのかそれとも7年引きこもってた家のことか。7年間確かに恵都は苦しみに耐えてはいましたが、その苦しみから逃れる、克服するために何か努力をしたわけではなかった(だからこそ7年も苦しむはめになった)。だから大事な仲間と出会ってその苦しみを乗り越え、失恋を乗り越え今まで経験がないほどの怒りや憎しみを経験しそれらへの対処法を学び、7年間の空白を埋めるべく子供がやるような漢字ドリルや料理などの一般常識の勉強、発声の練習にも取り組んでるリストンに出会って以降の生活を指してるとするほうが妥当そうです。
奈子や世間が人生の敗残者の逃げ場所、甘やかされた空間と見なすフリースクールは、自分にとって世間と戦うための足場であるのだと、そう宣言してるわけですね。
・恵都の言葉を聞きながら奈子は泣きそうな顔。その後ろで途中からマーサも聞いている。「怒りや憎しみで人に当たりそうになる。でもそれじゃダメなんだ。自分に勝たなきゃって。そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる。転んだら起き上がればいい。それも友達が教えてくれた。負けないよあたしは」。
穏やかだが芯の強さを窺わせる表情で言う恵都。ここまでやってもあきらめない、倒れてもまた立ち直ってみせると言い切る恵都にもうどうやれば勝てるのかもわからない。奈子が小さく嗚咽を始めたのはいわば敗北宣言といえるでしょう。
・もはや潮時と見たか、マーサは「奈子さんもうやめませんか」「彼女を痛めつけてあなたが気が済むならいい。それであなたが一歩でも前にすすめるなら」と言いながら奈子の体を強引にどかしてドアを開ける。
彼は最初から奈子の「気が済むなら」と恵都監禁に加担した。そんなことをしてもおそらく奈子は前に進めない、かえって自身を傷つけることになると察していながら。それはまさに奈子に恵都に敵意を燃やすことの空しさを知ってほしかったからでしょう。そしてもしかしたら恵都がへこたれず奈子に立ち向かってくれて結果奈子の呪縛を解いてくれるかもしれない、そんな一縷の望みもあったのでは。
そのためには恵都の都合は(気にしてないわけじゃない、十分申し訳ないとは思いつつも)完全に後回し。彼にとって一番大切なのは奈子だったから。結果マーサが狙った以上の効果があがったようです。
・マーサは恵都の腕をつかんで建物から出ていき、車に恵都を乗せる。「ありがとう」「奈子大丈夫かな」。この状況でマーサに礼を言い奈子を案じる恵都。優しさ-精神的余裕において完全に恵都勝利です。
「・・・大丈夫。・・・ぼくがそばにいるから」。これは恵都が「そばにいてそういうこと言ってくれる友達がいるからあたしは今頑張れてる」と言ったのを受けて、自分が奈子にとってそういう存在になると宣言してるんでしょう。これまでだって彼はずっと奈子のそばにいて、彼女がどんな我が儘を言おうと邪険にしようと彼女の味方でありつづけた。苦しむ奈子を支えるためせめて自分だけはどんな状況でも絶対的な味方であろうとしたんでしょうが、そうして彼女を甘やかしたことは結局奈子の苦しみを軽くすることには繋がらなかった。相手を思えばこそあえてキツい忠告もするべき、それでこそ相手を支えられるんだと恵都の言葉で思ったのかもしれません。
だからマーサは初めて奈子に逆らって、力づくで彼女を押しのけて恵都を連れ出した。それが奈子のためになると信じて。これだけ想ってくれる相手がすぐそばにいることを奈子が実感できるのはいつなんでしょう。自分が持っているものに気付かず恵都をうらやんでばかりいるのが奈子を不幸にしてるわけで、落ち着いて自分の回りを見回すのが今の彼女に一番必要なことなんだと思います。
・「いつか舞台で、仕事場でまた奈子に会いたいってそう伝えて」と恵都は言い、マーサは車を発進させる。一人建物の中で泣きじゃくる奈子。この涙が過去のしがらみ、今の苦しみを洗い流す、生まれ変わるための涙になればいいですね。
・ロケ隊が撤収するところにやっと恵都到着。スタッフ皆に詫びて回るがだれも返事をしない。それでも監督を追いかけて懸命に頼みこむ。「この仕事がどうしてもやりたいんです。もう一度よろしくお願いします」。
