〈第五回〉
・「生まれてはじめて携帯電話を買った」恵都。リストンの庭で一人携帯をいじりながら「途方にくれるほどあたしにはなにもない。少しでも自分の力で七年間の空白を埋めないと」。
現代必須のコミュニケーションツールである携帯を買ったのもその第一歩ということですね。確かに今どき何の仕事するんでも連絡先として携帯なしってわけにはまず行きませんからね。
・紅葉と剛太がやってくる。人生初メールを送った相手は紅葉。紅葉いわく「よ、読みづらい」。
紅葉が剛太に渡した携帯の画面が映ると、なんと文字が全部ひらがな。浩一じゃないけど「これはひどい」。一応小学校4年までは学校行ってたんだからもう少しくらい漢字使えないものか。
・浩一にもメール送れと言われた恵都は戸惑った様子でまた今度と言ってしまう。いい別れ方とはいえなかったし、「一人でも耐え抜け」が彼のメッセージでしたからね。
「まだどうなるかわからないけど一人で頑張ってみるんだ」という恵都の所信表明は、浩一の名前を聞いて改めてその思いを強くしたからでしょうね。
・一人コンビニで買い物する浩一は恵都のPVが流れてるのを見つめ、その後雑誌棚の雑誌に「話題のPV女優 天才子役からヒッキーに」なる見出しを見つけてはっとする。
まあPVが話題になれば過去のネームバリューも含めて当然考えられる展開でしたね。学校まで批判にさらされるのは予想外でしたが。
・いつものようにリストンに来た恵都はみんなに妙に見られてるのをいぶかる。飛び出してきた紅葉はあわてた様子で事情説明しないまま恵都を連れていこうとするが、そこに女の子二人が二階から降りてきて雑誌をつきつける。
紅葉は雑誌を押しやり恵都には関係ないでしょと女の子たちを睨みつけますが、「関係なくない、そのせいでこの学校のことまで書かれてる」。しかもその内容たるやリストンが恵都を広告塔にしてお金儲けするいんちき学校だと。恵都が愕然と目を見開くのも無理ありません。
・カメラマンがリストン看板の写真を取りまくり、ちょうどやってきた剛太にもインタビューしようとする。剛太は何も言わず(言えず)スクールに入っていく。
リストンの中でも紅葉が恵都を奥へ連れて行くのを女の子たちがついてきてなおも攻め立てる騒ぎが起きている。紅葉が怒って向き直ったところへさらにカメラマンたちがどんどんと入ってくる。
恵都に気づいた彼らが写真を取ろうとするのを、紅葉が恵都を奥へ連れていき剛太はカメラマンを体で止める。不登校になった直接の原因はクラスメートのいじめでも、外の人間全般に対する恐怖心があると思われる剛太が恵都を守るためにその外の人間を相手に体を張っている。剛太の勇気が胸に沁みるシーンです。
・騒ぎの中スクール長がやってくる。すがるようにスクール長に寄っていく剛太。そこへカメラマンたちも群がってくる。出ていってくれとスクール長が言うのに「取材に来ただけじゃないですか」「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由。おまけに芸能人も」といけしゃあしゃあとしている取材陣。特に「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由」という言葉にはフリースクールという存在自体への揶揄、反感が篭っています。
・「そういう考え方が子供らを追い詰めていくんだろう。誰でもすんなり生きられるわけじゃない。道を見失うこともある。ここはそういう子供たちのための場所だ。あんたらが興味本位で来ていい場所じゃない」と強く言い切るスクール長。スクール長が一番格好よかったシーンかもしれない。
スクール長自身も自分の息子がいじめで不登校になり、最終的にいじめっ子たちに殺されたことでフリースクールを立ち上げようと考えた。自分の身近な人間が傷つかないかぎり、なかなか「逃げ場所」を肯定はできないものなのでしょうね。
・生徒の母親がスクール長に、夫からこんな騒ぎになる学校ならやめさせろと言われたと話に来る(子供自身は本意じゃなさそうでしたが)。こういう親は一人ではなかった模様。
改めて記事を読み腹立てた紅葉は出版社に乗り込もうと息巻く。ただでさえ経営が苦しいのにこのままじゃどんどん生徒がやめちゃう、という紅葉の言葉はすでに現実になりつつあります。
「そんなことしたって無駄だよ」と呆れたように言う浩一。おや浩一がエル・リストンにいる、さすがにこの騒ぎが気になって久々に顔を出したのか、と思ったら背景からして実は浩一の家に紅葉たちの方が出張ってきたらしい。ということはこの騒ぎでさえリストンに来なかったんですねえ。
・「なんでそんな冷静なの!エル・リストンがつぶれてもいいの!」と怒る紅葉。「だいたい薄情だよ。こんな騒ぎになってるのにスクール来ないしさ」。浩一は無言で恵都に目をやるだけで何も反論しない。しかしそれだけで何事か察した恵都は浩一の作業を邪魔しようとする紅葉を止める。
「もしかしてスクールのため ?急にソフトを商品化するってがーってやってたのってスクールの経営が危ないって知ってたからじゃないの」。恵都だけが早く浩一の真意に到達できたのは、これも浩一に対する根本的信頼感の強さがなせるわざなんでしょう。
・浩一はリストンのオーナーが亡くなったために経営が苦しくなった事情を語る。さすがはパソコンオタク、紅葉以上の情報通です。「そこに今回の事件でダメ押し」。
この一言がスクールの現状に責任感じてる恵都への「ダメ押し」になったらしい。「あたしもなんかする。スクールのためにお金儲けする」と恵都は決意表明し、紅葉は恵都のせいじゃないというが浩一は「いいんじゃない。あんな記事は放っときゃいいけど経営危機はマジだし」と恵都の「お金儲け」をむしろ推奨。
浩一は恵都を常に楽じゃないほうへ背中を押しますね。逆に紅葉(剛太も)の言動はたいてい恵都を甘やかす方向に向かってますが、それはそれで悪いことじゃない。恵都の辛さを我が事のように怒りかばってくれる紅葉がいるからこそ、心慰められた恵都は浩一のキツい助言を受け入れられるのでしょうし、恵都自身にも楽なほうに流されない強さが備わってきてますしね。紅葉と剛太がいて浩一がいることでちょうどいいバランスが取れてるんでは。厳父と慈母みたいな感じで。
・紅葉はちょっと考えてからみんなでお金稼ごうと言い切る。「紅葉は洋服やアクセサリーを作ってフリーマーケットで売ることになった」「剛太はヒップホップの大会に出て優勝賞金を狙う」「あたしは・・・あたしには何ができる?」
リストンの看板を見つめる恵都は久々にやってきた浩一に出会う。いわく「資料置きっぱだったの取りにきた」。二人で門の前で話してるところに男三人組が。例によって恵都目当てらしく本当にいたと騒ぐが、続けて「ていうかあれ浩一じゃね?」「何あいつヒッキーになったの」。実は昔浩一を痛めつけたというサッカー部の連中だった。久々にリストンに来た日に限ってこんなのに遭遇するとは浩一もついてない。
・無視して門をくぐる浩一にからんでくる男たち。「おれたちのことバカだクズだ言いたい放題だったよな」「人生終わってんな」「終わらしちゃえば」。
これだけ言われながら毒舌の浩一が何も言わない。以前反省してたように、自分が言われて一番嫌だったひどい言葉を彼らにぶつけてきたことに引け目があるからか、ここで怒りに流されちゃいけないと思ってるのか。
おそらくはそれ以上にもっと単純な理由、一年も入院するほどの傷を負わせた相手に対する恐怖感で体がすくんでいるというのが正解なのでは。強いことを言っても、強がってみせてる分だけナイーブな男だと思いますし。
・いっさい反撃しない浩一と反対に恵都は一人走っていき、ホースを持つと勢いよく男たちに水をぶっかける。「人のこと言えるくらいあんたたちはすごいの!?浩一をバカにしたらあたしが許さない」。
前にも書きましたが、仲間を守ろうとする時の恵都の行動の思い切りの良さには胸がすく思いがします。たまらず門から逃げていく男たちに「バカー!二度とくんなー!」と叫ぶあたりも。
そんな恵都を窓から見てるスクール長。そして目を見張る浩一。基本クールな浩一がこれくらいはっきり顔色変えるのは初めてかも。それが次第に泣き出しそうな表情になっていく。微妙な表情変化が見事です。
・久しぶりにパソコン部屋にいた浩一のところにスクール長が。経営危機を心配する浩一にスクール長は浩一が気持ちを素直に出せるようになったことを指摘。「変わったな。とくに恵都がきてから」。この台詞にはさっきの恵都の奮闘とそれに対する浩一の反応を見ていたゆえの感慨も含まれてるんでしょう。
