あの春子と東海林が、という衝撃の事実もどうでもよさそうですしね。
・「あの人はハエ以下です。辞職でも失踪でも勝手にすればいいんです。」と東海林が自分の個人情報を捨てたことを怒る春子。
これは裏に書いた春子が悪いと思うけどなあ。気づかなかった東海林を責めるのは酷というもの。
しかし「私には関わりございません」から東海林に電話しないのではなく、自分の携帯番号を捨てた―せいいっぱいの春子の気持ちを無視した―ことに怒ってるから電話しないというのは・・・つまり彼を好きだから拗ねてる、ということでしょうか。
・春子が床掃除するかたわらでドミノ遊び?をする眉子とリュート。
春子が置いたモップでドミノが倒れたとき、一人春子に擬せられたコマだけが残っているのが、一人孤高に立つ春子自身を思わせる。ここの場面、演出も小道具も洒落ていて上手い。
しかし浅野に対する「慌てんポーイ」って表現はなんなのよ(笑)。
・里中と東海林のマンションを訪ねた黒岩が、「帰ってくるまでここで待ち伏せする?」と言う。
せっかくの休日をつぶして、それも2月の寒空に、いつ帰るとも知れない東海林を外で待とうとするとは。黒岩の東海林への思いの深さをさりげなく示している台詞です。
・ハケン弁当が形になるまで、美雪のためにも春子に会社に残ってほしいと言う一ツ木のお願いを、春子は「森美雪はおまけですか。だったらそのおまけを一人前にするのがあなたの仕事じゃないんですか」とにべもなく拒絶する。
その鋭い口調は3か月しか一箇所に留まらない彼女のルールに抵触する頼みを持ち込んだことより、美雪をおまけ扱いにする発言に対する怒りによるように思えます。
・一箇所に3ヶ月しか留まらないのは「こんな風に通勤時間まで馴れ馴れしくされたくないからです」と春子は里中を突き放す。
最近では退社後に里中たちが店に来ても邪険にするでもなく応対していたのに、ここでまた彼女の態度が硬化したのは、一ツ木を介して契約更新を頼まれたことで、自分のルールを守るためにはこれ以上彼らと近しくなってはいけない、と自らを戒めたからでしょうか。
・里中が留守電を聞くと東海林からのメッセージが。わざわざ自分が春子にプロポーズしてフラれたことを告白するのは、やはり春子を好きな里中が自分に遠慮することなく春子にアプローチできるようにとの心遣いですね。
(結婚アンケート用紙を拾われて一切がとっくにバレているなどとは想像もしていない)
会社を辞め、恋に破れ、新たな仕事も見つからず、という状況で里中を思いやれる東海林は、やはり根は相当なお人よし。
「やばい時はとっくり使え。あいつは結婚と車の修理以外はなんでもできるからな。」
絵も苦手ですよ――というのは置いといて、切ないエピソードと笑えるエピソードを同時に思い出させる表現が、なおのこと切なさを倍増させる効果をもたらしているのが秀逸。
・「こないだのバレンタインの時みたいに、これを」とお弁当型のかぶりものを取り出す里中。バレンタインのハート型かぶりものよりキワモノ度が増してます。
「調子に乗らないでください」と春子に一蹴されますが、確かにこりゃいやだ。
自分からハートのかぶりものを「つい」かぶったりしてた里中は、結構かぶりもの好きなんでは。
・里中が渡したPRの原稿を一瞥してつき返す春子。相変わらず書類を検分するときの目付きが怖すぎる(笑)。
「もちろん、書き直していただいて結構ですから」と気弱な笑顔で付け加える里中。かぶりものを拒否された時の「失礼しました。すみません」と言い・・・腰低すぎです主任。
さらに、東海林と春子がやりあわないとなんか寂しいという浅野発言を受けて、「とっくり!」とポーズ付きで呼びかけてみるものの、春子にきっと睨まれて、「すみません・・・」と前二回以上に気弱く謝ってしまう。
やはり春子と同じ目線でやりあえるのは東海林だけなのがここで示されている。春子も内心口喧嘩の相手がいなくなったのを寂しく思ってるに違いない。
・里中が仮店舗の様子を検分するそばで、「サバの味噌煮」の表示札?を取り上げて「サバ味噌だ」と嬉しそうに呟く春子。そこまで好きか。