以前奈子は久々にやる気が出る役を奪われたとき無念ながらもそのまま諦めてしまった。もし恵都のように「この仕事がどうしてもやりたいんです」と監督に直訴でもしていれば、もしかしたら事態は違ったかもしれない。恵都と違って役を降ろすとはっきり言い渡されたのだから覆すのは難しくても、少なくともやる気が伝わって次の仕事に結びついたかもしれない。恵都は「あたしにはないガッツが奈子にはあった」と評したけれど、今やそのガッツ、役への執念も恵都が上を行っています。
・ちょっと間があってから監督は「今日おまえは全員を敵に回した。一度信頼を失った人間が信頼を取り戻すには人の十倍の努力が必要だ」と言い渡す。「頑張ります。私頑張ります」と強い目で訴える恵都に対して監督は何も言わないまま立ち去りますが、役を降ろすとは言わなかった。何も釈明をしない、遅れた事情を説明しないのは問題ですがその代わり言い訳もしない恵都を、もう一回信じようとしてくれてるのがわかります。
そういえば、この時点で恵都は事務所に所属もしてなければマネージャーもいないみたいですね。そもそもマネージャーがいたらマーサに送ってもらう状況にならなかったでしょうから。つまりフリーで仕事してる状態。それで映画のそこそこ重要な役についてるわけですから結構すごいことかも。そういやハンバーガー屋のバイトはどうしたんでしょう。完全にやめちゃったのかな。
・夜。帰り道の恵都。途中の階段に座って待ってた紅葉と剛太が気づいて駆けてくる。「どうしたの?」と驚く恵都。「どうしたもこうしたもないよ。撮影所に来ないっていうからみんなでさんざん探して」。
地下のろくに窓もないところに閉じ込められてたから携帯繋がらなかったのかと思ってましたが、「どうしたの?」という言葉からして、皆に連絡して助けてもらおうという発想さえなかったぽいですね(そう思ってできなかったんなら、「ああみんな知ってて捜してくれてたんだ」みたいな反応になると思うので)。一人で戦わなくてはという思いが強かったゆえかもしれませんが、そこは友達を頼ろうと思いついてもいいところ。たしかに「どうしたもこうしたもない」ですね。
・「警察に連絡しようとしたら園田奈子のヘアメイクだとかいう男が連絡してきて事情を説明してくれたんだけど、園田奈子のやつ、あいつ、どういうつもりだよ!」
はたして恵都は自分の失跡についてどう説明するのか、奈子をかばって仲間にも言わずにおくのか、と思いめぐらしてたんですが、紅葉たちはすでに事情を知っていたという形にもってきました。恵都が自分でなんらかの説明をしなきゃいけない展開だと、言えば奈子を裏切るみたいだし言わなければ仲間に対して不誠実みたいだし、というジレンマが生まれるのでいい落としどころです。
マーサがあえて奈子のやったことをバラしたのは(マスコミにでもバラされれば一大事だというのに)警察沙汰にされたらなおさらまずい(恵都にその意図はないでしょうが、恵都を心配した周囲が早々に連絡してしまう可能性は大いにある)という配慮でしょうが、それだけなら全部正直に話す必要はない(自分の独断で、とか奈子をかばうこともできた)。これはマーサなりの恵都周囲の人間に対するせいいっぱいの誠意だったように思います。
・浩一は恵都の無事を聞いて先に帰った、恵都を捜すためにゲームソフトのプレゼンすっぽかしちゃったみたいだと聞いて目を見張る恵都。自分の責任とはいえないにせよ、結果的に自分がさらわれたために浩一のチャンス(リストンの経営危機を救うためだけではない、彼自身のキャリアにとってもチャンスだった)を潰してしまったのだから、そりゃショックですね。
・浩一の家を訪ねる恵都。まだワイシャツでネクタイ緩めただけの姿の浩一が出て、驚いた顔をする。勝地くんがスーツ着る役のときは短髪のことが多いですが(サラリーマン役の一環としてスーツ着るケースがほとんどなので必然的に短髪になりがち)、長髪にワイシャツネクタイの取り合わせが(『カムフラージュ』もそうでしたが)似合う似合う。あまり見る機会がないのが残念なくらいです。
・「ソフトに欠陥が見つかったんだ。今それを直してるところだから気にしなくていいよ」。要は恵都の行方不明騒ぎに関係なく自分のミスゆえにプレゼンに行かなかったのだというニュアンスの発言。無表情だが優しい声音です。見え見えのこんな嘘で恵都の気持ちを楽にしようとしてくれる。本当に後にいくほど浩一は優しくなっていきます。それも恵都の影響か。