ここで振り向いた浩一がちょっと目を見開き驚いたような表情に。それも単純な驚きでなく動揺や照れも含まれた複雑な表情。無口とはいえない(長台詞も案外多い)けれど肝心な感情はもっぱら表情にのみ表れる浩一を演じるうえで勝地くんの表現力はまさに最適ですね。
・ハンバーガー屋のアルバイト募集のちらしを見て「逃げちゃだめ」と三回自分に言い聞かせて中に入ろうとした恵都は、出てきた店員にバイトさせてくださいと搾り出すように言う。芸能界でなく一般バイト方向に行きましたか。
その後報告メールを受ける浩一。「けいとです」とタイトル。全部ひらがなでバイト決まったことが書いてあるのを見て「これはひどい」と呆れながらも嬉しげに笑う浩一。決してバカにした感じではありませんが、でもその後ちょっと考えるような表情になっています。
バイトが決まったこと、それも他人にもまれて働くことを選んだ(浩一も紅葉も剛太も皆以前からの特技を生かした一人でできる作業を選んでる)恵都の勇気には素直に感心している、しかしこの漢字力のなさはどんな仕事をするにもマイナスになると危惧してるんでしょうね。
・恵都は自室で浩一の返信を受ける。「頑張れ」と一言だけ。でも読めない。
浩一は読めないと承知のうえであえて漢字で送ったんでしょうね(紅葉や剛太ならきっと恵都に合わせて全ひらがなで送るところだろう)。読むために辞書を引くことを覚える、それ以上に漢字が読めない不便さを知るべきだという親心でしょう。
・食事準備してる母は恵都がリビングで辞書を探しているのを見つける。最初から母親に聞かず自力で調べようとしたのは恥ずかしかったからにもせよ立派。
「読めない字があって」という恵都に「どんな字 ?」と尋ねた母は携帯を見せられ「お友達から?」「頑張れって」と教えてくれる。
この時母親はずっと笑顔ですが、「頑張れ」さえ読めない娘がさすがに心配にならなかったものか。頑張れと言ってくれるような友達が出来たことを単純に喜んでるだけでしょうか。
・リビングに入ってきた知佳は「あんたお母さんに言うことないの」「お母さんも、ちょっと普通になってきたからって遠慮しちゃってさ」「お母さんの気持ち考えろっていってんの。週刊誌にあんな記事が載れば心配するの当然でしょ」。きっと自分も迷惑したのにそれを持ち出さないのは知佳の成長か。
恵都はずっと家族と話す習慣を失っていたから素で親へのフォローまで気が回らなかったんでしょうが、両親があの状況で恵都に何も尋ねないのは確かに不自然ですね。そこを知佳が指摘したのは以前のように恵都への敵意で彼女を弾劾するためだけではなく、恵都と母の関係を正常化したいと(恵都のためでなく母のためだけだとしても)思っての行動のように見えます。
・「恵都ちょっとこっちにきて」と座らせた母は、スクール長から電話もらって事情を聞いて安心した経緯を話す。「ごめん心配かけて」「でも全部うそだから」「お金は大変みたいで。それであたしも友達も力になりたいと思ってる」「だから明日からバイトはじめるんだ」。
思い切り事後報告な恵都。未成年がバイトする場合は契約書に親のサインが必要だった気がするんですが、そこはどうしたんだろう。勝手にサインして出すなんて恵都は性格的にできないだろうし?
・翌日?外を歩く浩一は一人恵都の働く店の前へ。ろくな食事も食べずプログラム作りに邁進してる浩一も、さすがに恵都のバイト初日がどうなるかは気になった模様。
カウンターの恵都は「お願いします」とやや震え声でオーダーを奥に取り次ぐ。カップに氷入れたりしてる恵都を浩一は窓越しに覗く。出てきた料理に自分が作ったオレンジジュースを添えて「お待たせしました」と渡す恵都に客が札を出す。おっかなびっくりだけどまあ問題なくやってる感じです。
しかし店の従業員も客も誰一人恵都が誰なのか気付いてないんでしょうか。特に店の人はフルネームも(履歴書見たはずの店長なら学歴も)わかってるはずなのに。
・レジ゛を操作しておつりを返す恵都に後ろについた先輩が「声が小さい」とキツめの声で叱る。声が小さいのは単に接客にびびってるからかとこの時は思いましたが、映画のオーディションで声が出てないと言われる場面を見たあとだと、伏線だったのかと思えてきます。
・少し大きく声を出した恵都は動揺して釣銭を落とす。浩一があちゃーという顔になるがしょーがないなって感じで笑う。
そんな時マーサが登場。窓ごしに恵都の顔を確認すると(ここで浩一が訝しげにしてる)中へ入って床の釣銭さがす恵都に小銭拾って渡す。恵都はその顔を見て「マーサ」と驚く。
「学校行ったらここだって聞いて」とマーサは言うが誰が教えたんだ。浩一が面白くなさそうな顔で引き返していきますがやっぱり妬けるんでしょうか。前に一度見かけたヘアメイクの男だと気づいてるのかな。
・マーサは店の外で「映画のオーディション、知り合いに頼まれちゃったんだよね」と恵都にチラシを手渡す。恵都はバイト抜けてきたのか?PVはまぐれだと断る恵都に、受けるだけでもどう、こんなこと行っちゃあれだけどギャラだってケタがちがうし、と説得にかかるマーサ。ひょっとして恵都のバイト理由まで察しているのか。
「ギャラ ?」とつぶやいた恵都は、帰り道歩道橋?の上から踊る剛太を見つめて微笑み、そして決意の顔をあげる。剛太も賞金のため頑張ってる、あたしも稼がなきゃ、ということでしょうね。
・オーディション会場。大勢集まった中に恵都の姿も。配られた台本を開くが全然読めない。台本が読めないというのは恵都的には盲点だったんでしょうね。子役のときはお母さんが台本にふりがな振ってくれてたんだろうし。
そういやバイト先のメニュー表はちゃんと読めてるんだろうか。ハンバーガーショップはほとんどカタカナのメニューだから問題ないのか。
・思わず「どうしよう」とつぶやく恵都に周りの子がなんだろうと聞いてくる。「あたし漢字読めなくて」「だって中学で習う字ばっかだよ」「小学校しか行ってないから」「バカな子って多いのかねえ」。
まあこういう場だと小学校しか行ってないと言っても、芸能界の仕事が忙しくてなかなか授業に出られないという意味に取ってもらえそうです。
・「・・・あれ ?もしかして青山恵都 ?」 周りの視線がなんとなく恵都に。右隣の子も「マジで ?あたし子どものころファンだったよ」。
この会場に来てる子たちは多くはどこかの事務所に属してる、すでに多少のキャリアはある子たちばかりかと思いますが(主役のオーディションなんだし)、それでも過去の人と言っていい恵都にこれだけ注目集まるんだから、かつての恵都はよくよく名が売れてたんですね。
・右隣の子の台詞に奈子にも最初ずっと大大大ファンだったと言われたことを思い出す恵都。思わず立ち上がった恵都にその子が「待ってて。すぐ振り仮名ふってあげる」と微笑む。「この世界みんなライバルだっていうけどさ、いい作品を作りたいって思う気持ちはみんな同じなんだから」。
優しい言葉に「ありがとう」と安堵の笑みになる恵都。なんか悪い予感の漂う展開です。
・恵都の版が回ってくる。「よろしくお願いします」と一礼して台詞をシリアスに読み始めるが、審査員がみな顔しかめて台本に目を落としたりしてる。ついに途中でストップをかけられ「君ふざけてんの?」。
「え?」と台本見直して固まる恵都。向こうの椅子で順番待ちしてる例の女の子たちが笑ってる。ああやっぱりこうなったか。「たまにいるんだよねこうやって目立とうとする子」「だいたい発声がだめだって。子役辞めて何年経ってるの」など口々に否定の言葉をあびせられる。
PVとは違うんだから勉強し直した方がいいよ、とも言われてますが、確かにあのPVは台詞がなかったので漢字読めなくても発声ダメでも関係なかった。あの仕事以外だったらあの時点の恵都に代役務まったかどうか。
・「監督すみません変なのまぎれこんじゃって」と審査員の一人が笑いながら詫びてますが、監督は案外真面目な顔で履歴書?を見直してる。あとでリストンを訪ねてきたときの感じじゃ、客寄せパンダに恵都を使おうというのは上の判断で監督はいやいやみたいでしたが、ここで恵都に注目してるぽいシーンがあるのは何なのだろう。
本当は恵都の7年間の経歴(のなさ)、にもかかわらずある程度のクオリティを保っていたことに見るべきものを感じて、客寄せパンダだからってことで回りを説得して友達役に抜擢した、とかなんでしょうか。
・リストン屋上に一人立つ恵都は「ばかやろー!ふざけんなー!」と大声でさけぶ。恵都を嫌ってた子たちは今日は休みなのか何も言ってこない。騒ぎが収まるまでは登校を控えてるかもしくはすでに辞めちゃったとかなのかも。
「うるせえよ」と庭を歩いてきた浩一が言う。またリストンに顔出すようになったんでしょうか。恵都がどうしてるか気になったから?