・那須田が飼い犬を「くるくる」と呼ぶと、里中・浅野・近の三人全員が東海林がいるのかと勘違いする。まだ入社してもいない那須田が東海林の仇名を知ってるはずないんですけどね。
・ちょうど春子一人になった部屋に東海林からのFAXが届く。内容は一切見せずに似顔絵と署名で、差出人が東海林であることだけを視聴者に知らせる演出。
内容不明のFAXを真剣な顔で読む春子が何を思っているのか。FAXの中身についてはこの直後に春子の行動によって明かされます。
・明らかに嫌がってたはずの弁当のかぶりものを自ら装着し、自分が用意したものとは全然ちがう文面を読み上げる春子を、里中は訝しげに、記憶をさぐるような眼差しで見つめる。妙に聞き覚えのある文章が東海林の手になるものだとおよそ察している顔ですね。
春子の方も「ドンマイ弁当」→「チェンマイ弁当」で(駄洒落のくだらなさに)次第に顔が引きつっていくのが笑えます。FAX最初に見た時点で文面はわかってただろうに。
・「ドンマイ弁当とチェンマイ弁当、くだらないのでカットしていいですか」という春子に、里中は「いえ、東海林さんの気持ちがこもってますから、そのまま読んでください」と返す。春子もそれに反論せず、再び原稿を読み始める。
あの里中が春子に逆らった!あの春子が大人しく里中に従った!ある意味画期的な場面ですが、春子自身も東海林の気持ちを大事にしたい思いもあったのでしょう。
・・・でもドンマイ弁当とチェンマイ弁当にこめた気持ちって何だ。
・既出の春子の旧友(石田ひかりさん)が春子の姿を見つけて足を止める。うわあ、知り合いに思いっきり見られたくないシチュエーションだ・・・。
・昔の春子はとても明るくてカラオケが大好きでみんなの輪の中心にいて、という話に里中はさすがに驚き気味だが、「みんな春子のことを頼りにしていました」という言葉に「今もそうですよ」と微笑む。
別人のように変わったかに見えても春子の本質はきっと昔と変わっていない。里中の言葉に春子の友達も「そうですか」と嬉しそうに微笑む。
十年以上音信不通ではあっても、彼女の中に春子への変わらぬ好意が息づいているのは、それだけ春子に魅力があった証拠ですね。
・以前犬の訓練所で教育を請け負った縁で、春子はたちどころにくるくるを発見する。
春子がくるくるを誉め、体を撫でてやるところに里中がやってくるが、彼は遠巻きに春子を見つめるだけで声をかけない。
今聞いたばかりの話に出てきたような、日頃見たことのない春子の明るく優しい笑顔を声をかけることで壊したくなかったのでしょうね。
・里中は桐島に試食会の大成功を報告し、「あとは単価の650円をどうやって500円に近づけるかです。」と言い添える。桐島の答えは「あんまり理想を追わんように。現実的な折り合いをつけろ」。
もともと桐島は里中の企画案は理想論と退けたわけで、今も価格は650円でも十分安いと思ってるんでしょう。里中も素直に「はい」と返事してるものの、「マイ弁当箱」のアイデアと組み合わせることで結局500円の理想を実現させた。
この日の試食会では650円でも好評だったとはいえ、一日だけなら650円出す気になっても、毎日のこととなるとお弁当に650円出し続けてくれるかは疑問。「ハケン弁当」の大成功は価格500円にこだわったからこそ。
理想を現実に近づける(妥協する)のでなく現実を理想に近づける(現状で可能なかぎりの工夫をこらす)ことで、里中は「勝ち組」になった。
結果を出した以上桐島も文句があるはずもなく――春子が言った通り、現実的じゃないと言われたなら、それを現実にして証明すればいいのですよね。
・ハケンの香と瞳が部長の指示で東海林の持ち物を処分しようとするのを止める里中。
里中が東海林の辞表を止めておくよう頼んだにもかかわらず、部長はとっくに東海林のことは捨ててかかっている(プレゼンと縁談の双方で顔を潰された憤りもあるんでしょう)。
「頼むから取っておいてください」というかすれ気味の声に、里中の必死さがうかがえます。
この里中とハケン女子二人のやりとりを春子が聞いていた――緊急に連れ戻さないと東海林はすぐにもクビを切られると知った――ことが、くるくるを使っての東海林捜しに繋がっていきます。