・「何か作ろうか」という恵都に「洗剤で米、洗うなよ」。まあ前科がありますからね。「あたし覚えたよ。ごはんの炊き方」。浩一がちょっと驚いた顔をする。「お味噌汁のつくり方も」「ちょっとずつできないことを減らして。できることを増やして。浩一のおかげだよ。浩一とみんなの」。ちょっと微笑む。ちょっとずつ、でも確実に一歩ずつ進む。何事につけそれが一番大事なんですよね。
浩一は少ししてから目をそらして「その年でそれくらいのこと、できなきゃ仕方ないだろ」と水を差すようなことを言いますが、それは「浩一のおかげ」と言われたことへの照れ隠しなんでしょうね(あとからちょっと反省してるみたいな顔してるし)。ぶっきらぼうになりきらない口調にもそれが表れています。
恵都もそれが浩一なりの照れの表現だともうわかっているからむっとしたり傷ついたりはしない。いつのまにか恵都の方が大人みたいです。
・「友達っていいねー。友達ってすてきねー」。「サニー」の歌を口ずさみながら料理する恵都。ちょっと前なら考えられなかった行動。恵都が完全に過去の傷を克服したのがわかります。ノリノリの恵都はだんだん振り付けまで入ってきて、キッチンの入口で浩一がそれを見てる。気づいて「あ」と止まる恵都。
「それから先、どうすんの」「えっと」。続きを踊ろうとする恵都の横をすりぬけた浩一が「踊りじゃなくてカレー」。ちょっと笑えるやりとりです。
・作り方を恵都が説明するのですが、「ルーを入れます」とか教則本口調になってるのが可笑しい。それじゃこげつくと浩一は冷静に指摘して(さすがに一人暮らしが長いだけある)あとは自分がやると交代する。恵都不承不承な顔。せっかく自分が料理作ると張り切っていたのに。家で何度か試してから再トライですね。
・浩一のパソコンの前に座って打つふりしてみる恵都。勝手にいじっちゃいけないと思うゆえの打つふりというより、多分本当に打ち方知らないんだろうなと思わせる。そこへ新着メールが。しかも開いちゃうあたりがタイミングよすぎです。
・「映画楽しかったね。お金いっぱい使わせちゃってごめん」 口に出して内容を読む恵都。ちゃんと漢字が読めるようになってる、とこんな場面ですがちょっと感動ものです。しかし「ダーリンへ プリンセスより」って(笑)。
この「浩一がバソコンでバーチャルデートしてた設定」、放映当時わりと評判悪かった記憶が。いわゆる「キモオタ」的行動ですからねえ。原作の“長らく血の繋がらない姉に片想いしてた”設定を(話が長くなるから)省いたのはいいとして、こんな形で浩一の恋愛ネタを持ってくるとは。恵都側から見れば浩一への恋心を自覚するためのステップとなるエピソードですが、それだけなら「身内の女の子とのやりとりを恵都が彼女相手と誤解した」みたいなところに落としてもよかったはず。
女に興味なさそうな顔して女と付き合いたい気持ちはあった、現実の女の子はめんどくさいけど、気分だけいいとこ取りできる恋愛はしてみたかった浩一が、そのめんどくさい現実の女の子(恵都は普通の女の子にありがちな面倒くささは希薄そうですが、別の意味で面倒ではありそう。お米洗剤で洗っちゃうとか男に無防備についてって監禁されるとか)との付き合いに踏み出せるほどに成長した、そういう部分を描きたかったゆえの設定でしょうか。
・一人夜の道をダカダカと歩く恵都。そういや誘拐事件のあと家に帰ってないのでは。両親こそすごく心配してるだろうに。
「私はものすごく早く歩いた。でないと今見たことが今知ったことが心に突きささってしまう。きっとあとですごく痛くなる」。恵都にとって浩一が友達という以上に特別な存在になっているのを視聴者にはっきり知らせ、かつ恵都も自覚に向かっていくきっかけとなるシーン。その場で吐き気を催し心の整理がつかず行方不明になった大洋への失恋のときに比べ、どうすればショックを少しでも軽くできるか考え実行してるあたり成長著しいです。
・リビングに戻った浩一が「あと十分くらいでできるよ」と声をかけるが恵都がいない。閉じてたパソコンを開けてメールが開いたままなのを見つける。この時点で彼は事態(メール読まれた)を察してたはずですが、追いかけもせずメールで釈明もしなかった。バーチャル彼女の存在を話すのが恥ずかしかったのか、それを告白することはそのまま恵都への気持ちを話すことに直結しそうでまだその覚悟が定まらなかったのか。
・リストンにやってきた恵都。紅葉と剛太が雑誌広げて何の映画見るか話してるのを後ろから見つける。「一緒に映画行くってのはさ、付き合ってることになるんだよね」。いきなりの言葉に振り向く二人。ちょっと気まずい感じ?