・「ほんとうにうるさい?」 「うるさい」と答える浩一が訝しげなのは恵都が「うるさい」と言ってもらいたがってるようだったからですね。
恵都は「発声がもうだめだっていわれたー」とまた叫ぶ。ということは浩一にオーディションのこと知らせてたんですね。「ぜんぜんダメだって。勉強しなおせって」。「それで?どう思った?」と浩一が問い掛ける声が何だかとても優しい。恵都が叫びつづけてるだけにコントラストが鮮やかです。
・「かーって胸のところが熱くなって初めての気持ちでわけわかんなくて」。ここで「悔しかった。このままじゃ終わりたくない」とモノローグ。
ダメだと言われて落ち込み諦めるのでなく、悔しい終わりたくないと感じる。怒りや悔しさは人が行動し成長するうえでのまたとない原動力。この二つをしっかり持っている恵都はきっと挽回するに違いないと確信させてくれる。
こうした恵都のバイタリティを見るにつけ、子役時代奈子の裏切りに打ちのめされ7年も引きこもってしまったのが信じられない気がしてきます。それだけ当時はお母さんに頭押さえられて萎縮しきって生命力が弱まってた、フリースクールに通ってることで世間的には敗残者と見られてる今の方がいい友人もできて心が強くなってるってことでしょう。スクール長がエル・リストンに託した願いを一番体現してるのが恵都なんじゃないでしょうか。
・駅での別れ際に浩一が何か袋を渡してくる。「一応。小3から中1まで買っといた」。出してみると漢字ドリル。「間違えた漢字は20回は書く」「うん」「わからなくてもすぐ後ろの答えを見ない」「うん」「腹筋も毎日30回」「ありがとう浩一」。浩一は無表情に見えるがちょっと照れてるような。言い方も事務的に聞こえますが恵都への気遣いが詰まっています。
・「それより紅葉にメールしとけよ、心配してたぞ」「うん。あ、マーサにも謝っておかなきゃ」。ここでわずかに浩一の表情がこわばり、「じゃ」と去ろうとする。「え、もう?」「忙しいから」。
恵都にこのへんの機微はまだわからないでしょうね。浩一も剛太には全然妬かないんですけどね。
・「本当にありがとう」と後ろから声かける恵都に浩一は振り向かず足も止めず。恵都もちょっとさびしそうです。踵を返しエスカレーターに向かおうとすると、ちゃらちゃらした男が「こんなとこでなにしてんの」と声かけてくる。駅にいる人間に何してるもないもんだ。
無視して向こうに行こうとする恵都の肩を男がつかんでくる。その手は割とすぐに離れるのですが、後ろ向いたままの恵都が理由に気付くのはもう少しあと。
・今度は肘を掴まれてはっと振り向いた恵都はそこに浩一がいるのを見る。男は「男連れか」と面白くなさそうに去っていく。結局浩一も恵都を無視するような態度取ったの気にして振り向いてみた(だから男に絡まれてるのに気がついた)わけですね。
しばらく無言で視線をさまよわせていた浩一は「わからなかったら、してもいいから」と唐突に言う。意味わからずきょとんとする恵都に、意を決するようにちょっと眉根寄せて「電話でも。メールでも」。なんかこう、素直じゃないところが可愛いんですよね浩一は。「・・・たぶん、すぐするよ」「すごく、いっぱいするよ」。逆に恵都は実にストレート。でもお互い別の形で不器用。なんとも微笑ましい。
ちなみに浩一は恵都のたどたどしい台詞のあいだ、無言真顔だが情熱を秘めたような目で恵都を見る→ちょっと目が微笑む→目をそらし口元も笑う、と表情が変化していき「してもいいけど、句読点、つけろよ」。ああほんと微笑ましいです。
浩一の言葉にしばらく目をさまよわせる恵都。何か言いたげにしばらく唇を動かす浩一。そして「がんばったな、オーディション」の言葉に恵都の目がうるむ。浩一も優しい真顔。恵都の右頬を涙が伝う。二人の表情をかわるがわるじっくりと捉え微妙な感情の機微を描く。
そして最後は夕日の中立ち尽くす二人のシルエットを斜め上(エスカレーター上)から見下ろすアングルの美しい画面で締める。このドラマの白眉というべき名シーン。
・学園ドラマ?の撮影現場。一人端の椅子で台本を読んでる奈子のところに足早にマーサがやってきて横にかがみこみ、「オーディション落ちましたよ青山恵都」と報告。「そおお」と気がなさそうに答えた奈子はちょっと笑って「この台本結構いける。久々にやる気わいてきた」。
「久々」なのか。奈子がやる気を失ったから演技が叩かれてるのか演技を叩かれるからやる気を失ったのか。ともあれ一時的にせよあれだけライバル視してた恵都のこともさほど気にならなくなってるようなので、悪循環を断ち切り女優として評価を取り戻すチャンスだったんですけどね。
・少し離れたところで奈子のマネージャーが携帯で「待ってください。奈子もせっかくやる気になってるしスケジュールだって空けてるんですよ」と不穏な会話を。電話切られたマネージャーは意を決したように奈子のもとへ歩いていく。
「この役気に入った。クランクインいつから?」と尋ねる奈子に「・・・ごめんね奈子。その役なくなった」。変に言いよどまずきっぱり言い切るのは、どう優しく言っても役がなくなった事実は変わらない、しっかり受け止めさせないと、という彼女なりの気遣いでしょう。
あんな騒ぎを起こしたのに事務所内で仕事干されてるでもない奈子は、多分小さな事務所一番の稼ぎ頭なんでしょうね。その奈子がこれだけ低迷してたら事務所全体も危ういんじゃないのかなあ。
・マーサも含めしばし沈黙の後、「急にスケジュールが変わっちゃって。困るわよね。ちゃんと言っといたから」と目をあわせず手帳をめくりながら言うマネージャー。
「違うんでしょ」「はっきり言ってよあたしじゃダメだって言われたんじゃないの」。奈子に詰められて「・・・その通りよ。もっと旬な子が欲しいって」とやむなく教えるマネージャー。
泣きそうな顔になってスタジオを出てく奈子。ずかずか歩いて前にいた子を突き飛ばしながら謝りも振り向きもしない。ショックなのはわかりますが、こういうところで評判落としてますます自分を追いつめてるんじゃないのかなあ。この役降ろしの一件がなければ、恵都を閉じ込めようとまではしなかったでしょうに。
・リストンに笑顔で入ってきた剛太はベンチで本読んでる恵都の肩を後ろから叩く。「な、な、何の本」「オーディション。こうなったら受けまくってやろうかなって」。おお気合いが入っている。ドリルと腹筋も頑張ってるんでしょうね。
・そこへ紅葉が走って部屋に入ってくる。「ごめーん !集合かけておいて遅刻した」「フリマ用の服が出来たから見てもらおうと思って」。
このときなぜか剛太は笑いながら出ていこうとする。「剛太逃げるの」と牽制した紅葉は「紅葉ブランドメンズ部門オープンしましたー!」と黒いレースの服を見せる。顔ゆがめて後ずさりする剛太。そんなに嫌なのか。それほど悪いデザインじゃないと思いますが、まあヒップホップ的感性とは対極な服って気はしますからね。
・剛太を追いかけて強引に服を脱がす紅葉。裸になった上半身に恥ずかしがる剛太と意識したのか立ちつくす紅葉。初めてこの二人の間にわかりやすいフラグが立った瞬間です。
・そんなところへスクール長が来て「恵都。お客さん」。訝しげに恵都が食堂?に出て行くと男が二人掛けている。一人が立ってきて「いやーこの間はお疲れさま」。座ってるもう一人は恵都の履歴書を見返していた審査員。ここでこの人が例の映画の監督だったとわかります。腕組みして難しい顔してる姿から頑固そうな人柄を台詞のないうちから予感させます。
・「実はあれから相談して、やっぱり青山恵都ほどの子を落とすのはもったいないと」「どうかな。主役じゃないけどその親友役をやる気はある?」 あたりさわりない表現を選ぶ男と反対に監督は「言っとくが欲しいのは君の演技力じゃない」「元天才子役で今は引きこもりの青山恵都。話題作りのための依頼だ」。