・「那須田は何やってんだよ~」と言いながらくるくるを撫でる浅野くん。後輩の不始末に責任を感じて犬の世話係を自然と買って出てるってとこでしょうか。
仕事はどうした、と言いたいが、他のメンバーも働いてる感じしないし、春子さえお茶を飲んでるので休憩時間内なんでしょうね(ハケン弁当売り切れ後くるくるを捜した時間は休憩にカウントしなかったものか)。
東海林を捜して戻ってきたあと春子は昼食に出かけてますが、東海林捜しで休憩時間を潰し、その分遅れて二回目の休憩を取ったにしては、美雪も一緒にお昼に出て行くし・・・時間経過がもひとつ謎。
・「このバカ犬お借りします。」と春子はくるくるを連れ出す。
春子の言うことはきっちり聞いて、見事東海林を捜し出したくるくるは決してバカ犬ではないと思うのだが。S&Fの社内でも大人しくしてたし。
那須田がくるくるに振り回されるのは彼が飼い主として舐められてるからなんでは。まあ一ツ木さんもまかれてましたけどね。
・くるくるを使って東海林を発見した春子は「こういう汚らしい荷物を置きっぱなしにされたら回りが迷惑です!」とビニールに入れた東海林の靴を投げてよこす。
エレベーターで助けられたときの「ばっちい」と言い、「ハエ」呼ばわりと言い、春子はやたら東海林を汚いもの扱いにしてるような。東海林も素直に「すみません」と謝っちゃうし。
・「そのヘッドがハンティングされるわけないでしょう。」「あなたの天パが一生治らないように、あなたはあの会社でしか、生きていけません」「(俺は)この俺の天パを愛してるんだ」
相変わらずの天パをネタにした言い合いの中、天パと会社を強引に結びつけた話運びで東海林に帰還を促す春子の力技が栄える名シーン。
「なんなんですかこの原稿は。未練たらたらの上くだらなすぎます。」も天パネタ同様、本筋に関係ないところで相手をけなしたり反発したりしてるのが可笑しさを生んでいます。
・「おまえドンマイ弁当とチェンマイ弁当、カットしたろ」
見事に春子の行動を見切っている。そもそもカットされると予期してたなら、なぜわざわざその文章を入れた?春子個人への受けを狙ったのか?春子にツッコまれるための行動としか思えんな。
・「ここで待ってなさい!」と言い捨てて去ってゆく春子を見送りながら、「犬じゃねえんだぞ」と呟く東海林はそれでもどこか嬉しそう。
一方くるくるを連れて歩き去る春子も口元にわずかに微笑みをのぼせている。無事に東海林に会えたことへの安堵、嬉しさが意地っ張りの殻の外に少しのぞいています。
・マーケティング課に入ってくるなり、くるくるがいなくなったことで美雪に文句を言う那須田。しかも一つ年上、まだ入社してないけど一応先輩格の美雪を「美雪ちゃん」呼ばわり。
くるくるを預けてどんなのっぴきならない用事に行ってたかと思えば「買い物っすよ~」とあっさり言い切る。それも荷物からすれば夕飯の材料などではなく自分の洋服のよう。
端から端まで非常識な那須田くんを、いらつくバカキャラ全開に演じていた斉藤祥太くん、名演技です。
・かえすがえすも非常識な那須田をついに浅野が怒鳴る。普段優柔不断で日和見的な印象のある浅野だけに、その意外性が迫力を生んでいる。
勝地くんの怒鳴る場面は『さとうきび畑の唄』(2003年)、『この胸いっぱいの愛を』(2005年)、『里見八犬伝』(2006年)、『カリギュラ』(2007年)などなど印象に残るものが多い。
しかも一つとしてトーンが同じじゃないし。キャラクターの性格が声の出し方にも反映されているからですね。
・「すみませんでした!」と浅野は那須田に頭を下げさせ自分も一緒に詫びる。
大学の先輩だからと言って、浅野の引きで那須田が入社したわけではないし新人教育係になったわけでもないので、別に浅野が那須田の無礼を一緒に謝る必要はないんですが、このへんが彼の人の良さなんでしょうね。
きっと大学時代も結構世話好きのいい先輩だったんじゃ。「もう仕事の邪魔だから、帰れ」と突き放しつつも那須田の背中を押しやる手付きはどこか優しかったですし。
勝地くんと祥太くんがプライベートでも仲良し(ちなみに実際は祥太くんが一つ年上)なのも演技に反映しているのかも。
・小笠原が「浅野くんも来月には新入社員ではなくなるんだね」としみじみ呟く。