パッと離れた二人は「そ、そ、そんなんじゃ」と二人して否定気味ですが、あくまで「気味」であって完全否定でないあたりもう認めてるようなもんですね。はたしてお互い同士の間でははっきり彼氏彼女という合意ができてるんでしょうか。
・「銀座でご飯食べたりバッグ買ってあげたりするのも恋人にすることだよね」。いきなり自分たちから離れた、しかも妙に具体的な話を振られたことに首かしげる二人。一人歩き去る恵都を紅葉が追いかけ、「誰が誰と銀座行ったの?」と問い恵都が答えない前に「・・・浩一!?」と解答にたどりつく。なかなか鋭いというかそれくらいしか選択肢がないというか。
「違うよ。ていうか知らないしあたし。浩一がだれとつきあってるかなんて」。ここで否定したのは浩一がみなに話してない、偶然知ってしまった秘密を勝手に話しちゃいけないと思ったからでしょうね。肯定することで現実を認めるのがイヤというのもあったでしょうが。
浩一じゃないと聞いてじゃあ誰という風に紅葉は首かしげてますが、あとで浩一の家を訪ねてるのでやっぱり浩一のことだと察したわけですね。
・リストンの屋上。「もう二度と、人を好きになって傷つくのはいやだ。でも」「恵都。あなたは強くなったんじゃなかったの。今のあなたなら立ち向かえるんじゃないの。たとえどんな答えが待ってるとしても」。
台本開いて台詞練習しながら考えてる恵都。あわや失恋かという時にも目の前の仕事、やるべきことから逃げてない。恵都が本当に「強くなった」ことを感じさせる場面です。
・ロケ現場。恵都はロケバスに笑顔で「おはようございます」と入っていくが、中の会話が止まる。そして無視。想像された結果ではありますけれど。真顔になってメイク中の主演女優の隣りに座った恵都は「あの、誰か」とヘアメイクに話しかけるが、メイクの女はぎょろっとした目で「自分でやれば」と意地悪く笑う。見事な悪役演技です。結局自分でメイクやっんだろうか。
・一人浩一の家を訪ねた紅葉は浩一に(恵都が食べそびれた)カレーを振舞ってもらう。「浩一って付き合ってる人いるの」「人に言う必要ないだろう」「意外と経験少ないんじゃないのー浩一 ?」なんて会話が、もろに恵都のために探り入れにきた感じです。浩一もすぐそれと察したことでしょう。
浩一は横目で紅葉を軽くにらみながら「面倒なんだよ」「答えの出ないことは嫌いなんだ」と答えますが「それって自分が傷つきたくないんじゃん。結局プライドが大事なんだよね」と即座に返される。
浩一は呆れたように溜息をついて見せますが、急所をつかれたわりに傷ついたようではない。自分でももともとわかってる、特に恵都がメールを見て帰ったあとは改めて自分のそのへんの心理とずっと向き合ってたんでしょうから。
・立ち上がって「もう帰れよ。おれ仕事だから」という浩一に「恵都今頃メイクもおわってスタンバイしてるころかなあ」「恵都が今なにを求めてるかわかる?」「励ましてもらうこと。それから好きだって言ってもらうことだよ」とじわじわ押していく紅葉。「赤ん坊じゃあるまいし」と流そうとするのへ「恵都は赤んぼと同じだって言ったのは浩一じゃん」「7年ぶりにカメラの前で台詞しゃべるんだよ。足が震えるくらい怖いんじゃないかなあー」と追い打ちをかける。
浩一は顔をしかめますが、それから何か決意したような表情になり、立ち上がるとポケットに手を入れて「ちょっと買い物」と部屋を出ていく。なんだかんだ言っても彼も恵都との恋愛へ向かって一歩を踏み出すため誰かに背中を押してもらいたい気持ちがあったんでは。紅葉もそれを悟ってぐいぐい攻めてみたんでしょう。しかし鍵の置き場所を教えとかないと(外へ出ると自動的に施錠するタイプならいいけど)紅葉が帰るに帰れませんよ?