あまりにストレートな発言にもう一人の男が頭抱えたそうな顔をする。さらに続ける監督をさすがに男がさえぎり監督も「まあいい」と黙ったものの「とにかく君は単なる客寄せパンダだ。それでもやる気はあるか」とダメ押しのひどい言葉を。しかしこれは監督なりのフェアプレー精神ゆえだと思います。恵都に彼女の置かれた立場、回りの見る目をはっきり知らせたうえで、それでもやるか、という。
恵都はしばし黙ったもののしっかり目をあわせて「はい」と答える。監督はこの時点で状況を弁えつつも自力で立ち直ろうとしている恵都の決意のほどを見定め、彼女を気に入ったんじゃないか。だから後で結果的に撮影初日をすっぽかす形になったときもチャンスをくれたのでしょう。
・部屋の入り口で心配して見てる紅葉と剛太。監督たちが帰るのとちょうど入れ違いに浩一が外から入ってくる。剛太が浩一の腕つかんで恵都の方を指差す。興奮ぎみの剛太に対し紅葉は「恵都。大丈夫なの?」とまず心配そう。しかし「やってみる」と恵都は静かな笑顔で告げる。覚悟完了済みってことですね。
「それから私たちは、びっくりするぐらい頑張った。それはもちろんスクールのためだったけど、自分たちのためでもあるとわかりはじめてて」。リストン=自分の大切な場所をあって当然のものと思うのでなく守るために戦おうとする。はからずもリストンの経営危機が急激に彼らを大人にしています。
・ついに撮影初日。恵都が台本持って家を出ようとするとリビングのドアが開いて心配そうな両親が出てくる。あせりがちな声で頑張れよという父、頑張れなんていったらだめだという母。恵都は振り向いて「知ってたんだ」。
ていうか知らせてなかったのか。バイト始めたことを話の流れとはいえ報告した時点で、これからはちゃんと自分のやってることやろうとしてることを親に話すようにするかと思ってたんですが。芸能界に復帰するなんていったらバイトの比じゃないくらい心配させると思ってあえて秘密にしたんでしょうか。
・笑顔になって「ありがとう」という恵都を両親は「頑張れよ」「行ってらっしゃい」と見送る。駅でも皆が見送ってくれる。浩一はなぜかスーツ姿。電車の乗り換えなどが心配だという紅葉たち。「浩一がついてってくれるっていうから安心してたのに」「・・・悪かったな」「仕方ないよ、浩一だってすごいチャンスなんだから」。
何でもこれからずっと作ってたゲームソフト買ってもらえるかどうかのプレゼンに行くそう。思えば元子役の肩書きがあり学歴はあまり関係ない(今回の仕事など引きこもりだったことが逆に売りになった)恵都、フリマに出品する紅葉やヒップホップコンテストに出る剛太と違って、一番高校中退(休学?)の学歴が問題にされそうなのは一流企業(建物からの類推)に営業しようとしてる浩一ですね。
彼もなみなみならず緊張してるはずですが、それを出さずに恵都を応援してくれる。浩一も本当の意味で強くなっていきつつあります。しかし電車の乗り換えが心配なら紅葉や剛太が代わりについていくってことにならないのか。
・「頑張ってね。先に頑張ってくるね」おどけて敬礼する恵都。それぞれの返答。浩一は無言で少しうなずく。
会場へ向かう恵都のそばにマーサの車が止まる。送ってくよといって恵都を車に乗せてくれる。何度か面識のある相手、それもメイクしてくれたりリストンまで送ってくれたりオーディション紹介してくれたりプラスの事をしてくれた相手だけに恵都も気を許してしまってますが、車の扉を閉めるときのマーサの顔は冷たい感じ。あの表情を見てたらさすがに警戒する気になったでしょうか。
・会社への階段を上がる浩一は車の耳障りなブレーキ音に足を止めて振り返る。虫の知らせというべきか。視聴者も悪い予感をあおられます。
・恵都は「結構遠いんだね」「ここで撮影?」「ねえ場所がここってだれに聞いたの。確認してみたほうがいいんじゃ」と不安気な言葉をたびたび口にする。マーサの様子や場所の雰囲気に不審なものを感じてるんでしょうね。どのみち車に乗っちゃった時点でまずアウトですが。
・マーサの後について部屋に入った恵都は後ろから奈子が現れたのに驚く。「つくづくしぶといよねあんたって。つぶしてもつぶしても出てくる」。
恵都の自信を失わせるためにわざと出来レース(本当は誰が選ばれるかもう決まっていた)のオーディションをマーサに勧めさせたのに予想外に他の役で抜擢された事情を暴露する。あの時点では恵都に芸能界復帰の意志はなかったんだから、正直余計なことしなければ恵都は普通にハンバーガー屋のバイト続けてたはずなのに。失踪騒ぎの時といい、結果的に奈子が恵都にチャンスを与えてしまってるんですよね。
本人もその自覚があるから、まして自分が気に入ってた役を失った直後に恵都の映画出演が決まったものだから、それでキレちゃったんでしょうね。
・「さすが、腐っても青山恵都」。恵都の側に歩み寄る奈子。横顔同士のアングルが子役時代の「友達一人もいないなんて気持ち悪い人」のシーンをちょうど二人の位置を反転させて撮った構図にしてある。
明らかに意識的に構図を踏襲しながら二人の位置が逆になっているのは、二人の立場が当時と逆転している、あの時はポジション的に追う立場だった奈子が恵都を追いつめていたが今度は追う立場の恵都が結果的に奈子を追いつめてることを示唆しているのでは。
・「行かさないよ。撮影なんて」。出ていこうとする恵都に先回りしてマーサが扉を閉める。「今度はあんたが苦しむ番」「あんたの居場所なんて、あたしがぶっ壊してやる」「あの雑誌に記事を載せたのはあたし。目障りなんだよ!あんたもあいつらも」。
次々と酷い言葉を並べる奈子をひっぱたく恵都。「あたしに何したっていい。けど仲間を傷つけることは絶対に許さない」。殴り返した奈子は「あんたなんていなくなればいい」と泣きそうな顔。
おそらく彼女視点では敗残者のはずのフリースクールの人間が自分よりよほど生き生きしてる、かつて友達がいないことがコンプレックスで叩けば簡単にへこんでしまった恵都が仲間のためにこうも強くなったことが奈子にはたまらなく辛かったんでしょう。
・「生まれてはじめて携帯電話を買った」恵都。リストンの庭で一人携帯をいじりながら「途方にくれるほどあたしにはなにもない。少しでも自分の力で七年間の空白を埋めないと」。
現代必須のコミュニケーションツールである携帯を買ったのもその第一歩ということですね。確かに今どき何の仕事するんでも連絡先として携帯なしってわけにはまず行きませんからね。
・紅葉と剛太がやってくる。人生初メールを送った相手は紅葉。紅葉いわく「よ、読みづらい」。
紅葉が剛太に渡した携帯の画面が映ると、なんと文字が全部ひらがな。浩一じゃないけど「これはひどい」。一応小学校4年までは学校行ってたんだからもう少しくらい漢字使えないものか。
・浩一にもメール送れと言われた恵都は戸惑った様子でまた今度と言ってしまう。いい別れ方とはいえなかったし、「一人でも耐え抜け」が彼のメッセージでしたからね。
「まだどうなるかわからないけど一人で頑張ってみるんだ」という恵都の所信表明は、浩一の名前を聞いて改めてその思いを強くしたからでしょうね。
・一人コンビニで買い物する浩一は恵都のPVが流れてるのを見つめ、その後雑誌棚の雑誌に「話題のPV女優 天才子役からヒッキーに」なる見出しを見つけてはっとする。
まあPVが話題になれば過去のネームバリューも含めて当然考えられる展開でしたね。学校まで批判にさらされるのは予想外でしたが。
・いつものようにリストンに来た恵都はみんなに妙に見られてるのをいぶかる。飛び出してきた紅葉はあわてた様子で事情説明しないまま恵都を連れていこうとするが、そこに女の子二人が二階から降りてきて雑誌をつきつける。