那須田を「超非常識」と怒鳴る(言葉遣いがなってない)あたり浅野もまだまだ未熟ですが、第一回の時点ではもっと傍若無人な感じがあったので、美雪、里中に続いて彼の成長もちょこっと描かれたかな、という感じです。
結局これが浅野くん最大の見せ場でしたねえ・・・。
・あと三週間でハケン弁当ともマーケティング課のみんなともお別れだと寂しさをかみしめる美雪に、春子はハケンも社員も職業区分によって幸不幸が決まるわけではない、「人生の運試しはこれからです」と語る。
「世の中は不公平かね」で語りだすのは、先にカンタンテで美雪が口にした問いへの答えと言うことですね。
「何だその下らない質問」なんて言ってたくせに、ちゃんと答えてエールを送ってくれる。いい先輩ですね。
・東海林が待つ公園に里中がかけつける。冬とはいえ回りはもう真っ暗。一体何時間待たせたんだ?春子がまだ就業中のようなので、6時よりは早いんだろうが。
里中の性格ならすぐにも駆けつけそうなものなのに。時間帯からして、就業時間内は仕事を優先したってことでもなさそうだし。
・・・たぶん当時舞台と掛け持ちしてた大泉さんのスケジュールの都合だったのかなーと推測してるんですが。
・里中から春子が用紙の裏に携帯番号を書いていたと聞いてショックを受ける東海林。
里中は続けて知ったばかりの春子の過去についても話す。東海林に春子関連の情報を隠さず開示するのは、フェアな里中らしい。
春子が銀行をリストラされたと知った東海林は「それで根性ねじまがっちゃったわけだ」などというが、その根性ねじまがった女にプロポーズしたのはどこの誰だ(笑)。
・春子のことを「鎧着た落武者みたいだよな」と東海林は表現する。
物凄い例えの出し方に、とっくりセーター=鎧、体操や安全確認で振り乱す髪の毛=落武者なイメージなのかと思ったら「一人ぼっちでさ」と続ける。
他人に心を開こうとしないのを「鎧を着てる」と表現するのはわかるが、超高度なスキルで高い給料を稼ぎ出し堂々と生きる春子を「落武者」=傷つき疲れた敗残の姿のごとくに捉えている。
「本当は不器用で寂しがりやなんだと思う」という里中の春子評を「そりゃあ美化しすぎだよ」などと否定したくせに、結局東海林も春子の寂しさを見抜いているのですよね。
・「俺は木っ端微塵にフラれたけど、賢ちゃんまだ何もやってないぞ。そんな寂しい女、このまんま辞めさせちゃっていいのかよ」
前回仕事(ハケン弁当)に関して春子に「まだ何もやってないでしょ」と言われた里中が今度は恋愛について「まだ何もやってない」とライバルである東海林にハッパをかけられる。
しかし木っ端微塵にフラれたというけれど、携帯番号書いてくれたんだからまだ十分希望あるんでは。結婚しない理由だって「ハケンの敵とは」結婚したくないという条件つきなのだし。
ここで里中が春子とくっつくかに思わせておいて最終回でひっくり返してみせる。最後まで視聴者をやきもきさせるストーリーテリングはお見事。
・バス停前のベンチに座る春子を見つけた里中が彼女に話しかける。
最初近づこうとしてちょっと躊躇うように立ち止まったり、いきなりカラオケに誘う(それも「一緒に行きましょう」でなく「行ってもらえませんか」という腰の低すぎる表現)ところから話をはじめたりするのに、ちゃんと肝心の気持ちを伝えられるのか?とハラハラさせられる。
しかしその後は春子が心を開かない理由を指摘し、彼女のことを何もわからないまま別れたくないと語り・・・。ラスト「僕たちと一緒に働いて下さい」と言ったのに「『僕たち』じゃなくて『僕』って言わなきゃ!」とツッコミそうになったところで「僕にはあなたが必要なんです」と、とどめの一言で締める。
里中らしい逡巡を何度も出しながら「告白」に持っていく脚本の妙に感心しました。
・里中の「あなたが心を開かないのはもうこれ以上傷つきたくないからじゃないんですか」という言葉に、春子はちゃんと里中に顔を向けて「それが何か」と穏やかに答える。
これは里中の発言の肯定ですね。最後の里中の台詞にも彼女は無言ながらわずかに目を潤ませている。里中の心情に触れて春子の心が開きかけているのでしょうか。
(つづく)