「そのチョコ俺にくれないかなあ」とか思ってるんでしょうが、美雪の頭を占めている「いい事」は・・・。
・販売二課のハケン・香と瞳が「いつもお世話になってます」「次の契約更新もよろしくお願いします」とチョコを渡す。そうか、義理というよりリベートチョコか。
東海林は「それとチョコとは別だけど」といいつつ一応嬉しそうに受け取ってます。彼女たち会社になんだかんだ文句言いながらも長く居座るつもりのようですね。
・香が里中には「徹夜で作った」チョコを渡し、「今夜お時間ありますか」と告白タイム。
この発言に思わず足を止めた美雪は、里中が「外せない用があって」と断るのを聞いて安堵と照れの微笑みを浮かべる。前髪を耳にかける仕草もどことなく艶っぽい。
ここでも里中一人勝ちです。「恋もほどほどにね」という東海林がいかにも悔しまぎれ。彼を想っている(らしい)人もちゃんといるんですけどねえ。
しかし香に「勝った」ことに安心した美雪も、すぐ後でそれが「自分との」用ではないと知るわけで・・・罪作りだな里中。
・里中が浅野も「外せない用」に誘うのを聞いて「えっ、浅野さんも!?」と驚く美雪。浅野が状況わかってないからいいようなものの、他ならぬ(美雪に心を寄せる)彼をお邪魔虫扱いなのが可哀想です。
しかし里中、当日になってから言うなよ。いくら浅野がバレンタインデー暇にしてそうだからって(笑)。
そして里中はひそひそ話をするために美雪と浅野を両手で少し抱き寄せる。色っぽい状況じゃないとはいえ里中に抱き寄せられた美雪、目がちょっと泳いでます。本当罪作り。
・「人生いろいろだった人に贈る島倉チヨコはどうした」。こんなくだらないことから喧嘩になる二人。「ここが一番大事なんだよ」「そのかぶりものは恥ずかしくないんですか」などの台詞といい、ハートを東海林にかぶせようとするところといい、二人の言動が面白すぎます。
里中は「お客さん見てるから」と止めに入るが、コントに見えるから大丈夫な気もしたり。東海林バージョンの「すうりょうげんていでーす」(裏声で)も聞いてみたかった。
・控室で口喧嘩を始める東海林と春子。要は春子から義理でもチョコが欲しい東海林が、他の女子からもらったチョコをこれ見よがしに食べてみせるという一種可愛らしい行動が発端のいつもの痴話ゲンカなんですが、マイクが入っていたために二人の発言が会場中に流れてしまうという大事態に。
ただ喧嘩してるだけならまだしも義理チョコを否定する内容だったのがまずかった。番組始まって以来初めての、春子痛恨の大ミス。
先にお客さんの前で東海林と争い(じゃれあい)になったこと、「頭を冷やすために」休憩を取らされそれに大人しく従ったことも含め、およそ春子らしくない軽率さ。東海林が春子が来て以来(彼女への意地から)何かと調子を狂わされているように、春子も東海林に大いに調子を狂わされてるんでしょうね。
・あわてて控え室の喧嘩を止めようとする美雪たちを応援ハケンたちが通せんぼする。
彼女たちからすれば気に入らない社員と気に入らない春子の大失敗が痛快な事態なのは確かでしょうが、時給貰っておきながら会社に仇なすようなことするのはどうなのか。事態の責任が明らかに東海林と春子にある以上、面と向かって咎めだてされることはないと踏んでの行動なんでしょうが。
そしてこの時「近さん、マイク切ってください」と一番素早く対応を考えたのが美雪だった。彼女の有能さが光る場面です。
・「悲しいことにキャリアを積んだ真面目なハケンから切られていくんです。」で始まる春子の嘆きをこめた言葉に会場中が静まりかえってゆく。
最初は面白がってた応援ハケンたちがすっかり沈み込んだ顔をしてることから、彼女たちがまさに春子が語る通りの悲劇を経た「キャリアを積んだ真面目なハケン」だったのがわかります。
・「そ~んなに義理チョコが欲しいんですか」「・・・欲しいに決まってんだろ!」との応酬に里中が「東海林さん・・・」と微笑む。要は春子がチョコをくれないことに拗ねてるだけ、「お前みたいなハケンいらねえよ!」と怒鳴りつけながらも言葉の奥には彼女への好意があると気づいたからですね。
しかしさらなる春子の返答は「福利厚生もボーナスもないハケンにたかるなんて間違ってます。大体私たちは、もてない社員の癒し係ではありません」。東海林は「私たち」じゃなくて「私」を問題にしてるんだが。わかったうえでわざと話をそらしてるんですかね。
・マイクが入ってたのに気づいてぽかんと口を開ける春子。彼女のこんな茫然自失の様が登場するのは初めてのこと。しかしマイク切りに行った近くんは何してたんだ?