紅葉は雑誌を押しやり恵都には関係ないでしょと女の子たちを睨みつけますが、「関係なくない、そのせいでこの学校のことまで書かれてる」。しかもその内容たるやリストンが恵都を広告塔にしてお金儲けするいんちき学校だと。恵都が愕然と目を見開くのも無理ありません。
・カメラマンがリストン看板の写真を取りまくり、ちょうどやってきた剛太にもインタビューしようとする。剛太は何も言わず(言えず)スクールに入っていく。
リストンの中でも紅葉が恵都を奥へ連れて行くのを女の子たちがついてきてなおも攻め立てる騒ぎが起きている。紅葉が怒って向き直ったところへさらにカメラマンたちがどんどんと入ってくる。
恵都に気づいた彼らが写真を取ろうとするのを、紅葉が恵都を奥へ連れていき剛太はカメラマンを体で止める。不登校になった直接の原因はクラスメートのいじめでも、外の人間全般に対する恐怖心があると思われる剛太が恵都を守るためにその外の人間を相手に体を張っている。剛太の勇気が胸に沁みるシーンです。
・騒ぎの中スクール長がやってくる。すがるようにスクール長に寄っていく剛太。そこへカメラマンたちも群がってくる。出ていってくれとスクール長が言うのに「取材に来ただけじゃないですか」「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由。おまけに芸能人も」といけしゃあしゃあとしている取材陣。特に「楽しそうな学校ですよね。来るのも帰るのも自由」という言葉にはフリースクールという存在自体への揶揄、反感が篭っています。
・「そういう考え方が子供らを追い詰めていくんだろう。誰でもすんなり生きられるわけじゃない。道を見失うこともある。ここはそういう子供たちのための場所だ。あんたらが興味本位で来ていい場所じゃない」と強く言い切るスクール長。スクール長が一番格好よかったシーンかもしれない。
スクール長自身も自分の息子がいじめで不登校になり、最終的にいじめっ子たちに殺されたことでフリースクールを立ち上げようと考えた。自分の身近な人間が傷つかないかぎり、なかなか「逃げ場所」を肯定はできないものなのでしょうね。
・生徒の母親がスクール長に、夫からこんな騒ぎになる学校ならやめさせろと言われたと話に来る(子供自身は本意じゃなさそうでしたが)。こういう親は一人ではなかった模様。
改めて記事を読み腹立てた紅葉は出版社に乗り込もうと息巻く。ただでさえ経営が苦しいのにこのままじゃどんどん生徒がやめちゃう、という紅葉の言葉はすでに現実になりつつあります。
「そんなことしたって無駄だよ」と呆れたように言う浩一。おや浩一がエル・リストンにいる、さすがにこの騒ぎが気になって久々に顔を出したのか、と思ったら背景からして実は浩一の家に紅葉たちの方が出張ってきたらしい。ということはこの騒ぎでさえリストンに来なかったんですねえ。
・「なんでそんな冷静なの!エル・リストンがつぶれてもいいの!」と怒る紅葉。「だいたい薄情だよ。こんな騒ぎになってるのにスクール来ないしさ」。浩一は無言で恵都に目をやるだけで何も反論しない。しかしそれだけで何事か察した恵都は浩一の作業を邪魔しようとする紅葉を止める。
「もしかしてスクールのため ?急にソフトを商品化するってがーってやってたのってスクールの経営が危ないって知ってたからじゃないの」。恵都だけが早く浩一の真意に到達できたのは、これも浩一に対する根本的信頼感の強さがなせるわざなんでしょう。
・浩一はリストンのオーナーが亡くなったために経営が苦しくなった事情を語る。さすがはパソコンオタク、紅葉以上の情報通です。「そこに今回の事件でダメ押し」。
この一言がスクールの現状に責任感じてる恵都への「ダメ押し」になったらしい。「あたしもなんかする。スクールのためにお金儲けする」と恵都は決意表明し、紅葉は恵都のせいじゃないというが浩一は「いいんじゃない。あんな記事は放っときゃいいけど経営危機はマジだし」と恵都の「お金儲け」をむしろ推奨。
浩一は恵都を常に楽じゃないほうへ背中を押しますね。逆に紅葉(剛太も)の言動はたいてい恵都を甘やかす方向に向かってますが、それはそれで悪いことじゃない。恵都の辛さを我が事のように怒りかばってくれる紅葉がいるからこそ、心慰められた恵都は浩一のキツい助言を受け入れられるのでしょうし、恵都自身にも楽なほうに流されない強さが備わってきてますしね。紅葉と剛太がいて浩一がいることでちょうどいいバランスが取れてるんでは。厳父と慈母みたいな感じで。
・紅葉はちょっと考えてからみんなでお金稼ごうと言い切る。「紅葉は洋服やアクセサリーを作ってフリーマーケットで売ることになった」「剛太はヒップホップの大会に出て優勝賞金を狙う」「あたしは・・・あたしには何ができる?」
リストンの看板を見つめる恵都は久々にやってきた浩一に出会う。いわく「資料置きっぱだったの取りにきた」。二人で門の前で話してるところに男三人組が。例によって恵都目当てらしく本当にいたと騒ぐが、続けて「ていうかあれ浩一じゃね?」「何あいつヒッキーになったの」。実は昔浩一を痛めつけたというサッカー部の連中だった。久々にリストンに来た日に限ってこんなのに遭遇するとは浩一もついてない。
・無視して門をくぐる浩一にからんでくる男たち。「おれたちのことバカだクズだ言いたい放題だったよな」「人生終わってんな」「終わらしちゃえば」。
これだけ言われながら毒舌の浩一が何も言わない。以前反省してたように、自分が言われて一番嫌だったひどい言葉を彼らにぶつけてきたことに引け目があるからか、ここで怒りに流されちゃいけないと思ってるのか。
おそらくはそれ以上にもっと単純な理由、一年も入院するほどの傷を負わせた相手に対する恐怖感で体がすくんでいるというのが正解なのでは。強いことを言っても、強がってみせてる分だけナイーブな男だと思いますし。
・いっさい反撃しない浩一と反対に恵都は一人走っていき、ホースを持つと勢いよく男たちに水をぶっかける。「人のこと言えるくらいあんたたちはすごいの!?浩一をバカにしたらあたしが許さない」。
前にも書きましたが、仲間を守ろうとする時の恵都の行動の思い切りの良さには胸がすく思いがします。たまらず門から逃げていく男たちに「バカー!二度とくんなー!」と叫ぶあたりも。
そんな恵都を窓から見てるスクール長。そして目を見張る浩一。基本クールな浩一がこれくらいはっきり顔色変えるのは初めてかも。それが次第に泣き出しそうな表情になっていく。微妙な表情変化が見事です。
・久しぶりにパソコン部屋にいた浩一のところにスクール長が。経営危機を心配する浩一にスクール長は浩一が気持ちを素直に出せるようになったことを指摘。「変わったな。とくに恵都がきてから」。この台詞にはさっきの恵都の奮闘とそれに対する浩一の反応を見ていたゆえの感慨も含まれてるんでしょう。
ここで振り向いた浩一がちょっと目を見開き驚いたような表情に。それも単純な驚きでなく動揺や照れも含まれた複雑な表情。無口とはいえない(長台詞も案外多い)けれど肝心な感情はもっぱら表情にのみ表れる浩一を演じるうえで勝地くんの表現力はまさに最適ですね。
・ハンバーガー屋のアルバイト募集のちらしを見て「逃げちゃだめ」と三回自分に言い聞かせて中に入ろうとした恵都は、出てきた店員にバイトさせてくださいと搾り出すように言う。芸能界でなく一般バイト方向に行きましたか。
その後報告メールを受ける浩一。「けいとです」とタイトル。全部ひらがなでバイト決まったことが書いてあるのを見て「これはひどい」と呆れながらも嬉しげに笑う浩一。決してバカにした感じではありませんが、でもその後ちょっと考えるような表情になっています。