・マンションを出た浩一はいきなり全速力で走り出す。こんなに本気で走るの足のケガ以来なのでは。ていうか走れないわけじゃないんですね。
・雨のシーンの撮影スタート。シャワーが降る中を駆け出していく恵都。ヒロインに声を投げかける恵都のシリアス演技にスタッフもうなずいている。そして一発OK。監督は「声が出るようになったな。明日の撮影8時からだ。遅れるなよ」と暖かな言葉を。恵都の努力を認めてねぎらい、皆の信頼を取り戻せるだけの演技を彼女ができたとさりげなく伝えてくれる。さすが上に立つ人だけある心配りです。
恵都はちょっと笑顔になって「はい」とうれしそうに答える。いつも真剣な目真面目な顔つきで監督に向かってきた恵都がやっと監督に笑顔をみせられた初の瞬間なのでは。
・監督はスタッフに恵都のためにタオルを持ってくるよう指示する。監督を見送ってじわじわ笑顔になった恵都は明るくスタッフにお疲れ様ですと挨拶し、スタッフも今度はちゃんと返してくれる。これは彼ら自身が恵都の演技を認めたせいもあるし、監督の恵都への態度を見て彼女の扱いを考え直した面もあるでしょう。監督もそこまで考えて恵都にねぎらいの言葉をかけタオルを持ってくるよう指示したりしたんだと思います。
・ヒロイン役の女優がスタッフが渡したタオルを礼もいわず受け取っている向こうで、同じようにタオルを受け取った恵都は「ありがとうございます」と丁寧に返す。芸能界での立ち位置が全然違うとはいえ、スタッフにも礼儀正しく接する恵都が今後現場でどんどん評価が上がっていくだろうことを予感させます。
まあこのヒロイン役の女優も「お疲れさまです」と声をかけてきた恵都に「また明日ね」とちょっと笑って歩いていくのでそう悪い人じゃなさそうですが。あるいは今後芸能界で伸びてくる、あまり粗末に扱わない方がいい相手だと思ったんでしょうか。
・恵都は見物客の中に浩一の姿を発見する。浩一にしてみれば、紅葉に恵都は不安で震えてるかもなんて脅されて飛んできたら、恵都は堂々たる演技を披露してスタッフとも和気藹々という、心配して損したみたいな状況ですね。喜ばしいかぎりではありますけども。
それだけに「おれ必要なかったじゃん」的な、ちょっと居心地悪そうな表情したもののちょっと笑顔に。恵都も最初はこわばった顔(最後に会った時があれでしたから)だったものの、やがて薄く微笑んでいます。自分を心配してきてくれた、その事実をひとまず嬉しく受け止めることにしたんでしょう。
・夜。恵都が歩く少し後ろを歩く浩一。「よく頑張ったな」「うんすごい緊張したけど」「そんなふうには見えなかったけど。プロの顔になってた」。駅で漢字ドリル渡した頃ならエピソードのメインにもなったろうやりとりですが、ここではもっと肝心な言葉が待っている。二人ともその肝心なところをあえて外しながら仕事の話に逃げてる感じです。
・「あのね、浩一」とついに恵都が言いかけるのをさえぎって「おれさ、プライド高いし。マイペースだから女の子と付き合うの苦手なんだ」と浩一の方から切り出してくる。この台詞だけ取り出すと「だから付き合えません」と続きそう。
そもそも女と付き合ったこと自体あるのか、とも思いますが、考えてみればサッカー部時代はもてていたに違いない。ファンの女の子にうるさく群がってこられて、付き合う以前に苦手意識もっちゃったんじゃないかな。「だからネットで、バーチャルなデートしてた」「ごっこだよ全部」。この告白から「ごっこ」じゃない本当の恋愛に踏み出すわけですね。ともに星空眺める姿が彼らの洋々たる前途を思わせます。
・「うちすぐそこだからここでいいよ」「いや。送るよ玄関まで。大人のマナーだろそれ」。ただの“友達”なら必ずしも女の子を玄関まで送り届けるのがマナーということもないでしょう。今までも夜道だからって家まで送ってきたことなんてなかったし(恵都が二話冒頭で車に轢かれかけたときとかも)。