・慌てて三人がフロアに駆けつけると、そこは義理チョコ購入を取りやめる客、買ったチョコを返品する客のオンパレード。その多くは春子の演説を聞いて「ハケンだからって社員に媚びることないんだ」と目覚めてしまったハケンの人たち。口上を読めばチョコ購入の意欲をあおり、ハケンの立場を切々と語ってはチョコ購入を留まらせる春子の声の影響力はすごい。
「ハケンの人って、こんなにたくさんいたんだね」という里中のシンプルな感慨が、労働力としても顧客としてもハケンに多くを頼っていながらその自覚の薄かった正社員の傲慢さをわかりやすく言い当てています。
しかしいつものようにハケンの利益を代表する発言をした春子が、そのゆえに自身のハケンとしてのモットー(この場合は定時までにチョコを売り切ること)に泥を塗ってしまい、かつハケンの側でなく社員の側の立場で右往左往するはめになったのは何とも皮肉なものです。
・東海林が駅前に客を呼び込みに向かい、里中がこの場の収拾に動く中、春子はまだ呆然と立ち尽くしたまま。あの春子が、という感じの意外な光景ですが、思えばこれまでのトラブルは全部他人の尻拭いで春子自身のミスは一度もなかった。
スーパーハケンであるがゆえにまさかの失敗には存外脆い。今回今までになく春子の欠点が抉り出されています。
・東海林について一緒にシルスマリオに謝りに行くと主張する春子。間もなく6時になろうとしてるにもかかわらず。
彼女のルールは「仕事を終えて定時にあがる」なので、「チョコをすべて売りさばく」というミッションをこなせなかった以上帰ることはできない。彼女の行動は見事なまでに首尾一貫しています。
・余ったチョコの片付けをする美雪と浅野のところへ、上がり時間の応援ハケンたちが挨拶にやってくる。
春子が東海林とやりあうのを聞いて再びやる気が出たという彼女たちは、これまでにない気持ちのよい笑顔で所信表明し、文句をつけてばかりいた美雪にもエールを贈る。営業面では大損害を出したものの、思いがけず結ばれた実もあることに美雪と浅野は笑顔を浮かべる。春子・東海林組の必死さと対照的な、ほの明るいシーン。
しかし前回も書きましたが、里中まで会社に戻ってしまったらこの場を仕切れる人間がいない気がするのだが。社員の浅野がいるからいいや、ということだったのか。
・シルスマリオ店内、春子と東海林は並んで土下座するが、社長は「取り込み中だから」とにべもない。
出産間近の娘が夕べ徹夜で働いたせいで今にも子供が生まれそう、などと言われては(まして当人が目の前で苦しんでるのだから)、普通なら何も言いようのないところですが、ここで今まで平身低頭してた春子が俄かに立ち上がり、この場で無事お産をさせるべく敢然と動き出す。
社長もその気迫に呑まれて「はい」とすっかり言いなりに動いている。すっかりいつものペースを取り戻した春子の姿が、逆転勝利のカタルシスを与えてくれます。
・春子にきつい口調で指示を出された東海林も「はい!」と力強く返事して従っている。こういうピンチの時に春子が何か始めたら、きっと場を最善の形に収めてくれるのを経験上知ってるからですね。
しかしこの時春子は東海林を「あんた」呼ばわりしている。今までは「ハエ」だの「天パ主任」だの言いたい放題のようでも「あんた」呼びはさすがになかった。時間外とはいえ今回は「残業中」なのだから社員として接するべきじゃないのか、という気もするが。
・あまりにてきぱきと状況を動かしていく春子に、社長は「あなた、S&Fのバイトの人じゃ・・・」と戸惑いの様子を見せる。そこへ春子は「助産師の、大前春子です!」と免許証を示す。ほとんど黄門様の印籠のようです。
この説明で春子の技術についてはとりあえず安心するでしょうが、その助産師がなぜ一般企業でチョコを売ってたのか疑問は深まるばかりだったでしょうね。