バイトが決まったこと、それも他人にもまれて働くことを選んだ(浩一も紅葉も剛太も皆以前からの特技を生かした一人でできる作業を選んでる)恵都の勇気には素直に感心している、しかしこの漢字力のなさはどんな仕事をするにもマイナスになると危惧してるんでしょうね。
・恵都は自室で浩一の返信を受ける。「頑張れ」と一言だけ。でも読めない。
浩一は読めないと承知のうえであえて漢字で送ったんでしょうね(紅葉や剛太ならきっと恵都に合わせて全ひらがなで送るところだろう)。読むために辞書を引くことを覚える、それ以上に漢字が読めない不便さを知るべきだという親心でしょう。
・食事準備してる母は恵都がリビングで辞書を探しているのを見つける。最初から母親に聞かず自力で調べようとしたのは恥ずかしかったからにもせよ立派。
「読めない字があって」という恵都に「どんな字 ?」と尋ねた母は携帯を見せられ「お友達から?」「頑張れって」と教えてくれる。
この時母親はずっと笑顔ですが、「頑張れ」さえ読めない娘がさすがに心配にならなかったものか。頑張れと言ってくれるような友達が出来たことを単純に喜んでるだけでしょうか。
・リビングに入ってきた知佳は「あんたお母さんに言うことないの」「お母さんも、ちょっと普通になってきたからって遠慮しちゃってさ」「お母さんの気持ち考えろっていってんの。週刊誌にあんな記事が載れば心配するの当然でしょ」。きっと自分も迷惑したのにそれを持ち出さないのは知佳の成長か。
恵都はずっと家族と話す習慣を失っていたから素で親へのフォローまで気が回らなかったんでしょうが、両親があの状況で恵都に何も尋ねないのは確かに不自然ですね。そこを知佳が指摘したのは以前のように恵都への敵意で彼女を弾劾するためだけではなく、恵都と母の関係を正常化したいと(恵都のためでなく母のためだけだとしても)思っての行動のように見えます。
・「恵都ちょっとこっちにきて」と座らせた母は、スクール長から電話もらって事情を聞いて安心した経緯を話す。「ごめん心配かけて」「でも全部うそだから」「お金は大変みたいで。それであたしも友達も力になりたいと思ってる」「だから明日からバイトはじめるんだ」。
思い切り事後報告な恵都。未成年がバイトする場合は契約書に親のサインが必要だった気がするんですが、そこはどうしたんだろう。勝手にサインして出すなんて恵都は性格的にできないだろうし?
・翌日?外を歩く浩一は一人恵都の働く店の前へ。ろくな食事も食べずプログラム作りに邁進してる浩一も、さすがに恵都のバイト初日がどうなるかは気になった模様。
カウンターの恵都は「お願いします」とやや震え声でオーダーを奥に取り次ぐ。カップに氷入れたりしてる恵都を浩一は窓越しに覗く。出てきた料理に自分が作ったオレンジジュースを添えて「お待たせしました」と渡す恵都に客が札を出す。おっかなびっくりだけどまあ問題なくやってる感じです。
しかし店の従業員も客も誰一人恵都が誰なのか気付いてないんでしょうか。特に店の人はフルネームも(履歴書見たはずの店長なら学歴も)わかってるはずなのに。
・レジ゛を操作しておつりを返す恵都に後ろについた先輩が「声が小さい」とキツめの声で叱る。声が小さいのは単に接客にびびってるからかとこの時は思いましたが、映画のオーディションで声が出てないと言われる場面を見たあとだと、伏線だったのかと思えてきます。
・少し大きく声を出した恵都は動揺して釣銭を落とす。浩一があちゃーという顔になるがしょーがないなって感じで笑う。
そんな時マーサが登場。窓ごしに恵都の顔を確認すると(ここで浩一が訝しげにしてる)中へ入って床の釣銭さがす恵都に小銭拾って渡す。恵都はその顔を見て「マーサ」と驚く。
「学校行ったらここだって聞いて」とマーサは言うが誰が教えたんだ。浩一が面白くなさそうな顔で引き返していきますがやっぱり妬けるんでしょうか。前に一度見かけたヘアメイクの男だと気づいてるのかな。
・マーサは店の外で「映画のオーディション、知り合いに頼まれちゃったんだよね」と恵都にチラシを手渡す。恵都はバイト抜けてきたのか?PVはまぐれだと断る恵都に、受けるだけでもどう、こんなこと行っちゃあれだけどギャラだってケタがちがうし、と説得にかかるマーサ。ひょっとして恵都のバイト理由まで察しているのか。
「ギャラ ?」とつぶやいた恵都は、帰り道歩道橋?の上から踊る剛太を見つめて微笑み、そして決意の顔をあげる。剛太も賞金のため頑張ってる、あたしも稼がなきゃ、ということでしょうね。
・オーディション会場。大勢集まった中に恵都の姿も。配られた台本を開くが全然読めない。台本が読めないというのは恵都的には盲点だったんでしょうね。子役のときはお母さんが台本にふりがな振ってくれてたんだろうし。
そういやバイト先のメニュー表はちゃんと読めてるんだろうか。ハンバーガーショップはほとんどカタカナのメニューだから問題ないのか。
・思わず「どうしよう」とつぶやく恵都に周りの子がなんだろうと聞いてくる。「あたし漢字読めなくて」「だって中学で習う字ばっかだよ」「小学校しか行ってないから」「バカな子って多いのかねえ」。
まあこういう場だと小学校しか行ってないと言っても、芸能界の仕事が忙しくてなかなか授業に出られないという意味に取ってもらえそうです。
・「・・・あれ ?もしかして青山恵都 ?」 周りの視線がなんとなく恵都に。右隣の子も「マジで ?あたし子どものころファンだったよ」。
この会場に来てる子たちは多くはどこかの事務所に属してる、すでに多少のキャリアはある子たちばかりかと思いますが(主役のオーディションなんだし)、それでも過去の人と言っていい恵都にこれだけ注目集まるんだから、かつての恵都はよくよく名が売れてたんですね。
・右隣の子の台詞に奈子にも最初ずっと大大大ファンだったと言われたことを思い出す恵都。思わず立ち上がった恵都にその子が「待ってて。すぐ振り仮名ふってあげる」と微笑む。「この世界みんなライバルだっていうけどさ、いい作品を作りたいって思う気持ちはみんな同じなんだから」。
優しい言葉に「ありがとう」と安堵の笑みになる恵都。なんか悪い予感の漂う展開です。
・恵都の版が回ってくる。「よろしくお願いします」と一礼して台詞をシリアスに読み始めるが、審査員がみな顔しかめて台本に目を落としたりしてる。ついに途中でストップをかけられ「君ふざけてんの?」。
「え?」と台本見直して固まる恵都。向こうの椅子で順番待ちしてる例の女の子たちが笑ってる。ああやっぱりこうなったか。「たまにいるんだよねこうやって目立とうとする子」「だいたい発声がだめだって。子役辞めて何年経ってるの」など口々に否定の言葉をあびせられる。
PVとは違うんだから勉強し直した方がいいよ、とも言われてますが、確かにあのPVは台詞がなかったので漢字読めなくても発声ダメでも関係なかった。あの仕事以外だったらあの時点の恵都に代役務まったかどうか。
・「監督すみません変なのまぎれこんじゃって」と審査員の一人が笑いながら詫びてますが、監督は案外真面目な顔で履歴書?を見直してる。あとでリストンを訪ねてきたときの感じじゃ、客寄せパンダに恵都を使おうというのは上の判断で監督はいやいやみたいでしたが、ここで恵都に注目してるぽいシーンがあるのは何なのだろう。
本当は恵都の7年間の経歴(のなさ)、にもかかわらずある程度のクオリティを保っていたことに見るべきものを感じて、客寄せパンダだからってことで回りを説得して友達役に抜擢した、とかなんでしょうか。
・リストン屋上に一人立つ恵都は「ばかやろー!ふざけんなー!」と大声でさけぶ。恵都を嫌ってた子たちは今日は休みなのか何も言ってこない。騒ぎが収まるまでは登校を控えてるかもしくはすでに辞めちゃったとかなのかも。
「うるせえよ」と庭を歩いてきた浩一が言う。またリストンに顔出すようになったんでしょうか。恵都がどうしてるか気になったから?