“男と女”だから女の子をエスコートするのが当然という、要は玄関でのお付き合い宣言より一足早くもう告白してるようなもんです。
・玄関というから玄関外かと思えば玄関の中まで入ってくる浩一。出てきた母親に目礼。ちょうど父親と知佳もコンビニに行こうと出てきて顔合わせてしまう。中まで入ったのは母親に挨拶するつもりだったんでしょうが、父親まで(さらに妹まで)出てくるとは浩一もよもや思わなかったでしょう。
さすがにちょっと気後れした顔になったものの、「こんばんは」「恵都さんとフリースクールで一緒の峰と申します。恵都さんとお付き合いさせていただいてます」。おおしっかり言い切った!恵都が堂々たるプロの顔で大勝負をものにしたのに触発されて自分を鼓舞した部分もあったか。
・驚いた顔で浩一を見る恵都。そりゃ抜き打ちもいいところですからね。こちらも動揺しつつも上がってお茶でもという母親に「今日はもう遅いので帰ります。」と浩一は出て行く。見送った恵都が正面に向き直ると父の困惑顔と知佳のショック受けた顔が。俯いてしまう恵都。
まさかの展開ですから恵都的には俯くしかない。言うだけ言って自分は帰っちゃうんだからある意味「言い逃げ」だよなあ浩一。そもそも親に宣言するより先にまず恵都にちゃんと告白しろよ。
・恵都が浩一を追ってくる。「何走ってきてんだよ。意味ないじゃんせっかく送ったのに」「でもどうしても言いたいことがあって」。ここの会話ちょっと距離離れたままで話していて、今さら他人行儀ぽなあと思ったら会話の流れに応じて距離を縮めていくための伏線でした。いい構図です。
・「嘘ついちゃだめだよ浩一」。この言葉に浩一はちょっとショック受けた顔に。そりゃメール読んで無言で帰った恵都の態度とかわざわざ家まで押しかけてきての紅葉の言葉とか、恵都が自分を好きなのはもう決定事項だと思ってたでしょうから。さらに「あたしたち付き合ってなんかないじゃん」と追い打ちをかけるような言葉に「そっか・・・」と力なく呟く。
こんな誤解されそうな言い方じゃ浩一が可哀想みたいですが、いきなりの宣言に驚かされた仕返しってことで(恵都にそんな意図はないでしょうが)相殺ですかね。
・「これから付き合うんだよ」。浩一も視聴者も一気にほっとさせてくれる一言。「浩一はいつもそばにいてくれたよね」「あたし、今まで浩一にしてもらうことばっかりで、してあげられることとか本当に悲しいくらい何もなかった。だからせめて今日はあたしから言わせて」「浩一、あたし、あたし、浩一のことが、好きです。付き合ってください」。
ゆっくり、本当に一言一言を一生懸命に考えながら口に出してるのがわかる恵都の告白。洒落た台詞より何より胸にずんと響いてきます。浩一幸せ者だなあ。浩一も真顔の感動顔でそんな恵都を見つめています。
そして無言で目の前に立って「こちらこそ、よろしく」と右手を差し出す。恵都はその手を握りかえし、そのまま二人は自然と寄り添い浩一が恵都を抱きしめる。二人の周りをカメラがぐるぐる回りながら抱き合う二人をじっくりと映す。駅の別れと並ぶ気合いの入った名シーンです。
・リビングで晩酌する恵都の両親。「泣いてるの?」「こんなこと心配できるようになったと思うとさ。ボーイフレンドだぞ」「そうね」。二人の会話が暖かい。恵都の場合7年間があれだっただけに何をやっても親に喜んでもらえる許してもらえるところがあって、また知佳がひがむんじゃないかとちょっと心配になるくらい。
・舞台でもう一人を相手に踊る剛太。客席で見てる紅葉たち。例のヒップホップコンテスト本番てことですね。客席の反応は上々な感じ。
剛太がコンクールに出た直接の動機は賞金でしたが、他はなんもないんでしょうか。大きな事務所から声かかるとか自動的にテレビ番組への出場決定とか。まあ新人賞ってものは往々にしてそれだけでは後のキャリアに繋がらなかったりするらしいですが(それを足がかりに積極的に売り込みしたり運良く向こうから声かけてもらえたりしないと)。