・穏やかな笑顔で「ふわー」と繰り返し妊婦の呼吸を安定させる春子。つり込まれたように社長も穏やかな笑顔になっている。陣痛に苦しんでいる娘(アユミ)の表情さえ穏やかになってきている。
春子に対する信頼感が親子を安堵させていくのが表情の変化に見て取れます。
・無事生まれた赤ん坊を春子は抱き上げ、アユミの隣に寝かせる。
この時社長がはじめて「ありがとう。大前春子さん」と彼女を名前で呼ぶ。「バイト」という肩書きでなく(助産師という肩書きでもなく)、一個の信頼できる人間として彼女を認めた瞬間です。
・「生まれた・・・」と泣き出しそうな顔で赤ん坊を見つめる東海林。
単にアユミや子供にもしもの事があれば責任問題だからほっとしたというのでなく、純粋に小さな命の誕生に感激しているように思えました。
・春子に里中の伝言を伝えた東海林はその後ずいぶん長いこと無言で春子をじっと見つめている。むしろ見とれているというべきでしょうか。この出産前後の春子の表情は母性的な美しさに満ちてましたから。
・店を出た春子は時計を見ながら「私としたことが・・・」と呟くものの、その顔は微笑んでいる。新しい命が生まれる手伝いをした(資格持ってるくらいで慣れてるでしょうけど)ことへの誇りと高揚感があるのでしょうね。
・オフィスに春子が戻るなりぱっと電気がついてクラッカーが鳴る。完全なサプライズ・パーティー。上の階まで飾り付けがしてあるのに驚きます。フロアのメンバーが帰ってからみんなで頑張ったんですね。
そして里中のかぶりものに笑う。「ついかぶっちゃいました」というあたり大した天然ぷりですが、「お誕生日おめでとうございます」と会釈しながらちょっと噴き出してるのは、自分でも照れくさかったんでしょうねえ。
結構ドライな近くんまでちゃんと参加してるのが感動的です。
・皆が乾杯の声をあげるのに「やめてください!」と怒鳴る春子。しかしその直後に「火事にでもなったら、危ないでしょ」と美雪の持つケーキのろうそくを思い切り吹き消す。実はそれほど嫌がってないようにも見えてしまう。さっきまで大人しくグラス持ってシャンパン注がれるに任せてたし。
ところでろうそくの数が6本なのは春子の年の下1ケタですかね。免許証を見た里中は彼女の年知ってるはずなので。だとしたらハケンの定年35歳を越えてしまってる(でもそれが何ら仕事の障りになっていない)わけですね。
・美雪は春子の誕生日ケーキを「義理チョコのお金で買ったんです。」
彼女は結局里中にチョコ渡せなかった可能性が大ですね。浅野にいたっては確実に美雪のチョコをもらいそびれたに違いない・・・。
・春子が里中に「あなたは人の気持ちをちゃんとわかったうえで接待なさってるんですか。そんなことだから営業部から外されるんです」と暴言を吐くのを、「正しいけど・・・そこまで言うか春子ちゃん」とたしなめる小笠原。
バースデイカードの「あんたは本当はいい子なんだよね・・・」の「本当は」と言い、小笠原さん毎回悪気なく毒のあること言ってるような。
・マーケティング課+東海林によるバースデイカードの寄せ書。浅野くんの文字は間違いなく勝地くんの直筆だ(笑)。
近くんだけ手書きでなく印刷なとこ(パソコンが得意だからという以上に彼の皆から少し距離を置いたドライな性格を思わせる)も東海林のヘタクソなイラストや「ウェービータフガイ」の名乗りもそれぞれのキャラクターが表れている。
しかし東海林はいつ寄せ書きしたんだろう。喧嘩の実況中継以降はそんな余裕なかったはずだし、イベント会場でですかね。
・バースデイカードに水滴の沁みができ、バスが来ても春子は乗ろうとしない。
一人鼻をすすりあげながら泣いている春子の姿に、彼女が本当はS&Fのメンバーに情を移していること、それを認めまいと必死で突っ張っていることが感じられて、とても痛々しいです。
(つづく)