・「ほんとうにうるさい?」 「うるさい」と答える浩一が訝しげなのは恵都が「うるさい」と言ってもらいたがってるようだったからですね。
恵都は「発声がもうだめだっていわれたー」とまた叫ぶ。ということは浩一にオーディションのこと知らせてたんですね。「ぜんぜんダメだって。勉強しなおせって」。「それで?どう思った?」と浩一が問い掛ける声が何だかとても優しい。恵都が叫びつづけてるだけにコントラストが鮮やかです。
・「かーって胸のところが熱くなって初めての気持ちでわけわかんなくて」。ここで「悔しかった。このままじゃ終わりたくない」とモノローグ。
ダメだと言われて落ち込み諦めるのでなく、悔しい終わりたくないと感じる。怒りや悔しさは人が行動し成長するうえでのまたとない原動力。この二つをしっかり持っている恵都はきっと挽回するに違いないと確信させてくれる。
こうした恵都のバイタリティを見るにつけ、子役時代奈子の裏切りに打ちのめされ7年も引きこもってしまったのが信じられない気がしてきます。それだけ当時はお母さんに頭押さえられて萎縮しきって生命力が弱まってた、フリースクールに通ってることで世間的には敗残者と見られてる今の方がいい友人もできて心が強くなってるってことでしょう。スクール長がエル・リストンに託した願いを一番体現してるのが恵都なんじゃないでしょうか。
・駅での別れ際に浩一が何か袋を渡してくる。「一応。小3から中1まで買っといた」。出してみると漢字ドリル。「間違えた漢字は20回は書く」「うん」「わからなくてもすぐ後ろの答えを見ない」「うん」「腹筋も毎日30回」「ありがとう浩一」。浩一は無表情に見えるがちょっと照れてるような。言い方も事務的に聞こえますが恵都への気遣いが詰まっています。
・「それより紅葉にメールしとけよ、心配してたぞ」「うん。あ、マーサにも謝っておかなきゃ」。ここでわずかに浩一の表情がこわばり、「じゃ」と去ろうとする。「え、もう?」「忙しいから」。
恵都にこのへんの機微はまだわからないでしょうね。浩一も剛太には全然妬かないんですけどね。
・「本当にありがとう」と後ろから声かける恵都に浩一は振り向かず足も止めず。恵都もちょっとさびしそうです。踵を返しエスカレーターに向かおうとすると、ちゃらちゃらした男が「こんなとこでなにしてんの」と声かけてくる。駅にいる人間に何してるもないもんだ。
無視して向こうに行こうとする恵都の肩を男がつかんでくる。その手は割とすぐに離れるのですが、後ろ向いたままの恵都が理由に気付くのはもう少しあと。
・今度は肘を掴まれてはっと振り向いた恵都はそこに浩一がいるのを見る。男は「男連れか」と面白くなさそうに去っていく。結局浩一も恵都を無視するような態度取ったの気にして振り向いてみた(だから男に絡まれてるのに気がついた)わけですね。
しばらく無言で視線をさまよわせていた浩一は「わからなかったら、してもいいから」と唐突に言う。意味わからずきょとんとする恵都に、意を決するようにちょっと眉根寄せて「電話でも。メールでも」。なんかこう、素直じゃないところが可愛いんですよね浩一は。「・・・たぶん、すぐするよ」「すごく、いっぱいするよ」。逆に恵都は実にストレート。でもお互い別の形で不器用。なんとも微笑ましい。
ちなみに浩一は恵都のたどたどしい台詞のあいだ、無言真顔だが情熱を秘めたような目で恵都を見る→ちょっと目が微笑む→目をそらし口元も笑う、と表情が変化していき「してもいいけど、句読点、つけろよ」。ああほんと微笑ましいです。
浩一の言葉にしばらく目をさまよわせる恵都。何か言いたげにしばらく唇を動かす浩一。そして「がんばったな、オーディション」の言葉に恵都の目がうるむ。浩一も優しい真顔。恵都の右頬を涙が伝う。二人の表情をかわるがわるじっくりと捉え微妙な感情の機微を描く。
そして最後は夕日の中立ち尽くす二人のシルエットを斜め上(エスカレーター上)から見下ろすアングルの美しい画面で締める。このドラマの白眉というべき名シーン。
・学園ドラマ?の撮影現場。一人端の椅子で台本を読んでる奈子のところに足早にマーサがやってきて横にかがみこみ、「オーディション落ちましたよ青山恵都」と報告。「そおお」と気がなさそうに答えた奈子はちょっと笑って「この台本結構いける。久々にやる気わいてきた」。
「久々」なのか。奈子がやる気を失ったから演技が叩かれてるのか演技を叩かれるからやる気を失ったのか。ともあれ一時的にせよあれだけライバル視してた恵都のこともさほど気にならなくなってるようなので、悪循環を断ち切り女優として評価を取り戻すチャンスだったんですけどね。
・少し離れたところで奈子のマネージャーが携帯で「待ってください。奈子もせっかくやる気になってるしスケジュールだって空けてるんですよ」と不穏な会話を。電話切られたマネージャーは意を決したように奈子のもとへ歩いていく。
「この役気に入った。クランクインいつから?」と尋ねる奈子に「・・・ごめんね奈子。その役なくなった」。変に言いよどまずきっぱり言い切るのは、どう優しく言っても役がなくなった事実は変わらない、しっかり受け止めさせないと、という彼女なりの気遣いでしょう。
あんな騒ぎを起こしたのに事務所内で仕事干されてるでもない奈子は、多分小さな事務所一番の稼ぎ頭なんでしょうね。その奈子がこれだけ低迷してたら事務所全体も危ういんじゃないのかなあ。
・マーサも含めしばし沈黙の後、「急にスケジュールが変わっちゃって。困るわよね。ちゃんと言っといたから」と目をあわせず手帳をめくりながら言うマネージャー。
「違うんでしょ」「はっきり言ってよあたしじゃダメだって言われたんじゃないの」。奈子に詰められて「・・・その通りよ。もっと旬な子が欲しいって」とやむなく教えるマネージャー。
泣きそうな顔になってスタジオを出てく奈子。ずかずか歩いて前にいた子を突き飛ばしながら謝りも振り向きもしない。ショックなのはわかりますが、こういうところで評判落としてますます自分を追いつめてるんじゃないのかなあ。この役降ろしの一件がなければ、恵都を閉じ込めようとまではしなかったでしょうに。
・リストンに笑顔で入ってきた剛太はベンチで本読んでる恵都の肩を後ろから叩く。「な、な、何の本」「オーディション。こうなったら受けまくってやろうかなって」。おお気合いが入っている。ドリルと腹筋も頑張ってるんでしょうね。
・そこへ紅葉が走って部屋に入ってくる。「ごめーん !集合かけておいて遅刻した」「フリマ用の服が出来たから見てもらおうと思って」。
このときなぜか剛太は笑いながら出ていこうとする。「剛太逃げるの」と牽制した紅葉は「紅葉ブランドメンズ部門オープンしましたー!」と黒いレースの服を見せる。顔ゆがめて後ずさりする剛太。そんなに嫌なのか。それほど悪いデザインじゃないと思いますが、まあヒップホップ的感性とは対極な服って気はしますからね。