まあここはドラマでもあり、きっと(作中では描かれてませんが)どこかの事務所から声かかって華々しくデビュー、人気ダンサーへ、というルートを歩むんでしょうが。
・そして優勝者発表。剛太の名が呼ばれて恵都たち三人は微笑むが、喜びの一言をどうぞ、とマイクを向けられた剛太の姿に恵都たちの顔こわばる。応募から審査までの間、良くも悪くも吃音が発覚せず来ちゃったわけですね。
案の定声が震えてしゃべれない剛太。感激のあまり、というには不自然な様子にさすがに客席もざわつきはじめるところへ、紅葉が「剛太サイコー!さすがあたしの彼氏ー!」と大きく声をかける。これには恵都たちも剛太もびっくりですが紅葉は晴れ晴れとしたいい笑顔。
紅葉と剛太もいつのまにか自然と付き合ってるぽくなってた感じのカップルなので、もしかしたらこれは浩一の交際宣言同様の抜き打ち告白だったのかもしれません。
・紅葉の勇気ある、堂々たる宣言を受けて浩一が、ポーカーフェイスの彼としては嘘みたいにいい笑顔で、続いて恵都が大きく拍手する。浩一は恵都と本式に付き合い出してからまた一つ殻を破ったというか表情が豊かになったような気がします。ラスト恵都のステージで涙ぐんでたことといい。
・やがて周りにも拍手広がる。これでいい感じに収まったと思ったら、なんと剛太が一歩前に出てマイクを引ったくると「ありがとう」と一言だけながら震えずにはっきり告げる。紅葉の勇気ある行動に背中を押されて自分も、と奮起したのが伝わってきます。
紅葉は驚きの顔から笑顔になり、剛太も二重の意味で嬉しそうに頭下げる。これをきっかけに完全に吃音が治ってしまったりしないのも、かえって勇気が呼んだ奇跡という感じで胸に響きます。
・リストンの自室でダンボールを整理するスクール長の部屋に恵都たち四人がどかどか入ってくる。はっきり触れられはしませんが明らかに身辺整理、リストン廃業は決定したと示す光景です(実際にはこの建物が使えなくなるだけで規模縮小して営業は続けるとわかりますが)。
剛太がどもりながら「優勝した」。剛太の賞金の20万、紅葉がフリマで稼いだ金と恵都のギャラ、浩一のソフト売れたお金が次々差し出される。先にプレゼンすっぽかした会社なのかはわかりませんが、無事ソフトがものになったんですね。
・スクール長は「立派になったなあおまえら」と感慨にふける。自力でお金を稼ぐというのは一人前になったことのバロメーターの一つですからね。しかし「じゃあこうしようか。これから卒業式やろうか」とスクール長は思いがけない提案を。
一人前になった=卒業というのはスクール長的には当然の考えですが、スクールを存続させるため、自分たちの居場所を守るために頑張った恵都たちにしてみれば、卒業=リストンから追い出されるというのは不本意な結果としか言いようがない。「卒業式?」と問い返す恵都がちょっと泣きそうな表情になっています。
・スクール長は食堂で「それでは今から卒業証書を授与します」と各自にお金を返す。「それは全部君たちへの卒業祝いだ」。
自宅を新しいエル・リストンにするなら家賃はいらないでしょうが、改造費用とかもろもろの維持費は必要なはず。そんな時なのに4人もの、それもリストンに人一倍の愛着を持ってくれてる生徒たちを卒業させたうえ、貴重なお金も全額返してくれる。ここであっさり受け取っちゃうようじゃ確かにお話にならないんですが、スクール長の勇気ある決断が感動的です。
・「息子の話したことあったかな」。スクール長の事情については第3回で浩一の口からすでに語られていますが、この建物のオーナー(スクール長の理解者)というのが死んだ息子の同級生の親というのは初耳。もしかするといじめた当事者の親だったり?