・剛太を追いかけて強引に服を脱がす紅葉。裸になった上半身に恥ずかしがる剛太と意識したのか立ちつくす紅葉。初めてこの二人の間にわかりやすいフラグが立った瞬間です。
・そんなところへスクール長が来て「恵都。お客さん」。訝しげに恵都が食堂?に出て行くと男が二人掛けている。一人が立ってきて「いやーこの間はお疲れさま」。座ってるもう一人は恵都の履歴書を見返していた審査員。ここでこの人が例の映画の監督だったとわかります。腕組みして難しい顔してる姿から頑固そうな人柄を台詞のないうちから予感させます。
・「実はあれから相談して、やっぱり青山恵都ほどの子を落とすのはもったいないと」「どうかな。主役じゃないけどその親友役をやる気はある?」 あたりさわりない表現を選ぶ男と反対に監督は「言っとくが欲しいのは君の演技力じゃない」「元天才子役で今は引きこもりの青山恵都。話題作りのための依頼だ」。
あまりにストレートな発言にもう一人の男が頭抱えたそうな顔をする。さらに続ける監督をさすがに男がさえぎり監督も「まあいい」と黙ったものの「とにかく君は単なる客寄せパンダだ。それでもやる気はあるか」とダメ押しのひどい言葉を。しかしこれは監督なりのフェアプレー精神ゆえだと思います。恵都に彼女の置かれた立場、回りの見る目をはっきり知らせたうえで、それでもやるか、という。
恵都はしばし黙ったもののしっかり目をあわせて「はい」と答える。監督はこの時点で状況を弁えつつも自力で立ち直ろうとしている恵都の決意のほどを見定め、彼女を気に入ったんじゃないか。だから後で結果的に撮影初日をすっぽかす形になったときもチャンスをくれたのでしょう。
・部屋の入り口で心配して見てる紅葉と剛太。監督たちが帰るのとちょうど入れ違いに浩一が外から入ってくる。剛太が浩一の腕つかんで恵都の方を指差す。興奮ぎみの剛太に対し紅葉は「恵都。大丈夫なの?」とまず心配そう。しかし「やってみる」と恵都は静かな笑顔で告げる。覚悟完了済みってことですね。
「それから私たちは、びっくりするぐらい頑張った。それはもちろんスクールのためだったけど、自分たちのためでもあるとわかりはじめてて」。リストン=自分の大切な場所をあって当然のものと思うのでなく守るために戦おうとする。はからずもリストンの経営危機が急激に彼らを大人にしています。
・ついに撮影初日。恵都が台本持って家を出ようとするとリビングのドアが開いて心配そうな両親が出てくる。あせりがちな声で頑張れよという父、頑張れなんていったらだめだという母。恵都は振り向いて「知ってたんだ」。
ていうか知らせてなかったのか。バイト始めたことを話の流れとはいえ報告した時点で、これからはちゃんと自分のやってることやろうとしてることを親に話すようにするかと思ってたんですが。芸能界に復帰するなんていったらバイトの比じゃないくらい心配させると思ってあえて秘密にしたんでしょうか。
・笑顔になって「ありがとう」という恵都を両親は「頑張れよ」「行ってらっしゃい」と見送る。駅でも皆が見送ってくれる。浩一はなぜかスーツ姿。電車の乗り換えなどが心配だという紅葉たち。「浩一がついてってくれるっていうから安心してたのに」「・・・悪かったな」「仕方ないよ、浩一だってすごいチャンスなんだから」。
何でもこれからずっと作ってたゲームソフト買ってもらえるかどうかのプレゼンに行くそう。思えば元子役の肩書きがあり学歴はあまり関係ない(今回の仕事など引きこもりだったことが逆に売りになった)恵都、フリマに出品する紅葉やヒップホップコンテストに出る剛太と違って、一番高校中退(休学?)の学歴が問題にされそうなのは一流企業(建物からの類推)に営業しようとしてる浩一ですね。
彼もなみなみならず緊張してるはずですが、それを出さずに恵都を応援してくれる。浩一も本当の意味で強くなっていきつつあります。しかし電車の乗り換えが心配なら紅葉や剛太が代わりについていくってことにならないのか。
・「頑張ってね。先に頑張ってくるね」おどけて敬礼する恵都。それぞれの返答。浩一は無言で少しうなずく。
会場へ向かう恵都のそばにマーサの車が止まる。送ってくよといって恵都を車に乗せてくれる。何度か面識のある相手、それもメイクしてくれたりリストンまで送ってくれたりオーディション紹介してくれたりプラスの事をしてくれた相手だけに恵都も気を許してしまってますが、車の扉を閉めるときのマーサの顔は冷たい感じ。あの表情を見てたらさすがに警戒する気になったでしょうか。
・会社への階段を上がる浩一は車の耳障りなブレーキ音に足を止めて振り返る。虫の知らせというべきか。視聴者も悪い予感をあおられます。
・恵都は「結構遠いんだね」「ここで撮影?」「ねえ場所がここってだれに聞いたの。確認してみたほうがいいんじゃ」と不安気な言葉をたびたび口にする。マーサの様子や場所の雰囲気に不審なものを感じてるんでしょうね。どのみち車に乗っちゃった時点でまずアウトですが。
・マーサの後について部屋に入った恵都は後ろから奈子が現れたのに驚く。「つくづくしぶといよねあんたって。つぶしてもつぶしても出てくる」。
恵都の自信を失わせるためにわざと出来レース(本当は誰が選ばれるかもう決まっていた)のオーディションをマーサに勧めさせたのに予想外に他の役で抜擢された事情を暴露する。あの時点では恵都に芸能界復帰の意志はなかったんだから、正直余計なことしなければ恵都は普通にハンバーガー屋のバイト続けてたはずなのに。失踪騒ぎの時といい、結果的に奈子が恵都にチャンスを与えてしまってるんですよね。
本人もその自覚があるから、まして自分が気に入ってた役を失った直後に恵都の映画出演が決まったものだから、それでキレちゃったんでしょうね。
・「さすが、腐っても青山恵都」。恵都の側に歩み寄る奈子。横顔同士のアングルが子役時代の「友達一人もいないなんて気持ち悪い人」のシーンをちょうど二人の位置を反転させて撮った構図にしてある。
明らかに意識的に構図を踏襲しながら二人の位置が逆になっているのは、二人の立場が当時と逆転している、あの時はポジション的に追う立場だった奈子が恵都を追いつめていたが今度は追う立場の恵都が結果的に奈子を追いつめてることを示唆しているのでは。
・「行かさないよ。撮影なんて」。出ていこうとする恵都に先回りしてマーサが扉を閉める。「今度はあんたが苦しむ番」「あんたの居場所なんて、あたしがぶっ壊してやる」「あの雑誌に記事を載せたのはあたし。目障りなんだよ!あんたもあいつらも」。
次々と酷い言葉を並べる奈子をひっぱたく恵都。「あたしに何したっていい。けど仲間を傷つけることは絶対に許さない」。殴り返した奈子は「あんたなんていなくなればいい」と泣きそうな顔。
おそらく彼女視点では敗残者のはずのフリースクールの人間が自分よりよほど生き生きしてる、かつて友達がいないことがコンプレックスで叩けば簡単にへこんでしまった恵都が仲間のためにこうも強くなったことが奈子にはたまらなく辛かったんでしょう。