そうではないとしても同級生の親というなら、いじめに苦しむ子供を見殺しにしてしまった罪悪感があっての行動だったのかもしれませんね。
・そのオーナーが去年亡くなった、だからもうすぐこの建物は使えなくなる、それは残念だが「だけど君たちにとって一番大切なことはこういう場所がもう必要じゃなくなるということなんだよ」「君たちはもう十分やっていける。自分の意志と力で」。
まだまだ手助けの必要な子のために我が家を改造してエル・リストンを続けるつもりと続けるスクール長。あくまでリストンは一時疲れた心を休め新たに羽ばたく力を育むための場所。その考えはストーリーを通じて一貫しています。
・「ここに来る子たちはみんな何か一個足りないものを抱えてる。その分人にはないものを持っている。おれはそう信じている。信じてやりたいんだ」。
確かに恵都も浩一も紅葉も剛太も人にはない才能をもっていた。フィクションだけに彼らの才能はわかりやすい形で示されていますが、それ以外の子供たちも、現実世界でフリースクールに通ってる子たちもきっと何かを持っているはず。そういうメッセージを篭めた、視聴者へ当てた台詞なんじゃないでしょうか。
・浩一は「ありがとうスクール長。おれたちエル・リストンを卒業します。これからは一人一人自分の足で歩いて頑張っていきます。な?」
上で書いたように自分たちの居場所としてのリストンを守りたいために頑張ってきた4人にとって「卒業」は不本意な結末のはず。特にいち早くリストンの経営危機に気付いた浩一はそれだけ努力した期間も長かった。なのにその彼が真っ先にリストン卒業に同意する。それはスクール長の言う通り今の自分たちに羽を休める場所としてのリストンは必要なくなっている、リストンを守るための戦いを通して自分たちはリストンがいらなくなるくらい強く成長できた、その手ごたえをはっきり得たからでしょう。
それは彼のみならず4人に共通する思いであり、浩一もそれをわかってるから「おれたち」と発言したのだと思います。実際剛太・紅葉も続けて頑張る宣言しましたしね。
・そして最後の「な」は恵都の方を向いてとても優しい声音で言う。こういう何気ないところに二人が付き合ってる感が出てます。スクール長は一人一人の頭に手を置いて別れの挨拶。恵都は涙目の笑顔でそれを受ける。またとない素敵な卒業式です。
・四人で手をつないで並んで歩く。右から浩一・紅葉・恵都・剛太という並び順。恋人同士が手を繋がない並び順なのは4人の友情を示す場面だからですね。
「それでも人生の散歩道はまだ遥かで、あたしたちは迷うこともあるだろう。そんな時は隣りにいる友の手をそっと取ればいい。暖かな手がきっとそこにあるから」。エンディングテーマの映像を彷彿とさせる並んで歩く4人の姿も恵都のモノローグも実に美しい。見事な幕切れです。
・そして後日談とも言うべきラストシーンは恵都の舞台。恵都のメイクはマーサが手がけてる。恵都誘拐事件のとき「奈子のヘアメイク」と電話してきたそうだから奈子専属なのかと思ってました。二人の繋がりの強さからいっても普段はそうなのかも。
恵都の(大人になってからは)初舞台ということで特別に奈子が貸してくれたってことなんじゃないですかね。だったらちょっといい話。
・客席に浩一たち三人。離れて青山一家。奈子とマネージャーの姿も。さらにあわてて開演ぎりぎりに飛び込んでくる大洋。彼女同伴じゃないんですね。恵都はきっと二人分チケット用意しただろうから大洋もしくは彼女の方で遠慮したのか。
恵都にはもう浩一がいるんだし、何より大洋のキャラ(というか友達として恵都と自然に付き合いを続けたいという宣言内容)とそぐわない気がするんですが。
・そして開始のベルが鳴る。奈子はちょっと泣きそうな顔に。幕が上がる。セリで一人出てくる恵都。真剣に見入る剛太。胸で手を組み笑顔こぼれる(わくわくしてる感じの)紅葉。そして頬杖ついて一見クールそうでいながらもう涙ぐんでる浩一。
正直この表情にやられました。泣いちゃいますか!浩一は実に魅力的なキャラクターで、ここまでもいい表情がいっぱいありましたが、最後の最後でとどめをくらった感じです。民放の連ドラ枠で放送してたら、一気に人気沸騰していたかも。まあその場合、これだけの作品のクオリティは保ててなかったでしょうけど。
・ステージ中央に一人堂々と立つ恵都。過去の自分を思い出しながら、隣に立つ子供の自分と手を繋ぐ。過去を捨てる、忘れるのでなく、向き合いながら前に進んでいこうとするそんな決意が見えるようです。ライトを浴びて笑顔になり前へと走って大きく手を広げる姿も恵都の前途を象徴しているように思えます。